だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

令和元年司法試験・刑法と、ひとりで学ぶ刑法

ひとりで学ぶ刑法

ひとりで学ぶ刑法

  • 作者: 安田拓人,島田聡一郎,和田俊憲
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★★ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★☆☆☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★☆☆

・ひとことで言うと「刑法の新傾向にフィットする副読本」

 こんにちは、たすまるです。今日は刑法の少し変わった演習書、というより副読本を紹介したいのですが、その内容・使い方を説明するには、令和元年の司法試験(刑法)を参照するのがピッタリ、と思いましたので、まずはそちらから。

令和元年の司法試験問題は理論的問題?

 さて、下記記事で触れた刑訴法だけでなく、刑法も平成30年から「学説化・理論化」が進んでるぞ、という脅し文句が巷間囁かれております。が、ひねくれた筆者としては、「理論的になったってどういうことだろう?」と思うわけです。

刑法の問題で問われている「理論」

 確かに、平成29年度までの「処理ゲー」的問題ーベルトコンベヤに載っているかのように、構成要件が押し寄せて、とにかく上手にあてはめていくことが求められる問題ーとは明らかに傾向は違います。なんてったって、令和元年度の刑法設問3については、

どのような理論上の説明が考えられるか(令和元年司法試験刑事系第2問より引用)

 と、ご丁寧にも「理論上の説明」を求めています。もっとも、試験対策を考える受験生としては、そこで論述が求められている「理論」ってそもそも何なのか、立ち止まって考えてみる必要があります。

A・対立理論型問題

 まず、端的に言うと、「色んな見解/学説あるの、知ってますか?」という問題があります。これこそ、受験生が「理論的な問題」と聞いてまず頭に浮かべるヤツですね。例えば、令和元年度の刑法設問2では、

〔設問2〕…①乙に事後強盗の罪の限度で共同正犯が成立するとの立場からは、どのような説明が考えらえるか。
②乙に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場からは、どのような説明が考えられるか。(同)

 と、異なる「立場」の知識があることが前提とされています。敷衍しますと、「乙が、ナイフを示して、ぶっ殺すぞ等と言った」という同一の行為に対して、異なる学説(判例)から、異なる結論に至ることが求められているわけです。これを、対立理論型問題、と名付けておきます。

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「理論」=複数の学説や判例

 この出題に対応するには、前記の通り、まさに理論的対立ー複数の学説を押さえておかなければならないわけです。つまり、このA型で問われる「理論」とは、複数の「学説」や「判例」、ということになります。

 もっとも、通説に立とうが、反対説に立とうが、行為無価値だろうが、結果無価値だろうが、「犯罪って、構成要件に該当する、違法かつ有責な行為だよね」というフレームについては、最低限の共通理解があります。各要素の理解は全然異なってきますが。

 また、論証パターン作成には理由付けが必要な訳ですが(下記記事を参照)、

 理由付けを学ぶ過程では、消極的根拠として、一定の反対説を学ばなければなりません。令和元年の刑法設問2で問われている、①事後強盗罪についての身分犯説 vs 結合犯説、②身分犯説に立った場合の65条の理解、③結合犯説に立った場合の承継的共同正犯肯定説 vs 否定説 vs 部分的肯定説については、まさにこの一定の反対説の理解だと思います。基本刑法にも数行にわたり紹介されているわけですし。

 従って、設問2については、本来であれば、格別の対策は不要と考えます。もっとも、より細かい基本書・文献で検討されている③は勉強する必要があるの?等々、「反対説ってどのくらい勉強すればいいの?」は受験生にとっては重要な疑問点だと思いますので、これは別の機会に記事にしたいと思います。

同一結論型問題

 これに対して、設問3では、異なる結論に至ることは求められていません。むしろ設問3では、同一の行為に対して、異なる理論構成から、同一の結論に至ることが求められています。つまり、理論的な問題だとしても、設問2で問われている理論とは毛色が違うわけですね。この出題パターンは、さらに2つに分かれると考えられます。

