そろそろ入学式シーズン、というわけで、法科大学院入学前にやっておくと良いよ!と思うことをまとめてみました。コメントでもご依頼があったので。
なお、筆者自身は、下記記事の通り、ほぼ何もしてませんでした。それでもなんとかなります。従って、本記事は「やらなければならない!」ことのリストはありません。「やったほうがいいよ」「やっておけばよかったなあ」と思うことのリストです。
1. 超ハードに頑張っている友人を作る
社会人10年の私が法科大学院(未修コース)に入学してまず感じたのが、大学院生のやる気があまりにも無いことでした。しかも、みんな良い子ですし(筆者はおっさんなのでどうしてもそう思ってしまう)、当の本人は頑張っているつもりなだけに、よりかわいそうです。大学生モードそのままなんですね。とにかく、気合が足りないのです(体育会系ですみません)。そのあたりのことは、こちらの記事もご参照ください。
一所懸命さを学ぶ
法科大学院に入学する方は、中央省庁 or 外資コンサル or 在京マスコミ or 出産前後の母親など、超ハードに頑張っている友人を今のうちに作っておくと良いと思います。で、入学後、彼らと定期的に連絡をとってみて下さい。多分、死に物狂い かつ 楽しく頑張っていると思います。死にそうだけど生き生きしているという謎の感じ。
大学院での学業は将来への投資であってすぐに成果が出るものではありません。しかし、少なくとも(いくばかの)税金を投入してもらって運営されているものであり、超ハードに働いている友人たちは、バリバリ稼いで税金を納めてくれているのです(専業主婦のお母さんも、間接的に納税しているといえます)。超ハードな仕事・子育てに負けない一所懸命さで勉強しなくてはいけません。
結果主義を学ぶ
法科大学院生はとかく行為主義的で、「こんなに勉強した」とか「この本読んだ」とか、あーだこーだ言いますが、下記でも触れるように結果が出せなければ意味がありません。要するに、定期試験等による成績です。
成績の悪い法科大学院生は「あの教授の試験問題は、誘導が悪すぎてとても答えられない」とか平気で言いますが、社会人からしたら噴飯ものです。教授は、成績をつけるという裁量を握る「お客さん」です。司法試験委員も、お客さんです。お客さんに評価されない-商品を買ってもらえない、サービスを利用してもらえなかったら、ビジネスならそこで終わりです。つまり、結果主義なわけです。
「うちの店が流行らないのは、客が味をわかんないからだ」というラーメン店主、「僕の事務所が流行らないのは、クライアントが僕の弁護方針をわかんないからだ」という弁護士、そんな人達になりたくないなら、結果主義を学ばなければなりません。
超ハードに働いている友人は、いち早く結果主義に触れているはずです。彼らから学ぶモノは多いと思います。
2. 読解力をつける
法科大学院生は読解が苦手
さて、1.は抽象論でしたが、2.は具体論です。法科大学院生をみていると、司法試験合格に必要な3つの能力、すなわち①理解力(読解力)・②記憶力(暗記力)・③表現力(文章力)・④以上の前提となる論理的思考力のうち、②はあるけど、④が弱く、①③がサッパリ、という方が多かったように思います。筆者は、②はサッパリだったけど、①③④に比較的優位性があったので、なんとか現役合格することが出来たと思っています。
読解力は、下記記事でも紹介したように、上記4能力の中でも、最も重要だと思います。問いに答えられないので。
また、そもそも読解力が無いと、基本書など法律書をバンバン読めませんから、インプットの効率という意味でも著しく不利です。読解力は一朝一夕につくものではないため、「こうすれば読解力がつくよ」とはなかなか言えません。が、様々な分野の(それなりに)難しい本を理解し、自分の言葉にしていく過程でだんだんとついていく、ということは間違いが無いように思います。そこで、思い切って、入学前に様々な分野の本を読むと良いように思います。入学したら、法律書しか読めませんからね。
本の紹介
筆者が影響を受けた本、何度も読み返す本はこんな感じです。いずれも論理構造がしっかりしており、法学にも良い影響があると思います。
- 作者: ブライアングリーン,Brian Greene,林一,林大
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 単行本
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文系でも「超ひも理論」がわかる!という本です。文章がとてもわかりやすいです。
加島先生は惜しくも亡くなられましたが、確か青山学院の英語の先生だったはずです。これも、短文で東洋思想を表現しているにも関わらず、文章が非常に論理的です。
