だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

処分性の考え方3(外部性・直接性・個別具体性)

付加的な要件の整理

 処分性の考え方、第3回は④外部性、⑤直接性、⑥個別具体性の3要件を扱います。以下、用語法としてこれらの要件を付加3要件、と呼びます。なお、③法律上の根拠、については説明の便宜から第4回で扱います。第1回、2回が処分性という論点の「基礎」だとすると、今回は「応用」で、ちょっとだけ難しくなります。が、その分、出題可能性が高い、ということでもあります。

 さて、これらの付加的な要件(要素)を処分性の定式(最判昭和39年10月29日)の中でどう位置づけるかについては、色々な考え方があります。

各先生の整理

塩野先生行政法2 -- 行政救済法 第六版

格別、要件を詳細に分割しているわけではない。基本的には、処分性の定式を①公権力性、②法的効果、③法律上の根拠の3要件と把握していると思われる。「国民との間に直接の権利変動があるかどうか(外部直接性)」、「一般的抽象的な権利義務ではないか(個別具体性)」は②法的効果がある、といえるための要素と把握されている。なお、芝池先生も同じ。予備校本でも、趣旨・規範ハンドブック〈1〉公法系は、塩野先生等の整理に依拠した記載だったような気がします。

中原先生基本行政法 第3版

処分性の定式の「直接」という文言から、④直接性という要件をくくりだしている。同要件の役割は内部行為を排除するものとし、代表的な判例として、消防長同意取消事件判決 ケースブック行政法 <第6版> 11)を挙げている。次に、⑤具体性も別要件としてくくりだし、行政立法だけでなく、行政計画にかかる浜松市区画整理事業計画判決ケースブック行政法 <第6版> 11)も、具体性の問題としている。つまり、5要件説です。

土田先生基礎演習 行政法 第2版

中原先生が④直接性、とした要件に、④外部性、という名前を与えている。確かに、内部行為を排除するのだから外部性という言い方はわかりやすい。そして、中原先生が⑤具体性、とした要件に、⑤直接性、という名前を与えている。同要件の役割は、中原先生と同様、権利義務の変動が一般的抽象的な行政立法・行政計画を排除する、というもの。しかし、そうだとすると中原先生の⑤具体性という用語の方がわかりやすそう。いずれにせよ、中原先生とはネーミングの違う、5要件説といえる。

※なお、③法律上の根拠を、ことさらピックアップしない書籍が多く、要件の数は上記マイナス1、と表現しているものも多くあることにご留意下さい。

筆者の整理

 このように、各先生の整理が異なるので、受験生は困ります。で、結局、何をどうあてはめるの?となるはずです。結論から言うと、理論的には(当然ですが)全ての先生の整理はどれも正解で、どの見解をとっても、結論に影響はありません。まさに、整理の仕方が違うだけです。よって、受験生は使いやすい整理・枠組みを自分なりに準備しておけば良いというわけです。

 筆者は、前回の記事(処分性の考え方2(公権力性&法的効果))で述べたとおりで、平時(?)は基本3要件で構えておき、随時、細かいあてはめに必要な要件を持ち出す(最大で6)という戦略が書きやすい、と思っています。土田先生も、同様の見解だと思われます基礎演習 行政法 第2版95頁)

なぜ付加3要件が必要か?

 要件を整理するにあたって、付加3要件がなぜ必要(となる場合がある)かを、理論的におさえておく必要があります。これについては、基本3要件とパラレルに、取消訴訟の特徴と意義から導出される、と考えると良いと思います。なお、取消訴訟なんて忘れちまった、という方は下記記事をご覧下さい。

紛争の成熟性-「十分な」法的効果

 そもそも、②法的効果という要件は、「取消訴訟という過去の行為に対する訴訟を認めているんだから、それが使いたかったら、現在の権利・義務に変動が無くっちゃ困るよ!」という、訴えの利益の問題でした(上記記事参照)。処分性の定式(最判昭和39年10月29日)の文言で言えば、「権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること」という部分です。

 そして、この法的効果が「あると言えばあるし、無いと言えば無い」という微妙な事案も多々あります。そこが論点となった判例もたくさんあります(下記記事参照)。

 民訴でも、訴えの利益の有無は一大論点ですよね。基本的には、それと同じことです。訴えの利益を認めるためには、②法的効果は、「十分な」「はっきりとした」「ビシッとした」ものである必要があります。よく登場する別の用語法によれば、「紛争の成熟性があるか」とも表現されます。まあ、修飾語をいくら並べてもよくわかりませんが、大丈夫です。むしろ、これまでの判例を読み、下記のようにグルーピングするとで、「ああ~こんな感じの法的効果があれば、処分性は認められるんだな」とわかるようになります。

付加3要件の意義

 この、「訴えの利益を認めるほどの②法的効果が存するか」、をより細分化して吟味するための要件-下位規範として機能するものが、付加3要件です。つまり、法的効果は、④外部的かつ(内部的でなく)⑤直接的なもので(段階的行為のうち途中の行為ではなく)、さらに⑥個別具体的(一般的・抽象的な権利義務ではない)である必要がある、とされているわけです。

