だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

質問回答4(問題提起とあてはめの重複、承継的共同正犯の論証、判例学習の進め方など)

 こんにちは、たすまるです。「ある程度論理的な文章を書く」という能力のほとんどをMy love仕事につぎ込んでしまっている状況なので、コメントに対する回答以上に長い文章が書けません(笑)。という訳で、約1年ぶり?に、読者の皆さんに役立ちそうな、コメント&回答(2020年5月~8月分)をまとめました。

1. 問題提起とあてはめの重複

 最初は、「こってり」「丁寧に」問題提起すると、問題提起とあてはめが重複してしまうんじゃないの?という、恋責任の本質さんのご質問です。恋責任さんは大変良いご質問が多く、よく登場されますね。いくつかのコメントにまたがっているので、会話方式にし、かつ要約しました。

1-1. 問題提起の役割

 たすまる様、お久しぶりです。 今日は、答案を書いていて困っていることー問題提起とあてはめの重複ーについて質問させてください。

 最近答案を書いていると、問題提起とあてはめが重複していまうという事態がよく起きます。 問題提起を、「⚪︎⚪︎な事情があるから、××なのではないか。」としてしまうと、あてはめにおいて、「本件では、⚪︎⚪︎という事情(事実の摘示)があり、これは△△という意味を持つ(事実の評価)から、要件を充足する。」と言った感じで、あてはめにおいて、使う事実が被ってきてしまうのです。

 もしかしたら新司法試験のように事実が大量に問題文に放り込まれているタイプの問題では生じないのかもしれませんが、短文事例問題を解いていると、このようなことが起きるのが珍しくありません。 このような場合にどのような解決を図るべきでしょうか。

 ある程度の論理飛躍は許容した上で少し雑な問題提起を図るべきか、被ってしまうのも致し方ないと考えるか、もし事実の評価にウェイトがないような事実ばかりが並ぶのであれば、問題提起で事実を使ってしまった以上、あてはめを最小限に抑えるか。いくつか自分なりに考えてみましたが、やはり信頼できるたすまる様のご意見を伺いたく思います。

 お尋ねの「問題提起とあてはめの重複」問題ですが、一般論としては、 ①どちらかで触れれば十分(それ以上の配点は無い) ②見栄えが悪い ③どちらかで触れるのであれば、法的三段論法っぽさー

 上記記事3-2.❷参照ー重視  などの理由から、あてはめで触れるのが普通ではないでしょうか。同記事で述べた通り、問題提起は法的三段論法の必須要素ではありません。問題提起に高い配点がふられていることもほとんどありません(民訴法の一部など、法的構成自体が勝負!という例外を除く)。 「問題提起(問題発見)」の役割は、どの条文のどの要件の解釈問題とするか、を明らかにすることです。その役割を果たす必要最低限のもので良い、というのが私の感覚です。  以上が一般論ですが、具体的な書き方が知りたいのでしたらば、問題(出典明記)と解答案を教えてください。

1-2. 出題趣旨と相対評価

 お返事差し上げるのが遅くなってしまいました。 いただいた返信どれもためになりました。大分自分の中で方向性が見えてきたように思います。 >「問題提起(問題発見)」の役割は、どの条文のどの要件の解釈問題となるか、を明らかにすることです。
>その役割を果たす必要最低限のもので良い、というのが私の感覚です。

 ここについて、もう少し詳しく教えていただけるとありがたいです。 問題提起の仕方一般に関わると思うので、今回のような問題提起とあてはめの被りと少し離れてしまう具体例ですが、下記のような場合はどうなるでしょうか。

(問)代表名義を冒用して売買契約を締結した。(工藤北斗の実況論文講義刑法 第2版第2問)

