だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

原告適格の考え方1(規範論)

 こんにちは、たすまるです。行政法大好き人間(得意ではない)の私が送る論点解説第2弾、「原告適格の考え方」です。なお、本記事では抽象的に「原告適格が難しくない!」と思えるような問題の捉え方、基本的な考え方について検討します。続編として、予備試験の問題を題材に、具体的な書き方を検討する予定です。

原告適格はいつ問題になる?

 さて、「原告適格」と漠然不明確に捉えますと、ただでさえ難しくて嫌いな行政法がさらに嫌いになってしまいます。という訳で、「原告適格」が論点として浮上する具体的シチュエーションをはっきりと頭に描いておいた方が賢明です。答案でいうと、「問題発見・問題提起」の部分ですね。

 いつも通り、誤解を恐れず鬼のようにシンプルに考えますと、「原告適格」が問題になるのは(数ある行政関連の紛争の中でも)たった一つのシチュエーションです。それは、

①何らかの授益的処分に対して、②処分の名宛人以外の第三者が「その処分、おかしくない?」と取消訴訟・差止訴訟を提起する場合

のみです。これ以外の原告適格の問題が出たら、ほとんどの人は解けないはずですので諦めましょう!以下、各要素につき少しだけ敷衍しておきます。

①何らかの授益的処分に対して

 まず、処分が侵害的処分(営業停止命令など)や申請に対する拒否処分であれば、それに不満を持つのは当該処分の名宛人ですから、通常は名宛人が原告となって取消訴訟等を提起します。処分の名宛人は自らの権利や法的利益を制約されているわけですから、「取消しを求めるにつき法律上の利益を有する」(行訴法9条1項)といえます。つまり、原告適格は当然に認められます。

 反対に、処分が授益的処分(生活保護の支給決定処分など)であれば、そもそもそれに処分の名宛人はそれに対する不満を持ちませんし、(通常は)取消訴訟を提起することもないでしょう。

②処分の名宛人以外の第三者

 これに対して、授益的処分については、少なくとも名宛人は提訴しません。という訳で登場するのが、「処分の名宛人以外の第三者」です。(一見)処分とは無関係の第三者が取消訴訟を提起する場合というのは、

建築確認(授益的処分)が出されたんだけど、明らかに違法建築で、隣地の日照権や排水等が悪化するため、隣人が自分の利益を確保するために提訴する

 などですね。第三者は、処分の名宛人じゃない。だとすると、ある処分によって自らの権利や法的利益が制限されているとは(直ちには)言えない。そんなとき、どこまで原告適格を認めるべきか?というのが、問題の具体的なシチュエーションです。

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原告適格の要件

 次に、原告適格を判断する際の要件について検討します。これについては、個々の要件の分節よりも、判例の基本的な考え方ーフレームを押さえておくことが重要だと思います。

判例による定式

 まず、判例は原告適格ー行訴法9条1項の解釈につき、一貫して「法律上保護された利益説」に立っているとされます。そうも思えない判例も多々あるように思いますが。

 法律上の利益を有する者(行訴法9条1項)とは… 当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。
 法律上保護された利益と言えるか否か、当該処分の根拠法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨をも含むと解せるかによって判断する。(最判平成元年2月17日等 新潟空港訴訟等)

 という有名なやつですね。ロースクールの講義では、判例のような「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する利益説」の対立があるのですー的なことを学ぶはずです。(後述の通り)この学説対立は実質的な判断に大きく影響する重要なものです。もっとも、規範としては、(少なくとも司法試験対策としては)上記の判例テーゼ1択です。行政法の数少ない暗記対象が、この「原告適格テーゼ」です。

3要件説について

 この判例の定式については、A「不利益要件」、B「保護範囲要件」、C「個別保護要件」と分節して考える理解が有力です。もっとも、そのような分節をしない考え方(例えば、下記書籍)

もありますし、判例も「3要件である!」と宣明したわけでもありません。という訳で、受験生は混乱するはずです。民法や刑法が得意な人は、「可能な限り細かい要件に落としておいた方が法的三段論法がやり易い」と考えて、3要件説を選択する方が多いように思います。

