だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

答案の書き方3(基礎編・誘導の乗り方)

 法律答案に求められる要素

 下記記事(答案の書き方0、以下前回記事という)でも触れた通り、③実質的な「問い」に対して、②法的三段論法をもって、①答えることができるようになれば、それは立派な法律答案です。

 もっとも、問題文の事実から、誘導に気づいて実質的な問いを把握する、これが一番難しいんだよ!というのが受験生の心の声かと思います。基本的には、過去問や演習書の起案ー問題発見クイズの繰り返しで読解力を身につけるより無いと思うのですが、

  本記事では、「事実マーキング法」により、誘導に気づいて実質的な問いをビシッと把握する方法を、具体例ー令和元年司法試験予備試験・民法を使って検討したいと思います。

事実マーキング法とは

 前回記事でも触れた通り、

  • 法律答案の問題文における「事実」はあてはめるべき法規、論ずべき解釈が何かを指し示す誘導となっている という命題が正しいとすれば、
  • あてはめで使った事実をどんどんマーキングで消していけば、使っていない事実から、あてはめるべき法規、論ずべき解釈ー問いの実質的内容を把握することができる

 ということになります。この、あてはめで使った事実(使う予定の事実)をどんどんマーキングしていき、誘導に乗れているかな~論点落としは無いかな~と探す方法が、事実マーキング法(筆者勝手に命名)です!と、ドヤりましたが、こりゃまあ、かなり一般的な方法でみんなやってるはずです。違うかな?

令和元年司法試験予備試験・民法の誘導

 まずは、問題文を示しつつ、実際にマーキングっぽいことをやってみます。

1.Aは早くに妻と死別したが,成人した一人息子のBはAのもとから離れ,音信がなくなっていた。Aは,いとこのCに家業の手伝いをしてもらっていたが,平成20年4月1日,長年のCの支援に対する感謝として,ほとんど利用していなかったA所有の更地(時価2000万円。以下「本件土地」という。)をCに贈与した。同日,本件土地はAからCに引き渡されたが,本件土地の所有権の移転の登記はされなかった。

2.Cは,平成20年8月21日までに本件土地上に居住用建物(以下「本件建物」という。)を建築して居住を開始し,同月31日には,本件建物についてCを所有者とする所有権の保存の登記がされた。

3.平成28年3月15日,Aが遺言なしに死亡し,唯一の相続人であるBがAを相続した。Bは,Aの財産を調べたところ,Aが居住していた土地建物のほかに,A所有名義の本件土地があること,また,本件土地上にはCが居住するC所有名義の本件建物があることを知った。

4.Bは,多くの借金を抱えており,更なる借入れのための担保を確保しなければならなかった。そこで,Bは,平成28年4月1日,本件土地について相続を原因とするAからBへの所有権の移転の登記をした。さらに,同年6月1日,Bは,知人であるDとの間で,1000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,1000万円を受領するとともに,これによってDに対して負う債務(以下「本件債務」という。)の担保のために本件土地に抵当権を設定する旨の抵当権設定契約を締結し,同日,Dを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされた。

5.(中略)しかし,Dは,Cが本件土地の贈与を受けていたことは知らなかったものの…

 

〔設問1〕

 (中略)競売手続の結果,本件土地は,D自らが950万円(本件債務の残額とほぼ同額)で買い受けることとなり,同年12月1日,本件土地についてDへの所有権の移転の登記がされた。同月15日,Dが,Cに対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう請求する訴訟を提起したところ,Cは,Dの抵当権が設定される前に,Aから本件土地を贈与されたのであるから,自分こそが本件土地の所有者である,仮に,Dが本件土地の所有者であるとしても,自分には本件建物を存続させるための法律上の占有権原が認められるはずであると主張した。
この場合において,DのCに対する請求は認められるか。なお,民事執行法上の問題については論じなくてよい。(令和元年司法試験予備試験・民法より引用)

