だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

処分性の考え方4(法律上の根拠・書き方)

 ※作成日付を間違えたので、再度アップしました。

 更新が遅れてすみませんでした。仕事が忙しい(言い訳)。さて、処分性シリーズの最終回は、インプットとしては「法律上の根拠」のみを扱い、あとは具体的な答案の書き方を検討して終わり、とします。

法律上の根拠は要件?

 まず、③法律上の根拠、という要件の必要性、意義については、処分性の考え方1を読んで下さい。

 再掲しておくと、法律による行政の原理ー特に、法律の法規創造力の原理ー民主的正統性を持つ立法者のみが、国民に対し、公権力的に権利義務を形成できる、ということから、ある行政行為に処分性を付与する、ということが法律上認められなくてはなりません。

 もっとも、下記記事でも扱った代表的書物、中原先生の基本行政法 第3版 や、土田先生の

 では、「法律上の根拠」はことさら要件としては挙げられていません。処分性の要件はいくつ?という議論の中でも、

  • ①公権力性、②法的効果(2要件説)
  • ①公権力性、②法的効果、③外部性、④直接性(4要件説)

とされるのが普通で、「法律上の根拠」は挙げられません。なぜか。不要なのか?という事についてまず説明しておきたいと思います。ここは、処分性の書き方とも絡んで重要なところですので、確認しておきます。

あてはめの対象は個別法

 処分性に限らず、行政法答案の(やや)難しいポイントの一つとして、あてはめの対象が個別法の条文となる場合がある、ということがあります。ある規範に対するあてはめとして、個別法の解釈を展開するわけです。下記は、処分性の考え方2の図の再掲ですが、イメージはこんな感じですね。f:id:tasumaru:20190209232340p:plain

  処分性の有無であれば、原則としてあてはめ対象は個別法の条文です。なお、例外的に横浜市保育所廃止条例などー事実上の効果を法的効果に代替させるパターンは、問題文の事実もあてはめの対象となることになります。詳細は下記記事をご覧ください。 

要件として扱わないという考え方

 このように、処分性の定式に照らして、個別法のあてはめー個別法がある行政庁の行為を処分として扱う趣旨であるかどうか、をやっているわけです。そうだとすると、結論がどうであれ、それは個別法の解釈の結果ですから、「処分とする趣旨と、◯◯法上、認められる/認められない」という形で③法律上の根拠、は自動的についてくる、ということになります。

 こうしたことから、上記の各先生のまとめでは、ことさら③法律上の根拠、を要件として扱っていません。そして、行政法がきちんと身についている人にとっては、法律による行政の原理、及び処分性の判断方法ーあてはめの対象は個別法、ということはあまりにも当然のことです。このような人にとっては、「~以上より、◯◯法△条は、法的効果の発生を認めているといえる。よって、①公権力的②法的効果という要件を充足するから、△条に基づく××は処分にあたる。」という程度の記載で十分で、③法律上の根拠があるか!とかやる必要もありません。

行政法の主役は「個別法」

 …が、行政法が苦手です or 何故か得点が伸びません or 特に個別法の解釈が苦手です、という人は、③法律上の根拠、は意識しておきましょう。行政法の主役は、個別法だからです。処分性の定式、原告適格の法律上保護された利益の定式といった「論証」や「定式」は主役ではありません。個別法の趣旨はどのようなものなのか、行政過程をどのように設計しているか、処分はどこに配置しているのか…等々、個別法の解釈に慣れるためにも、③法律上の根拠という要件は意識しておいた方が良いと思います。後述の通り、要件として挙げる必要まではなく、あくまで意識しておくだけで良いです。

③法律上の根拠の判断方法

 法律上の根拠の有無は、個別法の条文からは、「法的効果が発生する、とも発生しない、ともどちらにも読むことができるな…」という場合に問題となります。ここでのポイントは、「何らかの影響が発生するのだが、それが法的効果と呼べるものかどうか(②法的効果、④外部性、⑤直接性、⑥個別具体性の問題)」ではなく、「一応、法的効果と呼べるものが発生するのだが、それが個別法の条文を直接の根拠とするものかどうか」というという問題である、ということです。

