だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

処分性の考え方1(取消訴訟の特徴と意義)

処分性は書きやすい!

 どの基本書や判例集を見ても、処分性には膨大な頁数が割かれています。ウンザリする受験生の方も多いと思います。確かに、処分性という論点において、インプットしておくべき情報はたくさんあります。
 もっとも、処分性は、憲法における「制約が比例原則を充たすかの判断」ですとか、刑訴法の「伝聞・非伝聞の区別」、民訴法の「固有必要的共同訴訟とすべきか」等に比べると、上手・下手、得意・不得意の差が出づらいように思います。各要件の充足性を検討する、という法律答案の基本そのままを書けば良いからです。数学的な論点なんですね。①取消訴訟の特徴と意義を押さえたうえで、②各要件の意義を正確に理解し、③膨大な判例を要件ごとに整理しておけば、誰でも通りいっぺんの事が書け、点数がついてきます。今日は①について書きます。

取消訴訟の特徴

処分性の暗記は後回し

Q:処分性って何ですか?
A:取消訴訟の対象となる「行政庁の処分…に当たる行為」(行訴法3条2項)に該当することです。
Q:どういう場合に処分性があるとされるのですか?
A:「行政庁の処分とは…(中略)公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」最判昭和39年10月29日(ケースブック行政法〔第6版〕11-2 以下、面倒臭いので処分性の定式という)です。

 …という4点セット、そして処分性の定式の暗記から学習をスタートする受験生が多いと思います。が、これが諸悪の根源です。上記の通り、処分性とは取消訴訟の対象としての適切性をいうのですから、まずは、取消訴訟の特徴をきちんと押さえなければいけません。冷静に基本書を読めば、処分性の定式に行く前に、取消訴訟の特徴が説明されているはずです(基本行政法〔第2版〕260頁参照)。

民事訴訟の原則

 実は、民事訴訟の原則からすると、取消訴訟はかなり特殊な訴訟です。これが初学者にはまずイメージし辛いところなのですが、しっかりと意識付けをしておいた方が後々役立ちます。

訴えの利益

 まず、行政事件の訴訟は民事訴訟です(行訴法7条参照)。でもって、民事訴訟においては、本案判決をするための要件、すなわち訴訟要件として「訴えの利益」なるものが必要とされています。「訴えの利益」とは、本案判決をすれば紛争が解決されるぞー!という実効性の有無のことを言います。要は、紛争が解決されないような裁判は、訴えの相手方(被告)や、裁判所にとって迷惑だ、という話ですね。

訴えの利益の判断方法

 問題は、ある訴えに「訴えの利益」があるか無いかを判断する方法ですが、原則としては、①現在の法律関係に関する、②給付の訴えには訴えの利益が認められるとされています。XさんがYさんにパソコンを売ったのに、Yさんがお金を払ってくれない!(民法555条・売買契約)の例で言うと、

×「私XがYさんと売買契約を結んだことを(①)確認する(②)訴え」

という訴えは、過去の法律行為を対象としており(①)、かつ訴えの方式が、ある法律行為があったことの確認(②)であることから、訴えの利益なし、よって訴えは不適法却下!となります。

○「私XがYさんと結んだ売買契約に基づいて、今、代金10万円を(①)支払え!(②)という訴え」

というものでしたら、代金の支払請求権という現在の法律関係を対象としており(①)、かつ支払い=給付を求めるもの(②)ですから、訴えの利益あり!となります。

 確かに、×の訴訟に比べれば、○の訴訟では原告が訴える権利、法的利益の内容(代金支払請求権)がはっきりとしています。わかりやすいです。また、(強制執行ができるなど)メリットも大きそうです。わかりやすいですしね。そんなら、○の訴訟を起こしてね、というわけです。

取消訴訟は特殊

 この民事訴訟の原則(現在の、給付の訴えに訴えの利益を認める)からすると、取消訴訟は特殊な訴訟です。XさんがY市の市街化調整区域(市街化されていない地域≒山林など)にテーマパークを作ろうと思いたって開発行為(土地の形状を変えたりする行為のこと)の申請(都市計画法34条1項)をしました。Y市は基準を充たしてないよ、と不許可処分にしました。この例でいうと、

○「Y市の開発不許可処分は違法だったから(①)、同処分を取消してくれ(②)!」

×「Y市の開発不許可処分は違法だったから、今、わたし(X)にはY市○○地区で、開発する権利があることを(①)確認してくれ(②)!」

 …民事訴訟の原則と正反対になります。取消訴訟においては、除却命令処分という過去の行為を対象として(①)、これを取り消す(②)という訴えに、訴えの利益が認められ、適法とされます。ちなみに、「取り消せ!」という取消訴訟が何らかの法律行為・関係の確認を求めているのか(給付の訴え)、または法律関係を形成するものなのか(形成の訴え)は議論があるところです(行政法2 -- 行政救済法 第五版補訂版 87頁参照)。

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小まとめ・法的効果の必要性

 いったんまとめると、取消訴訟は、過去の・行為訴訟としての特徴を有しています。民事訴訟の原則は、現在の法律関係(権利義務の有無)を争わせるものですから、この原則から言えば、過去の行為を対象とした訴訟でも、原告の現在の権利義務に(はっきりとした)変動が認められなければなりません。

 例えば、「こないだ市役所に行って生活保護の申請をした際に、職員にひどい悪口を言われた!という行為を取り消してほしい」と訴えても、「悪口を言う」という行為は相手方の権利・義務を形成するものではないので、そのような行為に対する取消訴訟は認められません(損害賠償請求権はさておく)。すなわち、「処分性が無い」わけです。

