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30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

令和元年度重要判例解説ランキング(刑事系・知的財産法)

令和元年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)

令和元年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)

  • 発売日: 2020/04/09
  • メディア: ムック
 

 「勝手に重判ランキング」、最後の記事です。重要判例解説、ぜひ読もうね~という提灯記事については、下記もご参照下さい。

ランクの意味付けについては、こちら。

  • 出題可能性&学習上の有用性(解説含む)を総合判断
  • A=必読。次回百選に掲載される判例。
  • B+=読んでおきたい。主要な基本書で言及されそうな判例。
  • B=可能であれば読んでおくと安心。
  • C=暇があれば読んでおきたい。暇はないと思いますが。

刑法

  1. 特殊詐欺の「受け子」の詐欺罪の故意・共謀 B
    → 新しい法理を示した判例ではありませんので、筆者としてはそんなに重要じゃないかなぁ…と思います。法理判例と違って、その規範の射程問題が出題される、というものではないので。が、詐欺罪の故意のあてはめのやり方を学ぶ、事例判例として一応読んでおくべきだと思います。間接事実からの合理的な推認、という意味では刑訴法の問題としても重要です。パッと問題は思いつきませんが、犯行計画メモの伝聞証拠該当性などの論点に絡めることができそうです。

  2. スーツケースに隠匿された物が金塊であるという認識と覚せい剤営利目的輸入罪の故意 C
  3. 違法薬物を所持した犯人が逃走を図ったと警察官に誤信させる等した行為と偽計業務妨害罪 B
    → 重要論点の問題ですが、特に新しい考え方や参考になるあてはめを示したものではありません。が、伊藤先生の判例解説・学説整理が読みやすく勉強になるので、解説だけでも読んでおくと良いと思います。特に、犯人隠避罪や証拠偽造罪とのすみ分けの部分は必読です。

  4. 解放後の被害者の能動的行動に向けられた暴行・脅迫と強盗罪 B+
    → 重要論点の問題につき、「被害者が解放後に行う能動的行動に向けられたものとしての暴行、脅迫…は(中略)、犯行現場で直ちに財物の交付を求める場合より、強度な暴行、脅迫でなければならない」という一定の法理を示しており、重要な判例です。
     もっとも、「社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度」という(最高裁判例の)客観的基準の枠組みから出るものではなく、また、「能動的行動に向けられた暴行・脅迫」という論点は付加的なものですから、配点が高いとも思えません。そうすると、読んでおけば加点事由になるかな、という位のように思います。

  5. 不法残留者とその前から同居して生計を共にしていた者に対する幇助罪 B+
    → 「不法残留幇助罪」と聞くと、「あ、司法試験と関係無いかな」と思ってしまいがちですが、隠れた重要判例です。不法残留は(あまり)関係が無く、メインの論点は、幇助犯の可罰性です。因果的共犯論全盛の時代ですから、「犯罪結果発生に(正犯を介して)因果的に寄与した」=少なくとも幇助犯!と考えがちです。しかし、Winny事件を筆頭に、いざ「その結果妥当?」「ホントに可罰性ある?」「幇助犯成立を回避するにはどんな理屈がとり得る?」となると、幇助犯成立の線引きと理屈に迷う人続出なのではないでしょうか。≒ってことは、司法試験に出るね!というやつです。
     本判決は、Winny事件(いわゆる中立的行為論)とは異なり、行為の反復継続性・日常行為性ともいう理屈で幇助犯成立を回避しました。大変勉強になるので、ぜひ読んでみて下さい。