 一応、論パもどきを貼り付けておきますが、正直言って書く必要があるかどうかは疑問です。端的に、法律上の根拠があるといえるか、と問題提起して個別法の解釈に移っても全然OKです。

 …以上の仕組みにつき、法令上の根拠を要する。法律によらずして、公権力的に権利・義務を定めることはできないからである。例外的に、直接の根拠規定が無くとも、法の仕組みの解釈により、運用全体でみれば法が当該行為を処分として定めたと解せる場合がある。

具体的な書き方

 では、具体的にはどういうケースで問題となり、どう書いていくべきか。代表的な(超・重要)判例である、スモークマグロ食品衛生法違反事件(最判平成16年4月26日・ケースブック行政法 <第6版> 11)で見ていきたいと思います。

事案

 Xは、販売の用に供するため、冷凍スモークマグロを輸入し、検疫所長Yに対して、食品衛生法16条に基づく輸入届出書を提出した。Yは、Xに対し、スモークマグロの一酸化炭素の含有状態の検査を受けるように指導し、その検査成績証明書を提出させた。その上でYは、Xに対し、書面をもって、上記検査結果によればスモークマグロは法6条の規定に違反するから、積戻し・廃棄されたい、とする通知を行った。Xは、この通知の取り消しを求めて出訴した。

個別法など
  • 食品衛生法 第6条
    人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が…定める場合を除いては、添加物…を含む食品は、これを販売し…製造し…てはならない。
  • 同法 第16条
    販売の用に供…する食品…を輸入しようとする者は、厚生労働省令の定めるところにより、そのつど厚生労働大臣に届け出なければならない。
  • 関税法 第70条2項
    他の法令の規定により…輸入に関して…条件の具備を必要とする貨物については…当該法令の規定により…条件の具備を税関に証明し、その確認を受けなければならない。
  • 同条 第3項
    …前項の確認を受けられない貨物については…輸入を許可しない。
  • 関税法基本通達
    食品衛生法第16条の規定により厚生労働省…が交付する「食品等輸入届出書」の届出済証により、関税法70条2項に規定する「条件の具備」を証明させる…同書類の添付がないときは、輸入申告書の受理を行わず、申告者に返却する…
  • 輸入食品等監視指導業務基準(略)

②法的効果があるか

(答案上は、まず、問題発見ー問題の所在を明らかにする作業が入りますが)論点は、2点あります。処分性の要件のうち、本件の「通知」に③法律上、②法的効果があるといえるかです。

 ②については、食品衛生法16条の文言は「届出」となっていますから、これは行政庁に利益処分を求める「申請」(行手法2条3号)ではなく、「届出」(同2条7号)に過ぎないのではないかーそうすると、これに対する行政庁の応答は事実行為に過ぎないのではないかが問題となります。これについては、後述します。

③法律上の根拠があるか

ポイント1・要件を掲げる必要はない

 さて、いよいよ法律上の根拠を検討する上でまず注意して欲しいのが、上記「法律上の根拠は要件?」で述べた通り、理想的には、③法律上の根拠の有無は、そもそも②法的効果があるか(や、外部性等の他の要件)を解釈している中で自動的に出てくるものです。

 つまり、こう書いてはいけません。

 法△条によれば、△△△、法◯条によれば、◯◯◯~(略)以上より、本件通知には②法的効果があるといえる。では、次に、この効果が③法律上の根拠があるといえるか。

 これは論理矛盾ですね。だって、前段で「法△条によれば」って、法律に基づくことを自分で明示してるでしょ、という話です。また、受験政策的に考えてみても、結局③法律上の根拠の要件では、「以上の法的効果は、法△条、及び法◯条に基づくものであるから、法律上の根拠がある」とやることになるため、二度同じあてはめを書くことになり、完全にムダです。

