・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い
・内容が 意識高い ★★★★★ 基本的
・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的
・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き
・司法試験お役立ち度 ★★★★★
・ひとことで言うと「行政法が苦手な人の最初の一冊」
行政法「が」苦手!?
「行政法は、書き方(答案の作法)がわからない」という人は多いと思います。これに対して、「結局、行政法も法律なんだから、基本になる民法や刑法と同じように、法的三段論法で書いていけば良いんだよ…」というアドバイスもよく聞きます。が!私の感覚としてはむしろ逆です。
むしろ、行政法の答案が上手に書けるようになると→他の科目も上手に書けるようになる(ような気がする)と思います。
確かに、全ての法律答案は、(⓪争点以外の要件あてはめが終了したことを前提に)、①問題文から争点を抽出して(問題提起)、②条文を解釈して規範を定立し(規範定立)、③事実の抽出とその評価(あてはめ)、④結論、と書いていくわけです(下記記事もご参照ください)。
で、問題はむしろ民法、刑法の方だと思います。すなわち、いつも条文は変わらない(同じ法律)なので⓪をおざなりにしても、とりあえず論点に飛びつけてしまう。さらに、上記の①②(問題提起&規範定立部分 いわゆる論証パターン)を暗記してしまっているが故に、なんとなく書けてしまうところにあると思うのです。
その点、行政法は題材となる個別法が毎度異なるわけですから、そもそも①②部分は、暗記不可。自分の力で問題を発見し、法的論証を展開しなくてはならない。よって、行政法の答案が上手に書けるようになると、他の教科も単なる暗記ではなく、上記⓪~④を意識して上手に書けるようになる。のではないでしょうか。
従って、行政法が苦手、または答案の書き方がわからない、という人は単に法律答案が苦手、又は単に暗記が得意なだけということだと思います。
さんざん偉そうに講釈垂れましたが、私も行政法は苦手でした。最終的には、ドル箱に(暗記があまりいらないので効率が良い)。そんなキッカケとなったのが本書です。
基礎演習行政法の内容
正統派の演習書です。行政法の、シンプルな事例をベースに、「これを知らなきゃ死亡」レベルの行政法の論点(というか考え方)が約30個掲載されています。解説ですが、本書か、基本行政法 第3版 を読んでわからなかったらもう行政法はあきらめるしかない、というレベルの分かりやすさです。
さらに、演習書ですから、「書く」ことが強く意識されているところが美点です。要件の整理、争点の指摘、規範定立、あてはめ(上記⓪~④)が簡潔明瞭に記載されており、このまま答案に書くことができる「研究者による論証パターン」といっても良い内容です。予備校の行政法の本はだいたいロクでもないので、これは大変ありがたいです。
特に良い点①要件の整理
行政法は、処分性や原告適格の判断、国賠法上の違法性など、そもそも要件は何なのか、要件事実は何なのかがハッキリと固まっていない重要論点があります。行政法の判例を読むと、いつも「…よって、抗告訴訟の対象たる処分にあたるとはいえない」と、ときに唐突に結論が来るように読めてしまい、このことが受験生に苦手意識を植え付ける原因の一つになっていると思います。
本書は、とにかく、要件の整理が上手いです。しかも、理論的・体系的に要件を導出するのではなく(土田先生はそう書かれたいとは思うのですが)、受験生の書きやすさ、すなわち「あてはめやすいかどうか」を重視して要件を整理して下さっています。
特に、処分性の判定作業(本書73頁~)や、損失補償の「特別の犠牲」の判定(本書288頁)はとてつもなく使いやすいもので、後者なんかは岡口判事の要件事実マニュアルに載せればよいのに…と思います。
※2019年12月12日追記 本書の理解も含めて、処分性の判定作業につき記事を書きましたので、ご覧ください。
特に良い点②個別法の解釈
次に、これまた受験生の苦手なところですが、本案における個別法の解釈です。これまた、そのまま答案となるレベルの記載のオンパレードです。「行政裁量の有無」について、講学上の特許だ~とか不確定概念だ~とか専門性、技術性だ~とか色々習ったけど、結局書き方わかんねっす。という人は、本書179頁の3.等を読んでみて下さい。ズバリ、こうやって書きましょう。
特に良い点③学習のアドバイス
最後に、民事訴訟法概論等の近時の書籍と同様に、「教育の現場で」という学習に関するアドバイスを記したコラムがあります。これも全部使えます。
「少なからぬ学生が、処分が登場する事案の場合は抗告訴訟が適切であり…登場しない場合は当事者訴訟が適切である」と理解しているように見受けられる…しかし、厳密にいえば、このような理解は適切でない」(本書23頁要約)
「違法性の承継という問題があること…通常は処分と処分の間で問題になること…判定基準について一応の理解を得ている。ところが、これらの理解がかえって仇となり、不適切な起案がされることがある」(本書250頁要約)
う~ん、私も添削を頼まれたとき、この2つはよく見ました。まさに実践的アドバイス。
…と、いうわけで、本書では、初めてみる法律の素直な解釈作業を学ぶ、という作業の中で、行政法はおろか、上記⓪~④の法律答案の基本作法が学べるといって過言ではありません(ベタ褒め)。文体も論証向き、網羅性も高い、近時の重要判例もフォロー(平成27年の処分基準と訴えの利益等)、薄い(300ページ)、と良いことづくめの本書ですが、やはり薄さの唯一の弊害で、ごくまれに解説の深堀度が物足りない部分もあります。そういう部分は、基本書を開きましょう。
基礎演習行政法の用途
とにかく、初学者の一冊目としてはもちろん、勉強が進んだ方でも改めて読む価値は高い、まさに行政法必読の一冊だと思います。上記の通り、行政法が苦手な人は、個別法の色々な論点を知らないのではなく、単に法律答案の基本が出来ていないことが多いと思いますので、事例研究行政法 をやっている場合ではありません(なお、同書も非常に良書)。今すぐ本書に乗り換えましょう。
要領の良い人なら、本書1冊「のみ」を購入して、何度も回せば、予備試験合格レベルまでは到達できると思います(短答除く)。それくらい高いクオリティです。普通の人でも、本書+基本書+判例集(ケースブック行政法 <第6版>が圧倒的におススメ)だけで、予備試験合格レベルまで達すると思います。本書が「もういい加減飽きたわ…」というレベルになってから、事例研究行政法 や、事例から行政法を考える に進んでも、全く遅くはありません。むしろ王道だと思います。なお、お金が無いなぁという人は、初版(の中古)でもそんなに問題は無いかと思います。後輩にあげてしまったので確認できませんが、論点が数個少なく(確か、行政調査とかかな…)、最新判例のフォロー等で記述が10%ほど少ない、といった程度だったと思います。