こんにちは、たすまるです。司法試験のスケジュールが発表されましたね。良かった良かった。最近は記事が全然書けていなくてすみません。言い訳ではないのですが(言い訳ですが)、コメントやお問い合わせフォームから質問が多数寄せられており、回答に忙殺されております。その中から、「他の読者の皆さんにも役立ちそうなもの」を記事にしておきます。
1. 参考答案(答案例)が違いすぎる!
たすまるさんへ 辰巳の論文過去問答案分析本を参考に勉強しています。 答案構成例と講師の答案と合格上位者の答案とで、書き方が大きく異なっているように思えるのですが(憲法)、基本的には答案構成例をもとに自分で書いてみるという方法でよいのでしょうか? (当たり前の疑問であったらすみません)
う~ん。悩む気持ちは良く分かりますね。形式面とはともかく、内容面ではそんなに異なることが書いてあることは稀ですが。これに対する私の回答がこちらです。
1-1. どの答案を参考にするか
参考にすべき答案とは、①客観的評価(得点、順位)が高く、かつ②主観的に良い答案だと思える(読みやすく、書きやすい)というものです。 ①は当然ですが、結構重要なのが②で、これを欠くと「自分にとっては書きづらい文章」なので、なかなか考え方・書き方が身につきません。答案構成例、講師答案、上位答案のいずれでも、①②を充たしていればOKです。
筆者の場合ですが、答案構成例=採点実感の焼き直しに過ぎないし、こんなの書ける人いない、講師答案=あまり波長の合うものが無かった(②不満足)、という訳で上位答案のうち気に入ったものを参考としていました。結局、答案構成例、講師答案、下位答案、不合格答案は全く読みませんでした。
論文式試験は、他人の猿真似100%でも、自分なりの文章100%でも間違いなく失敗します。自分的にしっくりくる良い見本答案を見つけることは非常に重要です。私の場合は、憲法ガールの大島先生や、行政法の土田先生、民法の山本敬三先生など、多くの先生・先輩・同級生の文章を見本としていました。
1-2. 参考にする方法
これまた学習者によって千差万別です。 私の場合は、書き方の習得はローの定期試験の過去問や、基本的な演習書(伊藤塾・赤本等)を数周することで終わっていました。
そうすると、過去問(ぶんせき本)の起案は「どれくらい書けるか腕試し」が目的だったため、そもそも起案する前に答案構成例を読んだりすることはありませんでした(ネタばらしになってしまうため)。 過去問の起案、上位答案との比較は「力試し・模試」のような側面があるため、個人的には「ネタばらし」はあまりおススメできません。もったいないように思います。 下記記事もご覧ください。
2. 書き方が徹底的にわからない!
各記事拝見させていただいております。特に教材紹介の記事は大変参考になります。 私は理系出身、社会人経験有り、未修コース2年生なのですが、今年度(2年生)を留年してしまいました。
(中略) 一部の教授達からは「普通の学生には言わないけど、君は書き方が特殊だし、問題文のうちの各論点の重要性の配分がわからないみたいだから予備校にでもいった方がいい」とも言われています。 自分でも、論証集をほとんど読んだことがない、論述を書いて誰かに添削されるといったアウトプットを期末試験までしていなかったことが大きな問題だったと反省しています。私は大学受験も他の資格試験も、高校の授業、市販のテキスト、市販の問題集で独学の勉強をしたことしかないので、予備校に行ったことがなく、正直予備校の講義がわかりやすいのか、予備校の論文問題講座がどの程度有益なのかわからず大変不安です。
(中略)自身で基本書と市販の問題集等で、どのように「問の求めている回答を求められている形式の論述ができるのか」アドバイスをいただけないでしょうか。または予備校等はある程度の道標を示してくれるものなのでしょうか。法科大学院、司法試験は、努力で合格できると思いますが、努力の仕方が間違っていると永遠に近い時間がかかってしまうと感じています。 誰でも点数が伸びる勉強法があるなどとは思っていませんが、30年近く生きてきて、初めて「何をどうしていいのかわからない」という気持ちになっており、途方にくれてます。 大変長文かつ、一般的な受験生に比べてレベルの低い質問で恐縮ですが、何卒ご教示願います