ハーバード・ローのローレンス・レッシグ教授の初期作です。これは、一種の法律書ですね。読んだ当時、衝撃を受けました。
構造主義という考え方がある、ということ自体を知っておくべきですし、法解釈に与える影響も大きいと思います。できれば、レヴィ・ストロースとかも読んで欲しいです。
キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)
- 作者: J.D.サリンジャー,J.D. Salinger,村上春樹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/04/01
- メディア: 新書
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村上春樹さんの著作はどれもあまり好きではないのですが、この翻訳だけは大好きです。素晴らしい文章です。たまたまマッチしたのかな。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: マイケルサンデル,Michael J. Sandel,鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/11/25
- メディア: 文庫
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もはや古典になりつつありますかね。哲学は色々な意味で法学に非常に近いと思います。
- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
- メディア: 単行本
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昔から大好きだった本です。最近、また見直されているようですね。人間である以上-読むべき本かと思います。
3. なんとなく法律を知る
法科大学院からも、「入学前の準備として○○を読むように」等とお達しが出ていると思いますが、確かにまあ、入学後にショックを受けない、という意味で入門書を読んでおくのは価値があるかと思います。ここでのポイントは、あくまで「ショックを受けないために概略をつかむ」という程度にしておくことです。決して、本質的に理解しよう、なんて思わない方が良いです。アメリカ留学前に、英語の単語集を読む、という程度のものです。本質的な学修は、留学後にスタートします。
でも、そもそも未修の90%以上を占める法学部出身者は、入門書は読んでるだろう、と。入学後、法学の独特さに衝撃を受けることもなかろうに、とは思ってしまいますが…。
なお、入門書の選択ですが、
など、各科目のオススメ書籍リストで紹介しています。何か1冊読むなら、道垣内先生の入門書をオススメします。これは後からジワジワ効いてくる、名著です。
4. 到達すべきゴールを知る
法科大学院生の特徴として、(他の記事でもしょっちゅう触れますが)アウトプットを意識したインプットをしていない、ということがあります。これも社会人にとっては常識ですが、お客さんから回収できない(売価に反映できない)コストは、当然投下しませんよね。大学院生は、投下しちゃいます。要するに、無駄な勉強をしてしまう、ということです。
これを防ぐには、法科大学院入学初年度に到達すべきゴール、すなわち、書けるようにならなくてはならない答案を知っておく、ということは非常に有用だと思います。
こういった用途には、各科目のオススメ書籍リストでも紹介していますが、工藤北斗先生の実況論文講義シリーズが非常にオススメです。①模範となる答案と、②司法試験合格者が書いた現実的な答案が併記されていて、格好の見本となるからです。
当面は、②が書けるようになる、というのが初年度の目標です。初年度に②が書けるようになっていれば、間違いなくGPA(成績)で上位10%に入れます。反対に、上位合格を目指す方であれば、さすがに実況論文講義だけでは足りませんので、2年度以降は、もっと難しい演習書に乗り換えていきましょう。
入学前は、実況論文講義を読んでもチンプンカンプンだと思いますが、基本書を開いて同書の意味を理解しよう、とするだけでも大変価値があると思います。
まとめ
以上が、筆者が思う、法科大学院の入学前にしておくべき準備です。優先順位で言うと、1>2>4>3ですかね。とにかく、気合は大事です。なお、筆者は、社会人だったために1が、読書好きだったために2がもともと達成されていたかもしれません。だからこそ、3,4を(ほぼ全く)やっていなくとも、比較的学修がスムーズに進んだのではないかと思っています。