 ここまでの理解を、ツリー図にすると、こういう感じですね。

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 この「体系的な理解」を踏まえて、各要件の解説をしていきます。

④外部性

④外部性の意義

 まず、行政庁の行為が内部行為に過ぎず、十分な法的効果が国民に及んでいない、として処分性が否定される場合です。イメージとしては、「法的効果が、まだアナタのところに届いていないでしょ」という、法的効果を受ける客体の問題です。主に通達、訓令等で問題になります。

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論証パターン

 筆者は、用語法としては、わかり易さ重視で土田先生の整理に依拠し、④外部性と呼んでいます。なお、処分性の定式との関係で言えば、「国民の」という文言が外部性を表現している、と読めないことも無いと思います。早速ですが、論パ(のようなもの)を。

 行政機関の行為が何らかの法的効果を発生させるにしても、解釈上、内部又は相互間の行為にとどまる場合は、未だ直接「国民の」権利義務を形成させるとはいえないから、処分性は否定される場合がある。

④外部性にかかる判例の整理

 前回の記事と同様に、判例をグルーピングしていきます。なお、判例はもっとたくさんあります。自分で「この判例はなんで処分性を肯定 or 否定したかな~」と考えながらグルーピングすると、大変良い勉強になります。

外部性を否定した判例

・建築許可に際しての消防長の同意(最判昭和34年1月29日・ケースブック行政法 <第6版> 11・消防長同意取消事件判決)
∵同意がなければ建築確認を受けられないとしても、同意は知事に対する行政機関の相互の行為に過ぎず、法的効果は間接的でしかない

・墓地埋葬等に関する通達(最判昭和43年12月24日・ケースブック行政法 <第6版> 1)
∵通達は上級行政機関による命令にすぎない

⑤直接性

⑤直接性の意義

 次に、行政庁の行為が段階的なもので、後続の行為が予定されている場合、中間的な行為は「法的効果が、まだアナタのところに届いていないでしょ」として処分性が否定される場合があります。法的効果を時間軸でみた場合の問題で、主に行政計画で問題となります。

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 中原先生は、これを⑤具体性の問題としていますが、筆者はこれも土田先生の整理に依拠して、⑤直接性と呼んでいます。ただ、土田先生と異なるのは、後述の通り、条例制定行為や、行政立法にかかる判例・論点は⑥個別具体性、と独立させている点です。

論証パターン

 なお、処分性の定式との関係で言えば、まさに「直接」という文言がこの要件に対応します。では、論パもどきを。

 段階的行政過程において、後続の処分が予定されている場合は、個人の権利義務に間接的な法的効果を与えるに過ぎず、処分性が否定される場合がある。

完結型・非完結型区分論

 段階的行政過程においては、非完結型計画においては処分性を認める余地がある-完結型計画においては処分性は認められない、という理解が有力です(後掲の浜松区画整理事業計画事件・藤田補足意見参照)。このような考え方が権利救済の点から説得的かどうかはさておき(同判決の涌井意見参照)、試験との関係で言えば、完結型・非完結型区分論を押さえておくと使いやすいと思います。試験で余裕があれば、上記の論パに続けて区分論を規範に取り込むのも良いでしょう。やや応用的なテクニックですが、結論を見切って、これに規範を対応させるのです。「これは非完結型だな」と判断できれば、非完結型の規範を出しておき、対応させる、というものです。

 (処分性の定式→直接性の論パに続いて)
 非完結型計画においては、処分性を認める余地がある。後続処分を受けるべき地位に立たされるという点では法的効果があるといえる。また、後続処分がなされるか否かが不明確な場合や、取消の影響が計画全体に及ぶ故に事情判決がなされるなど、実効的な権利救済が図れない可能性があるからである。

⑤直接性にかかる判例の整理

直接性を否定した判例

・都計法に基づく用途地域の指定(最判昭和57年4月22日・ケースブック行政法 <第6版> 11・盛岡用途地域指定事件判決)<完結型計画>
∵用途地域指定の効果は、不特定多数に対する一般的抽象的なそれに過ぎないし、後続処分(違反是正命令等)を争えば権利救済に欠くところはない

直接性を肯定した判例

・土地区画整理法に基づく事業計画決定(最大判平成20年9月10日・ケースブック行政法 <第6版> 11・浜松市土地区画整理事業計画事件判決)<非完結型計画>

∵建築制限を受け、換地処分を受けるべき地位に立たされるという点で法的効果がある
∵換地処分等の取消訴訟を提起したとしても、事情判決となり実行的な権利救済に欠く

・都市再開発法に基づく再開発事業計画決定(最判平成4年11月26日・ケースブック行政法 <第6版> 11・浜松市土地区画整理事業計画事件判決)<非完結型計画>

∵決定は公告の日から土地収用法上の事業認定と同一の法的効果を生じ、地区内の土地所有者等は、自己の所有地が収用されるべき地位に立たされる

⑥個別具体性

⑥個別具体性の意義

A君「所得税率アップ(を決めた法案)は生存権侵害だ!取消訴訟を提起するぞ!」
Bさん「ちょっと待って。税率アップは私にも課されてるよ(一般的義務)。っていうより、稼いでも、払わなきゃいいじゃない(抽象的義務)。」
A君「何言ってんだよ!じゃあ俺の怒りはどこにぶつけりゃいいんだ!」
Bさん「払わないでいたら、そのうち滞納処分が来るから(個別具体的義務の賦課)、その取消訴訟を提起したら?」

