だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

応用刑法(大塚裕史)

 こんにちは、ぺんすけです。

 僕の初投稿は、大塚裕史「応用刑法」の書評です。基本刑法の著者の一人が執筆した、司法試験用の論点解説書です。

法学セミナー 2015年 10 月号 [雑誌]

法学セミナー 2015年 10 月号 [雑誌]

法学セミナー 2018年6月号 761号憲法9条改正論の現在

法学セミナー 2018年6月号 761号憲法9条改正論の現在

「応用刑法Ⅰ-総論」(法学セミナー729号~760号)
「応用刑法Ⅱ-各論」(法学セミナー761号~連載中)

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「基本刑法の進化形態」

基本刑法だけでは不安なあなたへ

 司法試験向きの刑法の基本書と言えば、何といっても基本刑法が定番ですよね。

www.daitai.net

 もっとも、近年試験問題の傾向が変化したことによって、「従来どおりの勉強法で大丈夫だろうか?」という不安の声を小耳に挟むようになりました。

 平成30年や令和元年の試験問題は、「○○罪が成立するとの立場からはどのような説明が考えられるか」や、「この結果について刑事責任を負わないようにするにはどのような理論上の説明が考えられるか」といった、結論から逆算して理論を構築することが求められている点が大きな特徴でした。

 このような形式の問題は、判例や通説の規範を一つ覚えるというだけでは対応できず、学説を含めた複数の見解を理解し、それぞれの見解に沿ってあてはめる能力が必要とされます。

 この点、基本刑法は学説についても説明されていますが、判例以外の記述があっさりしているため、上記の能力を培えるのか不安に感じる方も少なくないと思います。

 そんな方におすすめしたいのが、こちらの「応用刑法」です。

応用刑法の内容

 刑法総論(各論)の論点を解説していくタイプで、形式は橋爪先生の「刑法総論(各論)の悩みどころ」に似ています。

複数の見解を丁寧に解説

 本書の特徴の一つは、判例「以外の」見解についても丁寧に説明されている ことです。

 たとえば、令和元年司法試験では、窃盗後の脅迫にのみ加担した共犯者について事後強盗罪の成否が論点となりました。

 この論点について、事後強盗罪が成立する場合としない場合(脅迫罪のみ成立する場合)に分けてそれぞれの理論構成を説明するためには、事後強盗罪の性質(身分犯か結合犯か)に加え、身分犯について規定した刑法65条の解釈や、承継的共犯についても正確な理解が求められます。

 本書では、この論点について、「事後強盗罪の共犯成立説の法律構成」「事後強盗罪の共犯不成立説の法律構成」に分けた上で、さらに「身分犯説からのアプローチ」「結合犯説からのアプローチ」に分類して、それぞれの見解の理由付けとあてはめを丁寧に解説しています(法学セミナー772号102頁以下)。

 ちなみに、この論点が記載された法学セミナー772号が発売されたのは、2019年4月です。司法試験直前に本書を読んだ受験生は強運としか言いようがありません。

論証向きな文章

 基本刑法の弱点の一つとして、文章が論証向きではないことが挙げられます。同書は、初学者でも刑法を理解できるようになることを目的としているため、論点についても基礎の基礎から解説されています。もちろんこれは素晴らしいことですが、一方で文章がやや冗長となり、答案に使うような論証には向いていないともいえます。

 これに対して、「応用刑法」は、刑法を一通り勉強した学生を対象としているため、簡潔で切れのある「論証向きな文章」になっています。

 中には、論証向きどころか「そのまま論証として使える文章」まで散見されます。どういうことなのか意味がわからないと思うので、一例として因果関係についての論証を挙げてみましょう。

因果関係は、偶然的結果を排除し適正な帰責範囲を画定するために判断されるものであるから、条件関係があることを前提に、客観的に存在するすべての事情を判断資料として、実行行為と結果との間に法的な関連性が認められるかを判断するものである(法的因果関係)。そして、実行行為は既遂結果に至る客観的危険性の認められる行為をいうので、法的関連性は、行為のもつそのような危険が結果に現実化したか否かという基準(危険の現実化)によって判断される(法学セミナー738号104頁より)

