だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

まとめノート(論証集)の作り方4(任意的事項)

※2020年1月5日 読者の恋責任の本質さんから大変良い質問コメントがありましたので、追記しました。

 まとめノートの作り方の第4弾は、コストがそこそこかかるので、パフォーマンスが高いと感じた方だけやってみてください、という任意的事項を紹介します。相変わらず、下記記事で紹介した「加算法」ー薄い論証集等に加筆・修正していくーことが前提です。

 もっとも、任意的事項とはいってもメインは、論証パターンの加筆・修正ですので、筆者の論証集≒まとめノートの具体例を紹介しつつ、どんな論パを加えるか、どう作るか、を検討するような記事になるかと思います。

1.論証パターンの補完

論パを使いこなすには

 さて、振り返りですが、そもそもまとめノートとは、「①基本書より情報が少なく、一覧しやすい。②論証集より情報が多く、全論点と、それを繋ぐ体系的知識を(ギリギリ)網羅している。」という絶妙なバランス(笑)の上に成立するノート、というもので、必ず作らなければならない類のものではありません。というより、筆者としては初学者~学習2年目まではむしろ作らないほうが学習スピードが向上すると思います。

 まとめノートを作らない場合、市販又は予備校の論証集そのものを武器に試験と戦うことになります。しかし、論証集に全く手を加えないせいで、論証集を使いこなせないー論証集の実力を発揮できない、というシチュエーションがあります。それが、(主として体系的知識が無いせいで)論証をいつ使えば良いかわからない、という場合です。このような事態を防ぐために、論証集に基本書の情報をまとめて追記しておくー論証を、いつ、どのように使えばよいかがわかるように、論証を補完することをオススメします。

表見代理の論証パターン

 筆者の民法のまとめノート(工藤北斗の合格論証集“民法”がベース)で具体的に説明します。同書では、表見代理の項で以下の論証パターンが掲載されています。

  1. 109条他の「第三者」の意義
  2. 110条の基本代理権の有無
  3. 110条の正当の理由
  4. 日常家事債務と代理/表見代理
  5. 表見代理の重畳適用
重畳適用はいつ使う?

 論点「数」としては、これで十分だと私は思います。というわけで、後述の「論証パの追加」はしませんでした。が、いざ答案を書く際に困りそうなことがあります。それが、①表見代理の重畳適用(5.)ってそもそも、どんな事実関係の時に使うんだっけ。という問題です。読者の皆さんも、この問題に即答できますか?

 実は、これについては、さすがの工藤先生が同論点の論パ冒頭に「事例1(109条&110条)」「事例2(110条&112条)」を掲載してくれていますので問題は解決です。論証集を読み込む際に同事例も同時に読んでいけば良いだけの話です。

109条と110条の関係

 しかし、問題はもう一点あります。それは、そもそも109条と110条ってどうやって使い分けるんだっけ。という問題です。「え?代理権授与表示と、代理権踰越(越権代理)でしょ」って、そんなことはみんな頭の中では抽象的に理解できています。しかし、

 Aはゴルフ場会員権をBに譲渡し、名義変更を行うために必要な委任状として白紙委任状をBに交付した。
 Bは、名義変更を行わず、会員権をCに転売した。
 Cは、前記白紙委任状にAの氏名等を記載して、Aの代理人として名義変更の手続をした。

 という事例で、Cが名義変更の有効性を主張するにはどのような法律構成ー条文の選択ーをするべきか。こちらも読者の皆さんは即答できますでしょうか。

 (一般的な)正解は、109条でも110条でもなく、99条、すなわち単なる有権代理です。ゴルフ場会員権は転輾譲渡が予定されている商品で、その売買に付随して交付される委任状もまた転輾が予定されており、それ故に委任者、受任者名を空欄にした白紙委任状が交付されます。わかりやすく言うと、売主(本件ではA)としては、「誰に転売してもいいよ。その際に(最終)買主が名義変更できるように、白紙の委任状つけておくね」と考えていることが通常だ、ということです。つまり、A→Cに代理権授与があるわけですね。従って、表見代理の問題にはなりません。

