だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

処分性の考え方2(公権力性&法的効果)

処分性の要件はいくつ?

 処分性の要件については、2~6くらいまで、色々な整理があります。刑法の「共謀」もそうですが、そもそも要件はいくつで構えておく?全部あてはめるべき?と、受験生は混乱します。

 さて、結論から言うと、処分性の要件は問題によって3~6を使い分けることをオススメします。どや。

 使い分けるだと!?余計難しいじゃないか!…と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。そもそも、4要件!とか決め打ちで暗記し、問題文と全く関係の無い要件のあてはめを展開する答案は悪印象です。処分性につき争いが無い事案であれば、3要件をさらっと認定して終わりです。

 というわけで、今回の記事では、「なぜそれが求められるか」という理由に立ち返り、処分性の基本となる要件、付加的な要件を分析します。これを押さえておけば、いつ、どの要件を登場させるべきかわかるようになると思います。

 加えて、各要件に関する判例も整理していきます。行政法の理論、判例をいかに紐づけて整理しておくか、の参考例となれば幸いです。

基本となるのは3要件

 処分性の要件のうち、公権力性、及び(十分な)法的効果は、取消訴訟の特徴と意義から必然的に導かれるものです。下記記事を参照して下さい。

  これに加えて、公権力性をもって法的効果を発生させることが、「法律上認められている」ことが必要となります。これを当てはめるのを忘れる人がいるので要注意。減点対象です。この要件は、法律による行政の原理から導かれます。換言しておくと、民主的正統性を持つ立法者のみがー国民に対し―公権力的に権利義務を形成できる、ということです。

 というわけで、処分性の要件のうち、必ずあてはめなくてはならない基本的要件は、①公権力性、②法的効果、③法律上の根拠、の3つ、ということになります。処分性の定式(昭和39年最判)で言うと、

「行政庁の処分とは…(中略)①公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、②その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること③が法律上認められているもの」最判昭和39年10月29日(ケースブック行政法 第6版 11-2)

ということになります。これを図にすると、こんな感じです。行政庁の様々な行為のうち、下図の紫の部分に処分性が認められうるということです。

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①公権力性

 行政庁は色々な行為をします。例えば、行政庁は(当然ですが)売買契約の主体となって、民間の業者から物品を購入します。売買契約を結べば、購入した品物の引渡請求権等が発生しますから(民法555条)、法的効果があるといえます。
 このことを、図では赤色のエリアで示しています。

 しかしながら、契約は、申込・承諾と合意を基礎とするものであり、優越的地位に基づく一方向性がありません。

 また、契約の効力を否定するのに取消訴訟しかない、となれば売主の業者はたまったものではありません。行政庁が代金を支払わないから契約を解除して品物を返してほしい(解除に基づく原状回復請求権・民法545条)と思っても、6カ月~1年を過ぎれば、そんな請求ができなくなってしまいます。法律行為の主体が行政庁となっただけでそんなことになるのはおかしいです。そもそも、行政庁と取引しようという業者も現れなくなってしまい、行政庁が困ります。

 従って、契約といった行政庁の行為は、取消訴訟の排他的管轄に服せしめるべきではなく、その効力は民事訴訟で争うべきものである―これが立法者の意図ということができるでしょう。すなわち、公権力性がないわけです(非権力的法律行為)。

 では、行政庁の行為が、②法的効果の要件は充足しているものの、①公権力性の有無が争点となっている場合、どのように判断すべきでしょうか。図でいうと、論点ー①の紫色の矢印の部分です。

①公権力性の判断方法

 事実ではなく条文をあてはめる

 一番大切なことは、公権力性の判断は「個別法の条文解釈で導く」ということです。つまり、処分性の定式、という規範に対するあてはめは、問題文の事実ではなく、個別法の条文の解釈です。法が行政庁の当該行為に、優越的地位に基づく一方向性または公定力・不可争力を付与する意図かどうかの問題だからです。

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 下位規範(論証パターン)を準備しておく

 じゃあ、個別法に何て書いてあれば公権力性が認められるの?という判断基準ですが、これは様々な書籍で触れられているので、確認してみて下さい。筆者の印象では、基礎演習 行政法 第2版 が最もわかりやすかったように思います。

