・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い
・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的
・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的
・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き
・司法試験お役立ち度 ★★★★☆
・ひとことで言うと「安心安全な特許法の基本書」
知財法の教材は良書ばかり
知的財産法は基本7法ほどは教材が豊富ではありませんが、現在市販されている教材はどれもレベルが高く、「選んじゃダメな本」というのがほとんどありません。
司法試験問題も、(たまに場合分けが必要など)やや独特の作法はありますが、聞かれる内容の質・量は(他教科と比べて)いたって平均的なものです。
というわけで、知的財産法は、これだけは読んでくれ、という必読の一冊があまりありません。従って、教材選択はあまり神経質にならずに、とりあえず新しく(これについては後述)、かつ自分に合うものを選んでおけば良いと思います。
特許法入門の内容
(良い意味で)オーソドックスな特許法の基本書です。この本と、
標準特許法 第6版が、特許法の定番教科書の座を二分するのではないでしょうか。
特許法は、出願審査や、審決取消訴訟などの手続法的な側面があり、消尽理論など複数のプレイヤーが登場する概念もたくさん登場するのですが、本書は図表を多用して、こういった手続・複数当事者の利害関係についてかなりわかりやすく説明しています。
結果として、知的財産法 (LEGAL QUEST)(実質160頁)や知的財産法1 特許法 (有斐閣ストゥディア)(220頁)に比べるとそれなりの厚さ(400頁)となっていることはやむを得ないでしょう。
本書の特徴としては、判例の引用・分析が非常に丁寧で、かなりの部分で判例集を開く必要が無いことがあります。
例えば、近時のホットトピックである存続期間延長登録(67条2項)については、従来の実務→パシーフカプセル事件(百選59事件)→ベバシズマブ事件(知財高裁大合議判決)を詳細に引用しつつ、丁寧な解説を加えています。
クレーム解釈が問題となったサトウの切り餅事件も、正反対の結論に至った東京地裁判決と、知財高裁判決を対比しつつ論じています。
複数薬剤の組み合わせ特許の間接侵害が問題となったピオグリタゾン事件についても、別々の法律構成をとった大阪地裁、東京地裁を対比しつつ論じています。
本書は網羅性も高く、一通りこなせば、試験で知らない論点が登場することもないでしょう。
唯一かつ結構大きな弱点は、2014年(平成26年)出版と、やや古いことです。知的財産法は、情報を扱う法律であることから、新しい事件、判例が次々に登場し、条文もどんどん改正されていきます。
また、新判例・新条文で基本的な考え方が変更されることもしばしばです。商法に近いところがあるでしょうか。代表的なものとしては、PBPクレームの解釈(平成27年重判知的財産法1)があります。知的財産法の某先生が「知財の教科書は、3年経つともう古い」的なことをおっしゃっていましたが、全く同感です。
例えば、上記の存続期間延長登録について言えば、ベバシズマブ事件は最高裁判決が出ており(平成28年重判知的財産法2)、さらに延長登録された特許権の効力範囲について、知財高裁判決(平成29年重判知的財産法3)も出ています。
さらには、職務発明(35条)に関しては、改正があったので、本書は「旧法の解説」となってしまっています。
特許法入門の用途
本書の質・量は司法試験対策として十分なものですから、全ての知財学習者にとってメイン・ウェポンとなることは間違いありません。ライバルである標準特許法 第6版と読み比べてみて、説明が分かりやすいと感じたほうを買えば良いと思います。もっとも、標準特許法は、去年改訂して新条文・新判例を掲載していますので、どちらでも良いな、と思った方は標準特許法が良いと思います。
また、知的財産法は、アイデア(発明・考案)、デザイン(意匠)、ブランド(商標)、そして表現(著作物)という無形財産を扱うものですから、学習初期、少しだけとっつきづらいのは確かです。本書や標準特許法でもわからなければ、迷わず知的財産法1 特許法 (有斐閣ストゥディア)を購入して、猛ダッシュで2回くらい通読してしまうことをオススメします。同書も、非常に良い本です。