論証集の弊害

 この様に、いくら頑張って109条、110条の論パー論点的知識を暗記しても、そもそも使うシチュエーションを間違えれば論点外しどころか誤読の烙印を押され、KY答案まっしぐらです。体系的な知識ー幹や枝が頭に入っていなければ、論点の論証ー果実を展開することはできません(下記記事も参照)。これが、論証丸暗記の代表的な弊害だと考えられます。

体系的知識の補完

 というわけで、こんな残念な事態を防ぐためには、表見代理規定ー特に109条、110条の基本的な知識、具体的な適用場面をサラッとまとめておくべきです。どこにそんな情報があるの?ー基本書です。どうやってまとめるの?ーまとめノートの読者は自分ですから、自分が秒速で把握できる内容、形式が良いです。

 いずれにせよ、重要なのは、「情報をまとめる」趣旨・目的です。下記の過去記事で申し上げたように、漫然と全知識をメモしていくことは「まとめる」とは言いません。学習時間が限られている受験生にとっては、できる限り論証集がそのまま使えればそれにこしたことはない訳であって、「情報をまとめる」のであれば、①何のために、②何を記載しておくのかを明確にしておきましょう。

 とりいそぎ、筆者の具体例を挙げておきます。先程の、①109条・110条、重畳適用等の使い分けのための②最低限の情報を記載したフロー図、ですね。私は、実線をYES、点線をNOとしてフロー図をよく作成してました。

 メインウエポンとしていた民法の基礎1 総則 第4版は代理法の部分が非常に手厚いため、同書を丁寧に読んで理解しておけば、これくらい簡潔にまとめても大丈夫、という訳です。

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2.論証パターンの追加

 上記、論証パターンの「補完」より優先順位が落ちますが、時には論証パターンを追加することも必要です。私もどんどん追加していくタイプでしたが、今振り返ってみるといくつかのカテゴリーに分類できるように思います。

百選による補充的追加

 まずオススメできるのが、「論証集から百選判例が漏れてたら、原則として追加する」というものです。百選というのは、単にオモシロ判例いっぱい載せてみました、という本ではなく、一応、当該法分野の体系的理解に資する判例が載せられているはずのものです。そうだとすると、百選を信頼するのであれば、まとめノートーギリギリの体系的理解をまとめたものーには百選判例は全て載っているのが基本です。「これはさすがにいらないだろ」というものを間引きしていく、という位がちょうど良いように思います。

民法の例

 上記の民法の論証集の右下にチラッと載っているのも、「無権利者による販売委託契約の追認」を扱った最高裁平成23年10月18日という百選判例です(最新版にも載っているかは調べてませんが)。まあ、無権代理の追認は条文あるけど、無権利者の売買契約を追認するとどうなるの、と聞かれて「!?!?」となると恥ずかしい&司法試験委員会の好きそうなちょっとヒネりだと思い、追加したものです。

刑訴法の例

 刑訴法のまとめノートを見返してみたら、令和元年司法試験・刑事訴訟法の問2もビシッと論証化されてました(ドヤっ)。これを見てわかるように、市販の論証集には結構な空きスペースがあります。というより、工藤北斗先生の論証集にはめっちゃ余白があります(笑)。ここを有効活用しないという手はありません。

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 これらの論証は慣れれば15分もあれば作れるものですが、それを何度も読み返す学習効果はなかなか大きなものがあります。という訳で、百選判例をペタペタ足していくのはなかなかオススメです。

学説による深掘り的追加

 次に、学説によりさらに深い問題意識に対応するーといった追加もあり得ます。特に刑事法では「理論的な問題が出る」「学説対立が出る」という方向に出題傾向が変わったと言われていますので、これをやる意義も結構でてきたかな、という感じです。まあ、筆者個人としては、一般的な基本書に記載されている内容からしか出題されないーという意味では出題傾向は何ら変わっていないと思うのですが。

 一応、筆者のノート例を挙げておきます。「甲乙が共同で正当防衛をした後、甲がさらに違法な追撃を行った場合」を扱った最高裁平成6年12月6日という百選判例についての論証です。

