だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

縮小認定の考え方1(平成13年判決との関係)

 受験生の友人から、刑訴法の縮小認定の論点ってどーやって書いてたー?と質問がありました。具体的には、訴因変更の要否にかかる最高裁判例(最決平成13年4月11日 以下、平成13年判決という)があるため、「平成13年判決の『あてはめ』として縮小認定は出てくるの?」というやつです。

 結論から言うと、平成13年判決(の、少なくとも第1段階枠組み)は関係ありません!そして、論証パターンとしては2段構えにしておくことをオススメします。

 本記事(1)では、訴因変更の要否、縮小認定について簡単に確認した後、平成13年判決との関係について考察します。要するにインプットですね。後編(2)では、具体的な書き方、論証パターンの「2段構え」について検討していきます。こちらはアウトプットの準備です。この「2段構え」は、全ての論点に使える必須テクなので、是非習得して下さい。また、広く深くインプットして~アウトプットのために情報を絞り、まとめるという「勉強の過程」を是非体験してみて下さい。

訴因変更の要否

 これについては、わかりやすく丁寧な解説が巷にあふれていますので、非常にザックリと把握しておきます。

検察官「被告人Xは、Yと共謀の上、XがAを殺害したものです」→訴因
裁判官「Xがやったか、Yがやったか、あるいは両名でやったかは確かだな」

…というときに、訴因変更(刑訴法312条1項、2項)せずに訴因と異なるXorYor両名、という事実を認定をしよいか。という問題ですね。

判例の判断枠組み(最決平成13年4月11日)

 この問題についての、最高裁の判断枠組みは以下の通りです。色々なまとめ方があると思いますが、筆者の論証パターンを貼り付けます。

 訴因の第一次的な機能は、審判対象の画定にあり、防御範囲の告知はその裏返しに過ぎない。そこで、審判対象画定のために不可欠な事実が変動した場合には、常に訴因変更が必要である(①)。

 加えて、当事者主義(256条6項等)からは、事実認定の場面でも争点明確化による不意打ちの防止が求められる。従って、上記①以外の事実についても、それが訴因において明示され、その事実の変動によって一般的に被告人の防御に不利益が生ずるような場合には、訴因変更を要する(②)。

 とはいえ、この争点明確化の要請は、訴因の機能とは直接の関係はないから、審理経過等から、被告人にとって不意打ちとならず、かつ、不利益とならない場合には、訴因変更は不要と解する(③)。

 ①が(識別説を前提とした)不告不理の原則、②③が争点明確化による不意打ち・不利益の防止が根拠とされています。①&②③の「2段階判断枠組み」として知られています。理論的に無理がなく、分かりやすく、結論も妥当となるもので、評価の高い判例ですね。

 一応、最後の③「かつ、不利益」という要件は不要ではないか、という批判があります(事例演習刑事訴訟法 第2版217頁等参照)。上記論パをみてもわかるように、審判範囲の画定&不意打ち防止には一応の根拠があるのですが、不利益防止には(少なくとも、明確な)根拠がありません。のみならず、結論もおかしなことになる可能性があるためです。という訳で、筆者としてはこの要件③「かつ、不利益」に焦点を当てた出題もあり得るのではないか、と考えています。

 要するに、平成13年判例で処理すると、不利益だから違法な認定です!となっちゃうんだけど、全然不意打ちじゃなくて当事者も手段を尽くして争っており、これ妥当じゃないんじゃないの…?不利益要件って本当に必要なの…?事例判断じゃないの…?と考えさせる問題です。難しすぎるか。

 訴因変更の要否については、意外とあてはめが苦手、という方もいらっしゃると思うので、別の機会に記事にします。

縮小認定

 これについても、把握は簡単に。

検察官「被告人Xは、Vの反抗を抑圧する程度の暴行を加え…強盗罪です!」→訴因
裁判官「Xの暴行は反抗を抑圧する程度じゃないけど、恐喝罪にはあたるな」

…というときに、訴因変更せずに訴因と異なるXの恐喝罪、という事実を認定をしてよいか。という問題ですね。訴因変更の要否ととても近い問題状況です。

判例・通説の判断枠組み

 これについて、判例(最判昭和26年6月15日)は、訴因変更の趣旨は、被告人に不当な不意打ちを与えることの防止にあるとしたうえで、強盗の訴因に対して恐喝を認定する場合の如く、裁判所がその態様及び限度において訴因たる事実よりもいわば縮小された事実を認定するについては、このようなおそれはないから、訴因変更を経る必要はない、と判示しました。

 理由付けとしては、①裁判所の認定事実が訴因事実に含まれているときは、認定事実は検察官により黙示的・予備的に主張されていたといえ、潜在的に審判対象とされていたこと、②そうすると、定型的に被告人に不意打ちを与えることも無いと考えられること、が挙げられます(事例演習刑事訴訟法 第2版214頁等参照)。

