だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

答案作成と、わかりやすい文章

法律答案以前の文章力

 後輩の答案の添削をしていると、「正しいか、正しくないか」の問題以前に、「そもそも何が言いたいかよくわからない」「文章が前の段落と矛盾している」といった文章によく出会います。

 司法試験には、法的三段論法、正確な法律知識、結論の妥当性など、必要とされる要素がたくさんありますが、それにも増して、「わかりやすい文章を書く」ことが大切です。

 答案は、結局のところ(見ず知らずの)他人が採点するわけです。せっかく正しいことを書いた(つもり)でも、相手に伝わらなければ意味がありません。「こういうつもりで書きました」とか「ここを読んでもらえれば書いてあります」とか言っても後の祭りです。

 反対に、文章が論理的で分かりやすいと、採点者も読んでいて気持ちが良いため、「きっとこういう趣旨で書いてあるんだろう」と善解してくれることさえあります。というか、私は法律の知識があまり豊富でなく、正確でもないので、むしろこのような「わかりやすい文章を書く力」で合格したのだろう、と思っています。

わかりやすい文章に親しむ

 さて、書いた本人はわかりづらいとは思っていないからこそ、人はわかりづらい文章を書いてしまいます。そこで、そもそも「わかりやすい文章か、そうでないかを判定する能力」が重要となります。そのため、日頃から、わかりやすい文章をたくさん読み、その構成、単語の選択、言い回しに慣れておくべきです。私の場合、会社法の江頭教授、刑法の橋爪教授、刑訴法の川出教授の文章が好きでした(全員東大の先生ですね…)。そういった意味で、基本書などを何度も読むことは、文章力をつけるため、すなわちアウトプットのためにも大変重要なことです。

 また、文章作成の「教科書」を読むのも有用だと思います。気分転換にもなりますね。私は、

文章読本 (中公文庫)

文章読本 (中公文庫)

 

 を良く読みました。名著です。
 近時は、法律文書に特化した文章作成の教科書も数多く出ています。井田先生の本は有名ですね。

   もっとも、受験生は時間がありませんから「いつか文章力はつくさ」と、基本書を何度も読んだり、上記の教科書を読む時間をとるのも難しいでしょう(私は読んでましたが)。そこで、手っ取り早く、わかりやすい文章となっているかどうかを判断し、改善する方法を考察したいと思います。

具体例から考察する

 それでは、後輩のY君の答案を(より悪く…)改変したものをもとに考察してみます。

①一文が長すぎないかどうか

 取締役会の招集手続における法令違反があることが新株発行の無効原因にあたるかを検討する。
 会社法は、公開会社に限って、授権資本制度を採用していることから、募集株式の発行を会社の業務執行に準ずるものとして取り扱っているといえるため、取締役会の招集手続に瑕疵があった場合、当該募集株式の発行にかかる法的安定性を優先すべきであるといえる。したがって、取締役会の招集手続の瑕疵は、無効原因とあたらないとすべきである。

 →内容的には(大きくは)間違っていないですね。ただ、読みづらいです。日本語は、SCV語順なこともあって、一文が長くなると、とかく主述関係(文の骨格)がわかりづらくなります。工夫しないと、一文としてのわかりやすさが大きく損なわれます。法律答案に限って言えば、可能な限り一文を短くすること、目安としては答案用紙で3行にわたる文章は絶対に書かない、ということがオススメです。そこで、下記の様に文を分割します。

②接続詞等が適切かどうか

(前略)会社法は、公開会社に限って、授権資本制度を採用していることから、募集株式の発行を会社の業務執行に準ずるものとして取り扱っているといえる。そうだとすれば、取締役会の招集手続に瑕疵があった場合、当該募集株式の発行にかかる法的安定性を優先すべきであるといえる。(後略)

 一文が長すぎるよ、というと多くの人が、このように適当な接続詞等(国文法上の接続詞だけでなく、接続詞の役割を果たす語)を挿入してきます。これ自体は良いことです。一文を短くし、適切な接続詞で繋ぐことで、文と文の論理的関係が明確となり、文章(段落)自体の言いたいことがはっきりします。

③指示語を使わず構成してみる

  もっとも、この段階で、ぜひやってもらいたいことがあります。接続詞が適切に働いているか、前後の文章のつながりをもう一度確認してください。

 接続詞が適切かどうかをみる際、「しかし」としたのに(内容が)逆接になっていない、などの間違いは容易に発見できます。

 やっかいなのは、上記の例にもあるような「(そう)だとすれば」とか、「この点」といった指示語(こそあど言葉)が含まれている場合です。指示語+接続詞もどきを使うと、書き手が脳内でその指示内容を都合良く解釈してしまい、結果として、文と文が繋がっていないにも関わらず、繋がっているように(書き手だけ)誤解してしまう、ということが発生します。

 これを防ぐために、上記①②(一文を分割し、接続詞を挿入)の後、いったん立ち止まって、指示語を使わずに(脳内で)構成してみることをオススメします。

 例文で言うと、「(そう)だとすれば」の「そう」の部分は、「会社法は新株発行を会社の業務執行に準ずるものとして取り扱っていること」です。「新株発行が業務執行に準ずるもの(A)だとすれば、法的安定性を優先すべきである(B)」。これが、この文章の骨格です。

 果たして、この命題が正しいとすれば、公開会社に関しては、(発行可能株式総数を超えるなど、業務執行権限内とは言えない場合をのぞき)取締役が新株を発行した以上、常に法的安定性(というか動的安全)が優先し、結果として新株発行が無効とされることは無くなってしまいかねません。いや、そんなはずはないだろう。少なくとも、支配権異動特則(会社法206条の2)の手続的瑕疵については無効原因となるだろう。ん?そうすると、「だとすれば」という接続詞(等)は間違ってるのではないか?… と、このようにして読み手は迷宮に誘われます。

 多分、この書き手も、取締役が新株発行した以上、常に法的安定性が優先する、とは考えていません。諸悪の根源は、「そうだとすれば」を都合良く解釈したことで、文と文がなんとなく繋がってみえることにあります。支配権異動特則との違いを強調するためにも、取締役会の決議という制度趣旨についても一言触れておいた方が穏当です。

※追記 しかも、今見たら「会社の」業務執行って変ですね。

公開会社においては、新株発行は取締役の業務執行とされており、取締役会の決議(201条3項)は、内部手続に過ぎない(A)。一方で、公開会社の新株発行を無効とすれば、転得者など不特定多数の動的安定が害されるおそれは大きい(B)。従って、取締役会の招集手続の瑕疵は、新株発行の無効原因とはならない(C)。

→ 考慮要素A・B、これらを考慮して結論C、といういたって普通の構造ですが読みやすいのではないでしょうか。

まとめ

 以上、勉強が進んだ方には「しごく当然」で、初学者には「まだよくわからない(からこそ、間違える)」内容でしたが、覚えておいてほしいことは

①一文は2行以内とし、②適切な接続詞等でつなぐ、③指示語を使わずに構成してみる、ということです。

特に、「(そう)だとすれば」には要注意です!