だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

倒産法演習ノート22問〔第3版〕

こんにちは、ありまるくんです。今日はこの演習書を紹介します! 

倒産法演習ノート―倒産法を楽しむ22問 第3版

倒産法演習ノート―倒産法を楽しむ22問 第3版

  • 作者: 山本和彦,岡正晶,小林信明,中西正,笠井正俊,沖野眞已,水元宏典
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

・説明が わかり辛い ★★★☆☆ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的

・範囲が 深堀り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと 「過去問後+本書で倒産法は完璧」

倒産法の演習書の概観

 演習ノート22問以外のメジャーな倒産法の演習書を挙げるとしたら、ロースクール倒産法とロースクール演習倒産法でしょうか。

 まず、ロースクール倒産法は問題意識が高く、物凄く網羅的です。しかし、解説がついていません。風の噂で聞きましたが、どうやら教員用の答えが載ったテキストがあるらしいですよ。しかし、仮にそのテキストを入手したとしても、オーバーワーク感が否めません。そのため、あまりお勧めできません。

 次に、ロースクール演習倒産法は設問ごとに、質のバラつきがあります。おまけに解説が受験対策への意識を欠いていると思うことがしばしば。もっとも、文章はわかり易くある程度の網羅性はあるので、過去問に取り組む前に基礎知識の定着と並行してざっとこなすのもアリだと思います。

倒産法演習ノートの内容

 まず、問題意識が高く網羅性が非常に高い上に参考答案がついています。百選に載っている有名論点の知識自体はあっても、具体的な処理手順がわからなかったりすることがあると思います(例えば、民事再生手続きにおける解除特約の有効性の論点や、無委託保証人の事後求償権の破産債権該当性と相殺制限の論点など)。参考答案に処理手順が記載されているので、有名論点の処理手順をカバーできます。ちなみに、編者・著者の先生方は、倒産法業界で有名な先生ばかりですので、解説の正確性は保障されています。

問題意識が高い

 本書の長所(かつ短所ともいえる)は、問題の質が高いことです。問題意識が司法試験レベルを超えることが度々あります。僕の身近に倒産法選択で一発で合格した方が5人いましたが、それぞれが別の機会に同じことを言っていたので間違いないと思います。もっとも、理不尽とまでは言えない程度のレベルで収まっていることから、現場思考問題の訓練の場としてかなりいい感じだと思います。

 具体的には、百選判例とは事実関係が異なり、判例の射程が問題となったり、適切な評価・あてはめを問うものや、基礎から考えないとわからない未知の論点が掲載されています。

 1つ例題を挙げてみましょう。

(前提: AC間での不動産売買契約が締結され、目的物である甲土地の登記はCに移転されたものの、甲地の明渡し及び代金の支払いが未了のままAにつき破産手続きが開始された。)

問題: 破産手続開始当時、双方未履行の双務契約であることから、Aの管財人は破53条1項に基づいて契約の解除を主張し、Cよりさらに高額で買い取るとの申出をしたDに売却しようと考えている。かかる解除権の行使は認められるか。そして認められないとしてどのように処理されるべきか。 

解説: 賃借人等は対抗力ある物権的地位を有するにもかかわらず、管財人の解除選択が認められると、著しい不公平な状況に置かれ、適当でないから・・・(中略)賃貸借契約以外の契約であっても、契約相手方が対抗力ある物権的地位を有する場合には、(56条の)類推適用の基礎をもつ。・・・(中略)その効果として、契約相手方の請求権は財団債権となる(56条2項)(本書232頁~より要約して引用)

  という出題・解説内容が挙げられています。解除選択の可否と取戻権が絡んでくるとわけわからなくなりそうですよね。要は、53条1項の制度趣旨や最判H12年2月29日で挙げられた考慮要素を前提にして、解除の可否の問題に取戻権が絡んで来たらどうしましょうか?という問題です。

 当然Cは取戻権を有するわけですが、明渡義務と代金支払義務が未履行である以上、双方未履行の双務契約に当たります(当たり前に思えるかもしれませんが、双方未履行契約の認定をすることは、試験では意外と大事です)。

 そこで問題となるのが、そもそも解除することが53条の趣旨に反するのかという点です。この点、①解除を許すとCの物権的地位を一方的に奪うこととなり、53条の解除の趣旨である契約当事者の公平・迅速な清算に反します。②さらに、解除選択されるとその補填として支払われる損害賠償請求権が破産債権として扱われます(破53条1項)から、Cの被った不利益は回復困難と予想されます。以上の事情から(他にもありますが)、解除を許すと契約当事者の公平は図れないといえそうです。

 次に、53条の制度趣旨に反するから解除はできないハイ終わり、というように解答を締めくくれるかというと、本件では代金が未払いですし契約相手方が担保権を有する場合などとの対比から考えると無理そうですよね。そこで、上述の説明の通り56条類推適用により53条の適用を排除して財団債権として明渡請求をするとの法律構成をとります。なお、取戻権は消滅するわけではないから、財団債権と競合します。

 このように事案に応じた具体的な分析及び基礎からの考察が必要となる良問です。

網羅性が高い 

  受験生の多くがあまり勉強できていないであろう、小規模個人再生などのテーマについてもしっかりカバーしています。これらは全くやる気が起きないが、やらなければ司法試験を迎えるのがおそろしいよねっていうテーマだと思いますが、参考答案がまとめノートして使えるレベルです。というのも、制度の特徴や要件の違いを問題にしておりその解答が秀逸だからです。これらのテーマについて、司法試験でゴリゴリに深堀りしたことを問われることは考えづらいことから、試験前に解答をざっと見ておく程度でいいと思います。

 倒産法演習ノートの使い方

 破産法と民事再生法の基礎を学び、過去問を解いた後にやることを筆者はお勧めします。その理由は、参考答案が長く、司法試験の本番で書ける量を超えているため、文章を取捨選択する力がある程度ないと、効率が悪い&答案構成能力を向上させる機会を逸するからです。そして、過去問のこなし方に関しては、過去記事を参考にしてください。

  筆者は過去問を一周した後に、本書を一周しつつ学ぶべき処理手順や新知識のマーキングだけしました。そして、試験前に本書のマーキング部分のみ一読するようにしていました。正直、本書だけを演習書として回すのはちょっと危険だと思っています。というのも、本書は三段論法をおろそかにした参考答案が散見されるからです。受験生として危うい癖をつけてしまうのを嫌い、筆者は司法試験の過去問&参考答案をメインウェポンとして使っていました。過去問を先に解くべきだとお勧めする理由の一端もこれにあります。