だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

知的財産法演習ノート23問〔第4版〕

知的財産法演習ノート: 知的財産法を楽しむ23問

知的財産法演習ノート: 知的財産法を楽しむ23問

 

・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★★ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「知財法選択者は絶対購入」

知財法の演習書って?

 下記の記事でも述べた通り、知的財産法の基本書は(他教科に比べれば)良書揃いです。 

 …が、演習書・問題集の状況は芳しく無く、実質的には本書と、

論点解析 知的財産法

論点解析 知的財産法

 

  の二択です。論点解析も非常に良い本です。私は論点解析を2週、本書は3週ほど回しました。ただ、問題解析はやや古いため、改正された箇所や判例が変わった場所等を自分で改訂しながら使う必要があります。これも非常に良い勉強になりますが、どちらか一冊しかやらないなら本書にした方がベターです。

知的財産法演習ノートの内容

 ○○演習ノートのシリーズは、網羅性が高く、参考答案がついているという特徴があり、それは本書も同様です。もっとも、問題の難易度は家族法や憲法ほどではありません。刑法と同様で、「司法試験に自信をもって挑めるレベル」でしょうか。編者、著者の先生方は、知的財産法業界では非常に著名な先生ばかりであり、解説の正確性は保障されています。

①問題のひねりが素晴らしい

 本書の最大の美点は、問題自体の質です。問題意識(出題趣旨)が司法試験に近い、という点は、知的財産法に限らず、全ての演習書にとって必要な要素です。ざっくり言ってしまうと、

A:予備校の問題→簡単すぎる(例:民法94条2項・110条の重畳類推適用の百選判例をそのまま出題)

B:司法試験の問題→適切(例:事実関係が異なるため、百選判例の射程が問題となったり、適切な評価・あてはめ能力が問われる)

C:一部のマニアックな問題→難しすぎる(例:最新の下級審判例・分厚い体系書で数行取り上げられている問題を出題)

 司法試験の主戦場は、当然Bです。Cは単なる知識問題、クイズにすぎません。。Aは学習初期には大変重要です。3年間で司法試験に受かるとすれば、理想的には最初の1年半はAをやって、後半の1年半はBをやりたいわけです。

 本書は、Aを前提としつつBばっかり聞く、という理想的な構成です。特許法で言えば、特許権の消尽後の特許製品の再利用、という論点が、インクタンク事件判決そのままの事実関係で出題される(A)ことはまずありません。本書ではこの論点がどのように扱われているかというと、

(特許製品の部品a,b,cのうち、従来技術にはみられなかった技術的特徴を発揮する部分はa、bは交換が想定されていない部品、cは1年程度での交換が想定されている部品という前提で)

問題: 部品cは部品bと溶接されているため、通常のユーザーは、自分で部品cを交換することは手間がかかることから、部品cが摩耗するたびに甲(特許権者)のサービス部門に依頼して部品cの交換の有料サービスを受けている。

解説: 部品cが部品bに溶接されていたという点は、どう評価するか…(中略)消尽の効果は特許権者の意思によって妨げることはできないという点は、わが国の国内消尽論の重要なポイントです…(中略)並行輸入と特許権との関係では、わが国でも異なる考え方がとられている… (本書89頁~) 

 という形で出題、解説されています。つまり、インクタンク事件判決の理解がある前提です(A)。そのうえで、同判決の総合考慮の枠組みによれば消尽が肯定される再利用であっても、特許権者が「溶接」により「絶対交換してくれるな!!うちの交換サービス利用して!」というメッセージを発している場合は、どう考えるか。という判例の射程を考えさせる問題となっています(裏側から言えば、事実の評価を考えさせる問題)。

 司法試験対策の演習書かくあるべし!という適切なレベル設定だと思います。本書の問題は、だいたいこんな感じです。

②解説もわかりやすい

 解説も、適切な分量が割かれており、わかりやすいです。井関先生の関西弁全開のところはかなり頭に入りづらかったですが…。
 特に、知的財産法の「迷宮」となりやすい侵害主体論、その中でも自炊代行とロクラクⅡ法理との関係を整理した、奥邨先生執筆部分は全知財選択者必読だと思います。

 物理的な複製行為を行っている自炊代行の場合は、ロクラクⅡ事件最高裁判決とは、本来事案が違うのである。ここで補足として、自動的に複製を行う機器を用いた場合の複製主体についてどのように考えるかを、表にまとめると次のようになる(本書293頁)

 さすがに、この表を引用しちゃうのは弘文堂と著者の先生方の利益を著しく害するのでやめておきますが、この上なくわかりやすい表です。知財法に限らず、なるほど判例の射程分析ってこういう風にやるのかと目からウロコが落ちまくりました。

 ていうか、今気づいたんですが、「迷宮」と呼ばれる刑法の共犯論、民訴法の複数訴訟論、知財法の侵害主体論って、全て登場人物が複数なんですね。プレイヤーが複数いる場合の法律関係が難しい、ってよく考えたら当然のことですね。

知的財産法演習ノートの使い方

 新しくて、内容も素晴らしいので、用途どうのこうの以前に、本書はほぼ必読です。刑法の刑法事例演習教材 第2版 と同様ですね。もっとも、本書は上述の通り、どストライクのBばっかりという構成なので、本当の初学者は結構たいへんです。とはいえ、これより簡単な演習書もありません(問題解析は、やや簡単)。予備校本で言えば、論文基本問題〈10〉知的財産法80選 がありますが、あまりにもAゴリ押しなので、単なる絵合わせゲーム(神経衰弱)に過ぎず、あまりオススメできません。結局のところ、基本書と判例集にあたりながら、本書に取り組むのが「急がばまわれ」でベストかと思います。

 上位合格を目指す方にとっても、本書はベストなのですが、いかんせん23問しか問題を見たことが無い状況で司法試験に挑むのは「上位」を目指す上ではリスクがありそうです。まず、①本書の「関連問題」を全部潰すことをオススメします。これで問題は実質的には40問分くらいに増えます。加えて、②知り合いの知的財産法の先生に(過去の)定期試験問題をもらうのも良いと思います。

 私は、①②をサボったので、知的財産法は60点しかとれず、実力通りの残念な結果でした。上位を目指す方は、ぜひ①②を頑張ってください!