お気持ちは非常に良くわか(以下略)。こういった悩みはほぼ全受験生が抱えるものですね。私はいったん地頭を破壊して、優秀な友人の脳ー思考方法・書き方ーをコピーさせてもらうのが手っ取り早いです。
2-1. 予備校に通うべきか
さて、結論から言いますと、さっさと予備校に行ってしまうか、撤退してしまった方が良いように思います。 そして、予備校に行くなら、オンラインのような「緩い」ものではなく、毎週添削して激詰めされるようなスパルタ的なところ(お高そうですが…)が良いでしょう。 端的に言いまして、学習法を変えなければなりません。180度変えなければなりません。その転換を自分自身で成し遂げたい、成し遂げられると思うのであれば、予備校は不要でしょうが、できないのであれば予備校に通わざるを得ません。 筆者は、最初の学期が終了した時点で、「このままでは完全にアウト」と感じましたが、予備校嫌いだったので、T君という想定上位合格者(予想通り上位合格)を捕まえて、勉強法を抜本的に見直しました。
2-2. 問いに答えられているかの確認
これは法科大学院生であれば、とても簡単なことです。定期試験のたびに、優答や成績最上位の同級生の答案を見せてもらい、自分の答案との(圧倒的な)違いをよく分析することです。
2-3. 書きまくること
2-2.の前提として、とにかく答案を書きまくることです。良い知識が揃っていればー例えば、論証集を一冊丸暗記すればー良い答案が書けるわけではありません。 素材の知識、工法の知識、設計の知識があったからといって、一発で自動車を製作できるわけではありません。 ①答案(製品)を書きまくる ②同一条件にも関わらず、より優れたパフォーマンスを発揮する答案(製品)と比較・分析する という考え方は、ごく一般的なエンジニアリング(製品開発)の一手法と特に変わらないように思います。
3. 書き切れない!時間が足りない!
(中略)自分は論文を書くスピードに問題があると考えています。そのために必要な答案構成のスピードが遅いことが悩みです。まっちゃさんもお聞きになられていましたが、答案構成のスピードを上げるため、時間内に書ききるために、お気を付けておられた点がありましたらお聞かせいただければ幸いです。
また、私は1度司法試験に落ちているのですが、再受験にあたって合格者の方から、もっと条文を大切にするように、とよくアドバイスをいただきます。たすまる先生にとって、「条文を大切にする」とは論文においてどのようなことを想起されますでしょうか。 ご多忙の中、誠に恐れ入ります。
3-1. 時間内に書ききるために、
お気を付けておられた点とのことですが、筆者が気を付けていたのは「時間内に書き切る」ということです(笑)。逆説的ですみません。
敷衍しますと、「絶対に書き切るぞ!と思ってるのに、途中答案になってしまう」「自分はスピードが遅い」と言っている人の80%以上の人が、ムダな事を考えたり、ムダな事を書いたりしています。その実、「時間内に書き切る」ということをたいして気にしていない-意識が低いわけです。
そもそも、答案は知的レベルとして大したことが書いてあるわけではありません。にもかかわらず、途中答案-その論理的・知識的未完成物を提出するなんて行為は、言語道断、極悪非道、前代未聞の絶対悪です!!パン屋にいったら小麦を出されたくらいひどい話です!! … と、まずはこれくらいの罪悪感を持っておきましょう(笑)。
その上で、絶対に途中答案を書かない、途中答案を提出する位であれば破り捨てる(提出しない)、と自分の心に誓います。この精神論は意外と重要です。とにかく、途中答案を書かないことは最優先目標なのです。 常日頃こういう意識で勉強していれば、自分の答案と優答を見比べたときに、自分がいかにムダに考え、ムダに書いているかがわかってきます。それを一つずつ地道に潰していくだけです。
以上が完全な精神論でして、具体的な方法論は人により千差万別だと思います。筆者の一例は、下記記事などにあります。
なお、筆者は答案構成はほぼしていませんでした(脳内で軽くするだけ)。自分にとってはムダだったからです。自慢ではないですが(自慢ですが)、ロー1年前期に一度途中答案を書いて以来、一度も途中答案はなく、いつも残り1分30秒くらいで書き終えます。
3-2. 「条文を大切に」の意味
