だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

憲法判例の射程と「判例で書く」ためのインプット

憲法判例の射程

憲法判例の射程

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「憲法の判例集の決定版。必読。」

百選ってどうなんだ

 ゴーンさんの再逮捕、どうなんでしょうかね。個人的には、さすがにこれを正義と言い切るのも厳しい気がします。

 …それは横目にみつつ、受験生は勉強に励みましょう。

 さて、憲法の論述式試験においては「判例を意識して書け」ということが良く言われます。もっと直截に、「判例で書け」というのも流行です。でも、受験生は書けません。だって、「判例を使った書き方」を教えてないもんね!というアウトプットの問題がまず一点。
 これについては、やや古くなった感もありますが、 

判例から考える憲法

判例から考える憲法

 

  がかなり強い味方です。同書については、また書評を書きます。

 …が、そもそもの問題として、憲法の判例集は、(残念ながら)判例を使って主張するためにインプットすべき情報を提供できていなかった気がします。

 これまでの判例インプットといえば、憲法判例百選1 第6版 (別冊ジュリスト 217)の、ほぼ一択でした。百選の有用度は教科によって異なり、おおむね、刑訴法>>民訴法≧会社法>民法>憲法>>行政法>>>刑法というところかと思います。私も憲法判例百選は少なくとも3通読、重要な判例は5回以上は読んだと思うのですが、「判例で書け」るようにはなりませんでした。その原因は以下の3点。

①量が多すぎる

 短答知識としては良いですが、200も300もの判例を紹介する割に、論文式試験で出題される可能性のある判例は(統治を含めても)100くらいしかない。

②外在的批判

 結構多くの解説が、~という判旨は不当である、理論的におかしい、といった外在的批判に終始しているため、そもそも判例は間違っていると思ってしまうし、使おうなんて気にもならない。

③事例判決という誤解を生む

 判例の前後(歴史=時間軸)・左右(近いケースの判例)の脈絡をきちんと教えてくれないので、「単なる事例判決」というイメージがついてしまう。つまり、「この事件では、こう判断した」とだけ覚えてしまう。これでは、問題で判例に近い事案が出題されても、気づかずにスルーしてしまう。

 以上の3点の問題をキレイに解決して「書くための知識」として判例をインプットできるのが本書です。自慢じゃないけど(自慢だけど)、平成30年の司法試験(憲法)では判例を6個くらい引用してやりました!(これは引用しすぎ)。

憲法判例の射程の内容

 憲法の諸判例を、25の論点に整理し直した判例集です。例えば、論点「中立的な法律の適用と信教の自由」と題して、日曜日授業参観事件、エホバの証人剣道拒否事件、そして宗教法人オウム真理教解散事件がちょっとだけ、計3つ解説されています(本書100頁)。つまり、判例集としては約60~70掲載されていることになりますかね。

①量がちょうどよい

 はて?そんな個数で足りるのかいな。というのが第一の疑問ですが、十分足ります。(論文式試験で)使えない判例を200個知っているよりも、50個の判例を自由に使い回せたほうが、試験的にはずっと有利です。そして、本書を(基本書を参照しつつ2度ほど…)読めば、少なくとも上記の25論点についての判例は使えるようになります。網羅性が若干欠けると思っても、まず本書の内容が理解できるようになることの方が、得点のためにはずっと有用だと思います。
 本書の25論点は十分な量で、かつ、近時重要性が増しているホットなトピックを優先的に拾っていますから、非常に司法試験向きと言えます。

②内在的分析

 著者は(編者の横大道先生をはじめ)まさに新進気鋭、という世代で、芦部説、佐藤説などの伝統説・有力説に触れつつも、それにとらわれることなく、まず、判例が提供する規範とは何なのか、どういった事実関係と論理でその規範は導かれたのか、という判例の内在的分析がメインとなっています。
 そもそも、判例がいかに理論的におかしい(とは僕は思いませんが)としても、当事者のうち一方は、判例に依拠した主張をしたほうが有利になることが通常です。だとすれば、法律答案においても、判例に配慮した論述をするのは当たり前です。

 今年の司法試験で言えば、「表現の自由はね、壊れやすくて民主政による回復が困難だからね、いわゆる二重の基準で手厚く保護されるの!相手が青少年であっても厳格審査基準!」と一方的にまくしたてるよりも、「この点については、まず岐阜県青少年保護育成条例事件判決がありますねぇ。その事件ではパターナリスティックな制約について伊藤裁判官が○○○と言ってました。でも、本件は事案がちょっと違いますからね。成年に与える影響も違うしね。しかも表現の自由は壊れやすいしね…」とか書いたほうが良いに決まってます。