A'・並列理論型問題

 1つ目は、同一の結論に至るために、異なる学説等から、同一の結論に至るパターンのものです。ありていにいうと、「違う学説だけど、同じ結論になるよね」というヤツです。これを名付けると、「対立」ではないから並列理論型問題、とでも言えましょうか。このパターンは複数の学説についての知識が求められますから、結局のところ、A・対立理論型問題に含まれるといえます。つまり、対策も同じー複数の学説を勉強する、ということです。

 

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 そして、令和元年の設問3は、この並列理論型問題ではありません。つまり、複数の学説を押さえておく必要があるタイプの問題では無いように思うわけです。

〔設問3〕…丙がDの傷害結果に関する刑事責任を負わないとするには,
どのような理論上の説明が考えられるか、各々の説明の難点はどこかについて、論じなさい。(同)

 まず、設問2のような「立場」や、「見解」といった語ー反対説の存在を含意する語ーが使われていません。次に、「理論上の説明」とあり、必ずしも複数の学説を登場させることを求めているわけではありません。最後に、「難点」とあり、これも「反論」や「批判」といった学説対立を前提とした語ではありません。

B・垂直理論型問題

 では、設問3は「理論上の説明」といっても、どんな「理論」を求めているのでしょうか。これについては、①既に巷に丁寧な解説があふれています。また、②そんなに難易度の高い問題では無いので、デキる先輩などに解説を頼めば、わかりやすく解説してくれるはず。ということで大幅に説明を割愛しますが、要するに、こういうことです。

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 左(青)が行為無価値説の中でも通説的な見解、右(黄)が故意/過失は純粋な責任要素とみる結果無価値説です。いずれの説からも同一の結論ー丙の罪責を否定できる、という意味ではA'・並列理論型問題と同様です。しかし、上記のとおり、設問3は複数の学説を登場させることを(少なくとも正面からは)求めていません。では何を求めているのでしょうか。

単一の学説からの複数の理論構成

 設問3の様な問題が出題された場合、百選判例(大阪高判平成14年9月4日)の理論構成ー誤想防衛の一類型としての、責任故意の否定ーだけ書いておけば良いや、という暗記型の学習では困ってしまいます。なぜなら、その「難点」に触れなければならないからです。

 同判決の理論構成に対する批判としては、丙は第三者Dから急迫不正の侵害を受けているという誤想は無いはずだ、というもの等があります。また、誤想防衛を認めたとしても、構成要件的故意がまた認められてしまうはずだ、といういわゆるブーメラン現象に対する回答も用意しておかなければなりません。

 また、(当然ですが)緊急避難も検討する必要があります。構成要件の段階で、故意/過失の対象を限定するー甲とDは構成要件的に同価値ではないーと理論構成したり、具体的法定付合説をとったり、と様々な工夫をすることも考えられます。なお、構成要件的同価値うんぬんは、前掲大阪高判でも触れられた理論構成です。加えて、故意が否定されたとしても、過失はどーすんの、という問題まで待っています。

「理論」=自説の構成と基礎理論

 このように、 設問3は、①故意/過失の対象を限定することによる、構成要件的故意/過失の否定、②緊急避難の解釈、③誤想防衛の一類型とすることによる責任故意の否定など、単一の学説であっても、複数の理論構成をとることで、同一の結論を得ることの検討を求めています。いわば垂直理論型問題、と言えるでしょうか。

 このB型で問われる「理論」とは、自説ー単一の学説がいかなる理論構成で成り立っているのか、その精確な理解です。また、その前提として、構成要件ー違法性ー責任、という刑法の基礎的な理解もしっかりとしている必要があります。

 もちろん、上記の通り、「難点」の中にはその理論の抱える内在的な問題だけでなく、他説からの批判も含まれています。その限りでは、B型でも複数の学説を知っている必要はあります。そういった意味ではA型とB型との違いは、白黒ではなくグラデーションー程度問題ではあります。

