さて、受験界には「まとめノート」なる用語があり、これを作るべきか作らなくてもよいかが良く話題となります。結論から言うと、まとめノートは作っても作らなくてもどちらでも良いと思います。最高の勉強法=最適の勉強法ですから。どや!
だと記事が終わってしまいますので、まとめノートとはいかなるものか、どういう場合に作るべきか、筆者はどのようにしていたか、等々について書いてみます。
まとめノートとはいったい何か?
それなりに人生を送ってくると、数限りなくノートをとることになると思いますが、司法試験の受験に(ある程度)役に立つ「まとめノート」は他のどんなノートとも性格が異なります。
勉強習慣ノート
まず、義務教育+αでとってきたノートですが、これは、最悪の場合、勉強したというエビデンスとして先生や親に提出する、という用途のものです。本当にこういう結果主義的でないー行為主義的な詰め込みは改めてもらった方が日本のためと思います。が、とりあえずこの手のノートが何のためにあるの?ということですが、ほとんどないであろう存在理由を推察するに、「きちんとノートをとる、という習慣自体をつける」ということでしょうか。勉強習慣がついていない人が司法試験を目指す、ということは皆無でしょうから、当然、このような勉強習慣ノートを作成する意味はありません。
記録ノート
+αの部分、すなわち高校でもかなり高度な内容を扱う先生や、大学の学部講義では、「先生の講義を書き留める」という記録ノートが登場します。これは意外と重要です。勉強も高度になってくると、教科書や参考書に載っていないが重要な情報を先生が口走ることもあるからです。実際、この手の「講義記録」が後に出版される、という例は数多くあります。
が、司法試験の受験にとっては、この「記録ノート」という意味でも、ノートを作成する必要は小さいと考えられます。まず、下記記事でも触れましたが、司法試験で問われている内容は、基本的な知識とその応用がほとんどです。
つまるところ、基本的な教科書に載っている情報=出題内容の90%なわけです。基礎的な理解がない故に、落ちるのです。そうだとすれば、「+αの10点を取って超上位合格や!」という意気込みがない限りは、わざわざ先生がたま~に漏らす「先端的な問題意識」を回収するために講義内容を逐一記録する、という必要性はありません。
講義の予習との関係
なお、この春法科大学院(未修コース)に入学された方のために付言しておきます。このように、「先生の講義を逐一書き取る」ノートを作成しても、(当然ながら)教授は評価してくれません。あくまで、評価対象は期末試験の答案が主です。そういった意味で、(法科大学院の)講義中に一生懸命ノートをとっている学生は、真面目で熱心なのは間違いないですが、効率的な勉強をしているとはあまり思えません。理想的には、やはり予習を完璧にやっておくことです。そうすることで、余裕をもって講義を「書き取る」のではなく「聞く」ことができます。先生が稀に(多分、ひとつの講義につき、2,3回も無いと思いますが)教科書に記載のない、先端的な問題意識を漏らしたときにも、直ぐに気付いてメモすることができる、というわけです。
まとめノートの役割
そうだとすると、受験界にいう「まとめノート」の役割とはいったい何ぞや、ということですが、結局、基礎的な知識しか問われないわけですから、まとめノートはそれ(+α)をまとめたもの、ということになります。
基本書>まとめノート
「えっ 基礎的な知識が載っているから『基本書』なんでしょ。基本書をきちんと読み込んで覚えればいいじゃん」と思った方は、素晴らしいです。市販のスタンダードな基本書の内容を全て覚えて試験で吐き出せれば、超上位合格は間違いありません。というか、憲法II 人権 NBS (日評ベーシック・シリーズ)や、民事訴訟法 第2版 (有斐閣ストゥディア)などの300頁程度の「入門書」でも、その内容をきちんと理解して吐き出せれば、全科目60点以上で上位合格できると思います。従って、このような薄い入門書・基本書を丸ごと覚えることを目指して、まとめノートを作らない、という考え方も十分あり得るものと思います。
もっとも、300頁でもなお情報量が多すぎる、覚えられない、という方(筆者もそう)が多いのも事実で、そうすると「入門書・基本書から情報を削減・圧縮して覚えやすいノートにしておく」ことの必要性が出てきます。情報量の式にすると、基本書>まとめノート、というわけですね。
まとめノート>論証集
反対に、「情報が絞り込まれていて薄いし、論証集だけ覚えれば良いんじゃない?」という考え方も、これまた十分あり得ます。実際にそのように勉強されている方もたくさんいます。なお、手許にあります、工藤北斗先生の論証集ですと、なんと民訴法で約100頁でして、心が弾む薄さです。
