※2020年3月22日追記 改訂されましたね!
・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い
・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的
・範囲が 深掘り的 ★★★★★ 網羅的
・文章が 書きづらい ★★★☆☆ 論証向き
・司法試験お役立ち度 ★★★★★
・ひとことで言うと「これとリークエで商法は完璧」
会社法の演習書はどれがいいの?
あけましておめでとうございます。新年最初の投稿も書評です。さて、商法好きの筆者は、とりわけふか~い問題意識に触れるのが好きでして、江頭先生の株式会社法 第7版どころか、大隅=今井先生の新会社法概説 第2版も読了し、演習書は、会社法事例演習教材 第3版 や、定評ある
もこなしました。両書をやれば、かなりハイレベルな問題意識に触れることができます。しかしながら、結局のところ、司法試験の商法は、民法・民訴法以上に、基本的な事項がきちんと理解できていることが重要と思います。とりわけ、条文操作ですね。
会社法の「基本的事項」の範囲
平成30年司法試験で言えば、設問1(会計帳簿閲覧請求権)はまぁ、誰でも最低限のこと(要件へのあてはめ)は書けます。反対に、設問3(相続人に対する株式売渡請求)は、条文は知っていてもかなり問題意識が高いので、手も足も出なかった人も多いかと思います。
明暗を分けるのは設問2です。特に、小問1(株主総会決議取消の訴え)を論じる際、取消原因として、120条1項違反を挙げられた人が(身の回りでは)意外と少なかったのに驚きました。
設問1(25点配点)と設問2(50点配点)が、まあ6割くらいできていれば、設問3はほぼ白紙でも合格できるわけです。設問2・小問1で、取消原因として、120条1項違反を挙げられること、これが商法の押さえておくべき「基本的な事項」であり、これを身につけるのが商法の試験勉強だと思います。
Law Practice 商法の内容
Law Practiceシリーズ中でも、最もよくできているのがこの商法、次いで民訴法、後は、まだ発売されていませんが、(執筆陣などを伺う限りは)刑訴法が良いと思われます。民法も良いのですが、さすがに問題数が多くて(計3冊)、大変です。
Law Practiceシリーズは基本的な事項の網羅に重点がおかれており、本書も会社法だけで54問、商法総則・商行為法で8問と、網羅性は最も高い演習書の一つと言えます。計62問のチョイスも的確です。会社法大好き人間としては、2版と比べると、個別株主通知の問題(百選17・メディアエクスチェンジ事件)が削除されてしまったのが残念ですが、それくらい、掲載される問題が厳選されているということです。なお、同事件は会社法判例百選 第3版 (別冊ジュリスト 229) の川島先生の解説が素晴らしいので、必読です。
本書は、網羅性が高いだけでなく、レベルの設定も適切です。まさに、「司法試験で問われ得る範囲」に問題・解説をとどめているのが素晴らしいです。
例1・120条1項違反と総会決議取消
例えば、平成30年司法試験で出題された、上述の120条1項の論点も、問題11(利益供与)の中で、きちんと触れられています。
会社支配について争いがある状況下で…(中略)会社が議決権を行使した株主に対し…Quoカード1枚を交付したことが、株主の権利行使に関する利益供与に当たるとされた事例があり(モリテックス事件の簡潔な解説)、この事例においては…利益供与に基づく議決権行使による総会決議の瑕疵が問題とされている。
本問(1)において…債務を肩代わりすることと引き換えに、会社提案に賛成することを以来し…これは、株主総会決議について、どのような瑕疵と考えるべきだろうか…取消原因であるとすれば、会社法831条1項各号のどれに該当するのかを検討してほしい(本書62頁)。
まさに、ズバリですね。解説も、長すぎず(深すぎず)、短すぎず(浅すぎず)、素晴らしいと思います。基本レベルの演習書として広く知られている本書で言及されているのですから、出題されても文句は言えません。
例2・相続人に対する株式売渡請求
難問と言える設問3についても、言及があります。
(「相続人等に対する売渡請求制度の危うさ」と題して、株主がA・Bの2名しかいないX会社を念頭に)…株主総会で議決権を行使することができるのは、Bのみであり、Aの意図とは反して、Aの相続人をXから排除することができる。…例えば、A保有株式の半分のみについて、売渡請求を行えば、BはXの議決権の過半数を保有することになるが、このような売渡請求を行うことは適法であると考えられるであろうか(本書74頁)。
著者の中東先生も、発展的な問題と捉えられていて、どう考えるか、という問いかけとなっています。つまり、司法試験委員会の問題意識に、ピッタリと合致しています。
Law Practice 商法の用途
私は、司法試験に必要な知識を得るには、本書と
で十分足りると考えています。上記の事例で考える会社法 第2版 (法学教室ライブラリィ) をやっている、という方もかなり多いと思います。同書も大変よい本です。が、正直言って、「事例で考える」の問題意識(例えば、齊藤先生執筆の429条論等)についていけている人がどれだけいるのか、疑問です。上記で述べた通り、本書でも司法試験委員会の問題意識には十分達することができます。ただし、(当然ながら)きちんとやり込むことが必要です。本書からの問いかけは、司法試験委員会からの問いかけだと思って、細かい問いにも自分なりの答えを用意しておきましょう。
120条1項の論点は問いかけで終わっていますが、私は大変よくできる後輩から「その論点、新基本法コンメンタール 会社法1 第2版 に載ってますよ」と教えられて、自分の論証集に反映させています。そりゃあ、司法試験でも書けるはずです。これらも含めて、平成30年司法試験商法については、再現答案も含めてまた記事にしたいと思います。
以上の通り、本書は、初学者から上位合格を狙う方まで、幅広く対応できる商法演習書の決定版です。解説もあてはめを意識した大変わかりやすいものですが、(Law Practiceシリーズはいずれもそうですが)参考答案は載っていません。「民法は書けるのに、会社法の答案が全く書けない。答案の流れがわからない」という超・初学者の方や、答案(特に事実の評価)の言い回しを学びたい、という方は超・有力な対抗馬として、
をオススメします。もっとも、同書は上下巻揃えると高い、解説や網羅性はLaw Practiceの方が上、と思いますので、迷っている方は、とりあえず本書を購入すると良いと思います。