こんにちは、ありまるです。
改正民法の本にラミネート加工を施したのはいいものの、そのまま放置してしまっているのでそろそろ手を付けなければなと焦り始めてきた今日この頃です。
今回は、民訴法の論点の「上訴の利益」を題材に、基本原理に戻ることで、未知の論点に対応する方法について検討します。他の法律科目にも応用可能な思考過程を残せたらなと思っております。
民訴法の問題の特徴
まず、民訴法の問題の特徴としては、①そもそも論点を発見しづらいこと②論点を発見したとしても論理的な説明が難しいことの2点が挙げられるかと思います。
①については、民訴法の基本をガッチリ押さえて演習を重ねることで対応することができるかと思います。例えば、平成30年司法試験(民訴法)の設問1を例に挙げれば、訴状副本が被告に送達されることで訴訟が係属することを知らなければ、そもそも論点にたどり着きません。なんとなく「『訴えが適法か』を問われているのだし、訴訟が2つ提起されているのだから多分二重起訴の論点だろう」という論点のたどり着き方だと、なぜ二重起訴の問題を今から論じるのかを示す問題提起ができません。
採点実感においてこの点は触れられているので、参照してみてください。
ここでは,まず,(原告である)Bの訴えの訴状副本が(被告である)Aに送達されており,事件が裁判所に係属していることを指摘する必要があるが,明確にこの点を指摘する答案はわずかであった。
(平成30年司法試験 採点実感 民事系科目18頁より引用)
この問題についてのこれ以上の詳細な説明はここでは省きますが、条文や基本原理から思考を積み重ねることによって自ずと論点にたどり着くように問題文はできているはずです。特定のマイナー知識を知らなければ論点にたどりつ着かないような悪問の場合は周りもできていませんから、基礎基本から丁寧に説明すれば問題ないと思います。
また、下記記事で論点発見までの処理手順について触れられているので、参照してみてください。
②については、下記の記事でも触れられているので是非参照してみてください。
未知の論点への対応
例題
それでは、例題を見ていきましょう。下記の例題は僕の知る問題集には記載されていないオリジナル問題です。みなさんも一緒に考えてみてください。
問題文:原告により裁判所に訴状が提出され、被告に送達された。原告の訴えは適法なものであった。その後、被告は正当な理由により答弁書の提出ができず、また第一回口頭弁論期日に出席できなかったため、欠席判決が下された。
問い:欠席判決に対して被告は上訴することができるか。
問題発見
本来、答案は条文からスタートすべきですが、残念ながら「上訴することができるか」という問いに対応する実体的要件を規定した条文は民訴法にありません。そこで、直截に上訴の実体的要件である上訴の利益があるか、と問題提起してしまえばよいでしょう。問題発見の点では困らない問題ですね。
なお、問題文に日時が一切記載されておらず、上訴の形式的要件である期間制限についても問題となりえますが、今回は省略します。
上訴の利益の判断方法
まず、上訴の利益といえば形式的不服説を採用した最判昭和31年4月3日判決が有名ですね。同説は、上訴の利益の有無については、「原審における当事者の申立てと原裁判の主文とを対比させ、後者が前者よりも質的または量的に小さい場合には上訴の利益があるとする」と説きます(民訴法判例百選110事件 230頁より引用)。
ここでいう「申立ての内容」とは、原告にとっては請求の趣旨・被告にとっては答弁書の内容を意味します。(なお、「申立ての内容より判決の方が有利ならば上訴の利益は認められない」という書き方は絶対にしないよう気を付けてください。一見、問題がなさそうに見えるかもしれませんが、そもそも申立て内容より有利な判決は処分権主義違反が問題となってしまいます。)
では、被告による答弁書の提出がないー当事者の申立てが無いー本件ではどのように判断すればいいのでしょうか。
基本原理に戻る
未知の論点への対応の一つとして、基本原理を頼りに、ゼロから規範を定立する場合があります。民訴法はこのような「基本原理に戻る」ことの必要性が特に問われる科目といえますので、この手法で本問を検討してみます。
そもそも、上訴の利益とは、原判決により不利益を受けた者に対して、再度の救済の必要性の有無を判断するためにある要件です。そして、自らの責任で審判対象を設定し全部勝訴したり、又はその設定を放棄して敗訴した者に対しては、上訴での救済の必要性は無いといえないでしょうか。だとすれば、当事者の申立てが無いー答弁書を提出しなかった場合は、不提出につき自己責任を問い得ない者ーすなわち、不提出に正当な理由がある者に限り、上訴の利益を認めればよいのではないでしょうか。
本件では、被告が答弁書を提出できないことにつき正当な理由があるというのですから、被告に上訴の利益が認められます。
結びにかえて
いかがだったでしょうか。例題に対する上記解答は当然ですが唯一解ではないので、みなさんも自分で考えてみてください。
また、繰り返しになりますが、すぐに論点に飛びついてしまい条文や基本原理から思考を積み重ねて論点を導くクセがない人は、気を付けてください。