しかし、そもそも論証集だけでは薄すぎて論点漏れのおそれが(少しだけ)あります(情報の量の問題)。また、条文の文言の摘示、条文と条文の関係性(≒体系)に関する記載は少ないのが実情で、繰り返し読んで暗記しても、体系的理解は身につき辛いです(情報の質の問題)。体系的理解がおぼつかないと、問題発見の大外しー無関係な論パの貼り付けによって、大減点をされる怖れがあります。そのあたりも、上記の「基礎的な理解」の記事、または下記記事もご参照下さい。
なお、情報の質の問題ー体系的理解、については工藤北斗先生も十分留意されており、同先生の論証集では、論証パターンが当該法律の体系順に並んでいます。また、仮に論点がない条文でも、「本節に該当する論点は掲載していませんが、体系を意識して学習することは有益であるため、節名を残しています」として、項目は削除されていません。素晴らしい!ですが、節名だけで、「ああ、こんな条文あったね 確かに論点らしい論点は無いね」と思い出せる人ならいざ知らず、やはり何かしら加筆・修正しないと、普通の学生にとっては体系的な理解を促進するものとはならないでしょう。
加えて、 これはまとめノートとは無関係ですが、後述の通り、市販の論証パターンの文章が(内容的にはさておき)どうも自分にはしっくりこない、という問題もたまにおきます(③文体の問題)。
まとめノートの相対的な役割
このようにみてくると、まとめノートとは、「①基本書より情報が少なく、一覧しやすい。②論証集より情報が多く、全論点と、それを繋ぐ体系的知識を(ギリギリ)網羅している。」という絶妙なバランス(笑)の上に成立するノート、ということになります。要するに、基本書よりは手軽で読みやすく、論証集よりは網羅的なモノを作らないと、作る意味がありません。
また、もうひとつの重要な役割として、③まとめノートを作る過程それ自体が勉強になる、ということがあります。基本書や論証集は市販されていますが、(良質な)まとめノートを作ろうと思ったら、基本書等の内容を理解する理解力、重要な情報を選別する編集力、適切にまとめる表現力が必要です。まとめノートを自作すると、これらの力が身についていきます。もっとも、後述の通り、ノート自作自体が過大な負荷とならないように気をつける必要があります。
まとめノートを作るべき?
さて、まとめノートが役立つものとなるには、上記の絶妙なバランスが必要となります。このバランスがとれないなら、基本書または論証集を繰り返し読んでいた方がマシ、ということになります。しかるに、まとめノートを作るには、莫大な労力が必要となります。場合によっては、一日の勉強時間のほとんどが取られると言っても過言ではありません。従って、これにとりかかるかどうかについては、よくよく吟味する必要があります。
まとめノートの具体的な作成方法としては、①基本書や判例集等の情報を取捨選択ー編集してまとめる、という王道の自作パターンと、②論証集を修正したり、加筆するという加筆修正パターンがあります。少なくとも、①は、よっぽどのことが無いと手を出さない方が良いと思います。
基礎的な学力が足りない人は手を出さない
次に、初学者はもちろん、基礎的な学力がまだまだ足りないという自覚のある方は、原則として、自作ノートを作る必要はありません。情報の適切な取捨選択ー編集力が無い人の作ったノートほど無用の長物はありません。よく、「基本書はムダな記載がいっぱいある」的な事を曰う学生がいます。確かに、不要不急の情報も載ってはいます。が、重要なのは「これはムダな記載だ!」と判別できる能力が本当にあるかどうかを自省することです。ムダな記載は、原則として読み飛ばせば済むことで、じゃあ自作ノートを作ろう、となるかどうかは別問題です。基礎的な学力が足りないなら、まずは、通読・短答・問題演習といったベーシックな学習に注力すべきです。
下記で紹介する通り、私も「王道自作」は、8科目中2科目しかやりませんでした。まとめノートの作成にとりかかっても良い(一応の)学力の目安としては、「1年後の予備試験合格が現実的に狙える人」というところでしょうか。予備校等で十分な学力をもって既修者コースに入学した方か、未修1年目を文字通りトップの成績で終えた人です。
圧倒的に苦手な人は検討の余地あり
例外的に、特定の科目が圧倒的に苦手、という人は、「敢えて」自作ノートに取り組むことを検討する余地があると思います。他の科目はバンバン書けるのに、特定の科目だけは全く筆が進まない、何を書いて良いかわからない、という人は当該科目の学習の「入り口」で間違ったドアを開けてしまったー誤解の上に誤解を積み重ねた学習をしているー可能性が(ごく僅かながら)あります。そういう人が、まとめノートを作る過程それ自体が勉強になる、という上記の役割③を重視して、文字通りゼロから学習を再スタートすることは有用な可能性があります。
