だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

論証パターンの暗記法1(暗記の対象)

 こんにちは、たすまるです。「暗記」は、私が最も嫌いな熟語の一つです。記憶なんてコンピューターにやらせろ!人間は思考するのが仕事じゃ!それさえAIに奪われかけてるのにー。てな感じで、暗記という概念ごとこの世から消滅させたい級に嫌いです。「暗譜」は好きなんですけどね。不思議だ。

 もっとも、暗記は司法試験にとって必要のようです。このブログのコメント欄でも、「どうやって暗記しましたか?」的なご質問がありました。という訳で、今日は司法試験に有用な暗記法について検討したいと思います。

暗記の必要性

理解≠暗記

 司法試験あるあるとして、こんなのがあります。

A:司法試験受かったの?
B:うん
A:すごーい!あんな分厚い六法全書?暗記したんだ!
B:(面倒くさいので)うん

 世の中からはこんな誤解を受けている気がしますが、司法試験は出血大サービスで「六法は見てもいいよ」となっているので、条文そのものは暗記する必要がありません。じゃあなんで(一定の)暗記が必要なんでしょうか。

 一つの答えとしては、条文に書かれていない解釈は覚える必要がある、というものです。例えば、民訴法の条文には(確か)一行も訴訟物、って言葉が出てこないけどね、114条1項の「主文に包含するもの」ってのは訴訟物たる権利をいうらしいよ、というやつなど。

 でもちょっと待てよ。これは、単なる「理解」なんじゃないのか。なんか、そういうモンらしいよ、とわかってるだけじゃダメなのか?暗記ー条件反射レベルまで引き上げる必要あるのか?試験の現場で、「民事訴訟法って私的紛争の法的解決のためにあるんだよなー。そして争いの対象は権利義務だよなー。じゃあ既判力で確定させるのは、原則としては、権利義務だよなー。」でも良いのでは?という気にもなります。

 そして、筆者の考えとしては、これで良いと思います(!)だいたい正しそうな答案が、なんとなく書ければ、それで良いんじゃない?暗記不要論再登場です。

正確性の問題

 しかし、そうは問屋が卸しません。卸してくれない一つ目の理由が、正確性です。司法試験で書かなければならない答案は「法的三段論法」なる形式で書いてね、よろしく。ということになっています(下記記事参照)。

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 このうち、小前提ー数学で言うと数字、法学で言うと具体的事実は、問題文として書いてあるので、暗記の必要は全くありません。結論は、自分で考えるものなので、暗記しようがありません。 という訳で、暗記の対象は、大前提ー法規範(とその周辺)です。規範ですよ規範。数学で言えば公式、英語で言えばformula。これが「だいたい正しそう」で良い訳がありません。三角形の公式を底辺×高さ×2、と覚えていたら試験は悲惨なことになります。という訳で、覚える対象は規範である、よって正確に暗記しなければならない、というようなテーゼがあるように思います(以下、正確性テーゼという)。暗記の必要性を裏付ける積極的根拠です。

 もっとも、この「覚える対象は規範」「正確な暗記」については、後ほど、「本当にそうか?」と検討した上で、有力な反対説(たすまる説)を紹介したいと思います。

時間の問題

 次に、限られた試験時間の中で、どのように自分の思考を表現するか、という時間の問題があります。要するに、試験時間が短いわけです。「そもそも、憲法って何だっけ。ルソーは何て言ってたっけ」から始まると、ペンをとるころに試験時間が終わる。これはマズい。よし、暗記でカバーできる部分は、条件反射的に書いていくことで時間を短縮しよう、というようなテーゼ(以下、時短テーゼという)もまた存在します。いわば暗記の消極的根拠ですかね。

 これについては、筆者は特に反論は無いのですが、「無関係な論パを貼り付けないで下さい」「個性の全く無い答案は読んでて辛いです」という、採点側からの苦情がもう何十年も寄せられているところです。この弊害についても、後々検討します。

 以上、まとめると、(一般的には)①正確な規範を、②素早く導出するために、暗記が必要とされている、ということなのだと思います。

暗記の対象論

 さて、暗記はそれなりに必要だ、ということがわかった上で、次は「何を覚えるのか?」という暗記の対象〔What〕について検討します。暗記の対象が精確に把握できなければ、暗記の方法〔How〕も立てようがありません。

 まず、前述の通り、通説的な見解は、とにかく正確な規範を覚えよう、というものです。規範≒公式ですからね。しかし、これに対しては、いくつかの疑問があります。

1. 単純あてはめ問題は出ているのか?