  6. タトゥー施術業医師法違反事件 C
    → 憲法8の判例です。憲法判例としては重要です(下記記事参照)。

  7. 虚偽のデータを提供し、内容虚偽の論文を作成させた行為等についての旧薬事法66条1項違反 C

刑事訴訟法

  1. マンション内のゴミステーションに捨てられ、清掃会社に回収されたごみの任意提出・領置 A
    → 
    ①被疑者がマンション各階に設けられたゴミステーションにごみを出す、②警察・マンション管理会社・委託を受けた清掃会社が3者で被疑者のごみを回収・領置する打ち合わせ、③被疑者の階に出されたごみのうち、被疑者のごみ4袋だけ、清掃会社が別容器にて回収、④清掃会社より同ごみの任意提出を受けて、領置… という事件です。
     「ごみの領置」は最決平成20年4月15日()という著名判例があり、平成22年に出題もされた重要論点です。平成22年の問題では、A:公道上のゴミ捨て場の場合、B:施錠されていないマンション敷地内のゴミ捨て場の場合、という2パターンが出題されました。本件は、C:マンション敷地内のゴミ捨て場、だけど清掃会社に回収された後、管理権者から任意提出・領置されたよ、というものであり、プライバシーに対する合理的期待&管理権の観点からすると、平成20年最判と同様にハイ適法といえるかどうか、微妙な事案です。著名判例+事実がちょっと違うから判例の射程が及ぶかな、という司法試験委員会が大好きなアレです。
     本件は事例判決であり、高裁判決ではありますが、司法試験に出題し易い判例、ということでAランクとしてみました。

  2. 併合罪関係にある被疑事実に関する捜査の同時処理義務 B
    → これまた重要論点ですが、最高裁は「同時処理義務を認めた点は是認できない」としたのみで、同時処理を肯定/否定するのか、どういった理由付けなのか詳細は不明ー法理判例ではありません。読んでおくと安心かな、というレベルです。

  3. 接見等禁止の当否の判断方法 B
  4. 保護室に収容中の未決拘禁者と弁護人等の接見交通権 C
  5. 被告人と接見中の弁護人によるDVD音声の再生 C
    → いずれも実務上重要っぽいですが、短答知識に留まりますかね。

  6. 交通反則告知書の受領拒否と公訴提起の効力 C
    → 行政法4の判例です。

  7. 再審開始決定の証拠の明白性(刑訴法435条6号) C

知的財産法

  1. 医薬用途発明の進歩性判断における「予測できない顕著な効果」 B
    → 実務上も、学説上も面白い論点です。もっとも、最高裁として法理を示したわけではないこと(本件では予測できない顕著性を直ちに否定できない、としたのみ)、この論点を出題するには、相当な分量の事実を記載しなければならないこと(司法試験・知的財産法はそんなに事実の記載が多くない)から、出題可能性は低いように思います。

  2. 補正で追加された構成要件と、均等の第5要件 A
    → 構成要件を追加する減縮補正が、均等の第5要件ー包袋禁反言・意識的除外に当たるかが争われた事例です。
     この論点には広義説(コンプリート・バー)と狭義説(フレキシブル・バー)との対立があり、(普通に考えれば…)後者が有力です。最高裁判例は未だありませんが、本判決は狭義説をとった、というところがまず重要です。
     次に、本判決は補正で追加された構成要件E「…(中略)係合部が設けられている」の「係合部」に、係合を目的とした独立した部材(メインの構造部とは別の部材)が含まれるかが問題となった事案です。被疑侵害物件は係合部を独立した部材としていた訳です。本判決(東京地裁)は、係合部=独立した部材は含まない→文言侵害は成立しない→しかし、意識的除外したわけではない=均等侵害は成立する、という構成でした。これに対して控訴審(知財高裁)は、係合部=独立した部材をも含む→文言侵害が成立、としました。結論は侵害成立ですが、(重判の前田先生解説が指摘する通り)知財高裁の方が論理はスッキリしています。
     クレーム解釈による文言侵害と均等論の使い分けは実務的な問題ですが、均等論の理解が深まること間違いなしですので、そういった意味でもぜひ読んで欲しい(脳内シミュレーションして欲しい)判決です。最高裁判例ではありませんが、学習上の有用性に鑑みてAとしました。

  3. 特許法102条2項・3項に基づく損害額 B+
    → 実務上も、学説上も、最重要といって過言ではない論点の一つー特許法102条に基づく損害額の算定につき、一定の解釈を示した法理判例です。もっとも、内容的には、102条2項の法的性質=逸失利益の推定規定、2項の「利益」=限界利益(粗利益)、2項による推定の覆滅=可能、102条3項による算定方法=通常の実施料額より高額となることもあり得る、というもので、要するに従来の通説&下級審裁判例の多数の確認です。受験生の手持ちの論証パターンが変わる、というものではなく、「読んでないと差がつく」という訳でもありませんので、B+ランクとしてみました。

