「勝手に重判ランキング」、令和2年度の民事系です。
民法
- 区分所有法の先取特権を有する債権者の、配当要求と時効中断効
- 所有権移転登記申請において司法書士の負うべき注意義務
- 少年保護事件を題材とした論文と、プライバシー侵害 C
→ 非行事実にかかる保護事件を題材として、非行少年のプライバシーに関する情報が論文として公表されました、不法行為が成立しませんか?という事件。プライバシー vs 報道の自由(に内在する、研究発表の自由)に関する憲法判例としては(事例判決ですが)重要です。
最判平成6年2月8日(ノンフィクション「逆転」事件判決)、最判平成15年3月14日(長良川リンチ殺人事件報道判決)に依拠して、比較衡量の結果、不法行為の成立を否定しています。 - 後遺障害による逸失利益についての定期金賠償
- 使用者責任と逆求償 B
使用者責任(民法715条1項)につき、被用者が(先に)賠償した場合、使用者に715条3項とは「逆の」求償ができるの?という問題です。本判決は、使用者責任の根拠ー報償責任/危険責任の原理、及び信義則からこれを認めました。短答でとっても出題されそうなので、軽く読んでおきましょう。 - 離婚後における婚姻費用分担請求権 B
婚姻費用分担の調停・審判をしているうちに、離婚しちゃったらどうなるの?という問題で、本判決は「(離婚時より前の)婚姻費用分担請求権が消えてなくなるわけじゃないよ」としました。これまた短答知識ですね。 - 同性パートナーシップと法的保護
う~ん、民法はかなりの不作ですね。受験生的にはむしろ安心か。
商法
- 原始株主の株主名簿記載請求権 C
→ 今年の司法試験でも、名義貸与者と出捐者、どっちが株主?という問題意識が出題されたらしいですが、その応用問題です。 - 会社法172条1項2号(全部取得条項によるキャッシュアウトに対する価格決定の申立て)の「議決権を行使することができない株主」
- 定款による代理人資格の制限と、非株主弁護士の出席拒否 B
- 企業グループの内部統制システム構築/運用監視義務 C
→ 実務上はとても重要ですので、問題意識を把握するために読むことをお勧めします。 - 後行選挙(決議)の効力を争う訴えが併合されている場合における、先行選挙(決議)の取消しの訴えの利益 B+
→ 株主総会において、取締役選任決議(先行決議)があり、これが①不存在、または②取消事由がある場合に、先行決議で選ばれた取締役の招集により株主総会決議がありました(後行決議)。
先行決議に①or②の瑕疵があることを理由に、後行決議の不存在確認が提起されている場合、①or②の訴えの利益はありますか?
…という問題です。①不存在事由については、いわゆる「瑕疵連鎖説」(最判平成11年3月25日、田中先生の教科書も参照)という考え方により訴えの利益が認められていましたが、今回は、②取消事由でも瑕疵連鎖で訴えの利益を認めますよ!というところが新しい判断です。松井先生の解説も分かりやすいので、一読を勧めます。 - 退社時に負担すべき損失額が、出資の価額を超える無限責任社員の、合資会社に対する支払い義務
- (保険法)火災保険の目的物の実質的所有者による、故意の保険事故招致
- (金商法)同一企業グループに属する他社の従業員による相場操縦と、課徴金納付命令
- (番外編)子会社による親会社株式取得の禁止と、その効力 B(東京高判令和元年11月21日 金判1601号50頁)
→ 「商法判例の動き(弥永先生執筆)」の掲載判例です。「会社法って禁止規定多いけど、それに反した取得や譲渡の効力ってどうなるの?」問題の一場面です。子会社による親会社株式取得の禁止(会社法135条1項)に反した取得につき、傍論ではありますが、高裁レベルとしては初めて、相対的無効(譲渡人からは主張できない無効)と判断したとのことです。135条1項は重要条文ですし、確認しておくとよいと思います。 - (番外編)総会招集株主によるクオカード贈与と、利益供与の禁止 A(さいたま地決令和2年10月29日 金判1607号45頁)
→ これまた弥永先生のピックアップ判例です。超重要条文120条1項には、百選判決(東京地判平成19年12月6日・モリテックス事件)がありますが、これは会社が一般株主に対してクオカードを供与する旨を訳した、という事案です。