 工藤北斗先生の解答例の「偽造」にあたるかという部分の問題提起は、以下の通りです。 「代表名義の文書の作成が、「偽造」にあたるか。その意義が問題となる。」

 私が回答を作成する際に書いた問題提起は以下の通りです(ほぼ井田先生の各論p453の引用ですが)。 「甲は肩書を偽ったにすぎず自己の名義で文書を作成しているから「偽造」に当たらないのではないか。」

 解答例を一目見た時、それでは問題の所在が示せたことにならないのでは?という気持ちを抱きました。(偽造かどうかが争われるのは、それが甲という自己の名義を書いている点では共通している点に求められるのだと思います。)。試験的には一つ目の簡潔な問題提起でも許容されるものでしょうか?上のものでも許容される程度の簡潔な問題提起で構わないということであれば、問題の所在を示そうとするあまり、当てはめで使うべき事実を全部問題提起で使用してしまうということはなくなりそうな気がします。

(追伸)

 先ほどのコメントを送ってしまってから気づいたのですが、これは問題提起を手厚く書くべきかという本記事内の記述に解消される気がしてきました。本記事と重複した質問とは中々醜態を晒してしまいました。申し訳ありません。

 恋責任の本質さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

問題提起を手厚く書くべきかという本記事内の記述に解消される気がしてきました。

 そうですね。基本的には、本記事の内容で解決できる疑問点かとは思いますが、せっかくご質問戴いたので若干具体的に回答します。(問)代表名義を冒用して売買契約を締結した。ーこの事例につき、恋責任の本質さんとは(一定の)信頼関係がある、という前提で直截的な表現でコメントします(笑)。

1. 出題趣旨をよく考える

 まず、論文問題においては、問いに答えること-出題者・採点者の気持ちになって考えることが最も重要です(出題趣旨)。自分が出題者だった場合、どんなことに悩み、どんな論理を展開して欲しいか、ということです。 「代表名義の冒用」という本事例においては、「偽造」という構成要件充足性が問題となることは、明々白々です。出題者、解答者のほぼ全員がその点は理解している訳で、これを敢えて丁寧に説明-甲は肩書を偽ったにすぎず自己の名義で文書を作成しているから「偽造」に当たらないのではないか。-しても、「うん。そりゃ当然の前提です。規範定立&理由付けでしっかり悩んで、説明してね」となるだけで、「問題提起部分に」高い配点がつくことはほとんどありません。

2. 相対評価されることを考える

 また、もう一点気になるのが、(古い)予備校が、やたら手厚い問題提起を普及させたせいで、多くの受験生が(不要にも関わらず)問題提起を手厚く書く、ということです。 そうすると、①問題提起を手厚く書いても、加点事由とならない(相対的に差がつかない)し、②むしろ、他の平凡な答案に埋没してしまう、という可能性まで出てきます。 なお、(古い)予備校が手厚い問題提起を織り込んだ論証パターンを普及させたのは、決して間違った方法論ではありません。当時は、問題文が短く、かつ、問題の発見自体が難しい(=問題提起に配点がある)旧司法試験が前提となっていたからです。

3. 私であればどうするか

 本事例で言えば、私の感覚では問題提起は最低限で構いません。淡々と刑法159条1項の要件充足性を検討すればよい訳です。

  • 本件文書は~だから、「義務…に関する文書」にあたる。
  • 本件文書は~だから、有印である。
  • 本件で甲は~だから、「行使の目的」がある。
  • 本件で甲は、乙社の代表権を有しないにも関わらず、「乙社代表取締役 甲」と署名しているところ、これが「偽造」にあたるか。

 というような感じです。要するに、アガルート(工藤先生)の論証と同程度です。「えっ?じゃあなぜ井田先生の基本書は手厚く書いているの?」という疑問があるかもしれませんが、

  • 基本書は、読者=初学者なので、問題の所在から丁寧に解き明かす
  • 論証例(答案)は、読者=基本的には初学者よりも知識が豊富な方なので、問題の所在は最低限

 と違いが出てくるのは当然です。井田先生も、自分が受験生なら短く論証するかもしれません(笑)。

 肩書を偽ったにすぎず の「すぎず」についての悩み、解釈、立論は(上記の通り)、本来、規範定立の理由付けで展開すべきものです。保護法益はこうだ、明確性の原則からの要請はこうだ、だから代表名義(肩書)の冒用も、一程度保護するべきなのだ~ というかたちです。これで、採点者には知識や論理的思考が十分伝わるのではないでしょうか?