赤太字部分の誘導

 赤太字部分は、前回記事でも触れた通り、問いに対する答えと、答え方を示す誘導で、これに乗りつつ答えなきゃ即死してしまう…というものです。再掲しておきますと、問いの実質的内容は、

  • ❶Dの請求原因が成り立つか、成り立つとして、
  • ❷Cが所有権を有するとの抗弁、又は
  • ❸Cに法律上の占有権原が認められるとの抗弁が
  • 認められる→ DのCに対する請求は認められない
  • 認められない→ DのCに対する請求は認められる

 というものでした。しかし!これだけではまだ誘導による問いの限定として、十分ではありません。もっと書いてほしい内容を示唆しなければ、採点者はてんでバラバラのKY答案を採点する悪夢から逃れることができません。

青太字部分の誘導

 という訳で用意されているのが、(未だ使っていない事実のうち)青太字部分です。

 思考パターンとしては、とりあえず請求原因❶は成り立ちそうです。だってここで成り立たなかったらその時点で答案終わっちゃうし。なお、❶が成り立つことももきちんと書かなければなりませんが、あまりに初歩的な内容なので割愛します。とすると、青太字部分は、抗弁❷か抗弁❸に関係するはずです。

 要件事実論を学べばより理解が進みますが、本件では、本件土地はもともとAが所有していたことに争いは無いはずです。そこ争っちゃうと、「え?じゃああなた(D)は誰から本件土地の所有権をGETしたんですか?」という話になってしまうからです。

 そうすると、AからCへの本件土地の贈与(民法549条・176条)は、まさに「Cが所有権を有する∴Dには所有権はない」という所有権喪失の抗弁として機能することがわかります。やったー!❷ズバリそのものを発見です。

 もっとも、これに対しては文字通り瞬時に相手方(D)から、「で、登記あるの?」という対抗要件の抗弁(177条)が提出されてしまいます。Cに登記はありませんし、Dは、先行する物権変動ーAからCへの本件土地贈与を知らなったというのですから、(下記で詳述しますが)背信的悪意者の再抗弁も認められないでしょう。なお、Bは本件土地上にはCが居住するC所有名義の本件建物があることを知ったというのですから、背信的悪意者にあたる可能性があります。もっとも、背信性は個別的・相対的に判断すべきものとされています。こういった思考も答案で表現していく必要があります。

 以上から、❷の抗弁は認められないでしょう。ここまで書くと、青太字の事実を使いー誘導に乗って、見事❷という実質的な問いに答えたことになります。

水色太字部分の誘導

 次に、❸占有正権原はあるの?という事に触れなければならないわけですが、これまた問題文の誘導に乗ります。すなわち、占有正権原の典型は賃借権(601条)ですが、賃貸借契約の締結なんて事実は問題文にない、むしろ、水色文字を追いかけると

  • 本件土地への抵当権設定
  • 抵当権設定当時、本件土地上にC所有の建物あり
  • 競売(抵当権実行)により、土地(D)と建物(C)の所有権者が別々になる

という事実が浮き上がってきます。これらに加えて、

  • 土地への抵当権設定当時、本件土地&建物が同一所有者(C)に属していた

と言えれば、めでたく法定地上権(388条前段)が成立することに気づきます。また、「更地」「競売」という法定地上権に頻出のキーワードが登場することも誘導の一環です。これで法定地上権に気づけない人は、基本書なりテキストの読み込みが不足しています。一度、手持ちの担保物権法のテキストを読み返してみてください。「更地」というワードは、そのほとんどが法定地上権の項目に登場するはずです。

小まとめ・必須的誘導

 ここまでの構成、すなわち

  • ❶Dの請求原因の成立
  • ❷Cの所有権喪失の抗弁の否定
  • ❸Cの占有正権原の抗弁は、法定地上権

 が本問の骨子で、最低限書いておきたいーこの枠組みに沿って答案構成ができなければ、そもそも、「問い答えた」とは言えないーと思います。つまり、ここまでの誘導は、絶対に乗らなければならないー必須的誘導といえるものではないでしょうか。と思います。なお、これは筆者の完全なる肌感覚で、一般的にはやや厳しいと思うので、信じなくて大丈夫です(笑)。