 そういった意味で、処分性が認められるためには、当該行為が国民の「権利義務を形成しまたはその範囲を確定する」行為であること、すなわち行為により法的効果が発生することが必要となります。

 塩野先生の言葉を借りれば、

取消訴訟とは、もともと、行政処分の法効果を消滅させるために作られた精度であるので、これに当たらない行為は取消訴訟を利用することができないわけである行政法2 -- 行政救済法 第五版補訂版100頁)

というわけです。

取消訴訟の存在意義

取消訴訟の排他的管轄

 問題は、なんでこんな特殊な訴訟があるんですか?という理由です。これは普通、取消訴訟の排他的管轄と公定力、という用語で説明されます。つまり、行政処分(行政行為)は取消訴訟という特別の(行為攻撃)訴訟によらないと、その効力は否定できないよ!というやつです。これが取消訴訟の排他的管轄です。なんと、そんなことを書いた法律はありません。でも、せっかく取消訴訟(行訴法3条)という制度があるってことは、きっとそういうことなんでしょう。と解されています。

 結果として、行政処分は、取消訴訟で取り消されるまでは、有効だということになり、その効力を公定力と呼んでいます。

 ふむふむ。なるほど。と思った方は、だまされてますよ!これでは、取消訴訟という特殊な訴訟制度が存在する理由になっていません。次なる疑問は「え。だから、なんで取消訴訟の排他的管轄&公定力っていう制度を用意したの?」という点です。

 なんと、これについては理由が明らかではないらしいです。明治憲法下からこういうシステムだったらしいですが、おそらく模範となったプロイセンの制度がそうだったんだろう、とのことです(行政法1-- 行政法総論161頁)。

実質的な意義

 理由はよくわかんないけど、取消訴訟の排他的管轄だ!…では、取消訴訟の意義を理解したことにはならず、処分性の定式、及び各要件への理解もあやふやになってしまいます。法はなぜ、行政処分だけは取消訴訟で争ってね、としたのでしょうか。実質的に考えてみて、一応納得できる理由付けを2点ほど紹介します。

処分庁(行政主体)を訴訟に引っ張り出せる

 民事訴訟の原則、つまり現在の法律関係の訴訟にしてしまうと、こんなことが起こります。

「私(X)は、Z社と、テーマパークのための造成作業の請負契約を結んだにも関わらず、Z社はY市の開発許可がおりてないとか難癖をつけて工事に着手しない!Z社に損害賠償の請求 or 工事の履行を求める!」

 この場合、争点はやはりY市の開発不許可処分が適法かどうか、です。そして、不許可処分について最も訴訟資料(情報)を持っているのはXと、処分庁であるY市です。にも関わらず、ほぼ不許可処分とは無関係でなーんにも知らないZ社が訴訟に引っ張り出されます。Y市を訴訟に引っ張り出すには、処分の適法性を直接争った方が良さそうです。

不可争力による行政法関係の早期安定

 取消訴訟でしか争えない、とすることで、様々なオプションを付加することができます。その中でも、処分があったことを知ってから半年したらもう取消訴訟さえできないよ等々、という出訴期間制限(行訴法14条)は最強のオプションです。これにより、行政処分それ自体の効果と、行政法関係が早期に安定します。実質的にみて、この不可争力による法的安定性の確保が、取消訴訟という制度が有する最大のメリットです。

 行政処分は行政過程のひとつの行為としてなされるものです。処分後にも、「ちょっと開発許可の基準と違うんじゃないの」としてする行政指導ですとか、都市計画法で言えば、工事完了の検査(都計法36条)なんかもあります。別の法律、例えば建築基準法に基づく建築確認などの他の処分も積み重なっていきます。

 とまあ、色んな行為が積み重なった挙げ句、「や、そもそも開発許可が違法だったんだよね」となってしまうと、行政庁の苦労も水の泡です。効率的な行政活動ができません。困る。

 というわけで、取消訴訟の実質的な意義としては、(本当は色々ありますが)とりあえずは、行政法関係の早期安定、と考えておけばだいたいOKでしょう。

小まとめ・公権力性

 公権力性、というと「行政庁が法を根拠とする優越的地位に基づき、一方的に当該行為を行うこと」、すなわち「一方的であること」が強調されます。これ自体は誤りではありませんが、一般的な形成権(契約の解除権等)も一方的に法律関係を形成することに変わりはありません。

 むしろ、公権力性とは、行政庁のある行為が処分性を有するために、公定力+不可争力が与えられて、(相手方の意思とは無関係に)法律関係が早期に確定させられてしまう、そのこと自体を指すと考えられます(基本行政法〔第2版〕306頁等参照)。

 敷衍すると、立法者には「この行政庁の行為は『行政処分』と構成して、行政法関係を早期に安定させよう」という、処分性付与の選択権があります。このような、取消訴訟の排他的管轄に服せしめるべき、という立法趣旨が読み取れる場合には、公権力性が認められる、と言い換えているというわけです。

 以上より、処分性が認められるためには、法的効果が発生する行為であることを前提に、公権力性があることが必要となります。

まとめ

 以上で、処分性(その一)は終わりです。取消訴訟の行為訴訟としての特徴から、処分性が認められるには法的効果の発生という要件が求められることがわかります。また、公定力+不可争力の付与という取消訴訟の実質的な意義から、公権力性も要件となることがわかります。

 次回は、処分性って2要件?4要件?5要件?6要件?、処分性の各要件をどう考え、整理しておくかについて書きたいと思います。

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