だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

法律学習の「誤解」と、読解 民事訴訟法

読解 民事訴訟法

読解 民事訴訟法

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★☆☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと「民訴の誤解に気づく本」

わかったようでわからない

 わかったようでわからない、という経験を多くの方がされた(現在進行形でされている)ことと思います。かくいう筆者もそうでした。というより今もそうです。この原因のうち多くが、「誤解」にあるように思います。

法律学習における誤解

 法律学習に誤解はつきものです。私自身を例に挙げると、民事訴訟法の既判力が及ぶ(作用する)場合について、

 既判力(の積極的作用)は同一当事者による全ての後訴に「及んでおり」→訴訟物が同一・先決・矛盾関係の場合のみ「効力が発現する」→このことを指して、「既判力は訴訟物が同一・先決・矛盾関係にある後訴に及ぶ」というのである

 と、勝手に理解していました。これは誤った理解なのですが、こんな誤解に気づかず(数か月にわたり)ぬくぬくと過ごし、答練、模試等で「アナタ、これ全然違うんですけど」「えーっ!?」っとなるのが法律学習あるあるです。

なぜ誤解が発生し、解消されないか

 そもそも法律学習においてへんちくりんな誤解が日々発生し、あたかも筆者の頑固な襟袖汚れのごとくなかなか解消されない…のは何故かを考えてみますと、

  1. 法律の基礎概念(既判力とか!)があまりにも難しいー理解困難なので、自分の言葉・論理で置き換えて理解しようとする
  2. この「自分の言葉・論理」は自分の脳が頑張って生み出したストーリーで、パッと見は論理的なように(自分には)見えるので、誤解だという事に自分で気づくことができない
  3. 誤解に基づく規範等を問題(事実)に適用しても、正しい理解の場合と結論が変わらないこともある

 という3つの特徴にあるように思います。結構重要な気もしますので、一応敷衍します。

1.自分の言葉で置き換える

 これは、下記記事で述べた通り、法律の学習においては重要なテクニックです。ただし!必ず正確(と学術的実務的にされている)な定義、用語法、理解に戻ってくる、という留保付きです。No returnはダメです。

2.気づかない

  これについては、過去記事というより本ブログ全体でさんざん言及してきた通りでして、他者とのコミュニケーションによる相対化が重要です。要するに、自分の脳内の理解を他者にさらけ出して、フィードバックすることによってしか、人は誤解に気づけません。

 このフィードバックの機会を、「まあ、定期試験や答練があるからいいや」と受動的に待っていてるのは時間のムダです。本ブログでもたまにありますが、「〇〇という論点について、~~という論理の組み立てで理解しているのですが、正しいですか?」等という積極的質問が非常に効果的です。もちろん、答練や答案添削依頼も(後述の通り)有用です。

3. 結論が変わらない

 「結局、結論が変わらないから良いんじゃない?」という疑問もありますが、そんなこと言ってしまうと、およそ法律の必要性というものに不安が出てきます。

 Vはおもちゃのナイフ(ドッキリ用)でからかおうと、甲の背後から声をかけ、腹部に同ナイフを突き立てようとしたところ、甲は驚いてVを突き飛ばした。Vは後頭部をしたたかに打ち、脳震盪・頭部外傷で加療2週間の障害を負った。という事案で、

 誤想防衛では故意責任(38条1項)を問えないから、甲は過失犯又は無罪、とするのか

 なんだか甲がかわいそうだから過失犯又は無罪、とするのか

 では、雲泥の差があります。というか後者でいいなら法律家いらないじゃん、司法試験も無用じゃん。となります。自分が採点者であれば、1点もあげません。

誤解の悲劇を防ぐには

具体例をみてみる

 それではこの頑固な「誤解」をどうやれば粉砕できるかについて考えてみます。その際、好個の具体例(と言ってしまってすみません…)として、わざわざ答案添削を依頼して下さった読者の方(勇者である!)の要約答案を引用します。

※刑事訴訟法の別件逮捕の論点(令和元年司法試験・刑訴法)について

 令状主義(憲法33条、199条1項)は、中立的・公平な第三者的地位たる裁判官による逮捕理由の事前に審査することにより(中略)。

 だとすれば、逮捕理由について事前に審査されている場合は、その逮捕状の効力を有する。しかし、別件の捜査において専ら本件のために捜査が行われていた場合は、同趣旨を没却し、令状の効力は喪失すると解する。そこで、専ら本件のために捜査がなされているか否かは主観的意図、本件・別件の両捜査の内容、時間的割合等から総合的に判断する。