が、あくまで可能性です。くどいようですが、司法試験は基本的な知識しか聞いていないので、特定の科目に(大きな)得意不得意がある、というのは本来あり得ません。研究者の専攻とはここが違うところです。小学生に、「私、割り算は得意だけど、引き算は苦手」と言われても困るのと同じで、全科目、基本的なことは書けなければいけません。少なくとも5~6教科は、定期試験の優秀答案≒予備試験の合格答案が書けるのに、ある科目だけは毎回Cの評価が来ます、というごく例外的な方にとっては、自作ノート作成は価値ある取り組みとなるような気がします。
どうせ論証集を直すなら
最後に、論証集の文体がどうもしっくりこない、という前述の理由で、論証集を加筆・修正するタイミングはきっと訪れることになります。というより、訪れない人には合格は難しいと思います。そのタイミングで、加筆・修正部分が50%以上になりそうなら、じゃあまとめノート作っても労力は対して違わないや、という判断はあり得ると思います。また、一部の科目のように、そもそも良質な論証集が手に入りづらい、という場合もやむなくまとめノートを作ることになると思います。
筆者のまとめノート
下記記事でもチラリと紹介しましたが、筆者が「王道自作」したまとめノートは、行政法と知的財産法の2科目だけです。
取り組み始めたのは、法科大学院2年目の前期(だったような…)です。非法学部出身で、基礎的な知識が完全にゼロだったので、最初の1年目は大量かつ綿密なインプットに注力していた気がします。各科目のまとめノート作成状況はこのような感じでした。
憲法
あまりにもわからないので、自作ノートの作成に着手(王道自作)。30%くらい作成したところで、憲法判例の射程が発売され、「こ、これが俺の作りたかったやつや…」と衝撃を受ける。こっちの方がコスパが良いので、憲法の地図をベースに憲法判例の射程の情報を足していく方式(加筆修正方式)に切り替える。
行政法
これまたあまりにもわからない&行政法ばっかりは適切な市販論証集がない、という理由で王道自作に着手。法科大学院2年の春休み(受験まで1年半)の段階で、約1ヶ月、総力を傾けて作り切る。これにより、行政法がドル箱科目に生まれ変わる。ほぼ完全自作なので、特に参考書は無いが、一番影響を受けたのはやはりこの本か。
民法
範囲が膨大すぎて王道自作は圧倒的に非効率だったので、工藤北斗先生の論証集を、基本書や、下記書籍で加筆修正。主に、30%ほど内容を追加する、という加筆がメイン。判例の射程や考慮要素分析に踏み込む時間的・心理的余裕も余りなし。
商法
これまたコストパフォーマンスの観点から、論証集を40%ほど加筆修正。また、商法はまさに「基本的な」「条文知識」が大切なので、そもそも論証集やまとめノートの重要度が相対的に低い。
民事訴訟法
上記、工藤北斗先生の論証集を50%ほど加筆修正。修正割合が多いのは、高橋説だったから。というか、下記記事でも触れたとおり、高橋先生の「概論」はかなり薄いので、ほとんどまとめノートそのものとして利用可能。
刑法
これは、工藤北斗先生の論証集がかなり良い。が、詐欺罪に実質的な財産的損害が必要、とするなど西田説の残渣があり、そこはもどかしい。橋爪説に依拠して、バンバン修正していき、最終的には60%ほど直してしまった。自作しても良かったかも。
刑事訴訟法
同じく、工藤北斗先生の論証集がベースだが、川出先生の圧倒的にわかりやすい日本語に書き換えていき、最終的には70%くらいは修正してしまった。ローの教授が非常に熱心に指導してくれ、「あなたの論パのここはおかしいよ~」と教えてくれるので大変助かった。
知的財産法
田村先生お墨付きの論証集として名高いロジスティクスがベース。としたかったのだが、あまりに田村語ー文体が(自分には)しっくりこなかったので、ほぼ完全自作となった。なお、田村説は内容的には大変しっくりきた。
番外編
下記書籍は、「他の受験生がどんな論証集 or まとめノートを作って準備しているのか」を知るために役立った。内容としては、必要最小限のものが厳選され、かつ、日本語も平易で短めなので、オススメできると思う。もっとも、自分としては、判例の射程分析&最新の問題意識には踏み込めていないなど、やや緻密さに欠けると思ったので、ベースには採用しなかった。
まとめ
と、まとめノートの総論としては、こんな感じかと思います。次回は、各論ー具体的な作成方法、各科目の要注意ポイントなどを検討したいと思います。今回記事を書くにあたって、工藤北斗先生の論証集がどんどん改訂されていることに驚きました。もともと良い本ですが、さらに良くなっているんでしょうね。手間が省ける受験生が羨ましいな~。どれか一冊買って、レビューしたいと思います。
この記事の続編はこちらです↓