 そもそも、規範に、事実をあてはめて、結論を得る、というシンプルな問題が出題されているのか?出題されているとして、配点が高いのか?という点が第一の疑問です。数学で言えば、「底辺4cm、高さ3cmの二等辺三角形の面積を求めなさい」というような、公式代入型の問題です。以下、この様な出題を「単純あてはめ問題」と呼んでおきます。これがたくさん出題され、配点も高いのであれば、規範は正確であればあるほど良く、覚える数も多ければ多いほど良いじゃないか、という話になります。

 しかし!司法試験の過去問を紐解いても、「本件のYは民法177条の第三者にあたるか?」みたいな「単純あてはめ問題」にはまずお目にかかることはできません。運よく出てきても、配点は高くありません。司法試験は純粋な暗記力(理解力と記憶力)だけを測る試験ではないからです。

射程問題への対応ー理由付け重視

 ではどんな問題が出題されるか、と言いますと、「射程問題」-そもそも判例等の規範の射程が及ぶか、規範が何かしら変容するかーを問う問題が一例として挙げられます。私が受けた、平成30年司法試験民法でも、まさに最判平成6年2月8日(物権的請求の相手方)という百選判例の射程を問う問題が出ました(下記記事参照)。

 このように、「そもそも、この問題文の事実に、判例(規範)の射程って及びますか?」という問題が出題された場合、「規範を正確に覚えて来ました!」だけではまるで歯が立ちません。数学で言えば、「そもそも本件の図形に、三角形の公式は使えますか?」と聞かれているからです。

 前提とする事実が異なるのに、直ちに判例が妥当する!とするか、事実が異なるから判例は妥当しない!という白黒型答案になってしまいます。これに対して、理由A、理由B、理由Cから判例は〇〇と判断したーという風に覚えておくと、「本件では、理由A、理由Bは妥当するものの、理由Cは妥当しない。よって、△△と判断すべきだ」というより深い検討ーこれこそ司法試験委員会の求めるものーをすることができます。

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 このように、「単純あてはめ問題」ではなく「射程問題」にも備える、という観点からすれば、暗記対象は「規範」だけでなく「理由付け」も含まれるのではないか、むしろ「理由付け」の方こそしっかり暗記しておくべきではないか、という仮説が生まれます。

2. 何をもって「正確」とするか?

 次に、こちらはより重要な問題なのですが、正確な規範って言うけれど、一体全体そこでいう「正確性」って何なのか、という問題があります。例えば、上述の三角形の面積の公式ー底辺×高さ÷2は、文字通り、一字一句正確に暗記しなければなりません。底辺と高さは反対になっても大丈夫ですが。

 英語だと、少し事情が異なります。買収、という単語はAcquisitionですが、これを誤ってAcquissionと覚えていても、大学受験対策としては、大過無いのではないでしょうか。Acquisitionという単語が出てくる出題は、ほとんどが長文読解の形式だと想定できます。そうすると、単語の意味は読み取れなければなりませんが、Acquisitionと正確に書けることは必ずしも求められない可能性が高いからです。

 この様に、暗記の正確さとは、あくまで試験との関係で相対的に決まるものです。それでは、司法試験で求められている正確さとは、いったいどの様なものでしょうか。

規範の暗記ー文言より意味内容

 まず、暗記の対象として最も一般的な、「規範」-条文の解釈で導き出される要件ーについて、どの程度の正確さが必要なのかをみてみます。例として、下記記事で扱った、処分性の要件をとりあげます。

  取消訴訟の対象となる「行政庁の処分…に当たる行為」(行訴法3条2項)につき、最判昭和39年10月29日は以下の通り判断し、これが今にいたるまでの判例ー覚えるべき規範となっています。

 行政庁の処分とは…(中略)公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう

 もちろん、これを一字一句正確に覚えることに越したことはありません。もっとも、うろ覚えの受験生が、試験の現場で「だいたい正しそうな」規範を書いたとします。以下のうち、どれが最も減点幅が大きいでしょうか。

