だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

憲法 事例問題起案の基礎と「答案の書き方本」

憲法 事例問題起案の基礎

憲法 事例問題起案の基礎

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「憲法答案の『作法』マニュアル」

 

 こんにちは、たすまるです。なんとなんと、今日は司法試験の発表日なんですね。皆さんウズウズしているかと思いますが、気晴らしに本ブログでも読んでください。あと、読者で合格して嬉しい方、不合格で悲しい方はバンバンご報告して下さいね!一緒に喜んだり、慰めたりします。

 「答案の書き方」の四つの意味

 さて、本ブログでも散々触れて来ましたが、「知識はあるけど答案の書き方がわからない」という悩みは法律を学習したことがある人なら誰でも一度はぶち当たる壁です。そこで「答案の書き方」とは言っても、その意味する内容は四つ(ほど)に分かれると思います。

  1. そもそも法律答案の書き方
  2. 各科目の答案の「型・作法」
  3. ある事実を前提にしたときに、持ち出すべき条文・規範
  4. 事実を規範にあてはめる方法

法律答案の書き方

 1.は、めちゃめちゃ簡単に言ってしまうと、「問いに答える」という全ての「答案」に必要な要素と、「法律」に独特なものとして、法的三段論法である、ということになります。法的三段論法については、下記記事をご覧ください。

持ち出すべき条文・規範

  次に、3. はなかなか「方法論」としてまとめることが困難なもので、批判を承知で言えばそれは「センス」だと思います。適切な条文をひき、適切な問題提起をするには、①条文・規範の確実なインプット、に加えて②問題発見クイズをやりまくることでセンスは養うしかない、というのが筆者の(一応の)結論です。②については、下記記事をご覧ください。

 あてはめの方法

 これについては、あてはめに特化したテキスト-筆者の造語「あてはめ教科書」や、事実の評価・あてはめに言及している演習書、及び優秀答案から地道に学ぶしかありません。本ブログで紹介した書籍でいうと、このような本です。

各科目の「型・作法」

 これらの要素に加えて、法律答案では、各科目の「型」-独特の作法のようなもの、が要求されます。民法では、請求権の所在から書き始めると書きやすい、刑法は客観→主観、等です。民訴法では、基本概念からの演繹的思考を示すことが重要であることについては、下記記事もご参照下さい。なお、「型」というとなんだかソリッドな気がしてあまり好みではないので、以下「作法」と言います。

 そして、憲法についてはこの「作法」習得がとにかく難しい!というのが受験界通説です。私もそう思います。この「作法」を防御権と三段階審査に絞って解説しようとして途中で挫折しているのが、下記記事です。

憲法 事例問題起案の基礎の内容

作法マニュアル

  さて、ここまで書くとおわかりだと思うのですが、本書は法科大学院の教員の先生方が、「最低限守って欲しい、というより守った方が良い答案かけるよ」という2.作法1.の法的三段論法でも、3.の条文・規範選択でも、4.のあてはめ方でもないことには留意ーを網羅的に解説した本です。

圧倒的な薄さと網羅性

 本書の最大の特徴は、まず約100頁と圧倒的に薄いことです。まさにマニュアルです。というかパンフレットの域に達しそうです。にもかかわらず、防御権、積極的権利、平等、政教分離という(大きく作法が異なる)4分野についての書き方をきちんと解説しています。筆者が数千字以上を費やして防御権だけの満足な解説ができないことと好対照です。さらに、主張方法の違いー法令違憲、適用違憲や、審査方法の違いー適用審査、文面審査についても章を立てて解説しており、作法マニュアルとしてはほぼ完全な網羅性を実現しています。

ハイブリッド審査基準論

 まず、そもそも「どんな作法をとるか」という大問題があります。刑法なら行為無価値 vs 結果無価値、憲法ではアメリカの審査基準論 vs ドイツの三段階審査論です。本書は両論につき軽く触れてはいますが、基本的には審査基準論を採用しています。もっとも、良い答案を書くための作法としては、

三段階審査論にいう「保護範囲」と「制約」という論証の形式を便宜的に借用することが非常に有益である(本書19頁)

 として、「保護範囲」「制約」論証を借用することで説得的な問題提起をすること、及び審査密度≒審査基準の設定機能をもたせることを推奨しています。

 受験生としては、「審査基準だろうが、三段階審査だろうが、良い答案が書きやすい枠組みなら何でもいいよ」というのが正直なところです。そうすると、

  • 事案を精緻に分析し、審査の厳格度に反映させるためには、三段階審査論の「保護範囲」「制約」論証が必要
  • もっとも、「正当化」においては、三段階審査論の比例原則よりも、審査基準論の方が覚えやすい&使いやすい

 という訳で、憲法でコストパフォーマンスを追求するのであれば「三段階審査+審査基準」のハイブリッド論証に落ち着くのが受験界多数説だったのではないでしょうか。少なくとも筆者はそうでした。本来、全く別の法体系・歴史をもつアメリカとドイツの違憲性判断方法を接合させるのは「良いのかな~」と若干ドキドキしながら論証していたものです。が、本書はあっさりハイブリッド論証でいいよ!と認めてくれました。

 この、最も受験生フレンドリーな、ハイブリッド審査基準論を作法として(明示的に)採用していることに、本書第一の美点があります。

使う学説しか紹介しない

 驚異的な薄さを実現するためには当然なのですが、学説の対立・深掘りにはほとんど立ち入りません。例えば、私人間効力の問題があります。直接適用説~間接適用説~無効力説~基本権保護義務論というやつですね。しかしながら私人間効力は理論的には超重要だとしても、実際の訴訟そして答案で争点化するとはとても思えない論点で、答案上はできれば1行、長くて2行におさめたい代表的な論点です。という訳で、「作法マニュアル」たる本書では、なんと私人間効力についての記載すらありません!思い切ってます。