縮小認定と平成13年判決との関係

第1段階判断枠組みとの関係

 さて、ここまでは概ね(インプットとしては)理解できるところですが、平成13年判決との関係性は、やや難しい問題です。

 平成13年判決の第1段階判断枠組みの根拠は、不告不理の原則ー裁判所は、検察官が審判を求めていない事件について判断することはできないことにありました。そして、縮小認定ができるのは、上記の通り、検察官が黙示的・予備的に審判対象とすることを求めていた場合です。そうすると、縮小認定ができる場合には、平成13年判決の第1段階判断枠組みは、問題となり得ないと考えられます

 このことを、各先生は、以下のように表現しています(要旨引用)。下記の第2段階判断枠組みのところでも登場しますが、酒巻説と川出説の違いは、結構難しい(応用レベル)なので、興味の無い人は読み飛ばして下さい。

酒巻先生(刑事訴訟法297頁)

 (縮小認定の場合は、強盗→恐喝のように)罪となるべき事実の特定(筆者注≒審判対象の画定)に不可欠な部分に差異があるようにみえる(中略)認定される縮小犯罪事実は、当初から検察官により黙示的・予備的に併せ主張されていた…から…訴因の記載と「異なる」事実認定の問題ではなく、訴因の記載どおりの認定の一態様である。

川出先生(判例講座 刑事訴訟法(公訴提起・公判・裁判篇)95頁)

 訴因事実と認定事実に差異があるものの、類型的に訴因変更が不要と考えられるのが、いわゆる縮小認定の場合である。(中略)検察官が潜在的にではあれ審判を求めているものであるから、審判対象の画定という観点からは、訴因変更は不要である。

 微妙にニュアンスが違うのが大変興味深いですね。用語法からして、酒巻先生の方が「訴因と認定事実に差異は無い」ということを強調していることがわかります。このことが、下記の通り、第2段階判断枠組みの議論にも影響すると考えられます。なお、ここまでの理解ー縮小認定と、平成13年判決の第1段階判断枠組みの関係ーを図にまとめておきます。

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第2段階判断枠組みとの関係

 次に、縮小認定と平成13年判決の第2段階判断枠組みとの関係性も問題となります。上記の縮小認定&第1段階判断枠組みについては、難しいながらも、一応色々な(受験生が手に取りやすい)文献が多くあります。が、第2段階判断枠組みとの関係性については、突っ込んで解説したものが見当たりませんでした。よって、ここからは筆者のオリジナルな考察になります。信憑性はさらに落ちます。

酒巻先生の考え方

 通説的な見解、特に酒巻先生や古江先生の考え方によれば、縮小認定はそもそも異なる事実認定の問題ではないー事実は一切変動していないーので、その効果として訴因変更が出てくるはずはありません。そうすると、訴因記載の事実が変動した場合の問題である、訴因変更の要否ー平成13年判決の判断枠組みは、およそ問題となり得ません。

 しかし、平成13年判決の第2段階判断枠組みー被告人に対する不意打ち・不利益の防止の根拠は、訴訟全体を通じた争点明確化の要請にあり、これは刑訴法を貫く当事者主義の表れであるといえます。この争点明確化の要請は、縮小認定の場面でも当然問題となるものです。

 従って、縮小認定の場合であっても、認定が被告人に対する不意打ち・不利益になっていないかは、別途検討する必要があります。ただ、上記の通り訴因記載の事実は変動していないという理解から、酒巻・古江両先生とも、必要な措置としては求釈明等による争点明確化が挙げられており、訴因変更を要する場合がある、という記載はありません。

川出先生の考え方

 一方で、川出先生は縮小認定の場合であっても、訴因と認定事実に差異がある、ということを出発点にしています。そうすると、川出説によれば、縮小認定の場面でも訴因変更を要する場合があってもおかしくありません。実際に、判例講座 刑事訴訟法(公訴提起・公判・裁判篇)96頁によれば、「縮小認定の場合、通常は、不意打ち簿の防止の観点からも訴因変更は不要ということになろう」とあります。

 すなわち、川出先生は、縮小認定は平成13年判決の第1段階判断枠組みをクリアするものであっても、第2段階判断枠組みは問題となり得る、と考えていらっしゃるのだろう、と推測します。全然違う可能性もあるので、東大ローの学生さんに、川出先生に確認をとって戴きたいところです。

 ここまでの理解ー縮小認定と、平成13年判決の第2段階判断枠組みの関係ーを図にまとめると、このような感じでしょうか。

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小まとめ

 次回は、これらのインプットを踏まえ、具体的にどう書くか、検討します。実践的な論証パターン、解答例も紹介していきたいと思います。

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