 残念ながら、下線部の記載が「重大な誤解があります!」というアピールとなってしまっており、上記、誤解の3つの特徴が全て現れているように思います。

 まず、別件逮捕・勾留は、本件基準説、別件基準説、新しい別件基準説、実体喪失説、川出説と百家争鳴の体をなしており、(学説に振り回されると)なかなか理解が難しい分野です。読者さんが、「ああ、これは令状の効力の問題だな」と自分なりの言葉で理解してしまうことも無理からぬところがあります(1)。

 また、令状が事後的に無効となるー身柄拘束につき令状を欠く状態となるーよって身柄拘束が違法となる、という(読者さんによる)誤解は、一応論理的には成り立ちうるもので(2)、かつ、このように解しても結論として身柄拘束の適法・違法は判断することが可能です(3)。

 しかし、別件逮捕・勾留とは、少なくとも別件の逮捕要件は充たされており、故に当然令状も有効とされていることが前提であり、にも関わらず本件の捜査を行った、又は行う意図だったということから、(別件での)身柄拘束が違法となるか、という論点です。令状の効力がどうなるか、という論点ではありません。ご丁寧にも、司法試験委員会の作問も「身柄拘束の適法性」とまで誘導して下さっています。

 結論が異ならなければ良いというものではないのは、上述の通りです。実務も、上記の諸説のいずれも「後から令状の効力が失われる」とは考えていませんから、(よっぽど丁寧で説得的な論理を展開しなければ)「あっ この人誤解してる…」という読後感となり、点数はつきません。

答案添削の効用ー誤解もマイナスばかりではない

 このように、答案添削や定期試験等での評価で「これ誤解です」とやられることが、誤解解消の王道の方法です。間違えることが恥ずかしい、と思う人はそもそも勉強に向いていません。また、「すんなり理解し→覚えた」知識に比べて、「誤解し→間違いを指摘され→勉強し直した」知識の方がずっと確実に記憶に残ります。

 という訳で、ナガナガ語っておりましたが、筆者が何を言いたかったいったんまとめますと、

  1. 法律学習に誤解はつきもの
  2. 誤解は自分で気づけないから誤解
  3. 他者とのコミュニケーションで改善しよう
  4. 質問や答案添削をどんどんしよう

 ということでした。とはいえ、どうしても引っ込み思案の人もいると思いますし、独学でなかなか質問&答案添削の機会が無い…という方も多いでしょう。そんな方におススメなのが本書です。

読解 民事訴訟法の内容

誤解を発見してくれる

 本書は、民事訴訟法の基礎概念や重要論点を解説した論点集です。近いコンセプトの本としては、憲法論点教室 第2版(第2版出るんですね!期待!)や、下記に紹介した書籍などがあります。

  論点集(参考書)の効用としては、近時のホットトピックー司法試験の出題傾向を探ったり、様々な学説の対立を学べたりーと色々ありますが、本書の特徴は、「あなた誤解してませんかー!?」と、民事訴訟法の(重要な)誤解を発見し、正しく理解させることをコンセプトの一つとしていることです。

 とは、本書のどこにも書いていないのです。が、著者の勅使河原先生によると、

本書は、「民事訴訟法」の講義において学生たちから受けた頻出の質問と、それに対する回答を集めたようなもので、いわば”民事訴訟法のFAQ”です。あ、そうか、学生諸君はこうした基本的なところでもつまづくのか、という大学教師としての「気づき」…(本書「はじめに」より引用)

 とのことで、筆者の考えるところによれば、「基本的なところでのつまづき」ー要するに誤解、を発見してくれるという効用が、本書の最大の美点というわけです。

(良い意味での)誤答集

 「基本的なところでのつまづき」を紹介するために、勅使河原先生は講義・試験における学生の誤答を引用しています。

  • 「訴え棄却」だの「請求却下」だのと、答案に書かないで という素晴らしく直截なタイトルに始まり(Unit1のIntroduciton)
  • 弁論主義第一テーゼの「お作法」違反(Unit2)
  • 学生の持っている民訴法判例百選(の読み方がいかに間違っているか、ということにつきUnit5)… ほか多数