  4. 未公表番組の放送と、著作権法41条該当性 B
    → ASKA事件でございます。①警視庁、ASKAさんを覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針を発表→②ASKAさん作曲の未公表楽曲をテレビ局が放送→③公衆送信権侵害&公表権侵害の請求原因→④時事の事件の報道(著作権法41条)の抗弁、という流れです。このように、キャッチーな事件が多くて面白いところも、知的財産法の魅力の一つですね(笑)。
     本判例は事例判決ですが、41条該当性については、判例集や教科書にもたくさん掲載されている訳ではないので、(あてはめ例の一つとして)一応読んでおくと安心です。もっとも、41条該当性を否定したあてはめは(重判の記載だけでは)良く分からん、というのが素直なところであり、掲載方法によって41条該当性判断が分かれたバーンズコレクション事件判決などの方がより重要だと思います。

  5. バッグデザインの商品等表示性、及び著作物性 B+
    → BAOBAO ISSEY MIYAKEのおしゃれなバッグの類似品に対する差止め請求です。商品イメージを見てもらった方が早いと思います。

      要するに、この「(タイルのような)硬質な質感を有する」「相当多数の三角形のピースを」「タイルの目地のように…敷き詰めるように配置する」というデザインが、(著作権法だけでなく)知的財産法上、いかなる保護を受けられるのか、というのが争点です。
     司法試験との関係では、いわゆる応用美術の著作物性(著作権法2条1項1号)、という論点となる訳ですが、この条文しか知らないと、やたらめったら著作物性を認めよう、というあてはめとなりがちです。※筆者はこれを、「保護しなきゃ症候群」と呼んでいる。 しかしながら、著作権法判例を一程度勉強したフツーの感性の持ち主からすると、このバッグに著作物性を認めるのはやや無理があります。
      本判決は、結論として著作物性は認めず、類似の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に当たるとして、請求を一部認容しました。
     知的財産法には、特許法・実用新案法・意匠法・著作権法等の創作法だけでなく、商標法・不競法(の一部)のような標識法もあります。知的財産法の学習においては、まさに本判決のように、「知的財産法体系の全体を使って問題を解決する」という視点が非常に重要です。このような視点があって初めて、バランスのとれた解釈ができる、という構造があるからです。
     本判決は、商品等表示性や著作物性につき、新たな解釈を示したものではありませんが、あてはめが分かりやすいこと、及び「知的財産法全体を使った解決」という重要な視点を学べるため、ぜひ読んで欲しいと思います。
     なお、このような「知的財産法全体」を一覧できる書籍としては、特許法、著作権法だけでなく、意匠法、商標法、不競法も扱っている下記書籍がおススメです。

    知的財産法 LEGAL QUEST

    知的財産法 LEGAL QUEST

     

     

  6. (平成27年改正前)不競法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」B
    → 実務上とても重要な最高裁判例ですが、司法試験からは(上記5判例以上に)遠くなりますので、Bランクとしておきました。

まとめ

 刑法、刑訴法は不作でした。知財法は(毎年そうですが)今年も面白判例相次ぐ!ですね。全体を通してみると、出題されてもおかしくない!のは

  • 憲法8 タトゥー施術業医師法違反事件
  • 憲法9 要指導医薬品対面販売規制の合憲性
  • 民法4 所有権留保がされた動産に対する集合動産譲渡担保権の成否
  • 商法3 大規模買付の対応方針廃止の株主提案の適法性
  • 商法5 TOB後の特別支配株主による株式売渡請求(179条1項)と売買価格
  • 民訴法1 前訴で貸金契約の成立を主張した被告が貸金返還請求にかかる後訴で同契約の成立を否認できるか
  • 刑法4 解放後の被害者の能動的行動に向けられた暴行・脅迫と強盗罪
  • 刑訴法1 マンション内のゴミステーションに捨てられ、清掃会社に回収されたごみの任意提出・領置
  • 知財法2 補正で追加された構成要件と、均等の第5要件
  • 知財法3 特許法102条2項・3項に基づく損害額

 というところでしょうか。こう見ると、それなりにありますね。「重判!?そんなに手を広げてる暇ないよ!」というご意見もよくわかるところですが、「広げて」→「まとめる」を意識して、重判を学習(というより、論証集の改訂)に取り込むことをおススメします。下記記事もご参照下さい。