これは法律の条文でご飯を食べるという法律家として至極当然のことです。ソムリエに、「このワインおいしいですね」と言うと、まずは産地について教えてくれるでしょう。ワインの主原料のブドウは、育った土壌・天候に大きく影響を受けるからです。 これと全く同じで、法律家は、「こんな紛争があるんですけど」と言われたら、真っ先に条文をあげる、というだけの話です。ほとんどの紛争は、特に解釈を要せず、条文を適用すれば解決するからです。
言ってわかるならみんな条文を大切に-マメに適示するはずですが、そうならないのは論点主義の弊害かな、と思います。来週(くらい…)にアップ予定の添削記事をご覧になって戴ければ「いかに条文を大切にしていないか」がよくわかると思います。 まとめノート、要件を充たしましたら、送付致します。→ 結局まだ書けておらずすみません…
4. 強盗致傷罪の主観的要件について
今回は強盗致死傷罪について分からない点があり、コメントにて質問させて頂きます。 強盗致死傷罪の死傷結果の原因行為は「強盗の機会」に行われたものであればよいという機会説が通説、判例とされていますが、この説に立脚した場合に原因行為の主観的要件は最低限どのようなものが要求されるのかが分かりません。
基本刑法では暴行・脅迫の故意必要説が通説とされていますが、「暴行・脅迫の故意がある場合に限定されるとする理論的根拠は必ずしも明らかではない。」ともされており、結局論述する際に、どのように理由づけをすべきかが分かりません。手持ちの基本書、問題集等の解説を確認しましたが、この点について明確に述べているものはなかったように思います。機会説では原因行為の範囲が広くなってしまうことから、主観面で限定するという狙いであること、240条の「負傷させた」「死亡させた」という文言から暴行の故意に限定する必然性はないことなどは、どの本にも記載されているのですが、暴行と脅迫の故意を要求する理由づけにはならない気がします。かといって、原因行為が「強盗の機会」に行われていればよく、主観面では過失しかない(例えば逃走中に不注意で床に寝ている乳児を踏み付け死傷させた)といった事案にまで、強盗致死傷罪の成立を認めるのは妥当ではないため、主観面で成立範囲を限定すべきではあるとも思えて、考えをまとめることができずにいます。
たすまるさんは、この論点についてどのように論述されていたか教えて頂けないでしょうか。 お忙しい中恐縮ですが、ご回答頂けますと幸いです。よろしくお願い致します。
ぬおぉ ゴリゴリの論点質問ですね。法科大学院でよくこういう会話しました。質問者さんはマジメですね。筆者はだいたい正しそうなことしか書かなかったので、「まぁ変だと思われなければいいや」と、真理の追究を緩めていました(笑)。なお、回答は「広げて(深めて)」→「まとめる」という勉強法の基本を再現しています。
4-1. 回答案(広げて)
4-1(a). 暴行の故意が必要か
従来の通説(=ほとんどの場合団藤説)は、少なくとも、暴行の故意が必要としています。 理由としては、①240条前段は「負傷させた」と規定しており、過失犯を含むと明示していない以上、38条1項との関係で、少なくとも傷害罪(240条)の要件を具備する必要があると考えられる。傷害罪は(通説的には)暴行の結果的加重犯なので、暴行の故意がなければならない。 ②後段の「死亡させた」という文言も、上記①と同様に解釈すれば、少なくとも暴行の故意は必要、となる訳です。
4-1(b).脅迫の故意は含まれるか
団藤説は、上記の通り暴行の故意必要説ですが、近時の通説(井田、山口両先生など)及び裁判例は脅迫の故意も含むとしています。 理由としては、①刑事学上、脅迫を原因とする死傷は強盗の機会に多く発生すると言えるところ、強盗致傷・致死罪の人身犯的側面からは保護すべきといえること、②「負傷させた」「死亡させた」という文言は、脅迫の故意を除外すると解釈する必然性がないこと、③被害者が暴行から逃れようとして負傷すれば強盗致傷罪が成立するのに、脅迫の場合は成立しないとするのはバランスを失すること(出た!バランス論)、が挙げられます。
4-1(c). 過失は含まれるか
このように、旧来の通説、最近の通説ともに、暴行(+脅迫)の故意は必要と解します。非常に重い240条の刑罰を課すには、責任主義の観点から、少なくとも予見可能性は必要と考え、過失は除外するのでしょう。
4-2. 論証パターン(まとめる)