 なお、「問題提起(問題発見)」についての論証は、原則として、

基本書>伊藤塾>アガルート>自作

 の順に手厚く(シンプルに)なっているはずです。私は、問題提起は必要最低限、と常に考えていたため、アガルートの論証を短くする、という改訂を常に行っていくという勉強法でした。 あまり時間がなく、駆け足でご説明しました。ご不明な点があれば、本記事に加筆修正する形で丁寧に書きます(笑)。

2. 承継的共同正犯の論証

 続いては、yさんのご質問「(橋爪説に基づく)承継的共同正犯」の論証(というか、要件出し)をどうするべきか?というものですね。受験生ならみんな気にするところですね。こちらも、会話要約方式です。

 承継的共犯について質問です。 私も橋爪連載を読んで橋爪先生の見解に納得がいったのですが、いまいち論証として上手くまとめることができません。 そこで、たすまるさんがどのようにまとめているか教えていただきたいです。 以下は私なりにまとめたものです。

「共同正犯においては、構成要件該当事実すべてではなく、構成要件的結果について因果性ががあれば足りる。 そこで、後行者が先行事実を認識した上で、先行事実を含め全体として成立する構成要件的結果に因果性を有していれば、承継的共同正犯が成立する。 そして、何が個別の構成要件的結果かについては、当該犯罪の法益侵害の内実に即した実質的な検討が必要である」

改善点があればコメントお願いします。

 論証拝読いたしました。美しく論理的な日本語で、試験的にはほとんど問題無いかと思いますが、私なりのアドバイスを。

1. 形式面

 試験での「追い込み」を考えますと、私ならさらに短いバージョンを用意します。

(yさんの論証から引用)そこで、後行者が先行事実を認識した上で、先行事実を含め全体として成立する構成要件的結果に因果性を有していれば、承継的共同正犯が成立する。

 この第2パラグラフですが、要するに第1パラグラフを言い換えたものにすぎません(同義パラグラフ)ので、私ならばまるまるカットして書くこともあり得ると思います。

2. 内容面

 まず、「承継的共同正犯」成立の前提として、そもそも「共同正犯」の正犯性をいかなる要件で認めるか、という問題があります。 正犯意思(の徴憑としての犯罪利益の帰属)、重要な因果的寄与など… 色々な学説、色々な理解と書き方が有り得ます。そもそも、正犯性が無ければ「承継的幇助犯など」となりますので、正犯性の理解・要件を述べておくことは論理的に必須です。

 このことは重々承知されていると思うのですが、これー共同正犯成立の要件として何が必要なのかーをどこまで事前に書いておくか、により上記論証で挙げる「要件」も変わってくるのではないでしょうか。 何が言いたいかと言いますと、

後行者が先行事実を認識した上で、

 の一要件をここで挙げる必要があるかどうか、です。①理論的に挙げる必要が無い、②前段(共同正犯成立要件)に織り込まれているので挙げる必要が無い、③前段が無いので挙げる必要がある、など様々な理解・書き方が有り得ます。 私がどう書いていたか、or 橋爪先生ネイティブだとどうなるか、はただいま出先のためわかりません(笑)。 私が文献にあたって回答するまでに、yさんもちょっと考えてみて下さい。