 その上で、「処分性の定式」の下位規範として、「公権力性の判断方法」の論証パターンを準備しておくと良いと思います。処分性に限らず、各要件を分析して下位規範・考慮要素を用意しておくと、あてはめが充実します。参考までに、筆者の論パを紹介します。

 行政処分は、公権力性、つまり当該行為が法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行われるという性質を有している。こうした性質を有さない契約等の行為は、民事訴訟・当事者訴訟で争うべきものであるから、処分性を否定すべきである。
 具体的には、①「申請」「決定」といった文言、②行手法の適用除外の定め、③罰則や強制手段による義務履行確保等の定めの有無により、法が当該行為を処分として扱う趣旨であるかから判断する。

①公権力性にかかる判例の整理

 行政法判例を学習する意義として最も大切なのは、裁判官の論理の組み立て方を何度も追体験することを通じて、個別法の評価・解釈の方法に学ぶことにあります(下記記事もご参照下さい)。

 が、当然ですが、判例の事案そのものも、整理して覚えていく必要があります。民法177条の「第三者」のように、射程の広い「法理判例」は、(ほぼ)規範命題の一字一句を覚えておかなければなりません。もっとも、処分性にかかる判例については、法理判例-規範暗記判例は、上記の処分性の定式(最判昭和39年10月29日)くらいでしょうか。

 それ以外の判例は、特定の個別法・事例につき判断したものに過ぎません(事例判例)から、射程はそれほど広くありません。このような場合は、判例を適切にグルーピングして、最高裁は、○○という要件(条文)について、△△という理由から、××と判断した-とだけ覚えておけば十分です。筆者の行政法まとめノート(兼論証集)では、公権力性にかかる判例を5点まとめてありましたが、そのうち2点のまとめ方を紹介します。

公権力性を否定した判例

・老人福祉施設の民間移管にかかる選考応募者に対する不決定通知(最判平成23年6月14日・平成23年度重要判例解説 行政法6)
∵法律上、民間移管は契約締結により行うことが予定されており、公募も地自法ではなく募集要項(行政規則)に基づきなされたものであって、不決定通知は応募者を契約の相手方とはしないこととした事実の告知にすぎない

公権力性を肯定した判例

・労災就学援護費の不支給決定(最判平成15年9月4日・ケースブック行政法 第6版11)

∵通達(行政規則)に基づく支給ではあるものの、法は処分たる保険給付を補完するために、同様の手続で援護日を支給することができる旨規定したと解される

→ この2つの判例は、論理的には若干の矛盾が含まれているともいえます。後者が通るなら、前者も通るだろう、という。詳細は、上記重判の解説(確か交告先生だったと思います)を参照。

②法的効果

 次に、法的効果の有無です。例えば、外国人の送還前の収容(入管法)は、法規の要件充足をもって行政庁から一方的に行われる、という意味で公権力性があります。この事を、図では青色のエリアで示しています。

 もっとも、「収容される地位―被収容権」といった法的地位が観念できず、直ちに身体の自由を拘束される、という事実上の効果しか認められません。図でいうと、赤色のエリアに入っていないわけです。従って、入管法の収容に、処分性は認められません(公権力的事実行為)。

 なお、処分に当たらずとも、公権力性があれば、「その他公権力の行使に当たる行為」にはあたり得ることには注意が必要です。

②法的効果の判断方法

論証パターン

 ここでも、公権力性の判断と同様、法的効果の有無は個別法の条文解釈で導きます。原告がAさんの場合であれば法的効果があるが、B君の場合だと法的効果がない-というように事実の違いで法的効果が左右されることは、原則としてはありません。

 この判断は、論証パターンを持ち出すまでもなく、淡々とした条文解釈で導けることがほとんどです。典型的には、「許可」等ですよね。が、試験でそんな簡単な問題が問われるはずもありません。「事実行為だけど、処分性認めないとまずそうー結論が妥当でないー」という場合に備えて、こちらも論証パターン的な一文を用意しておいても良いと思います。

 当該行為によって法律上の利益に変動がない場合であっても、その他の行為を争わせるのでは実効的な権利救済が図れない等、実質的に個人の法的地位に変動を与えるといえる場合は、処分性を肯定すべきである。