さて、このような学説の考えで納得できますでしょうか。筆者には、「なんだぁ、結局、処罰範囲の限定とバランス論が決め手となって、暴行・脅迫の故意に限定、としているだけじゃないの」という感想です。根性が曲がってるのでしょうかね。
それでも、 A:自分なりに納得でき B:採点者も納得させられ C:かつ、シンプルで素早く展開できる という三要素を備えた論証パターンにしておかなければなりません。それが受験生の務めー勉強の王道ー広げて、まとめるです。という訳で、筆者ならこんな感じにしておくでしょうか。
(問題提起)主観的要件については、暴行・脅迫の故意が必要と解する。本罪の人身犯的側面からすれば、脅迫の故意も含むべきである。一方で、責任主義を重視し、過失を除外すべきだからである。
これは機会説に立った場合の苦しい論証ですが、上記の通り筆者は納得していません。しかし、これで一応の点数は来ます。それが試験です(笑)。筆者は山口先生の拡張手段説が好きですね。客観的要件も、主観的要件も、スッキリ説明できるからです。
4-3. 勉強法について
>手持ちの基本書、問題集等の解説を確認しましたが
とありますが、複数のテキストをお持ちで、かつ比較対照されていることで、素晴らしい勉強法だと思います。ぜひ継続して下さい。 かっしーさんが優秀で、かつ素晴らしい勉強法をとられている=司法試験には楽々合格する、という前提で言いますが、余裕があれば、「手持ち」だけでなく(このご時世厳しいですが)図書館、またはAmazon中古格安書籍にも手を広げて勉強してみてください。
と言いますのも、上記の筆者の説明は、大塚裕史先生の「刑法各論(総論)の思考方法」197頁以下によるものです。 同書は筆者の受験生時代にも既に絶版でしたが、網羅的でわかり易い説明(=辞書)として名高かったので、高かったのですが、敢えて中古本を購入しました。それが今役立つ、という訳です。
また、山口先生の基本書も(山口説ではありませんでしたが)所有しているので、上記の通り、大塚先生の説明でも納得できなければ、(多少カスタマイズして)山口説に「逃げる」こともできます。
このように、様々なテキストに振り回されるのではなく、うまく利用する勉強法としては、下記記事も参照してみてください。
5. 参考答案(答案例)の無い演習書の使い方
(筆者注・商法についての質問)特にlawpracticeシリーズなどのように、解答例が付いていない演習書において演習する場合、どのように用いればよいのでしょうか? 問題文から論点を抽出、それらの論点について書けるか、を確認した上で、解説を読んで抽出した論点についての理解が合っているかどうかや、そもそも全ての論点を抽出することが出来ているの確認する、といった使い方になるのでしょうか?
5-1. 原則ー答案例付きから始めよう
司法試験に必要な能力は、理解力ー論点に対する理解・知識だけでなく、それを答案にする表現力です。「良く知っているのに書けない」受験生はたくさんいます。
答案例の無い演習書は、「一応の答案作成力-特に問題提起のやり方や、法的三段論法ーはある」という前提で書かれています。そうしますと、本当の初学者の場合、または当該科目に自信が無い場合は、最低限の答案作成力を身につけるのが先決です。
従って、そのような場合は本記事でも紹介している通り、「論文演習会社法」か、または工藤北斗先生の「実況論文講義」シリーズから進められるのが良いと思います。
5-2. 商法の演習書
もっとも、商法は民法の特別法で、その答案の作法もほとんど変わりません(商法の方が条文操作で解決できる問題が多いという程度)。そして、通常、商法は民法の後に学ぶものです。 従って、民法の学習において答案の作成力が(ある程度)ついたな、と感じられる方はLaw Practiceから入っても全く問題ありません。筆者はまさにそういう感じでした。
5-3. Law Practiceの使い方(補足)
本書の(ような答案例がついていない演習書)使い方は、ゆーきさんご指摘の通りです。一番重要なのは、全ての論点を抽出することができているか(筆者の用語法では「問題発見」)、ですね。 特に商法の場合は、上述の通り、「前提となる条文操作を全部綺麗に終えているか」が大切ですので、そこを飛ばさないようにご留意ください。その辺りも注意して同書の解説も読んで下さい。
そんなところです。原告適格の書き方、答案添削シリーズ、重判ランク付けなどの記事はしばしお待ちください~。