だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

憲法の書き方3(保護範囲・制約)

※2019年9月26日 改訂により、本記事の前半を新しい記事ー憲法の書き方2(条文・権利選択)に移動させました。

正当化の要件の導出

 無事に条文・権利を選択できたら、次は、正当化事由ー公共の福祉についても、なんとなくフワフワした要件(審査基準)は出てくるのだけど、なぜその基準・要件になるのか、事案の事実から離れてフィーリングで決定してしてしまう、というところの改善です。これには、三段階審査論+違憲審査基準論を合体させた、ハイブリッド審査基準論ー保護範囲&制約を丁寧に検討することで、正当化要件(審査基準)を論理的・説得的に導出するーが大活躍します。このことについては、下記記事もご覧ください。

 なお、本記事も、前回同様、「お客さんZの依頼により、彫師XがZの右腕にタトゥーを入れたら〇〇法違反で検挙された」という事例を念頭に、検討していきます。なお、ここで取り上げる基準・要件導出の「作法」ですが、タトゥー事例をみてもわかるように、表現の自由、職業選択の自由といった国家から侵害されない権利ー防御権といわれる権利についてのものです。

保護範囲ー抽象的文言の克服

 さて、前回記事では憲法の条文や要件をフィーリングで導出してしまうことー二重のフワフワーについて、かなりボロクソに言いましたが、前述の通り、これはある種「しょうがない」問題でもあります。だって、タトゥーは表現だし、彫師は職業じゃん。どっちにもあたるじゃん。そもそも憲法の各条文の文言が抽象的すぎて、何でもあてはまるように見えるし。刑法各論はそんなことないし。というわけです。詳細は前回記事をご覧ください。

 しかし、そうだとするならば、刑法が「傷害→生理的機能の侵害」という具合に条文の文言を具体化する解釈を施していることを参考に、「21条の表現とは、〇〇〇、△△△を言い…」と、抽象的文言を可能な限り具体的な要件に落とす解釈をすべきです。その上で、「本件Xのタトゥー施術はこれに含まれる」とあてはめれば、読んでいる方も「あぁ、確かにね」となります。と同時に、間違った条文を問題とするリスクも(当然)減ります。

 この、原告Xが主張する権利・法的利益がそもそも憲法上どの条文で保護されているのか、その要件該当性を論証するセクションがいわゆる「保護範囲(保障範囲)」と呼ばれるものです。条文の保護範囲に含まれるか、という意味のネーミングですね。上述の通り、刑法の構成要件該当性と同様の働きをするセクションです。

制約ー書かれざる構成要件

 次に、刑法と憲法では少し違う部分があり、刑法にいう構成要件該当性は、憲法では「保護範囲」と「制約」という二つのセクションに分かれます。なお、この「制約」という用語法についても、「制限」「侵害」等様々な呼び方がありますが、別にどれでも良いのでとりあえず「制約」にしておきます。さて、「制約」の要件あてはめが必要となる理由は別に難しいことではなく、ある種論理必然的なものです。つまり、刑法では

(主体たる人が)→ある行為をして→結果が発生する

 という形で条文が記載されているため、これを順にあてはめていけば構成要件該当性が認められる、ということになります。これに対して憲法は、

主体の権利を→保障する(条文には書いていないけど・国家等の侵害から守る)

 としか書かれていないため、主体にはある権利が保護されている(保護範囲の問題)→それが制約された(制約の問題)という2つを検討しないと、要件該当性が認められないからです。要するに「制約の存在」が書かれざる構成要件要素みたいなもんですね。

保護範囲&制約の役割

条文・要件該当性の明示

 このような保護範囲&制約セクションは、第一に、刑法でいえば構成要件該当性の問題なので、当然重要であり、フィーリングであてはめをして良いはずはありません。保護範囲ー制約ー正当化における配点は2:1:7くらいのように思います。もっとも、受験生の多くが苦手としている保護範囲&制約を上手に書けば相対的に優位となり得るため、保護範囲&制約には50%くらいの配点があるという意識で書くと良いと思います。

 平成30年司法試験も、「いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で」と明記しています。これは言うまでもなく、条文の保護範囲内の権利が制約されていることを明示しろ、という意味ですから、司法試験委員も保護範囲&制約を重視していると考えられます。

 久しぶりに、駒村先生の「憲法訴訟の現代的転回」を読み直していたら、先生はこのことを保護範囲+制限論証の「違憲性発見機能」と名付けておられました(同書76頁)。うーんわかりやすい。筆者としては、できる限り要件→効果思考に引き戻すという観点から、単に「構成要件該当性(発見機能)」と呼びたいと思います。

