だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

法を学ぶ人のための文章作法と、言葉の重要性

法を学ぶ人のための文章作法 第2版

法を学ぶ人のための文章作法 第2版

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと「良い答案作成の伴走者」

法律学と文章力

 こんにちは、たすまるです。忙しすぎて記事を書く時(以下略)…という訳で、今日は私が最近ブログを愛読している(midaprofの日記)井田先生の手にかかる「法的文章作法」の本の書評です。以前立ち読みしただけだったのですが、第2版が出ましたので購入しました。良い本です。後述の通り、文章が上手な人も、読む価値あり、というか買う価値ありです。

 さて、法律学が数学、国語、英語のどの教科に近いのかは議論の余地があります。私個人としては、英語的に覚え、数学的に考え、国語的に書くのが良い(当たり前か)とは思いますが、少なくとも言えることは、国語ができないと、問題文が読めないー誘導に乗れないですし、優れた答案を書くこともできません。

 特に司法試験受験との関係で言えば、暗記が得意ー記憶力のある方は多いにも関わらず、読解力&表現力不足の方が多いのではないかというのが、全く別の世界から司法試験受験に飛び込んだ私の素直な感想です。そのことはこのブログでさんざん触れてきたのでこれ以上深掘りしませんが、一応挙げておくとこんな記事です。

 従って、読解力&表現力に自信がある人は、司法試験において相対的優位を獲得できます。というとポジティブですが、現実に答案を添削するとむしろその反対の傾向がよくみられます。つまり、「何らかの知識はありそうなんだけど、何が言いたいのか日本語がよくわからん」という答案に良く出会う訳です。そんな指摘を受けたことのある読者の方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
 これは二重の意味で残念です。点数がつかないという意味でも残念ですが、それ以上に、「分かり辛い文章であることに、書き手は気がつかない」ということが加えて残念です。気づけない以上、改善の余地が無い訳です。

 本書は、特に法律学における日本語作法を身につけるための本です。とはいえ、巷間目にする「マニュアル本」ではありません。まあマニュアル読んだら突然文章が上手くなることなんてあり得ませんし、あったとしてもそれは気のせいなのでしょうがありません。本書は「文章トレーニングにおける伴走者」という表現がピッタリな本です。

法を学ぶ人のための文章作法の内容

読み手の困難を知る

 本書は三部構成なのですが、その第三部が「さあ、書いてみよう」という山野目先生(民法)による、「実際に答案で書く上での作法・テクニック」を解説したパートです。なぜ最後の第三部から紹介したかというと、後述の通り、筆者はこの第三部から読むべきだと思うからです。

 第三部は上述の通り「実践パート」なのですが、何よりも面白く、かつ勉強になるのが、山野目先生の愚痴です。このブログで散々筆者がわめき散らかしている通り、およそ文章というものにおいて最重要と言って過言でないのが、客観視ー読み手意識です。

 「愚痴」と言ってしまうと少し茶化し過ぎかもしれません。第三部は、旧司法試験委員・新司法試験委員を歴任された山野目先生が、実際にどんな文章に「イラっ」としたかが生き生きと綴られています。変な日本語の法律答案に直面した採点者ー読み手の困難を知ることは、とても大切なことです。

「とすると」、「そうであっても」、「問題となるも」、「明文なく」などという、おかしな日本語を用いて学生が答案を作るのは、日本の中で、法律学をする人だけである。しかも、それをすると高い得点になるか、というと、そのようなことはまったくなく、完全な学生の側の誤解である、

(本書177頁)

 には、(失礼ながら)思わず笑いました。いやほんとうにそう。筆者のように法学と全く関係の無い業界から来た者にとっては、奇妙に映ったことを思い出しました。特に「とすると」にはビビったなぁ。もちろん、本書は「トレーニング本」なので、きちんと✕悪い文章例、〇良い文章例、解決の方法を示してくださっているので安心して下さい。