 これについては、甲の追撃が、①当初の共謀の射程(因果性の範囲)内かどうか、というフレームで処理することが考えられ、工藤北斗先生もそのように整理されています。が、さらに、②当初の共犯関係の解消(因果性の除去)というフレームでの処理も理論的には可能です。また、①②が否定されたとしても、③追撃前に新たな共謀が成立していれば、乙にも甲の追撃が帰責されます。そして、最高裁は理論的背景については何も語っておらず、あくまで「この事例だと新たな共謀が必要だね」と判断したにすぎません。

 …としますと、こんな問題が出てもおかしくありません。

  • 事案 甲乙が共同で正当防衛をした後、甲がさらに違法な追撃を行った
  • 設問1 乙の刑事責任を否定する法律構成を複数挙げなさい
  • 設問2 乙の刑事責任を肯定する法律構成を挙げなさい

 このように出題すれば、上記の①②③のフレームは全て登場させなければなりません。多分。という訳で筆者は、工藤北斗先生の②の論証と①の論証の間に、山口先生の基本書から③を追加してありました。

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 はっ。今みると、これまた令和元年司法試験・刑法の設問2も論証化されてますね(左上)。しかも窃盗の未遂・既遂で区別する橋爪説である(笑)。やっぱり準備が大切ですね。

 

3.論証パターンの修正

 さて、最後に論証パターンそのものを修正・短縮しちゃうというやつです。これにはいくつかの目的がありますね。

  1. 結局のところ、他人の文章より、自分で考えた文章の方がよく覚えられる。①考えるという過程があり、②そもそも自分の脳に馴染むはずであるから、等の理由による。
  2. 一般的に、市販の論証パターンは長すぎる。
  3. 市販の論証パターンの内容が間違っている。

論証パターンの正確性について

 まず、3.から行きます。が、これについては下記記事の【正確性】で述べた通りでして、厳密には間違っている論パもあるにはありますが、それを気にして全部直していく人≒他の勉強に手が回らず司法試験に突入して爆死する or 超余裕があるということなので、上位合格間違いなし のどちらかです。ということは、初学者レベルの方に司法試験対策をお伝えするぞ!という本ブログの趣旨からすると、「現実的じゃないのでそんなことやらなくて良いです」終わり。と考えます。

※2020年1月2日 追記した部分です

 … というのが一応の結論でしたが、読者の恋責任の本質さん(素晴らしいハンドルネームである…)から、論証集が間違っている、とは言わないまでも基本書と論証集の理由付けが異なっている場合にどーするのー等について大変良いご質問を戴いたので、他の読者の皆さんにも役立つと思い、追記します。

①基本書の理由付けの方が薄いぜ問題

質問は大きく分けて二つあります。
 ①論証集の中でも、特に論証集に記載されている理由付けについてなのですが、端的に言うと、その理由付け、本当に正しいの?という疑問が学習中よく起こります。
具体的に言うと、論点に対する規範は基本書で引用してあっても、その規範に至る理由付けが基本書に載ってない、これでは記述が正確かどうか分からないじゃないか、という困った事態がよく起こるのです。
 これは基本書が薄いゆえに起こることなのでしょうか。今の私のような症状に対する対処法はどのようなものが想定されるでしょうか。また、これからの学習において指針のようなものはございますでしょうか。少しでもご教示頂けると幸いに存じます。
 最近困ったところを具体例でのせておくと、アガルート合格論証集民法p155に「原賃貸借契約が解除された場合の転貸借関係の帰すう」という論点が記載されていますが、その論証集に載っているような理由づけが、私が使用している基本書(潮見イエローⅠ第三版p166)には、記載されていないばかりか、判例の結論命題のみを引用して、それで解説を終えております。これでは、理由づけの学習ができないではないか、と思った次第です。
 論証集の書き振りをそのまま飲み込めば済む話なのかもしれませんが、あくまで論証集というのは学習の上でのまとめを行う場所だと考えており、正確かも分からないものをそのまま飲み込むことには抵抗があります。

 これについて、結論は簡単です。潮見イエローのような最もメジャーといえる基本書が理由付けを書いていない場合、理由付けは(理解していれば)書かなくて良い、論じる必要も無い、という意味です。本記事でも理由付けの短縮にて後述していますが、最悪の場合に理由付けは書かなくても良い事については、下記記事も参照して下さい。