憲法訴訟の現代的転回: 憲法的論証を求めて (法セミLAW CLASS シリーズ)

憲法訴訟の現代的転回: 憲法的論証を求めて (法セミLAW CLASS シリーズ)

 

 正当化事由への階段

 そして!保護範囲&制約セクションの第二の役割は、後に続く正当化事由のセクションへの「階段」となる、というところです。とても重要なところなので、敷衍します

 刑法の正当化事由(正当防衛等)については、上述の通り、解釈により(かなり)明確な要件が導出されています。罪刑法定主義の要請ですね。また、刑法各条等に定められている権利侵害もまた明確・限定的に定められているため、これを「ひっくり返す」正当化事由の要件も明確に決めやすい、ということでしょうか。少なくとも、刑法では権利侵害が傷害罪であろうが、強盗罪であろうが、正当化事由(正当防衛等)の要件は変わりません。

 これに対して、憲法の正当化事由ですが、そもそも憲法上の権利制約の有無が、一見すると外縁があいまいー保護範囲&制約セクションで導かなければならないようなものーである故に、その制約の正当化事由もある程度フレキシブルなものにならざるを得ません。

審査基準論

 そんなんじゃ困る!裁判官の主観的判断で憲法上の権利の内容が決まってしまうやないか!etcという問題意識から、アメリカ憲法学を模範として積み上げられてきたのが(違憲)審査基準論ー特に、その核心である二重の基準論ーです。同論の基本的な考え方は、憲法上の権利制約を類型化し、これに対する正当化事由の要件も審査基準として定型化していこう、というものです。

比較衡量論

 一方で日本の最高裁は、少なくとも、明示的には審査基準論を採用していません(と、千葉勝美裁判官はおっしゃった)。日本の最高裁は、事案に応じて柔軟な比較衡量を行ってきたのである、と。

三段階審査論

 一方、近時受験生に大人気なのが、ドイツ憲法裁判所の作法である三段階審査論です。本稿の「保護範囲・制約」という考え方は、この三段階審査論の用語法です。同論の正当化事由は、比例原則適用の寛厳という形で現れます。

受験生がやらなければならないこと

 じゃあ受験生はどうするの、という話ですが、結論から言うと、審査基準論でも比較衡量論でも、三段階審査論でも、何でもOKです。初学者の段階では審査基準論一本やりが書きやすく、学習が進めば、比較衡量論・三段階審査論も取り入れると良いと思います。しかし、少なくとも、アメリカ最高裁・日本最高裁・ドイツ憲法裁が等しく採用する考え方だけは書いておく必要があります。それが、権利侵害の類型化≒事案に応じて、という部分です。

 いずれの考え方でも異論がないのは、重要な権利に対する強度の制約であれば、その分、それが正当化される要件(審査基準 or 比較衡量の重みづけ,比例原則の寛厳)は厳しくなる、ということです。

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 不法行為法における相関関係説のような理解ですね(不法行為の教科書参照)。「制約される権利の重要性」とは権利の「質」の問題なのか、それとも「量」も含まれるのか?そもそも制約される権利が重要なものなら、制約の強度など関係なく審査基準を引き上げるべきではないのか?など、色々な議論はありますが、とりあえずこの公式は頭に置いておいた方が良いです。

 保護範囲&制約セクションは、①どういった権利が、②どのように制約されているか、を明らかにするセクションです。すなわち、「正当化事由の要件をいかに解するべきか」の前提を整理しておく、という役割ーホップ・ステップという階段のようなものーがあり、それ故に、刑法とはまた違った重要性があるということです。

 これまた駒村先生によれば、「審査密度設定機能」とのことです。筆者としては、「正当化要件設定機能」と呼びたいと思います。

立法府・行政庁の裁量

 なお、上記の図でいうと「(立法府や行政庁の)裁量の有無・広狭」はどこで検討するの?、要件にどう影響するの?という疑問があるかと思います。これについては、色々と難しいところがあり(適当…)、権利侵害の該当性/重要性&制約の強度、の評価がきちんと出来るようになった後の発展的事項と考えて下さい。また、別の機会に記事にしたいと思います。

 ちょっとだけ触れておくと、メーガン法(性犯罪者の再犯を防止するためにGPS腕輪等の装着を義務付ける法律)が良い例でしょうか。
 GPS腕輪等の装着義務は、プライバシー権・移動の自由といった自己決定権に対する著しい制約となります。しかし、「被害の再発という重大な損害を予防するため」という予防原則に基づく裁量や、「再犯可能性の算出には専門技術が必要」という専門技術的裁量を強調しまくると、途端に、じゃあ正当化の要件は緩くてOK!合憲!となってしまうことになります。
 いや、ちょっとそれは話が簡単すぎる。こんな論理だと、高度な裁量が必要な立法・処分は軒並み合憲ということになっちゃうじゃん。という訳で、「裁量」をどう評価し、どのように位置づけるかについては「とりあえず」発展的事項としておきます。