本件では、株主総会の招集株主が(委任状を返送した株主に対して)クオカードを贈与した、という事案です。120条1項は「株主会社は…」から始まる条文ですので、当然、招集株主に適用はできない。でも、120条1項の趣旨(株主総会の公正性確保&会社財産浪費の防止)のうち、前者は当てはまりそうだ。うーん!どうする!という、「超重要条文」「百選判例あり」「事案の相違」という司法試験委員会LOVEの判決です。と、筆者は思います。
なお、結論としては、やっぱり120条1項の類推適用も無理、でも「株主総会における決議の方法が著しく不公正なもの(831条1項1号)」となることがある、としました。妥当な判断だと思います。※なお、LEX/DB の新・判例解説Watchに本判例の解説が掲載されています - (番外編)親会社の代表取締役による、子会社の株主総会での議決権行使と業務執行行為 B+(東京地判令和元年9月3日 2019WLPJCA09038002)
→ 親会社の代表取締役による、子会社の株主総会での議決権行使は、取締役の業務執行行為と言えるか?また、その他の重要な業務執行(362条4項柱書)として、取締役会の決議が必要となる場合があるか?という論点です。本判決は、これをいずれも是認しました。
決議を経ていない場合の議決権行使は無効とし得るでしょうが、(本件でもそうですが)当該議決が新株発行だったりした場合、その効力ー無効事由とするか、差止事由とするかーはまた別個の検討が必要です。つまり、本判決を出題すると、二つの重要論点についての知識、考え方をみることができます。そういった意味でも、出題可能性は低くないように思います。
商法は(弥永先生ピックアップ判例も含めれば)、なかなか重要な判例が多い印象です。ぜひチェックしておいてください。よく意味がわからん!場合は、コメントで質問をどうぞ。
民訴法
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被告の第三者に対する損害賠償請求権不存在確認の訴えの利益 B+
→ 原告Xは通常実施権者(簡単に言うと、特許権者にライセンス料を払う等して、特許権の実施につき許諾を受けた人)、被告Yが特許権者です。原告は、被告の特許権に基づき機械を製造し、これを第三者Aに販売しました。第三者Aは被告Yの競合会社だったことから、被告Yは第三者Aに対し、機械の使用が特許権侵害あたるとして、損害賠償請求を米国で提起しました。
これに対し、「第三者Aの機械使用は特許権侵害じゃないから、被告Yに損害賠償請求権は無いよね」と、第三者Aと被告Yの間の権利関係の確認を求めて原告Xが出訴した、というのがあらすじです。
受験生にとっては、「はて、なんでXは他人間の権利関係の確認を求めてるの?」といまいちピンとこないかもしれません。が!実務上はかなりあり得る紛争です。というのも、ライセンスを受けた売主が、「この製品は特許権を侵害しませんよ、仮に侵害で訴えられたら、賠償は全部売主が被りますよ」という知的財産権の保障条項を含む契約を締結し、製品を販売するのはよくあることだからです。
本件の原告Xも、買主Aに対してこの約定をしていたことから、原審(知財高判平成30年12月25日)は、これを重視し、確認対象は適切、確認の利益有りとしました。最高裁は、判決効は被告Aと第三者Yの間には及ばないじゃん(んなこたーわかってるよ!)、知的財産権の保障条項があるにしても、実際に原告Xに損害が発生するかは不確実じゃん(ええぇ!?)、実際に原告Xに損害が発生したら、被告Yに損害賠償請求をすれば良いじゃん(迂遠…不毛…)、というだいたいこんな理由で、あえなく確認の利益を認めませんでした。
上記の通り、特許権侵害の事案なので、(知財法選択者に有利すぎるため)このままの形では出題されないと思います。もっとも、他人間の権利関係についての確認の利益、という論点は実務上有用かつ理論的にも面白い、という訳で、(事案をいじって)出題可能性はあるように思います。
渡部先生の解説も大変わかりやすく、かつ、「じゃあ最高裁はどうしろと言っているのか、そうだ!任意的訴訟担当があるじゃないか」という問題提起もして下さっておりますので、ぜひ読んでみて下さい -
請負代金請求(本訴)と、瑕疵修補に代わる損害賠償請求(反訴)が係属中に、反訴での本訴請求債権による相殺の可否 A