 しかし!筆者のおススメは、必ずしも3要件に分節する必要なし!というものです。上記判例のテーゼを出せば十分。

 思い切った意見ですが、後述の通り、原告適格で重要なのは考慮要素であって、それをどの要件に位置付けるかは整理の問題に過ぎない、というような気がします。実際、筆者はこれまでほとんど要件の分節を行いませんでしたが、行政法は最初から最後まで好成績でした。この点、処分性についてはかなり細かく要件を分節(6要件)していたのとは、好対照です。

法律上保護された利益説

 3要件説や、判例テーゼの細かな文言を覚えるより前にぜひとも頭に入れておいて欲しいのが、判例テーゼ「法律上保護された利益と言えるか否かは…とする趣旨をも含むと解せるか」という部分です。この文言から明らかなように、判例が言わんとするところは非常にシンプルで、

  • 処分の根拠法令(個別法)の趣旨によって
  • 原告の主張する被侵害利益が(その)個別法上、(個別的利益として)保護されているかどうかを判断する=法律上保護された利益説

 というものです。つまり、個別法の解釈問題です。この、原告適格=個別法の解釈問題=法律上保護された利益説である、という判例の原則を、骨の髄まで叩き込んでおくことが何よりも重要です。

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原告適格の考慮要素

法定考慮要素

 原告適格にかかる判例テーゼを記憶できたとしても、ある処分の根拠法令が、

 当該処分の根拠法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨か

 が、パッとわかる人は(多分)いません。そして、B:法は当該利益を保護する趣旨か、C:個別的利益として保護する趣旨か、と要件に分節してみたからといって、すぐにわかるようになるわけではありません。

 …という訳で、原告適格の論証において、何よりも重要なのが考慮要素です。出血大サービスで、これは法律に書いてくれています(行訴法9条2項)。という訳で六法開いてもらえればそれで良いんですが、超重要&後々引用するために、列挙しておきます。

  1. ①処分の根拠法令の文言、趣旨・目的
    ②処分根拠法令と目的を共通にする関係法令の趣旨・目的
  2. ③処分において考慮されるべき利益の内容・性質
    ④違法侵害利益の内容・性質、害される態様・程度

 この①~④の考慮要素を愚直に検討していくのが、原告適格の判断の基本です。

判例テーゼとの関係

 考慮要素を検討するのが基本、って言われても、じゃあなんで判例テーゼを暗記したの?というところが気になります。ムズムズします。という訳で、これらの考慮要素と「判例テーゼ=個別法の解釈問題=法律上保護された利益説」との関係性を考えておきます。

①処分の根拠法令の文言、趣旨・目的

 この考慮要素は、個別法の趣旨・目的から法律上保護された利益かどうか判断しろ、という事なので、判例テーゼ=法律上保護された利益説そのままです。

②処分根拠法令と目的を共通にする関係法令の趣旨・目的

 この考慮要素は、上記①で検討する法令の範囲を関係法令まで広げていいよ、ということに過ぎないので、法律上保護された利益説の枠組みーあくまで個別法解釈、というのは崩れていません。

③処分において考慮されるべき利益の内容・性質

 この考慮要素にいう考慮される「べき」が誰にとっての「べき」なのかが問題です。
「処分の根拠法令(個別法)上、考慮されるべき利益」と読めば、法律上保護された利益説ということになりそうです。原告(やその代弁者である答案作成者)にとっての「考慮されるべきだ!考慮してくれ!」という意味だとすれば、それは「原告の主張上、考慮されるべき事実上の利益」ということになり、すなわち法律上保護に値する利益説だ、ということになります。さて、どちらかを考える上で参考になるのが、③の考慮の際の指針として示されている④の考慮要素なので、先に進んでみます。

④違法侵害利益の内容・性質、害される態様・程度

 この考慮要素④は、①②とは全然毛色が違います。そして、そのことを理解するのが原告適格を理解する第一歩です。それが、違法侵害利益(被侵害利益)とは=法律上の利益ではなく、事実上の利益だ、ということです。