 この学生の誤答(間違え方)が刑法の教室設例とは異なりリアリティに富んでおり、秀逸です。「そんな誤解するか!?」というモノはあまりなく、「えっ!?正しく…な…いか」という正解スレスレの誤答(用語法が変である)が収録されております。

 特に、「既判力」の使い方(その2)のIntroductionー「答案でよく見る誤答の数々」はとりわけ良く出来ており、バラエティに富んだ誤答が飛び交う中「あー俺もこういう事書いたことあるわ…」と凹んだり、一瞬正解っぽく見える誤答を見分けることで正確な理解を試すことができます。なお、

(前略)前訴確定判決に既判力が生じている(仮面ライダーに変身している)ことだけを述べ、後訴が既判力の及ぶ対象なのかをまったく検討せずに、いきなり相手構わず既判力が作用して主張が遮断される(相手が誰かを確認せずにとにかくライダーキックをお見舞いする)ことを導き出そうとする。誤答①は、相手も確かめずライダーキックをお見舞いしたら相手がたまたまショッカーであったに過ぎない、という、正解として点数を与え難い答案である(本書152頁より要約引用)

 とあり、いかに結論が正解でも誤解に基づく論理構成をしたのでは、やはり点数はもらえないことが判明致しました。

誤解の矯正は少し難しめ

 で、「あなた誤解だよ!」と発見・指摘して終わり、ではテキストの意味がありません。という訳で、上記の仮面ライダーへの変身(既判力の発生)とショッカー(後訴)へのライダーキック(積極的作用)の例でもわかる通り、本書は懇切丁寧な説明により、正しい理解へと導いてくれます。…と書くと、良いことづくめなのですが、本書は親切すぎる解説によって、逆に「ちょいと難しい」という部分が出てきてしまっています。どういうことかと言いますと、

中には、従来の学説の議論では納得のいく回答ができないと思う部分もあります。そうした部分ではこれまでの学説から離れ、私見を展開してみました(本書「はじめに」より引用)

 という訳です。先生のおっしゃる通りで、マジメな学生に適切な回答を与えられない学説は多々あります。橋爪先生(刑法)だと、「〇〇については、まだよくわからない。考えてみたい」で終わるのですが、勅使河原先生は鬼・親切で、なんとか理論的に破綻なく解説して下さろうとするのですが、これがなかなか難しいという訳です。勉強初期の学生だと「まっ、いっか」で終わらせるところを、終わらせないぜ!という意気込みです。

 もっとも、そういった「発展的な考察」の部分には、「?」みたいなマークや、Advancedと明記してあり、そういった意味では受験生フレンドリーではあります。また、個人的には、民訴179条・裁判上の自白・弁論主義第二テーゼの関係や、補助参加の利益の間接的影響類型(転用型)の判断方法と「公平」さの考慮といった、勅使河原先生ならではの切れ味鋭い説明が、難しいながらも最も面白く読めた部分でもありました。

読解 民事訴訟法の使い方

 という訳で、私の本書の感想は

  • 誤解発見(診断)が超一流 ー 初学者に是非読んで欲しい ものの、
  • 誤解矯正(治癒)は、志が高すぎてやや難しめ - 中級者以上に是非読んで欲しい

 というものです。従って1冊の本ではありますが、使い方も二分されます。まず、本書はあくまで副読本ですから、使用する前提としては、最低でもストゥディア、できれば「基礎からわかる」「リークエ」「概論」「瀬木民訴(読んでみたい…)」くらいの基本書は手もとに置いておかなければなりません。

 その上で、

  • 初学者 - 自分が基礎概念を誤解していないか、それを発見するためだけに読む。?マーク&Advancedはもちろん、少しでもわからないな、と思う部分があったら基本書に戻る
  • 中級者以上 - 勅使河原先生の解説は十分わかると思うので、誤解の有無のチェックと、?マーク&Advancedでの高い問題意識の回収を狙って通読する

 という使い方が良いのではないかと思います。この、「意外と難しい」というところにさえ注意すれば、初学者~上位合格者まで幅広く使える書籍だと思います。何より、豊富かつリアルな?誤答により、民訴の誤解を発見する、というコンセプト自体が新しく、かつ有益なので、「ちょっと民訴がなんだかな」という方は立ち読み or 購入してみることをおススメします。

 答案添削にご協力戴いた読者さん、ありがとうございました。