→ 出た、相殺と重複(二重)起訴!この論点については、最判平成3年12月17日 (民集45巻9号1453頁)が、「訴え先行型」の事案で、民訴法142条の趣旨に反するから、別訴での(先行する訴求債権を自働債権とする。相殺主張を許さないよ~としました。個人的には「そんなん全部併合して、認めればいいじゃん、裁判所の仕事の範囲でしょ」と思いますが、多数の方もそう思うらしく、最高裁は徐々にこの平成3年テーゼを緩めているのではないか、と考えられます。
具体的には、最判平成18年4月14日(民集60巻4号1497頁)が、(本件とは正反対の)・瑕疵修補に代わる損害賠償請求(本訴)
・請負代金請求(反訴)
・本訴での、反訴請求債権による相殺…という事案において、「仮に反訴請求債権の相殺につき判断が示された場合には、その部分については反訴請求から外す、という予備的反訴に変更する」というの反訴原告(本訴被告)の黙示的変更があるという(まさに)ウルトラC!的論法で、本訴での相殺の主張を適法としました。
請負契約においては、請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は牽連性を持ち、両債権による相殺は(実質的には)代金減額、清算としての重要な役割を有しています。この実体法上の要請は無視できないことから、上記のウルトラCが出てきたものと考えられます。
もっとも、本件(のような反対の)事案では、「予備的本訴」という論法が使えない(なんじゃそら、予備的に訴えたのか、となる)ため、反訴での相殺の主張はできないじゃないか!どうするんだ!というのが学説上の問題意識でした。
そこに彗星のごとく現れたのが本判決。みごと反訴での相殺の主張を認めたわけですが、その理屈は、上記のような牽連性、相殺による代金減額・清算としての実体法上の役割に鑑みれば、①そもそも両債権が本訴・反訴で継続している場合は、弁論は分離しちゃいけないんだよ(え!そうだったの!?)→②本訴・反訴が併合して審理判断されるんだから、相殺の抗弁につき判断しても、審理重複によるムダ&矛盾した判断というおそれはないよ→③だから重複起訴(民訴法142条)に反しないよ、というものです。え。じゃあ平成18年でもそう言えば良かったのに。
という訳で、上記の平成18年判決に比べると、「ウルトラC論法」が「強引論法」くらいにやや軟化しました。良かった良かった。 なお、相殺と重複起訴には、さらに、「相殺先行型」もあります。一般的には、「相殺先行型」については、先行する訴訟での相殺主張を取り下げれば良いんでないの?という訳で、民訴法142条で禁止しといても良いのではないか、という論調が多数のような気がします。下記の表(筆者の受験生時代のまとめノート)のように、まとめておくとよいと思います。 - 鑑定の嘱託を受けた者が、当該鑑定に関して作成・受領した文書等の法律関係文書または刑事事件関係書類(民訴法220条4号)該当性 C
- 後遺障害による逸失利益について定期金賠償を求めることの可否と、定期金賠償の終期
- 労働者が、有期労働契約期間中の解雇の無効を主張して労働契約上の地位の確認等を求めた訴訟で、判断すべき事由 B
→ 要件事実論の大家、加藤新太郎先生の解説が大変分かりやすいです。労働法選択でなくても、(要件事実論的な)問題の所在とその解決が大変勉強になりますので、一読を勧めます。 - (執行・保全法)執行費用を不法行為に基づく損害賠償請求における損害として主張することの拒否
- (執行・保全法)最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し、他の買受申出人が売却不許可事由を主張してする執行抗告の拒否
→ かなり面白い事案ではありました。 - (倒産法)請負人である破産者の支払い停止前に締結された請負契約に基づく、発注者の破産者に対する違約金債権による相殺 C
→ 出た!またまた請負人vs注文者の相殺!…ですが、これは倒産法選択者だけ読んでおけばよいと思います。
民訴法も面白い判決がそれなりにありました。
まとめ
民事系も、豊作!とは言えませんが、公法系と比べると、司法試験に出そうだ~という判決が多かったように思います。特に商法10と民訴法2は、(私が受験生であれば)必ずまとめノートにコピー&貼り付けしておくべき判例かな、と思います。なんとか刑事系&知財法も、予備試験に間に合わせるようにレビューしたい…と思います。