 超重要な部分なので敷衍します。結局のところ、上記①②の考慮要素は、「処分の根拠法令はどういう趣旨ですか?」という個別法の解釈問題=法律上保護された利益説でした。

 違法侵害利益とは、条文の文言でいうと「当該処分…がその根拠となる法令に違反された場合に害されることとなる利益」(行訴法9条2項後段)です。この「法令に違反された場合に害されることとなる利益」という文言に注目して下さい。実際に処分の根拠法令にどう書いてあるか、どういう趣旨か、ということを問わず、違法な処分がされちゃった場合に事実上害される利益、に行訴法は着目している訳です。まさに法律上保護に値する利益説です。そして、④は③の指針ですから、③も「事実上の利益」に着目した規定と読むのが素直です。つまり、原告適格の考慮要素は

  • 考慮要素①②については、「法律から考える」
  • 考慮要素③④については、「事実から考える」

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 という具合に、全く正反対の考え方が取り入れられている訳です。この「木に竹を接ぐ」状態が、原告適格を難しくしている主犯ではありますが、もうこれは判例上、立法政策上、やむを得ない!と割り切った方がスッキリします。

原告適格の判断方法

 さて、以上の通り、1.原告適格は個別法の解釈問題(判例テーゼ・法律上保護された利益説)、2.でも行訴法による考慮要素③④は事実上の不利益の評価問題(法律上保護に値する利益説)です、正反対でちょっと気持ちが悪いけど、12もどっちもきちんとあてはめようね、というところがきちんとわかれば、もはや原告適格は80%以上理解したも同然です。

 最後に、どこまで原告適格を認めるべきか、を判断する際の基本的な考え方について述べておきます。誤解を招きかねない過激な表現で言いますと、①原告適格は「あてはめ勝負」である、ということと、②原告適格は「エイヤー!」的判断である、というところが重要です。あまり強調されないところですが、非常に重要です。この入口を間違えると結構深い闇に突入してしまう(笑)ので、誤解なきよう、本記事で簡単に触れておきます。

①原告適格はあてはめ勝負

判例の定式・条文が確立している

 なんで「あてはめ勝負」と言えるのか、の一点目ですが、上記の通り、原告適格にかかる判例の定式ー法律上保護された利益説&法律上保護に値する利益説ハイブリッド規範(?)が確立している、ということがあります。処分性と同じですね。規範(要件)は確定しちゃっているので、解釈論では争いようがありません。という訳で差をつける&差がつくのは、規範に対するあてはめの部分です。

具体的・現実的判断である

 ここが重要なところです。原告適格は(当たり前ですが)、結局のところ「誰に訴権を認めるか」という当事者適格の問題です。そして、当事者適格とは、すぐれて具体的・現実的な判断です。令和元年司法試験予備試験・行政法を題材に考えてみましょう。

 広告事業者であるBは,A県内の土地を賃借し,依頼主の広告を表示するため,建築物等から独立した広告物等である広告用電光掲示板(大型ディスプレイを使い,店舗や商品のコマーシャル映像を放映するもの。以下「本件広告物」という。)の設置を計画した。そして,当該土地が都市
計画区域内であり,A県屋外広告物条例第6条第1項第1号所定の許可地域等に含まれているため,Bは,A県知事に対し,同項による許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。

 本件申請がされたことは,本件申請地点の隣地に居住するCの知るところとなった。そして,Cは,本件広告物について(中略),明るすぎる映像が深夜まで表示されることにより,本件広告物に面した寝室を用いるCの安眠を害するおそれがあり,規則別表第4二の基準(以下「基準2」という。)に適合しないとして,これを許可しないよう,A県の担当課に強く申し入れている。

 同様に、本件申請地点から10m離れた地点に居住するD,30m離れた地点に居住するE,100m離れた地点に居住するFもCと同様の懸念を持っている。

〔設問1〕

 A県知事が本件申請に対して許可処分(以下「本件許可処分」という。)をした場合,C,D,E及びFは,これが基準2に適合しないとして,本件許可処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟1」という。)の提起を予定している。Cらは,本件取消訴訟1における自己の原告適格について,どのような主張をすべきか。(令和元年司法試験予備試験改題) 