 …とまあ、こんな感じです。個別具体性とは、「法的効果は不特定多数に課される一般的なもので、アナタ個人の具体的なものではないでしょ」として処分性が否定される場合のことを言います。法的効果の質の問題で、主に行政立法や立法そのもの(条例制定行為)で問題となります。

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 中原先生は、⑤直接性と⑥個別具体性は、いずれも権利義務が一般的抽象的な場合の問題である、という理解から⑤⑥をまとめて、⑤具体性、と呼んでいます。同じ理由から土田先生も、両者を⑤直接性、と呼んでいます。ということは、4要件説(③法律上の根拠も含めると5要件説)が受験界通説、といっても良いかと思います。

筆者の整理

 が、筆者は、段階的行政過程において、後続処分が予定されている場合-時間軸の問題(⑤直接性)と、後続処分だとかそういう問題以前に、権利義務が一般的抽象的なものでない-権利の質の問題(⑥個別具体性)は理論的にも、多少ベクトルが異なるのではないかと思います。前者は、ズバリ紛争の成熟性(狭義の訴えの利益)の問題で、後者は対象選択の適否、又は法律上の争訟性の問題も含まれているのではないか、と愚考してしまうのですね。

 また、処分性にかかる膨大な判例を整理して脳に収納する際にも、下位規範(概念)は有用です。あと、次回詳述しますが、適した規範を出して最短簡潔に論証を終えるためにも、下位規範の細分化は有用です。…という、受験政策上の見地から、敢えて⑥個別具体性、をくくりだしています。まあ、引き出しのラベルを一つ増やしたっていう感じですね。

論証パターン

 というわけで、筆者の中では、⑥個別具体性、は別要件です。この論点が出てくる場合、法定立に見えるけど、特定人に対する法執行と同視できるじゃん、というパターン(A)と、多数当事者につき、第三者効(行訴法32条)による合一的解決をしたほうがいいよね、というパターン(B)があります。その両方を使う場合もあります(横浜市保育所廃止条例判決)。直接性(非完結型 or 完結型)と同様に、結論を見切って、適した下位規範を用意しておくと良いと思います。

 法令・条例などは、一般的抽象的に権利義務を定めるものであり、個別具体的な法的効果を持たないから、処分性を否定すべきである。

(A)もっとも、当該法令に基づく具体的執行がなくとも、特定人に個別具体的な法的効果を及ぼす場合は、処分性を認め得る。

(B)多数当事者につき、第三者効(行訴法32条)による合一的解決の必要性が認められる場合は、処分性を認め得る。

⑥個別具体性にかかる判例の整理

個別具体性を否定した判例

・水道料金を改訂する条例の制定(最判平成18年7月14日・ケースブック行政法 <第6版> 1・高根町給水条例事件判決)
∵条例は、水道料金を一般的に改訂するものであって、限られた特定の者に大してのみ適用されるものでなく、処分と実質的に同視することはできない
∵特定の地域のみに適用される条例ではあるものの、(条例を「廃止」した横浜市保育条例事件と異なり)その適用範囲は特定地域の水道利用者のみにとどまらず、将来の利用者に対しても適用される

個別具体性を肯定した判例

・建基法に基づく二項道路の一括指定(最判平成14年1月17日ケースブック行政法 <第6版> 11・二項道路指定事件判決)
∵一括指定の方法であっても、個別の土地について建築制限等具体的な私権の制限は及ぶ

・保育所を廃止する条例の制定(最判平成21年11月26日・ケースブック行政法 <第6版> 11・横浜市保育所廃止条例判決)
∵条例は、保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に処分を待つことなく、その施行により現に入所中の児童等の特定の者に対して、当該保育所で保育を受けることを期待しうる法的地位を奪う
∵民事訴訟で勝訴したとしても、他の児童との関係で、保育所を存続させるかどうかで対応が困難となるため、第三者効による解決が合理的

小まとめ

 ここまでで6000字…疲れた…。全部読んでくれた方も疲れたと思います。ありがとうございます。これでも行間が全然広いと思うので、意味不明な部分は、コメントでご質問下さい。

 さて、こんだけわかれば、処分性のインプットとしては、90%完了です。次回は、触れているようで触れていなかった、③法律上の根拠、と全要件をまとめて脳にしまっておく方法、及び試験会場での使い方-アウトプットの方法を考察して、処分性の考え方、終わり!としたいと思っています。

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