 もっとも、司法試験委員会が敢えて「難点」という語を用いたことに鑑みれば、やはり、その主旨は、自説というピラミッドの理論構成をしっかりと理解しているー内在的な矛盾、問題点も把握しているーということなのではないかと思います。

 そして、後述の通り、対立・並列理論型問題〔設問2〕よりも、垂直理論型問題〔設問3〕の方が、受験生にとっては手強いと筆者は考えています。本書はこの垂直理論型問題にフィットする、という点が最大の特徴です。

ひとりで学ぶ刑法の内容

基礎理論に対する精確な理解

 本書は、問題&解説で成り立っているので、一応、演習書です。もっとも、新司法試験類似の長い事実を扱う問題は、「Stage3」と名付けられたラスト40頁のみで、「Stage1」「Stage2」の360頁余は、旧司法試験よりもさらに抽象的な設題となっています。

 なんせ、第1問(故・島田聡一郎先生の遺稿)のタイトルは「犯罪論体系」で、

「犯罪は①構成要件に該当する②違法かつ③有責な④行為」だといわれる。これらの④つの概念は、論者によって異なる意味で用いられているが、なぜそのような相違が生まれるのか、またそうした相違にどのような意味があるかを考えよ…(本書3頁より引用)

 というものです。もう、これを見ただけでアレルギー反応が出る人もいるでしょう。しかし、このような基礎から考え始めて、「理論」≒自説のピラミッドの構造をしっかりと理解しておき、様々な法律構成を紡ぎ出せることが、現在の司法試験委員会の求める刑法の理解の一端です。

 山口先生、井田先生を始めとする各種の体系書、基本書は基礎理論からしっかりと丁寧に解説くださっています。もっとも、(例えば)なぜ行為無価値か、そもそも行為とは何か、といった基礎の基礎は、基本書等の冒頭~前半で述べられているため、難しすぎてーというより意味不明で、読み飛ばしてしまった人が多かったのではないでしょうか。しかし、だからこそ対立・並列理論型問題より、垂直理論型問題の方が(多くの受験生にとっては)難しいのです。

  にも関わらず、(筆者が触れた限りでは)対立・並列理論型問題と異なり、垂直理論型問題を取り扱った教材、特に演習書は非常に少ないように思います。本書は、

第1ステージは、抽象的で難解だとされる刑法の基本的な概念を自分なりの言葉で正しく理解していただくこと…を目標としており…とくに第1ステージでは、共著者3人のこれまでの研究・教育の成果すべてを投入し、幾つかの新機軸を打ち出している。(本書はしがきより引用)

 というはしがき通り、さりげなくスルーしてしまった基礎理論(そしてその上に築かれる自説のピラミッド)を、再度、精確に理解させるということがメインコンセプトです。換言すると、本書は、基礎的な内容を、じっくり掘り下げる本です。実際に、本書は基礎理論・通説判例のピラミッド構造の理解を徹底させるStage1がなんと230頁、約60%を占めています。

 この、ありそうでなかったコンセプトで書かれている、そのことこそが本書の最大の特徴であり、垂直理論型にフィットすると申し上げた所以です。

適切な問題意識

 次に、本書の美点として、「変な掘り下げ方はしない」という点があります。はしがきに、

理論的にも学習上も有益とは言えない争いに読者の皆さんがはまり込まないよう、そこで何が本当に問題とされているのかを明確に提示するよう努めている。(同)

 とあるように、精確な理解に不要な、枝葉末節の掘り下げ等は全くありません。

 先程の第1問についても、島田先生の解説は、「誤想防衛を素材として(行為無価値、結果無価値などの各体系による)故意の収納法を考えてみよう」というもので、まさに令和元年の設問3にピッタリの内容となっています。筆者の先生方(安田先生、故・島田先生、和田先生)が行為無価値論・結果無価値論のエース中のエース、ということもあり、本書で扱われている問題意識は「た、確かに今まで気にしていなかったけど、改めて問われると良くわかってないな…」というものばかりで、適切なものといえます。