 潮見先生の記載に基づいて書いて司法試験に落とされた日には、潮見イエローを書証として国賠請求まっしぐらです。もっとも、(理解していれば)というところが味噌です。

あくまで論証集というのは学習の上でのまとめを行う場所だと考えており、正確かも分からないものをそのまま飲み込むことには抵抗があります。

 これは全くもっておっしゃる通りでして、工藤北斗先生も「論証集を丸暗記するのではなくて、論理構造をしっかり理解することが大事」のようなことをご指摘されていたような気がします。では、理解するにはどうしたらいいか。

情報量の相性問題

これは基本書が薄いゆえに起こることなのでしょうか。

 と、ご自身でも指摘されている通り、下記記事で触れた【情報量の相性】の問題はあります。潮見イエロー=薄い、アガルートの論証集=薄め、ですからこのような問題が発生するのはある種当然です。

 という訳で、『これからの学習において指針』としては、中田先生の「契約法」か、山本先生の「民法講義Ⅳ-1 契約」のような辞書があると安心でしょう。両書を読んでみましたが、色々と面白い理由付けが書いてありましたので、是非読んでみてください。下記の筆者の論証例も、中田「契約法」433頁を参考にしています。

判例にあたれば安心

 また、LEX/DBなどで判例本文にあたるのも良いでしょう。アガルートの論証集は、きちんと依拠した判例を書いてくれているところが長所の一つなので、これを利用しない手はありません。本論点で言うと、最判昭和37年3月29日ですね。なお、基本書(メインウエポン)の記載が不足していて良くわからず(上記「中田契約法」のような)辞書にあたる場合も、このような判例を起点として該当論点のページを見つけ出すのが最も早いと思います。そういった意味で、判例索引が充実していることは基本書(特に辞書)にとって必須です。

 

②基本書と論証集の理由付け違うぜ問題

 ②もう一つ、こちらは基本書に理由づけが書いてある場合に発生することですが、予備校本の理由付けと基本書の理由づけが異なる場合、たすまる様はどちらを頭に入れ、ひいては、試験答案を書こうとなされますか。基本書を優先させるか、書きやすい方を採用するか、たすまる様ならどうなされるかお聞きしたいです。

そもそもホントに違う?

 これについては、上記の通り、そもそも、ある程度売れている論証集に「大きな間違い」は無い(はず…)です。市販の論証集のほとんどは、確定した判例か、民法で言えば我妻先生といった通説的な見解に依拠して書かれています。判例・通説と大きく異なる理由付けをとっている論証集は売れません。

 そうしますと、『理由づけが異なる場合』というのは、ほとんどの場合は誤読ーというと大げさですが、まだ法律書・法律文書の(スムーズな)読み方が身についていない、というだけです。敷衍しますと、

  • Aという要素(例えば帰責性)があるから→Bと考え、Bと考えるから→Cと考える。また、Dという要素(例えば要保護性)もある。C,Dという理由から→条文XはZと解釈する。

 という論理構造があるとします。この、A→B→C+D→Z、という構造のうちどこからどこまでを記載するかは筆者(や、答案作成者)の選択に任せられています。

  • 論証集は、A(省略)+D→Z、という記載やC+D→Z、という記載が多いですし
  • 基本書は、(省略)B→C+D→Z、と書いてあるかもしれません

 しかしながら、大まかに言って、A=B=Cという理由と、Dという理由から、Zと解釈する、という理由付け+結論の構造に違いはありません。そもそも違う理由付けが書いてある、ということにはならない訳です。

 ざっくりとした抽象的構造を取り出して理解しておく、という読み方が大切なことについては、下記記事を参照して下さい。

 また、A=B=Cのような理由付けの連鎖がある場合に、論証には直近の理由付けを残すことが基本であることについては、 下記4. 論証パターンの短縮、を参照して下さい。