注意点-法的効果に代わる要件

 上記の論証パターンが「法的効果を認めうる or 肯定すべき」とは言っていないことに注意して下さい。つまり、事実行為はあくまで事実行為ですから、法的効果はありません。厳密に言うと、処分性の要件のうち②法的効果は充たされていないのです。しかしながら、法的効果と同視しうるほどの事実上の影響がありー肝心の権利救済も図れないからー代替的に要件充足性を認めうる、という理屈です。

 このような論法は、処分性の定式を逸脱-とまでは言えないものの、抜け道的であるとは言えるでしょう。塩野先生も、「(上記の理屈により処分性を認めた)病院開設中止勧告事件判決は、当該事件処理の特殊性に対応した事例的な意味以上のものではないと思われる行政法2 -- 行政救済法 第五版補訂版118頁)」としています。つまり、事例判決ということですね。
 にも関わらずこのような論法が可能なのは、②法的効果が、「訴えの利益」という民事訴訟の大原則に由来する要件だからだと考えられます。「訴えの利益」とは、紛争解決の実効性の有無、換言すると裁判をする必要性のことです。裁判をする必要性がとんでもなく高いのであれば、そりゃもう、処分性を認めてあげなくちゃいかん、という訳です。

 このことについては、処分性の考え方(1.取消訴訟の特徴と意義)で解説しているので、読んでみて下さい。

※2021年5月18日 読者のおとさんから質問がありましたので、追記しました。

「事実行為だけど、処分性認めないとまずそうー結論が妥当でないー」という場合 「事実行為だけど処分性認めないとまずそう」な場合には、個別具体的な事情を考慮してもいいのでしょうか?

  良いです。ただし、これはあくまで例外ー②法的効果は、原則として個別法の解釈から導かなければならないーことにご留意ください。このことを、上記の通り、私は「抜け道」と表現しています。裁判をする必要性がとんでもなく高いー「他の争う方法がおよそ現実的でない」ーというレベルに至ってはじめて、「しょうがないなぁ、まあ訴訟要件だし、個別具体的な事情を拾って、処分性を認めよう」となる訳です。

 このような、「訴えの利益=訴訟要件=ある程度要件を緩く考えられる」という思考は、原告適格にも妥当するものです。下記記事(②原告適格は「エイヤー!」判断)という部分)もご一読下さい。

②法的効果にかかる判例の整理

 ①公権力性と同様に、事例判例をグルーピングしていきます。処分性では最も争点となることが多い要件ですので、筆者のまとめノートでは12判例ほどをピックアップしていました。そのうち3点のまとめ方を紹介します。

法的効果を否定した判例

・都計法に基づく開発許可申請にかかる公共施設管理者の不同意(最判平成7年3月23日・ケースブック行政法 第6版 11)
∵不同意は公法上の判断を表示する行為であり、これにより開発申請を行うことはできなくなるが、これは一定の要件を充たす場合に限って市街化調整区域内での開発を認めた結果にほかならない(そもそも、開発できるという法的地位が無い)

→ この判例は、判例変更があるかもしれません。

法的効果を肯定した判例

・食品衛生法違反の通知(最判平成16年4月26日・ケースブック行政法 第6版 11・スモークマグロ事件)
∵関税基本通達に基づく通関実務の下では、通知により、関税法70条2項の「検査の完了」を税関に証明できなくなる結果、同条3項の輸入の許可も受けられなくなるという法的効果がある

→ 解釈によっては、法的効果あり、ともなし、とも言える条文です(反対意見参照)。

・医療法に基づく病院開設中止の勧告(最判平成17年7月15日・ケースブック行政法 第6版11)
∵厚生省通達の下では、勧告に従わない場合、相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けることができなくなる
∵指定拒否処分しか争えないとなると、病院開設者は莫大な投資リスクを負うこととなり、事実上、勧告により開設を断念せざるを得ないことになる

→ 事実行為だけど処分性を認める、という上記の論証パターンの例です。上記の論証パターンを出す時は、「病院開設中止勧告事件判決でも…」と紹介すると、加点事由となるかもしれません。

小まとめ

 ①公権力性、②法的効果の2つを取消訴訟の特徴・意義を踏まえてしっかりと押さえれば、処分性の学習の50%は完了です。次回は、③法律上の根拠、及び受験生を困らせる「本丸」であるその他の要件、外部・直接性、個別具体性などについて書きたいと思います。

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