 こういう論述をするために必要なのは、判例の論理構造と、どこまでの事例に適用できるか、という射程の正確な把握です。本書はこれに徹しています。と、ここまで書いたら、横大道先生のはしがきにも「憲法判例の論理を内在的に理解し」とありました。そうなんですよねー。

③判例の的確なグルーピング

 これが本書の最大の美点です。素晴らしい。これだけで買いです。

 民法177条にかかる最高裁判例では、「第三者」は(単純)悪意者も含む、とされており、これは受験生なら誰でも知っていることですし、(松岡先生ならいざ知らず)これと異なる規範を民法の答案に書く人に至っては、ほぼゼロだと言えます。

 ところが、憲法は(上記の様に)みんな判例を無視するんですよね。つまり、民法判例は(ほぼ全ての事案に適用できる)法理判例として理解しているのに、憲法判例は法理がよくわからんので、なんとなく事例判断なんだと思いこんでしまい、せっかく近い問題が出題されてもスルーしてしまうのです。

 しかし、憲法にも、かなり射程が広い法理判例と呼べるものはありますし、法理とは言えないまでも、類似の判例をグルーピングすれば、うっすらと「判例法理」が見えてきます。

 例えば、平成28年度重要判例解説 *1憲法9(太子町くじらの博物館入館拒否事件)は、イルカ保護の活動家が町立博物館の入館を拒否された事件ですが、この様な事案(問題)を目にしたときに、単に「知る権利が侵害される。厳格審査基準。」とやるのは大損です。少なくとも、指導的判例である泉佐野市民会館事件を意識した記載は絶対すべきです。類似する上尾市民会館事件、天皇コラージュ事件、呉市中学校利用拒否事件も引用できると思います。なぜかというと、これらはいずれも「精神的自由 vs 公共施設の管理権(主に行政裁量)」という同じ論点に触れるものだからです。

 本書は、①判例を論点ごとにグルーピングすることで、(事案が異なっても適用が可能な)法理とその射程を解き明かそうとします。加えて、②指導的判例がある場合は「メイン型」、対比したほうが法理が見えやすいものは「対比型」、複数の判例を見比べないと法理が発見できないものは「通覧型」と仕訳することで、「法理が見つけ出せる読み方」まで教えてくれるという親切っぷりです。

 各論点も、専門家の先生(例えば、村山健太郎先生執筆のデュー・プロセス論など。)が執筆しており、解説のわかりやすさも申し分ありません。なお、憲法演習ノート が「元ネタ」と思われる部分がかなりあり(執筆者の先生が重なっている)、村山先生部分も演習ノートの方はさらに詳しくてオススメです。

憲法判例の射程の用途

 …と、さんざん力説したとおり、そもそもコンセプトがこれまでの判例集と違いますから、ほとんど唯一無二の存在で(かなりコンセプトの近い良書として、憲法の地図: 条文と判例から学ぶ があります)、取り替えがききません。絶対買うべしです。百選を完全に駆逐します。

 唯一の欠点は、これまた、美点でもあるのですが25論点300頁という薄さにまとめたため(大変なご苦労だったでしょう…)、どうしても行間が広くなってしまうことから、基本的な知識、理論の解説は省略しています。すなわち、伝統説は当然知ってるよね、という前提での判例分析となっています(ややレベルが高い)。

 そこで、オススメの使い方としては、

www.daitai.net

 を通読し、百選を参照しながら2回めを通読すれば、だいたいの人が「なんか基本的な知識と、こんな判例があるってのはわかったけど、だからってなんなんだ!全然書ける気がしない!」となるはずですので、その段階で本書に乗り換え、あとは本書を3通読くらいすれば、少なくともインプットのレベルとしては、全然司法試験はクリアできると思います。

 また、本書は各論点の末尾に、「まとめ」として半ページ、2行✕5個くらいの箇条書きが載っているのですが、これがまた異常に良くできています(たまーに外れもありますが)。変な論証パターン(憲法では使えないですよねー…)を覚えるくらいなら、本書の「まとめ」だけを印刷したものを論証集代わりにして、試験直前に何度か通読するだけでも、答案が「判例を意識した書き方」になり、得点がアップすること間違いなしです。

 というわけで、必読。マストバイ。と心から思える良書をおすすめしてみました。なお、会社法判例の読み方 -- 判例分析の第一歩や、判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕 も本書と同様のコンセプトで、非常にオススメです。刑訴法は百選もかなり良いですが。

*1:ジュリスト臨時増刊