 一方で、制度後退禁止原則、アファーマティブ・アクション、エンドースメント・テストなど、多少難しくても使う可能性あるよね、という学説にはばっちり言及しています。このバランス感覚も本書の素晴らしいところです。

参考文献アウトソーシング

 本ブログの各書評でも触れてきましたが、近時の優秀なテキストがなぜ薄いかーと言いますと、優秀なテキストがどんどん増えてきているゆえに「脚注・参考文献」といった形で、外部のより詳しい教材に説明をぶん投げアウトソーシングできるからです。本書も、類書同様、参考文献アウトソーシングがとても上手です。よく引用される参考文献としては、

 などがあり、いずれも良書ですし、引用する箇所のチョイスも最高です。例えば、制度後退禁止原則って結局何なの、どう使うの論ですが、筆者は

 法令・基準がある基準額を最低限度の生活として設定した以上は、その厳格は最低限度の生活水準を下回ることになる蓋然性が高いので、裁判所が事実に即して実質的に審査すべきである(宍戸・応用と展開 173頁)

 という宍戸先生の名文を(ほぼ)そのまま論証として使っていました。要するにやや厳格な適用審査、または主張立証責任の転換を要求するというイメージです。本書も全く同様の個所を引用していました。なんだか、密やかに見つけた宝物が公に引きずり出された感じもして、若干ジェラシーです。そんなことないか。

憲法 事例問題起案の基礎の使い方

 という訳で、かなり!魅力的な本書は、受験生の憲法答案の作法のデファクトスタンダードとなりそうです。ただ、とっても薄くて切れ味抜群の包丁、といった感じなので、使い方にはやや注意が必要かと思います。

最低限だが簡単ではない

 まず、本書は「起案の基礎」というタイトル、100頁という薄さからわかるように、本書はまさに

答案練習会で憲法の起案をする度に低い評価しか貰えない学生を念頭に、「ホームラン答案」とは言わず、せめて司法試験で他の科目の足を引っ張らないレベルの答案を書けるようになることを目標にして作成した資料(本書「はじめに」)

 です。つまり、扱っている作法の内容は、まさに最低限のものです。もっとも、司法試験・憲法では最低限の内容すら書けない&書けないことに対する不安から、問題発見もままならず論点落とし答案が続出します。個人的な感想では、本書の内容が当然だよね、と流し読みできるのであれば公法系上位50%は確実かと思います。

 で、ここからが大事なのですが、内容が最低限だからといって、本書が簡単で分かり易いかというと、それはまた別問題です。上記の通り、本書は、徹底的に「作法マニュアル」に特化していますから、上記の通り、基本的な事項の説明は基本書にぶん投げているからです。

 例えば、平等における特別意味説については、こんなんあるよ、場合によっては使えるよ、という正確なアドバイスが記載されていますが、そもそもなぜ特別意味説が生まれたか、これをとるべき理由については「詳細は芦辺先生読んでね」という訳です。

 すなわち、本書を「作法マニュアル」として有効活用するには、基本的な事項についてきっちりと説明した基本書が必要不可欠です。

判例の言及が薄い

規範ストックの必要性

 次に、本書は判例の引用、言及がとても薄いです。例えば、数ある憲法判例の中でも最重要と考えられる薬事法違憲判決については一行も登場しません。

 もっとも、これは、本書のコンセプトからはしかたがないことです。上記の通り、「答案の書き方」については4つくらいの意味があるところ、本書は敢えて2.作法をシンプルに紹介する、ということに徹しており、そもそも人権各論において判例がどのような規範を定立したか、という3.条文・規範選択については本書の守備範囲外なわけです。反対に、作法、例えば積極的権利における原則的な判断枠組みー明白性の原則、を説明するために必要な判例(堀木訴訟)は当然に登場します。

 以上より、人権各論で適切な規範を引用できるようになるためには、本書とは別に、条文・規範をストックするための教材ー判例集、論証集の類がこれまた必要になります。

あてはめ練習の必要性

 判例の引用、言及が薄いことにはもう一つのデメリットがあります。それは、判例のもつ規範定立以外の側面ー事実の評価&あてはめを学べない、ということです。本書は、判例の引用が少ないのみならず、そもそも立法事実・司法事実への言及がほとんどありません。という訳で、あてはめを学ぶ教材、要するに演習書もまた必要です。

チームワーク編成例

 …という訳で、本書はとても良い本なのですが、守備範囲がとても狭いのです。ある程度知識がある人がみると、「すごくシンプルにまとまってる!」と感じる本なわけです。初学者がこの本を活用するためには、基本書は当然必要ですし、同じような「作法本」でも、小山先生の「作法」や、駒村先生の「転回」は分厚い分、1,3や4に対する言及が豊富なのとは好対照です。という訳で、本書は色々な意味で「これ一冊」とはなりません。一応、筆者の考える教材チームワークはこのような感じです。

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 すご~く理想的な勉強法を述べておくと、憲法学読本なりを通読したら本書に進み、同時並行で憲法の地図: 条文と判例から学ぶ(大島先生)で規範をストック、判例から考える憲法(小山先生ほか)であてはめを練習します。

 うまくいくと、やや本書や地図では物足りなくなってくるはずなので、上記の小山「作法」や宍戸「展開」の内容を本書に書き足してゆき、「地図」には「憲法判例の射程」の内容を書き足していきます。

 このようにして出来た本書&地図は、現状ではほぼ最強の「憲法まとめノート」となるように思います。

 なお、上記でご紹介した書籍の書評は、以下の記事をご覧ください。