 さて、本問については、後述の通り次回記事で具体的に検討しますが、「安眠についての利益」は本件条例の保護範囲に含まれないと解するのが相当であると私は思います。が、ここでは安眠利益?も一応、条例の趣旨目的(保護範囲)に含まれているとしましょう。
 そうしますと、次に問題になるのは「法(条例)が安眠利益を保護しているとして、具体的な個々人の利益としてどこまで保護しているのか、という「線引き」(3要件説で言えば、個別保護要件)が問題となります。

 Cは隣地に住んでいるのだから、その安眠利益は個別的に保護されているとして、10m離れているDも含まれるかな。あれ、30m離れているEは、電光掲示板は見えないんじゃないか?100m離れているFの安眠が害されることはないだろう。うーん。

 このように、原告適格を誰に認めるか、という「線引き」は非常に微妙な判断です。具体的な被害をある程度調査し、現実的な判断をせざるを得ません。つまり、原告適格とは、まさに「あてはめ」-事実の適示、評価で結論が決まるということなのです。

②原告適格は「エイヤー!」判断

 上記の設例からも明らかなように、原告適格にはある程度の線引きー言い方を変えれば、「ええぃ、ここで線を引いてしまえ!」という「エイヤー!」的判断(笑)がある程度入り込まざるを得ません。嘘でも法律を扱うブログで、原告適格は「エイヤー!」的判断である!とか力説すると、恩師の民訴法&行政法の教授にボコボコに叱られそうで恐ろしいです。という訳で、なぜ(少々の)「エイヤー!」が許されるか、その根拠を控え目に検討しておきます。

  1.  無限定に原告適格を認めると裁判所がパンクする。かといって、あまりに原告適格を限定すると、「この行政処分、おかしいんじゃないの?」と訴えられる人がゼロになってしまうかもしれないー取消訴訟の適法性維持機能が害される。憲法32条にも抵触するかもしれない。という訳で、上記の通り、利益衡量などにより現実的な判断をするしかない。
  2.  上記の例のように、原告適格を検討するということには、「当事者がどんな権利・利益を侵害されているか」を検討することが含まれているため、ほとんど本案を審理しているのと変わらなくなる。あまりに詳細に原告適格を検討してしまうと、そもそも原告適格という訴訟要件を設けた意味がなくなる。
  3.  仮に線引きが少々間違っていても、「原告が0人になる」「原告が10,000人になる」という両極端な例を排除できれば、とりあえず「原告適格」という訴訟要件の最低限の役割は果たせたことになる。少なくとも、本案で間違える(実体法判断を誤る)よりはよっぽど良い

 …まあ、そんなこんなで「エイヤー!」が少々は許される…と筆者は理解しています。「Xには原告適格が認められる。では隣のAはどうだろう。ではBは?Cは?」などという問題を理論的に詰めようと思ったら、森に迷い込むこと間違いなしです。てもとの、事例から行政法を考える によれば、

 (原告適格を認められる人的範囲の)線引きについては、原告適格の判定と本案審理の振り分けの問題(※筆者注 上記の2.の問題)であって、基準を理論的に説明づけるのは困難であることが共通理解となりつつある。(事例から行政法を考える 131頁〔飯島淳子〕)

 とのことです。こういった事についてきちんと解説してくれる演習書はありがたいですね。まあそんな訳で、司法試験合格を目指すレベルであれば「原告適格って、最後は「エイヤー!」だよね。えへへ。」というゆるーい感覚が重要です。

※2021年5月18日 追記

 このような、「訴えの利益=訴訟要件=ある程度要件を緩く考えられる」という思考は、処分性にも妥当するものです。下記記事もご一読下さい。

いったんまとめ

今回のまとめとしては、

  1. 原告適格が問題になるのは例外的なシチュエーション
  2. 要件論としては、とりあえず判例テーゼを覚えおけばOK
  3. 重要なのは、考慮要素、すなわち「個別法の解釈」と「事実上の不利益の評価」を徹底する
  4. 原告適格はあてはめ勝負であり、最後は線引きの問題であることに留意しておく

 ということになります。 あてはめー具体的な判断方法、書き方については、上記の予備試験問題を題材に、次回記事で検討します。