ホントに異なっている場合

 民事系ではごく稀に、刑事系ではちょくちょく、ホントに理由付けが異なっている場合があります。そのような場合に、

基本書を優先させるか、書きやすい方を採用するか、たすまる様ならどうなされるかお聞きしたいです。

 ということが問題となるわけです。これについては、以下のワークフロー?で処理します。

  1. そもそもなんで異なっているのか、辞書もひきつつリサーチする。そうすると、片方(多くの場合論証集)が単に古い判例・学説に依拠しており、いまや少数説となっている場合がある。→ より新しくて支持者の多い判例・学説に乗り換え
    (例:下記の承継的共同正犯の「積極的利用意思」→橋爪説)
  2. リサーチの結果、論証集も基本書もそれなりにメジャーな判例・学説に依拠しており、選択の余地がある場合がある。→ 下記の「書きやすさ」を検討
  3. 論述試験である以上、当然、自分にとって書きやすい方を選択する。人は理解していないことは書けないはずなので、原則として、書きやすいのは自分が理解しやすい(腑に落ちる・納得できる)論証である。
  4. 例外として、ちょっと自分には難しいが、試験的にはその学説をとった方が有利となる場合がある。典型的には、「あてはめがしやすい論証」というもの。この場合は、迷わず有利になる学説に乗り換え。

 という感じです。4.(有利になる学説)については、下記記事も参照して下さい。

原賃貸借契約が解除された場合の転貸借関係の帰すう

 最後に、恋責任の本質さんの具体的疑問ー原賃貸借契約が解除された場合の転貸借関係の帰すうーの理由付けについて、試験でどう書くべきか検討しておきます。なお、合意解除の可否については潮見イエローはじめどんな基本書でも理由付けが書いてある(民法398条、538条の法理など)ので、恋責任の本質さんの疑問は「転借人がいるのに債務不履行解除できるのか?」という点にあると想定しておきます。

 理由付けを含めた書き方としては、こんな感じで良いかと思います。

(A賃貸人、B賃借人、C転借人という事例) 

・ショートバージョン
 Aは、Bの債務不履行によりAB間賃貸借契約を解除できる(民法541条)。同解除はCに対抗でき、Cに対する催告も不要である(同613条3項ただし書き参照)。

・ロングバージョン
 Aは、Bの債務不履行によりAB間賃貸借契約の解除(民法541条)をCに対抗できるか。転借人は賃借人の債務の範囲を限度として義務を負う(613条1項第1文)ところ、転借人に対する催告を要するのではないかが問題となる。
 転貸の承諾(612条1項)は、転貸禁止の解除にすぎず、賃貸人に新たな義務を課すものではない。債務不履行解除において賃貸人に帰責性はなく、一方で転借人は転貸借である以上、原賃貸借の影響を受けることを認識できる。
 従って、信義則上代払いの機会を与える必要があるような特段の事情がある場合を除き、賃貸人は、転借人に対する催告なくして、原賃貸借契約の解除を対抗することができると解する。

 実は、潮見イエローにも理由付けは(最低限)書いてあります。

民法613条3項ただし書きは、この考え方を当然の前提としています。基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得 166頁)

という部分ですね。

  • 二者間契約である原賃貸借契約は、一方の債務不履行で解除できるのが原則
  • 合意解除は賃貸人にとって禁反言、賃借人にとって権利の放棄にあたり、例外的に解除を対抗できない
  • 613条1項ただし書きはこの原則を再確認した規定 また、同条の文言(賃借人の債務不履行による解除権)からしても、「賃貸人→賃借人の催告」によって解除権が発生していることが要件とされているのみであり、転借人への催告といった追加要件は求めていないと読むのが自然

という意味が込められているでしょうか。このように、薄い基本書は(別頁の記載なども勘案して)行間を補って読むことが必要となります。上記論証のショートバージョンも、この613条1項ただし書きを「理由付け」として使ったものになります。

4.論証パターンを短縮する

 というわけで、論証パターンの修正よりも大切なのは1&2、そもそも論証パターンが長すぎるし、自分で書き直せば覚えられるかも!、というやつです。要するに、良い論パ≒自分の使いやすい論パですから、既存の論パを自分の感覚に合うようにリライトする、というものですね。

 筆者の使いやすい論パー筆者の謎の感覚なんて誰も知りたくないでしょうし、そもそも筆者の論証集を全てデジタル化 or スキャンしてアップして「俺はこんな感覚です」と言い放つのはかなり面倒なので、それは将来的な目標とさせてください…。