 たすまるさん コメントありがとうございます。
 正犯性について 私自身も「後行者が先行事実を認識した上で」という文言はなくてもいいかなと迷っていたところです。 私としては、 先に共謀(意思連絡と正犯意思)を認定した上で、承継的共同正犯の議論に持っていくか、 「後行者が先行事実を認識した上で」という文言の代わりに、「共謀が認められ」のような文言を入れて正犯性と承継的共同正犯の議論をまとめて?検討する のがよいのではないかと思いました。
 まだ検討が十分ではないところがあるので、引き続き検討してみます。

3. 論証例

 (中略)参考までに、私の(今適当に考えた)論証例を挙げておきます。典型的な特殊詐欺の事例を想定しています。  

 …乙が、V所有にかかる現金100万円の交付を受けた行為に、詐欺罪(刑法246条1項)は成立しないか。 (乙自身は欺罔行為を行っておらず、また、甲の欺罔行為以前の共謀も認められない。そこで、)実行行為の開始後に加担した者を共同正犯(同60条)に問えるか、いわゆる承継的共同正犯が問題となる。

 共同正犯成立のためには、①共謀(意志連絡及び正犯意思)、及び②犯罪結果の実現に重要な因果的寄与を成せば足り、全構成要件要素に因果性を及ぼす必要はない。

 これを本件についてみる。 まず、乙は甲がVを欺罔したであろうことに気づいた時点で意思を連絡させ、報酬である50万円を受け取るために交付を受けたのであるから、自らの犯罪を成すという正犯意思が認められる(①充足)。 次に、詐欺罪の保護法益は交換手段としての個別財産であるから、財物の交付が犯罪結果であり、欺罔されたことはその手段に過ぎないとみるべきである(※)。 そうすると、本件で財物の交付を受けた乙は、犯罪結果の実現に重要な因果的寄与を成したということができる(要件②充足)。

 以上より~(以下略) ※このような、詐欺罪の罪質の「あてはめ」にはやや疑問が残りますが、司法試験との関係で言えば十分点数が来ると思います。

3. 判例学習の進め方

色々判例集あるけど、どうやって、どの順番で読むの?というやつですね。

 たすまる様 判例学習についての質問というよりご意見を伺いたいです。

 現在、ストゥディアを通読し終えてリークエを通読している途中で、リークエ通読後、ロープラを使って演習をしながら並行して百選と会社法判例の読み方を使って判例学習もしていこうと考えています
 そこで、先に会社法判例の読み方を読んで射程等を概観した後に百選を通読するのと、百選を先に通読してから個別の判例を頭に入れてから会社法判例の読み方を通読して射程等を確認するのとどちらの方が効率的でしょうか

 僕個人としては射程等を概観してから百選を潰していくのがいいかなと思っているのですがたすまるさんならどちらの方法をとられるかご意見を聞きたいです
 また上記以外にもこうした方が良いかもしれないという方法等ございましたら教えていただけるとありがたいです
 長くなりましたがお返事のほどよろしくお願いします

 いろはさん、こんにちは。コメントありがとうございます。ご質問ですが、私なら百選を先に通読します。理由を以下に。

1. 判例学習の順番

 いろはさんの勉強の進み具合にもよりますが、一般的に言って、判例の学習は次のように進みます。 ①判例がどの条文につきどのような解釈をしたかー「規範」を覚える ②その規範が、どのような事実関係に対して立てられたのかー「事実」を覚える ③事実と法解釈の中から、どのような要素に着目して規範を立てたのかー「理由付け」を覚える  ①で終わってしまうのが、ダメなテキストによるダメな暗記です。

 百選はじめ、普通のテキストであれば、①②③の全てを学べます。 さらに、想像力と論理的思考力が豊であれば、「Aという事実関係のとき、Bという理由付けによって、Cという規範を立てた。そうすると、A’という事実関係にもこの規範は適用可能だな」という感じで、 ①+②+③=④「判例の射程」がわかるようになる、という訳です。