小まとめ

 とりあえず、ここまでの理解を図にします。

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答案の枠組み

 改めて読み返してみると(筆者は、一応、記事を書いた後は数時間置いて読者のつもりになって読み返す習性があります)、異常に分かり辛い。と言うわけで、以上の条文選択、及び保護範囲&制約論を踏まえた「タトゥー事例」の参考答案(のだいたいの枠組み)を書いておきます。なお、憲法13条については、非常に重要な論点ではありますが、紙幅の関係もあり、割愛します。

第一 憲法21条1項

1. 本件でXを医師法違反で処罰することにつき、Zに保障された表現の自由(憲法21条1項)の制約が問題となり得る。

2. (1)憲法21条1項は、「その他一切の表現の自由」を保障する。タトゥーは、文言や装飾的なイラスト等、他者に対する何らかのメッセージ性を有するものを彫るのが通常であるから、これが「表現」にあたると考えられる。

 タトゥーは被施術者の皮膚を傷つけるものであり、その意味で加害を伴う。しかしながら、加害を伴う故に直ちにこれを「表現」としての保護範囲外とすべきではない。判例では、同じく加害を伴う名誉毀損やプライバシー侵害が憲法21条1項の問題として扱われてきた(夕刊和歌山事件大法廷判決)。タトゥーの施術が「他者加害」でなく「自己加害」であることに鑑みれば、その自由が憲法21条1項により保障されることは明白である。

(2)自らの望むメッセージ性を有するタトゥーを自ら彫ることが非常に困難であることからすれば、タトゥーの施術者と、タトゥーの被施術者の表現の自由を個別に捉えるべきではない。タトゥーとは、施術者と被施術者のコラボレーションによる表現とみるべきであり、Xを医師法違反で処罰することは、Zの表現の自由を制約する。

(3) そして、表現の自由の保障が、多様な言論の確保による民主政の基礎をなすこと、及び民主政による回復が困難であることに鑑みれば、その権利制約が公共の福祉(憲法13条後段)により正当化されるかについては、慎重に審査されなければならない。

3. もっとも、医師法の目的は、適切な医療の実施により国民の健康を保持・向上することにあると考えられ、タトゥーによる表現行為を直接の規制対象としているわけではない。そういった意味では、医師法の適用によるタトゥー施術行為の規制は、あくまで間接的・付随的制約とみることができる(猿払事件大法廷判決)。

4. 正当化

第二 憲法22条1項

1. 次に、Xの処罰は、Xの職業選択の自由(憲法22条1項)の制約も問題となり得る。

2. タトゥーの彫師が「職業」に含まれることは明らかであるが、医師法は一定の「行為」を処罰対象としているに過ぎないから、「選択」が害されたかは問題となり得る。

 しかし、判例は職業遂行ー営業の自由をも22条1項の保護範囲に含めており(小売市場事件大法廷判決)、かつ、薬局の適正配置規制でさえ「実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果」として手厚い保護を認めている(薬事法大法廷判決)。これら累次判例に照らせば、タトゥーの施術を規制することが、職業選択の自由を害することは明白である。

3.  医師法による処罰は、上記と同様、医師法本来の目的との関係では間接・付随的制約といえる。しかしながら、「職業選択」という事前規制であること、タトゥーの施術という彫師の本来業務を全面的に処罰対象とするものであること、刑事罰が課されること、刑事罰が課されれば以後彫師という職業の遂行はほぼ不可能となることに鑑みると、その制約は非常に強度のものと言うことができる。

4. 正当化 …

 こんな感じでしょうか。ちなみに、この答案構成はマジで何も参考文献なく適当に書きましたので、学術的・実務的に間違いだらけの可能性があります。にもかかわらず、「感じは良い」答案ではないですか?

 このように、(ある程度)自然に判例を引用するー判例のハシゴは、立論の説得力を増します。こうしてみると、やっぱり大法廷判決は重要なんですね。自然にたくさん登場します。なお、「保護範囲」とか「制約」みたいなタイトルは、①読む人が読めばわかる、②なんかかっこ悪い、という適当な理由から、筆者は付していませんでした。

 次回は、正当化の要件(≒審査基準)、及び判例の引用法について検討したいと思います。

※この記事の続編はこちらです↓