乗れたら嬉しい誘導

自分の考えを述べる

 上記の❶❷❸の構成がとれていれば、とりあえず③実質的な「問い」に対して、②法的三段論法をもって、①答えた立派な法律答案といえます。ここから先、法定地上権の4つ目の要件ー同一所有者要件が充たされないことについてウンウン考えて、自分の考えを述べるというのが司法試験・予備試験でなすべき「現場思考」です。

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 もっとも、自分の考えを述べるにしたって、②誘導と③法的三段論法に則らなければなりません。上記の❶❷❸を綺麗に構成して、「❹本件でCの置かれた状況はあまりに酷である、よって法定地上権を成立させるべきである」なんて書いた日には積み上げた努力も全て水の泡です。

 すなわち、自由に書ける範囲は「相手に尋ねられている問いの範囲内」であるのですから、この段階でも誘導に気づかなければなりません。とはいえ、これはあくまで「自分の考え」を披露するために乗るべき誘導ですから、上記❷の誘導ー実質的な問いの内容を確定させるための誘導と異なり、あくまで「乗れたら嬉しい誘導」という感覚です。

事実マーキングで探す

 さて、「乗れたら嬉しい誘導」に乗って、「自分の考え」なるものを披露しよう!とはいっても、特別なことをするわけではありません。未だ使っていない(使う予定の無い)事実をマーキングで探すだけです。

1.(中略)A所有の更地(時価2000万円。以下「本件土地」という。)をCに贈与した。同日,本件土地はAからCに引き渡されたが,本件土地の所有権の移転の登記はされなかった。

2.Cは,平成20年8月21日までに本件土地上に居住用建物(以下「本件建物」という。)を建築して居住を開始し,同月31日には,本件建物についてCを所有者とする所有権の保存の登記がされた。

3.(略)

4.Bは,多くの借金を抱えており,更なる借入れのための担保を確保しなければならなかった。そこで,Bは,平成28年4月1日,本件土地について相続を原因とするAからBへの所有権の移転の登記をした。さらに,同年6月1日,Bは,知人であるDとの間で,1000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,1000万円を受領するとともに,これによってDに対して負う債務(以下「本件債務」という。)の担保のために本件土地に抵当権を設定する旨の抵当権設定契約を締結し,同日,Dを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされた。

5.BD間で【事実】4の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約が締結された際,Bは,Dに対し,本件建物を所有するCは本件土地を無償で借りているに過ぎないと説明した。しかし,Dは,Cが本件土地の贈与を受けていたことは知らなかったものの,念のため,対抗力のある借地権の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価し,Bに対する貸付額を決定した。

 

〔設問1〕(略)

まずは悩みをみせる

 上述の通り、素直に問題文の誘導に乗ると、法定地上権の成否を検討すべきだよね、というところまではたどり着きます。しかし、ちょっと待てよ。②の所有権喪失の抗弁で、Cは本件土地の所有権者だ、と言えなかったはずでは。だとすると、③の法定地上権の成立要件のうち、同一所有者要件は充たされないのでは!?いや、充たされるのか。

 …と、自分の考えを炸裂させる前に、きちんと立ち止まって悩む姿勢を見せるのも好印象です。ここから、自分の頭で考え始めるよ、とアピールする訳です。

緑太字部分の誘導

 ここまでの構成で使っていなかった事実ー(中略)とした、3.や5.を中心とした緑太字の部分から、書くべきことを考えてみます

利益衡量的な観点

 緑文字部分は、B&Dによる抵当権設定契約当時、

  • (DはAからCへの所有権移転原因ー贈与契約すら知らなかったものの)
  • Cが本件土地上に本件建物を建築し居住していたことは知っており、
  • Cの占有権原が無償の借地権であるとの説明を受け、(借地権であるとすれば)Cは建物所有登記を経ており、対抗力(借地借家法10条)があると認識していたことから、
  • Dは、「対抗力のある借地権の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価し、Bに対する貸付額を決定した。」こと