 しかし世の中、そんなに想像力豊かの人ばかりじゃない。という訳で、近時、この④を専門的に解説する判例集が人気を得ている訳です。「会社法判例の読み方」もその一つです。 以上の考え方からすると、④射程本が登場するのは、①②③が(一応)把握できてから、というのが素直です。

2. そもそも百選の出来

 以上が総論的なことですが、各論的な問題もあります。すなわち、百選があまりに難しく、①は良いとしても、②事実の記載がほとんど無い、という場合があります(以前の憲法百選など)。また、反対に「会社法判例の読み方」のように、射程本だけど、①はもとより、②も結構充実しているよね、という場合もあります。要するに、ある科目の「射程本」の方が初学者向きであれば、そちらを先に読んだ方が良いわけです。 この観点からしても、会社法百選は①②③ともにしっかりしており、百選の中でもかなり教育的効果の高いものです。そうすると、やっぱりまずは百選をちゃんと読むのが正解っぽいように思います。

 私は、百選は3通読くらいしまして、3通読目に「会社法判例の読み方」に出会い、併読したという感じです。 なお、このブログのあちらこちらに書いている気がしますが、百選のお役立ち度は、 刑訴法>>民訴法≧会社法>民法>>>>>刑法  という感じです。憲法=使えないけど代替的書籍無し、行政法=ケースブックの方が100倍良い、という感じでしたが、最近改訂されて良くなったともっぱらのうわさです。今度立ち読みしてみます。

4. 論証の理由付けの「薄さ」

 続いて(色々な記事で触れていますが)論証の理由付けの「薄さ」についての、ゆーきさんのご質問です。

 たすまるさま 以前高橋先生の民事訴訟法概論の「誤読」を指摘していただいたものです。 今回は論証の作り方についての質問がありコメントさせて頂きました。
 よく「理由付けは簡潔でもいい~」旨の文言を見るのですが、いったいどこまで簡潔にしてもよいのかが分からなく、毎回冗長だなぁ…と感じてしまいます。
 例えば、エクササイズ刑事訴訟法の悪性格の立証について、「悪性格の立証は、不当偏見の危険、不公平な不意打ちの危険、争点混乱の危険があることから、検察官が犯罪行為の証明に用いることは原則として許されず、法律的関連性が否定される…」うんたらかんたら~(p.95)という解説になっています。 個人的には「凄く綺麗な論証!使いたい!」と思ったのですが、「こんなに薄くて減点されないのか…?」という疑問が湧きました。 エクササイズ刑事訴訟法くらい簡潔な論証にしても問題ないのでしょうか?

 後、こちらの記事を(勝手ながら)とても参考にさせて頂き、書籍なども買っております。 本年、ロー入試既修者コースに(ほぼ)独学で10ヶ月という勉強期間で合格できましたのはひとえにたすまるさまのおかげだと思っております。 ありがとうございます

 ゆーきさん、こんにちは。ご質問ありがとうございます。 まず、論証における理由付けについての一般論は下記記事をご覧ください(当然読んで戴いてそうですが…)

答案の書き方5(応用編・メリハリの付け方) - だいたい正しそうな司法試験の勉強法

1. エクササイズ論証の適否

 エクササイズ刑事訴訟法の論証全般については、コンパクトかつスマートなものが多く、私も多用していました。

悪性格の立証は、不当偏見の危険、不公平な不意打ちの危険、争点混乱の危険があることから、 検察官が犯罪行為の証明に用いることは原則として許されず、法律的関連性が否定される

 というご指摘の論証も、これをそのまま司法試験本番に用いても(下記の通り、原則としては)全く問題無いように思います。

2. 薄くて減点される?の意味

「こんなに薄くて減点されないのか…?」という疑問が湧きました。

 とありますが、こういった疑問は突き詰めて考えておいた方が良いように思います。論証が薄いと採点者は減点するのでしょうか? そうではありません。採点者が減点するのはどんな時か、これは明白で