ポイント2・関連法規の仕組みに要注意

 え。③法律上の根拠って要件は自動的に出てくるの?自動的にあてはまるの?じゃあ勉強して書く意味ないじゃん。と思った方は鋭いですね。そうです。何度も述べた通り、法律上の根拠は、ほとんどの場合は、自動的に付随してくるので、いちいち問題としません。例外的に、問題となる場合ーそれがスモークマグロ食品衛生法違反事件ですがーを、押さえておけば良いと思います。

 まず、上記の論パでもちらっと触れましたが、当該行政庁の行為の直接の根拠条文の文言だけでは、法的効果等が認めづらい場合ー関連法規との仕組みを解釈しなければならない場合です。

本判決の判断を(非常に)簡単に整理すると

  1. 食品衛生法6条によれば、厚生労働大臣は添加物等が人の健康を害するかどうかにつき判断する権原があるのだから→法16条は文言こそ「届出」だが、法6条に違反するかどうかの応答義務が課された講学上の「申請」である。
  2. 食品衛生法16条だけでは、単に「違反ですよ、と応答する」だけで終わってしまい、法的効果があるとはいい難い。しかし、関税法70条2項の「条件の具備」には、食品衛生法16条の届出に対し、同法6条に違反しないものと厚生労働大臣(等)が認めることも含まれる。→そうだとすると、法16条に基づく届出に対し法に違反している旨の通知は、関税法70条3項の輸入許可を受けられなくなるという法的効果を有する。

 本判決の判断枠組みのように、「関連法規も含めた仕組みの解釈をしなければ、法的効果が絶対出てこない」という場合は、③法律上の根拠、を意識した論述(要件あてはめでない)をした方が良いでしょう。また、上記の論パを登場させるのも「わかってるよアピール」としては効果的かと思います。

ポイント3・行政規則に要注意

 次に、受験生が最大限注意すべきなのが、通達・処分基準等、講学上の行政規則を直接の根拠とすることです。

 つまり、こう書いてはいけません。

 ~本件通知に法的効果があるか。関税法基本通達によれば、食品衛生法第16条に基づき交付される輸入届出済証により、関税法70条2項に規定する「条件の具備」を証明させるとしているのだから、法16条の通知には、関税法70条3項の許可が受けられなくなるという法的効果を有する。

 行政規則は行政庁の内部準則に過ぎず、国民に対する拘束力(法的効果)を有さないはずですから、行政規則を根拠として法的効果を認めることは、上記の、法律による行政の原理に真っ向から反してしまいます。これをやってしまうと、行政法の基礎からわかってないな、という印象がついてしまいます。なお、上記の個別法の条文のうち、青字で示したのが行政規則で、赤字が法規ですね。

 これを避けるために本判決がとったロジックいや、考え方はー受験業界でも有名なテクニックだと思いますがー、「あくまで、法(とその仕組の)解釈をした結果、食品衛生法16条の通知は、70条2項の条件の具備に含まれると判断した。関税法基本通達も、たまたま同趣旨である」というものです。重要なところなので、判旨を参照します。

 関税法70条2項は…ここにいう…条件の具備は、食品等の輸入に関していえば、法16条の規定による輸入届出を行い、法の規定に違反しないとの厚生労働大臣の認定判断を受けて、輸入届出の手続きを完了したことを指すと解され…(輸入届出済証等による輸入届出の手続の完了の証明、確認を受けなければ)関税法70条3項の規定により、当該食品等の輸入は許可されないものと解される。
 関税基本通達が…と規定しているのも、上記解釈と同じ趣旨を明らかにしたものである。

横尾反対意見から学ぶ

 これに対して、横尾和子裁判官は、精緻な論理で法廷意見とは正反対の結論を導いています。個別法&反対意見が掲載されているのが、ケースブック行政法(下記記事参照)の長所なので、持っている人は是非その論理を追いかけて下さい。