 A: 行政庁の処分とは、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている行為をいう

 B: 行政庁の処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行政行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう

 C: 行政庁の処分とは、行政庁の行為のうち、①公権力性、及び②法的効果が認められるものをいう

 減点幅は、0点<A<B<C<100点だと思います。

 Aは最悪ですね。行為主体が抜けてしまっています。同時に要件としての公権力性も抜け落ちます。でも、この様に「規範の一部分をすっぽり忘れてしまう」ということに、遭遇したことはありませんか?なんでこんな事が起こるのか、原因は多々ありますが、筆者は、規範の文言を、そのまま覚えるー文言暗記ーによる弊害ではないかと考えています。ありとあらゆる規範には、その規範を導くための理由があります。なぜ、公権力性が必要となるのかー公定力&不可争力による一定の法的安定性が求められる行為だからだーという処分性にかかる基礎的な理解、理由付けをしっかり覚えていれば、「公権力の主体たる…」を忘れてしまうことなどあり得ないはずなのです。

 次に、Bもなかなか最悪です。「…が行う行政行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し…」の部分ですね。

 行政行為とは、行政の活動のうち、具体的場合に直接法効果をもってなす行政の権力的行為である(塩野宏著「行政法Ⅰ〔第6版・有斐閣〕」124頁)

 すなわち、行政行為とは、公権力性+法的効果を持った行政庁の行為です。行政行為という用語の定義上、当然に公権力性+法的効果がついてくるので、「行政行為とは、直接国民の権利義務を形成し…」等と書いてしまうと、凄まじいトートロジー勃発で、「人間とは、人間である」と書くのと大差ありません。たった2文字「行政」と入れてしまうだけで、「こいつ、行政法を全然わかってないな」という印象を植え付けてしまう訳です。なお、正確には、救済法上の処分性概念の方が、行政法総論上の行政行為よりやや広いですが。

 最後に、Cはほとんど減点が無い、というよりほとんどの採点者は全く減点しないはずです。確かに、昭和39年定式の文面とは全く異なりますが、意味内容は全く正確だからです。下記記事で述べた通り、③直接性、④外部性、⑤個別具体性が必要なのであれば、別個要件を出せば済む話です。

 以上の「処分性の規範」という一例から得た示唆を全ての科目、勉強法に展開するのはやや強引かもしれません。しかし、私が添削・採点した答案の中には、A(規範の一部分すっ飛ばしによる大間違い)、B(わずかな文面上の誤りによる、意味内容の大間違い)が数多くありました。私が思うのは、一所懸命、文言を暗記しようとしてA・Bで大幅減点を食らうくらいなら、規範は意味内容が変わらない大体の文言で覚えておきーむしろ理由付けを正確に覚えた方がリスクが少ないのではないか、ということです。

 

いったんまとめ・例外

 以上の「暗記の対象論」を喧々諤々やっていたら、あっという間に自主規制値5000文字達してしまいました。従いまして、「暗記の方法論」は次回に回します…すみません。いったんまとめますと、筆者の考える暗記の対象とは、

✖規範そのもの ではなく 〇規範の理由付け

✖規範の正確な文言 ではなく 〇規範の正確な意味内容

です。スローガン的にいうと、「理由付けは正確に、規範は意味が間違ってなければOK」です。一般的な考え方とはかなり異なる危険な考え方なので、避難ごうごうかもしれません。良い子は真似しないで下さい!

 もう一つ、以上の暗記の対象論には重要な例外がありまして、

定義(特に民訴)とされるものは、〇文言そのものの正確な暗記

をしましょうね、というものがあります。規範と定義って何が違うの?という疑問があるかと思います。詳細は国語辞典を引いてもらうしかありませんが、簡単に言うと、規範=あてはめの対象となる公式、定義=あてはめの対象とはならず、公式を作る前提となる記号、みたいなもんでしょうか。

 底辺×高さ÷2が公式、規範だとすると、「×」とか「÷」とかが定義です。sin,cos,tanとか。こういった記号までを「だいたい正しそうな」とかいって曖昧にされちゃうと、公式自体が崩壊するー法学で言うと、立論自体ができなくなるーので、それはNGですよ、ということです。