明確な文章の作成方法を知る

 第二部は、「明確な文章を書く」という佐渡島先生(国語科教育)による、作文の方法論の解説です。これまた失礼ながら、佐渡島先生の存在も、国語科教育学、文章作成指導学なるものの存在も全く知りませんでした。が!筆者はこのパートが最も勉強になりました。

 「正しい国語法」とは言わず、「明確な文章」というところが味噌です。文章の役割は情報の伝達ですから、どんな文章が分かり辛いのか、反対に、どんな文章が分かり易いのかが極めて明確な文章で(笑)書かれています。

 そして、何よりも素晴らしいのが30題近い(文章力向上のための)「練習問題」があることです。この、間違ったーとは言わない「不明確な」20数個の文章を一つ一つ直していくだけでも、勉強になります。なるほど~こうやって教えるのか~と感心しきりでした。

 さらに、明確な文章とするための多種多様な方法論が紹介されているのにも感銘を受けました。普通は、「えーとね、これが良い文章で、これが悪い文章。助詞と接続詞を正しく使おうね」くらいで終わってしまうところです(筆者の記事も参照)

※なお、本書に照らすと、筆者の上掲記事も「だいたい正しそう」であったことに安堵しました…

 佐渡島先生は、「長い修飾を独立させる」といった具体的テクニックに留まらず、パラグラフ・ライティングや、パワー・ライティングといった、文章全体の作成の方法論も丁寧に解説して下さっています。簡単に言いますと、

  • パラグラフ・ライティング - ある主張をトピック・センテンスとして、その主張を支える根拠1,2,3といった形で文章を構成する
  • パワー・ライティング - 抽象度の最も高い言葉・文をパワー1として、より具体化したパワー1,2,3といった形で文章を構成する

 というものです。正直言いますと、筆者は「え、こんなの当然。文章ってこうやって書くもんじゃないの」と思いました。自信はありませんが、本ブログの記事も(だいたい…)そんな構成をとっているように思います。もっとも、このような方法論は筆者がかなりたくさんの書籍を読むうちに偶然身に付いただけです。なるほど、こういったかたちで良い文章の要件が示されるのか、ということに目から鱗が落ちました。

文章・言葉の大切さを知る

 最後に紹介することになってしまった第一部が、「文章というものを考える」というパートです。執筆者は、私がその学説も文章もTwitterも大好きな井田先生です。ここでは法律学にとって文章とはどういった役割を果たすのか、どういった重要性があるのかが語られています。

 このパートは、有名な哲学書の引用なども含んでおり、(入門書としては)結構難解なように思います。しかし、私が本書の核心的部分ー何度も読み返すだろうな、と思うのがこのパートです。何度も申し上げているように、分かり辛い文章を書いていることに、書き手は気づきません。その原因としては、これまで多種多様な文章に触れていない、ということが最も大きいでしょう。そして、それと同じくらい大きな原因として「そもそも、文章や言葉の重要性に気付いていない」ということがあると思います。

 一つ助詞の選択を誤っただけで、修飾語の順番を誤っただけで、文章の分かり易さは大きく変わります。そのようなことばの重要性に気づく、というそれ自体がとても大切なことです。その重要性を深く認識しているからこそ、判例の一字一句を追いかけたり、論証パターンの一字一句を見直して練り上げることが「身につく勉強」になる訳です。

 (筆者の前職であるマスコミや)法律学は、格別ことばを大切にします。法律学におけることばの重要性はいくら意識してもし過ぎということはなく、それを確認するためにも私は何度かこのパートを読み返すことになると思います。

法を学ぶ人のための文章作法の使い方

第三部から読む

 まず、文章が非常に得意な方にとっては、本書の内容は基本的には、「知ってる」という事ばかりかと思います。そんな方にとっても、第二部の方法論や、第一部の法律学における文章や言葉の重要性は読んで意識の片隅に置いておく価値があると思います。