横尾反対意見
  1. 関税法70条2項が、「条件の具備」と定めているのに対して、同70条1項はわざわざ「他の法令の規定により…許可、承認を必要とする貨物については…当該許可…を受けている旨を税関に証明しなければならない」と規定している。だとすると、同項は条件の具備を確認する権限を税関長に付与した規定と読むべき。→輸入禁止かどうかは、食品衛生法の権限に厚生労働大臣等が判断するのではなく、あくまで関税法に基づき税関長が条件の具備を判断する。
  2. 食品衛生法16条の届出に対して、許可・承認等により輸入禁止を解除するという仕組みは何ら規定されていない。法6条の添加物の有無は、権限に基づき判断するものではなく、科学的に定まるものだからである。→応答義務を課した規定ー「申請」にあたると読むのは困難。
  3. 関税法基本通達などは、行政機関相互の協力関係を定めたものにすぎず、これを根拠として、関税法70条2項が「条件の具備」の証明手段を輸入届出済証に限定しているものと解することはできない。
  4. よって、③本件通知は行政規則に基づくものにすぎず、②輸入許可を受けられないという法的効果も生じない。→輸入届出済証の添付がないとして輸入申告を不受理とされた場合は、これを税関長の不許可処分(70条3項)に対する取消訴訟を提起すれば足りる
論理的・説得的なあてはめ

 どうでしょうか。正反対の解釈(あてはめ)で、こういう色々な読み方が出てくるのが行政法の面白いところだと筆者は思います。理論的には、横尾意見に分があるように思います。また、結論の妥当性は法廷意見に分がありますが、横尾意見も、後続の不許可処分を争え、としていることから配慮はされています。重要なポイントは、論理的・説得的に書けていれば、結論が法廷意見になっても、横尾反対意見になっても、どちらでもよい、ということです。なぜかというと、散々述べてきた通り、法解釈は「規範」「定義」の問題ー誤った理解はダメーではなく、あくまであてはめの問題だからです。

③法律上の根拠にかかる判例の整理

法律上の根拠の存在を否定した判例

・老人福祉施設の民間移管にかかる選考応募者に対する不決定通知平成23年度重要判例解説 行政法6)
∵地自法ではなく、募集要項に基づきなされたにすぎない

法律上の根拠を肯定した判例

・医療法に基づく病院開設中止の勧告ケースブック行政法 <第6版>11)
∵厚生省通達の下での実務運用を考慮 → 事実上の効果を法的効果に「昇華」させた特殊な判例なので、通達を引用した趣旨も上記とは少し異なることに注意(詳細は、処分性の考え方2を参照して下さい)

・労災就学援護費の不支給決定ケースブック行政法 <第6版>11)
∵通達に基づく支給ではあるものの、法も同趣旨を定めていると解せる

総まとめ

 以上の通り、法律上の根拠、という要件は他の5要件に付随して出てくるもので、そういう意味では「オマケ」です。例えば、上記に掲げた各判例も、

  • スモークマグロ → ②法的効果+③法律上の根拠
  • 老人福祉施設の民間移管 → ①公権力性+③法律上の根拠
  • 病院開設中止勧告 → ②法的効果+③法律上の根拠
  • 労災就学援護費 → ①公権力性+③法律上の根拠

といった具合です。この要件が単体で出題されることは容易には考え難いです。あくまで、他の要件とセットで問題となる場合がある、ということです。そういった意味で、私のまとめ図では、敢えて点線で記したという訳です。

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 このようなイメージ図が頭にあると、書きやすいと思います。近いのは、刑法各論です。問題なく認められる要件は、ポンポンと認めていき、厚く論じるところだけ(上記の①②④⑤⑥の各論点)、判例も引用しつつ手厚く論じるとスマートです。そして、場合により③がセットで出てくるわけです。

 以上で処分性シリーズは終わりです。もう投げやりだ~。結構省略して書きましたので、わからないことがあったらコメントでご質問下さい。