  • 法律知識が不足している(=理解していない)とき または
  • 仮に法律知識が十分だとしても、不足しているようにしか伝わらない書き方のとき

 です。ご指摘の論証の例でいうと、 「不当偏見の危険」って書いてるけど、こいつ、なぜ悪性格の立証を許すと不当偏見と言えるのか、わかってるのかなぁ…  という一抹の不安(笑)を採点者に抱かせてしまうと、減点の可能性が出てくるという訳です。  ゆーきさんが、悪性格の立証がなにゆえ不当偏見、不公正な不意打ち、争点混乱を惹起するのか、その理屈をよくよく理解していれば、その理解は答案の隅々に現れるものです。そうすると、採点者も「コイツわかってるな」と安心できるため、エクササイズ論証のようなスマートな論証は「むしろ好印象高得点」となると思います。

3. ベストな論証を考える

 このような「自分の理解」「試験という限られた時間」「相手にどう伝わるか」をよくよく吟味して、論証を作り込んでいく作業が司法試験の勉強の本筋です。この作業の上手い下手で、どんどん差がついていくという訳です。 少なくとも、厚い=点数入る、薄い=点数入らない、という単純なものではありません。 

 このような視点で「悪性格の立証」を捉えなおしてみると、下記のような事が言えるように思います。

  1.  そもそも、悪性格の立証が許されない理由のうち最も大きいのが、「不当偏見の危険」=推認力不足にも関わらず被告人を犯人だと推認させる危険であり、要するに証拠からの合理的な推認の可否が、本質的な問題(採点者がわかっていて欲しい事)
  2.  加えて「悪性格の立証」にあたるから許されない、なんて単純な問題は司法試験に出ない =以上より、「悪性格の立証」単体の論証は準備しない、または、エクササイズくらいの論証でも十分
  3.  通常は、「悪性格の立証」単体ではなく、類似事実(同種前科)の立証、加えて「顕著な特徴&相当程度の類似性」等による合理的な推認が可能かどうか、が問題となる =だとすると、「不当偏見の危険」(≒合理的な推認の困難性)に焦点を当てた論証を準備しておくべき

 このような考えから、筆者は下記のような論証を準備していました。参考にしてみて下さい。

 明文なきものの、証拠としての性質上、いわゆる類似事実証拠の証拠能力は、原則として否定すべきである(なお、295条1項も参照)。
 類似事実は、被告人の性格・傾向を推認し、これを媒介に犯人性を推認するために用いられる場合、不確かな推認を二段階に重ねることから、推認力を欠く。 また、不確かな推認を回避するための防御により、争点が拡散するという弊害があり、法律的関連性を否定すべきからである。

 (以下・ロングバージョン)  もっとも、犯人性を推認する場合であっても、①類似事実が顕著な特徴を有し、それが公訴事実と相当程度類似する場合、②強固な犯罪傾向を立証する場合…(以下略)証拠能力を認め得る。 これらの場合には、性格等を媒介とする不確かな推認が介在しないからである。

 …このショート&ロングを、問題の配点・可処分時間によって自在に短縮する、という書き方です。

4. 参考文献

 なお、類似事実(同種前科)証拠排除については、下記文献は必読です。エクササイズは、あくまで「優れた演習書」であり、「優れた解説書」でないことにご留意ください。 ・古江先生「事例演習刑事訴訟法」257頁以下 ・「刑訴法百選 第10版」144頁以下(笹倉先生執筆)  後者は少し難しいですが、司法試験委員会の大好きな問題意識に満ち溢れており、かつ、素晴らしい論証の参考にもなります。

 …こうしてみると、有意義(…と思いたい…)なご質問&回答は結構たくさんありますね。まだまだご紹介したいものがあります。憲法のパブリック・フォーラム論の使い方、とか。時間ができたら書評(基本刑事訴訟法、プレップ法学を学ぶ前に、論点精解 改正民法etc)も書きたいと思います。