 とはいえ、一般化できる(と筆者は考える)ルールがいくつかあると思いますので、これを紹介したいと思います。

  1. 規範は削らない。後述の通り、規範+あてはめが法的三段論法の基礎であり、最低限の点が入ることが見込めるため。何なら、判例内在的解説本(筆者の書評参照)を読んで、下位規範・考慮要素を足す。
  2. 理由付けをどんどん削る。まず、日本語を練り直し、短縮できないかを考える(理由付けの個数は減らさない)。
  3. 理由付けの個数を減らす必要がある場合は、現実の取引における背景や法の趣旨といった「遠い」理由から、「近い」理由に分別し、なるべく近い理由を残す。最遠の理由だけ残すのが最悪(例:手続保障の見地から、◯◯と解する)。
  4. 判例の射程が広い場合(典型的には、刑訴法の強制処分該当性等)は、削るとはいっても2~3個の理由を残しておいた方が良い。理由付けが判例の射程を画するため。
    判例の射程が広い(≒法理判例)か狭いかの判断はかなり難しいが、いずれ身につく。とりあえずは、先生が超重要判例だ!と力説しているモノは射程が広い場合が多い、という風に対応しておく。
  5. 理由付けを残す場合は、なるべく色々な種類の理由付けを残す。これは上記の判例の射程の問題もあるが、説得性の問題もある。例えば、①Xの要保護性α、②Xの要保護性β、③Xの要保護性γ、と展開すると「実質的にXを保護してあげたい三連発」であって、「Xさんの親戚ですか?」という印象しかない。
    ①条文上の許容性(形式的理由)、②Xの要保護性α(実質的・積極的理由)、③Yを保護すべき、という学説に対する反論(実質的・消極的理由)などの構成にする。
  6. 理由付け→よって規範、という形式(規範後出し型)が一般的だが、規範→なぜなら理由付け、という形式(規範先出し型)がオススメ。これは、時間が無くなって追い込まれた時の対応を見込んだもの。理由付けだけ書いても点は入らないが、規範だけ書いてあてはめれば最低限の点が入る。やっぱり、重要なのは規範。規範だけは書けるように、規範先出しの癖をつける。

… というようなところでしょうか。なお、再掲ですが、理由付けをどこまで削れるか、論証のメリハリについての一般論はこちらの記事をご参照ください。

5. まとめノート作成の「ゴール」

※2019年9月7日 読者のたつおさんから大変良い質問コメントがありましたので、追記しました。

私は伊藤塾所属で論ナビを持ってるのですが、百選判例が結構漏れていて(特に商法)それを改訂している状況です。その中で百選判例の射程等も論証集に記載しているのですが、正直完璧を求めすぎてオーバースペックな気もしております。
そこで質問なのですが、たすまるさんは司法試験に臨むまでになにをもって論証集の完成としていましたでしょうか?「基本書の取り扱ってる全論点、百選の争点となった問題は吐き出せるようにしておく」がゴールと考えてよいのでしょうか?ご意見いただけると幸いです。

 さて、何をもってまとめノート(論証集)を完成とするか、は難しい問題です。

基本的な考え方

 まず、以下の2つの理由から、司法試験受験対策の「まとめノート」というものは、原則として、「完成」という状態はないと考えた方が良いと思います。

  • そもそも完成、というのは設計図ースタート当初の完成予想図があっての話のように思われます。まとめノートはその時々の学習成果をまとめるものですから、設計図などあるはずもなく、最新=最良となる筋合いのものではないでしょうか。
  • そして、司法試験は、絶対的試験ーある絶対値に到達すれば、全員が合格、反対に誰も絶対値に到達しなければ、全員不合格となる試験ではありません。そうすると、そもそも設計図は書きづらいはずです。相対的試験なので、周囲のレベルを注意深く観察して、さらに内容をブラッシュアップしたり、反対に簡略化したり、といった調整をした方が合理的なように思います。

具体的な基準

 …というのが基本的な考え方のように思います。が、さすがに何の基準も示さないとたつおさん初め読者の皆さんがガッカリすると思いますので、令和元年現在に通用しそうな「一応の基準」を提示したいと思います。

時間的完成

 司法試験直前までまとめノートの内容がコロコロ変わっていますと、なかなか覚えづらいですから、司法試験本番から逆算した一定の期限をもって、完成とするという考え方があります。じゃあ司法試験本番まであと何ヶ月、で完成とするの?という事が問題となりますが、これには大きく2タイプあると思います。