 次に、本書の読者のほとんどは、法律答案を数回は書いたことがある方だと思います。書いてみて→「何か変」と感じ or 指摘され → 本書を手に取る、というのが普通なように思うからです。そういった方にとっては、まず第三部から読み、第二部、第一部と読み進めるのが良いように思います。そんなことは本書のどこにも書いていないので、先生方からしたら「やめてくれ」かもしれません。が、私は

  1. (自分のような)不明確な文章に接したときの読み手の困難を知り、
  2. 具体的な解決法としての明確な文章の作成方法を勉強し、
  3. 法を学ぶ者にとって、文章・言葉がどれほど重要なものなのか、意識を強くもっておく

 という順序がスムーズなのではないか、と思います。ほとんど法律答案を書いたことがない、本当の初学者であれば、むしろ第一部から読む方が分かり易いでしょう。

遠回りではない

 次に、「司法試験まで時間が無いんだよ!文章作法の本なんて読んでる暇はねぇ!」という受験生が多数派かと思います。私も、「一発で合格しなければ直ちに撤退する」という条件で家族に受験を認めてもらっていたため、その気持ちは良くわかります。しかし、

(文章を書く)基礎体力に欠けている人は、いくら熱心に法律学を学んだとしても、学んだことを答案上に表現するにあたり、大きなハンデを背負っていることになります。(本書2頁)

 特に、複数回受験しても合格できない方は、勉強(インプット)時間・量としては十分なはずで、それでも合格できない場合は読解力・表現力に難あり、という可能性が高いです。本書のような優れたトレーニング本で、基礎体力ー表現力をつけることは、合格にとって遠回りではないと思います。法的知識を学びつつ、表現力を身につけなければなりません。このことを、井田先生は秀逸な表現でこう記しています。

 皆さんはすでに大海原をそれぞれの船で航海中なのです。いま致命的ともなりかねない船の不具合を発見したのですが、これから港のドックに戻って修理している時間はありません。それに、出発した港がどこにあるか、もう遠くてわからないのです。むしろ目標を目指して航海を続けながら、海上にて皆さんの大事な船を修理していこうではありませんか。(本書3頁)

コピペできない

 本書の唯一の注意点が、本書で多々紹介されている〇良い答案例、というもののほとんどが、そのままコピペできる類のものではない、ということです。本書の〇良い答案例は、(もちろん)分かり易く明確な日本語で、法的三段論法を守って書かれています。しかしながら、巷にあふれる優秀答案と比べても文章のレベルが高すぎるため、容易にコピペすることができないのです。

 敷衍、というか分かり易く例えておきます。本書の〇良い答案例、が試験で書ければ間違いなく超上位答案なのですが、本書の〇良い答案例を一部だけコピペすると、それが他の部分の書き方とあまりにも異なるため、答案全体としてみると崩壊、ということになります。

 しかしながら、コピペできない、というのは注意点に過ぎず、ウィークポイントではない、むしろ本書の長所だと思います。良い文章とは、(それが他人の文章の真似から始まるものだとしても)自分の中から生まれるものです。コピー&ペーストでは決して身につかないものであるからこそ、価値があるのだと思います。

まとめ

 本書は、初学者はもちろん、勉強が進んだ方にとっても価値があるように思います。通読したから文章力が上がる、というHowto本、マニュアル本ではありません。常に手もとに置いておき、答案の文章について何かしらの指摘を受けた際、読み返して、少しずつ文章作法ー表現力を向上させていくための本です。そういった意味で、マラソンの伴走者のような役割でしょうか。

 コピペではない、自分の文章が少しでも褒められた際の喜びは格別です。何しろ、

文体は自分で作るものである。なぜならば、文章は、その人の人格の表象であり、個性の恵みであるから。(本書189頁)

法を学ぶ人のための文章作法 第2版

法を学ぶ人のための文章作法 第2版