わかりやすい?解説

 次に、本書ははしがきにある通り、新機軸のオンパレードで、解説も非常に面白い工夫が施されています。島田先生・和田先生による誤想過剰防衛(のバリエーション)に対する36条2項の適用・準用の可否の検討では、行為の犯罪性を、3つの変数による数式と、1~100の数値で表すことによる説明が試みられています。

 また、安田先生による、名義人の承諾がある場合でも「文書の性質等」を考慮して私文書偽造罪の成立を認めるかという問題や、具体的な処分意思がなくとも2項詐欺罪の成立を認めるかという問題は、いずれも当罰的な事案への対応の問題であるーという図を用いた説明も、これまで目にしたことのないものでした。

 以上2点を引用したい気持ちは山々なのですが、さすがに適法な引用の限度を超えると思いますので、気になった方はぜひ本屋さんや図書館で読んでみて下さい。

 これらの解説が端的にわかりやすい!とまで言えるかどうかはわかりません。もっとも、これまでいくら基本書を読んでも、演習書を解いても刑法の基礎理論が曖昧なままだったーという方にとっては、ドはまりする可能性もあるので、一読する価値があると思います。

ひとりで学ぶ刑法の使い方

万人にはオススメできない

 本書は、演習書というよりも、基礎理論の理解を精確にするための副読本、といった役割の強い書籍です。前述の通り、設問も、「すぐ書けるようになる」ための事例問題というよりは、深く考えさせる問題が多いです。解答例もついていませんし、設問に事実があまり含まれていない以上、あてはめに対する言及も多くはありません。

 また、とにかく精確に理解させるために、独特の説明方法を多用していますから、お世辞にも解説は「答案向きの書きやすい文章」ではありません。

 はしがきにある通り、筆者の先生方の希望としては、まさに初学者の方に読んで欲しい、というものだと思います。確かに、法学部4年間で、確実に司法試験に受かるんだ、という位のスケジュールで勉強を進めている方にとっては、学部1年生の時からこの本と一緒に勉強を進めることは現実的であり、かつ有益だと思います。

 が、純粋未修から3年間で合格する、兼業しつつ合格する、というようなスケジュールー短期速成ーで司法試験に挑む方にとっては、話は別です。まずもって「一応の水準の答案」が書けるというアウトプットーそしてアウトプットから自分の足りない部分を見つけ出していくというインプットが重要、というのが筆者の考えです。下記記事も参照して下さい。

 従って、そもそも刑法で「一応の水準の答案」が書けない初学者の方にとっては、本書はあまりオススメできません。また、あてはめが上手になりたい、答案に活かせる表現力を身につけたい、論パの参考となる文章を見つけたい、というアウトプット重視の勉強をすべき段階の方にも、あまりオススメできません。

垂直理論型問題に対応する(ほぼ)唯一の演習書

 それでも筆者がこの本の書評を書き、一部の人にはぜひ読んで欲しいと思う唯一?かつ最大の理由が、上記の通り、垂直理論型問題に正面から向き合った教材ー特に演習書が無い、ということです。

 初学者以上の方が、さりげなくスルーしてしまった基礎理論(そしてその上に築かれる自説のピラミッド)を、再度、精確に理解させる、という有りそうでなかった演習書である本書を一読、とは言わず二読くらいしておけば、設問3のような問題でドギマギすることは格段に減ると思います。上記の誤想防衛の例でもわかるように、出題のアタリ(どんな問題が出題されるか、という予想)がある程度つくようになりますし、自説のピラミッドがしっかりしてくるからです。

 来年度以降も、設問3のような垂直理論型問題が出題されることは、十分あり得ます。ちょっと対策してみるか、という方の副読本として、本書をオススメします。