  1. まず、大がかりな論証集の改訂などを行い、それをじっくり覚えようという方
    → 覚える内容を作ってしまってから、覚える、というタイプです。この場合、覚える内容が大きく変わりますから、まとまった暗記のための時間的余裕が必要ですから、遅くとも受験3か月前をもって完成、としておきたいように思います。筆者の友人にも、このタイプの人もいました。
  2. 日々の勉強で、少しずつまとめノートを改訂してきた方
    → 覚えながら、覚える内容を作る、というタイプです。この場合、日々改訂しているわけで、覚える内容は大きく変わりませんし、暗記の時間も不要です。従って、受験1か月前をもって完成、としてもテンパることはないように思います。筆者は、毎日「広げて→まとめる」勉強法でしたので、このタイプでした。下記記事もご参照下さい。

内容的完成

 次に、相対的試験とはいっても、司法試験にはこれくらいの内容で十分だろう、という内容の一応のレベルをもって完成、とする考え方です。では、一応のレベルって何だろう、という訳です。

  1. 市販・予備校の論証集で必要十分
    → まずもって、この点が最も重要です。様々な記事で触れてきた通り、伊藤塾さんなり、アガルートさんなり、売られているそのままの状態の論証集の内容が完全に頭に入っていれば、よっぽどのことが無い限り上位合格間違いなしです。つまり、論証パターンの追加、修正といった改訂作業はそもそも必要不可欠ではありません。だからこそ、この記事は「任意的事項」としているわけです。
  2. 内容的完成
    → 上記の記事の通り、市販の論証の内容が自分には理解しづらい、長すぎる、使いづらいといったことから論証を修正したり、追加したりする場合、その完成はいかに判断すべきか、という問題です。
     まず、慣れてくれば、「この百選は必要、これは不要」と判断できるようになります。というか、そうなってれば受かります。
     そう言っちゃうとおしまいなので、筆者も採用していた最も簡便な判断方法を挙げますと、「定評ある演習書を一周回して、全論点につき、自分のまとめノートだけでそれなりの事が書けるかを確かめる」というものです。まとめノートは、アウトプットのための教材です。定評ある演習書で自分のまとめノートの網羅性・深堀り性を確かめるのが手っ取り早いでしょう。
     演習書との対応関係では、色々な判断があると思います。例えば、私の感覚で言いますと、「刑法事例演習教材」はベストのアウトプット教材であり、できれば全論点をまとめノートに拾っておきたいものですが、「そんなに書ける奴もいないだろ」と思っていたので、80%くらいの論点しか拾っていませんでした。
     ベースとした工藤北斗の合格論証集 刑法・刑事訴訟法も、そもそも60%~70%の論点しか拾っていませんが、それでも十分上位合格できるのは前述の通りです。

商法の場合

 最後に、質問者たつおさんへの回答として、商法(会社法)の場合について、会社法百選掲載判例を論証集に追加するか否かの判断ー相場観ーを、いくつかの例でみてみましょう。なお、筆者は会社法好きなので、高得点を狙っていく方針であることについては、悪しからず。

  • 百選17 個別株主通知と少数株主権の行使
    → 個別株主通知とは何か、少数株主権とは何か、ということについて最高裁の考え方が表れた判決で、会社法を理解するには非常に重要な判決です。川島先生の解説もわかりやすく、必読です。しかしながら、難しすぎるので試験には出ないと思われます。よって追加せず。確かLaw Practiceも、改訂で同論点の問題を削除してしまったと思います。
  • 百選28 募集新株予約権の有利発行
    → 理論的には大変興味深いですが、ライツオファリングって何?という受験生が多数を占めるなか、これを出題するのは勇気がいるでしょう。追加不要。
  • 百選54 MBOに関する取締役の責任
    → 公正価値移転義務。そこまで難しくもないので、簡単な論パを用意しておくと良いでしょう。百選A25もセットで覚えておく。
  • 百選88 ジュピターテレコム事件
    → 公正な価格については、百選86~89で別々の論証・基準を用意するというよりも、これら累次の判例を一つの理論として整理しておくとスッキリします。その方法は…筆者の勉強会の「応用編」でやる予定です(笑)。