 こういうことです。受験生向けとはいえ、学者が書いた教材がそのまま論証としてできあがっているというのは驚きですね。僕も初めてこの文章を読んだときは、木にハンバーグが実っているような異様さすら感じました。

あてはめの考慮要素を類型化

 これこそが、本書の最大の強みであると思います。

 刑法の事例問題で、「あてはめのやり方がわからない」、「なぜか判例と異なる結論になってしまう…」といった悩みを聞いたことがあります。

 規範も考慮要素も勉強したのになぜかあてはめができないことの大きな理由が、考慮要素の軽重を理解していないことではないかと思います。

 たとえば、強盗罪の「被害者の反抗を抑圧するに足る程度」の暴行・脅迫が行われたかをはてはめる際には、①暴行・脅迫の態様・程度、②犯行の時間・場所・周囲の状況、③行為者及び被害者の体力・体格・人数等を考慮することは多くの基本書にも書かれているはずです。

 ただ、これらの考慮要素の中では、①暴行・脅迫の態様・程度が最も重要な要素です。具体的には、拳銃や刃物など殺傷能力の高い凶器やそれを模したものが使用された場合には、特段の事情がない限り、それだけで「反抗を抑圧するに足る程度」の暴行・脅迫であると認定できます。それ以外の手段が用いられた場合には、その他の事情をきめ細かく分析して判断することになります。

 そのため、まず考慮しなければいけないのは凶器を使用したか否かであり、凶器を使用した場合としていない場合で事案を類型化することで、適切な結論を導くことができます。

 この点、本書では、まず上記のあてはめの判断手順について,①→②→③の順番で検討すると説明します。そして、①暴行・脅迫の態様・程度について、殺傷能力の高い凶器を示した場合殺傷能力の高い凶器を模した場合凶器を示さずに暴行を加えた場合凶器を示さずに脅迫を加えた場合に類型化して、それぞれの事例におけるあてはめのポイントを解説しています(法学セミナー768号109頁以下)。

 このように、あてはめの考慮要素は全て対等なわけではなく、重要性に軽重があることを理解して、重要な考慮要素によって事案を類型化することができれば、実務ではおよそ採用できないような非常識なあてはめをしてしまうことはなくなるはずです。

応用刑法の使い方

 本書は読まない理由が皆無なくらい近年の司法試験とマッチしているので、今すぐ図書館にダッシュして全ての連載をコピーしてください。

基礎知識を学んだ人のステップアップ

 本書はあくまで論点解説書なので、まずは基本書で一通りの基礎知識を学んでから読みましょう。文章がものすごくわかりやすいので、刑法を一通り勉強した全ての受験生におすすめです。

 本書を読むことで、あてはめの能力を身につけられるだけでなく、基礎知識についての理解も深まるはずです。

 まず基本刑法を読んでから本書を読むという流れがベストですが、基本刑法以外の基本書や予備校本でも全く問題ありません。

橋爪連載で挫折した人のリベンジマッチ

 本書の形式は、橋爪先生の「刑法総論(各論)の悩みどころ」(いわゆる橋爪連載)に似ています。橋爪連載も、刑法の重要論点をわかりやすい文章で解説した教材なので、本書と双璧をなすくらいおすすめです。

www.daitai.net

 ただ、橋爪連載は、学生だけでなく他の学者や実務家も読むことを予定している(はずの)論文なので、内容がかなりハイレベルです。

 実力の有無にかかわらずやたらとおすすめしている人が多いので、橋爪連載を読んだもののついていけずに「自分は刑法が苦手なんだ…」と落ち込んでしまった方もいるのではないでしょうか。

 これに対して本書は、あくまで司法試験に合格することをゴールとした教材ですので、橋爪連載よりはるかに簡単な内容です。

 橋爪連載で挫折した方は、ぜひ本書でリベンジを果たしてください。本書をマスターすれば、橋爪連載を「わかったつもり」になっている人に圧倒的な差をつけることができます