 を示しています。

 これらの事実関係を(裸の)利益衡量してみると、Cがかわいそう…というのは当然として、Dは(仮にCに借地権があれば)Cの借地権を容認していたでしょうし、容認したとしても経済的な不利益はないでしょと考えることができます。

法律論的観点

加えて、

  • 抵当権設定時には、「別所有者(C)の建物があるから、借地権があるなあ」と考えていたにも関わらず
  • 実際に土地を取得したら「出てけ!」&法定地上権も、「別所有者だったから、成立するわけない」

 というDの態度は「都合のいいとこどり」で、法的には、矛盾挙動として信義則(1条2項)に反すると考えることもできます。

基本的な考え方

以上から、ありうる結論としては、

  • 抗弁②により、Cは本件土地の所有権を取得する(よってDは所有権を喪失する)という背信的悪意者の再抗弁を認めると、行き過ぎーDの不利益が甚大だが
  • 少なくとも、抗弁③法定地上権の成立要件としての土地・建物同一所有者要件においては、Dは本件土地の所有者が(抵当権設定契約当時)Cではなく、Bだったと主張できないーとしてもDは借地権類似の法定地上権の負担を受けるだけで、不利益は予測に比して大きなものと言えない

 と考えることができるでしょう。法的根拠としては、

  • 抵当権設定契約との関係では、所有者はBだが、法廷地上権成立との関係では、所有者はCである(不完全物権変動論)や、
  • 信義則違反(1条2項)でも良いですし、
  • 法廷地上権成立との関係では、Dは対抗要件が必要な「第三者」(177条)にあたらない、

等と構成することが考えられるでしょう。

判例の引用と法的三段論法

 なお、(Cのように)土地の利用が物理的な状況から客観的に明らかで、かつ新所有権者がそのことを知り得た場合、旧利用者に何らかの土地利用権を認めるべきではないかーという上記の問題意識については、最高裁平成10年2月13日(民法判例百選II 債権 第8版 )という百選判例があります。同判例に依拠して、

 同一所有者であるにも関わらず登記を欠く場合、法定地上権が成立せず、約定利用権も成立しないのであれば、建物の保護という法定地上権の趣旨を没却する。他方、抵当権者が建物利用権の存続を容認していた事情がある場合は、法定地上権を成立させても抵当権者に与える不利益は大きいとは言えない。
 従って、土地に対する抵当権設定時に、①土地上に別所有者の登記名義の建物が存しており、②建物利用権が存することが物理的状況から客観的に明らかであり、③抵当権者がそのことを容認していた場合、抵当権者は登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しているといえず、「第三者」(177条)にあたらないと解するべきである。

 とでも述べて規範を逆算思考ででっち上げて定立し、あてはめれば良いでしょうか。このように、多少難しい問題でもあくまで規範定立→あてはめ、と法的三段論法を死守することが大切です。

悩み、自分の考えを述べる

 さて、以上のような立論が「現場思考」とも呼ばれるものの一種で、筆者はこれが正しいかどうかは皆目わかりません(何かしら自分の主張を根拠づけられる参考文献を見たわけではないので)。しかしながら、

  • (事実マーキング法により)問題文の事実を余すことなくあてはめた!ー誘導に乗り、実質的な問いに答えようとしている
  • 悩みを見せており、同様の問題意識をもった百選判例を紹介できる
  • 現実的な利益衡量が出来ており、法的にも矛盾が無く、結論もまあまあ妥当である

 ことから、まあ大きくズレてはいないだろうな、Bか、うまくいけばA答案なんじゃないの、と思います。つまり、内容が客観的に正しいかどうかで差がつくのではありません。❹誘導の範囲内で、悩み、(法的三段論法に従って)自分の考えを立論できたかどうかがラストワンピースとなるのだと、筆者は勝手に思っています。

 そういった意味で、本ブログは「だいたい正しそうな」ことー絶対解ではなくーを書くことを推奨している、という訳です。

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