だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

平成30年司法試験民法にみる「基礎的な理解」

基礎的な理解?

 司法試験の出題趣旨・採点実感を読むと、「基礎的な理解」を試す、という文言がよーく出てきます。予備校本の解説を読むと、「聞かれているのは基本的な事項である」とか書いてあります。

 基本的な、って誰にとって基本的なんだ。基準はどこにあるんだ。と学修初期はよく思っていたものです。にもかかわらず、学修に慣れてくると「まあこれくらい書けば、基本的な理解は示せるな」とか平気で言うようになります。というわけで、今日は「基礎的な理解(基本的な事項に対する理解)とはなんぞや」を考えてみます。

基礎的な理解≒体系的な理解

 まず、「基礎的(含 基本的)な理解」が、超重要判例を一言一句覚えろよ!という暗記ゲームの勧めではないことだけは確かだと思います。

 筆者は、「基礎的な理解」なんたるかを知るには、「体系的理解」なるものが意外と大切では無いかと思っています。体系、という言葉は基本書界隈で良く聞きますが、デジタル大辞泉によると、「個々別々の認識を一定の原理に従って論理的に組織した知識の全体。」という意味のようです。

 体系的理解-すなわち、知識の全体を、一定の原理から俯瞰できることは非常に重要で、それこそが「基礎的な理解」(の一端)なのではないか、私はそう考えています。鬼のように抽象的なので、愛川先生を見習って、図示&例示してみようと思います。

実を見て木を見ず

リンゴの木でイメージ

 木を見て森を見ず、ということわざがあります。物事の一部分に気を取られて、全体を見失う、というような意味らしいです。司法試験、法律の勉強でも、木を見て森を見ない-というより、木になっている「実という論点」だけをみて、「体系という木」をみない人が多いのではないでしょうか。

 下図は、体系という幹や枝に知識という細かい葉が茂り、そのうちいくつかは、論点として結実しているというイメージです。これらの知識の総体が(例えば)「物権法」です。

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 論点だけを暗記する、というような勉強を続けると、脳内は雑然とリンゴが並んでいる状態になってしまいます。このような状況で、未知の論点を出題されると、何らかの原則、理論、判例から推測する、というようなことができません。

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 結果的に、他のリンゴと取り違えてしまいます。つまり、無関係の論証パターンを貼り付けてしまうというわけです。のみならず、指針となる幹、枝の配置(以下、面倒なのでツリー図という)がわかっていないので、「物権法の原則からはあり得ない法律構成」をとってしまい、致命的ミスになります。

司法試験に必要な「基礎的な理解」

 幹や枝が無いと、どうなるか

 平成30年司法試験民法の設問2(2)では、土地所有者Eが、自動車の所有権留保売主Dに対して、登録(道路運送車両法5条)を有することを理由に、物権的請求権を行使し得るかが問題となっています(以下、本件論点と言います)。これに対する採点実感(の要約)は、

…何の留保もなく、EとDとが対抗関係に立つことを前提としてしまった答案がかなり多くみられた。これは、民法177条などの「第三者」の意義についての理解が十分でないことを表しているものであり、他面で…最判平成6年2月8日民集第48巻2号373頁という重要な関連判例を意識することができていないものであって、基本的な判例の知識の定着の観点から難があるといわざるを得ない(平成30年司法試験民事系第1問採点実感より)

 つまるところ、本件論点を知っているか、知らないかはどうでもよく、物権的請求権という利益があるから→第三者にあたり、相手方と対抗関係に立つ!、のではないよ!ということだけは押さえておいてくれ、これが基礎的な知識じゃ、とおっしゃっています。

 ちなみに、本件論点そのものは、問題意識の高い書籍でしか扱っていないもので、例として、下記の書籍があります。

 なお、同書89頁は、物権的請求権を行使する権利者と相手方との関係が対抗関係であるはずがない、という常識的な見方としています。やっぱり、これが基礎的な知識です。

枝や幹の構造を知っておく

 さて、では具体的にはどんな感じに枝や幹が生えているかというと、

 

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 まず、物権法という木の中で、物権的請求権と、物権変動とは全く別の幹に位置しています。条文の配置(仮に所有権に基づく物権的請求権の条文があるとすれば207条周辺・物権変動=175条~)、基本書等での目次から、明らかなことです。

 物権変動が意思表示によって効力を生ずるのは、あらゆる物権変動に共通ですが、不動産と動産は、異なる規律に服しています。本問で問題になった自動車は、登録制度により権利関係の調査が容易であること、概して高価であること等、不動産に近い性質を有すると言えます。(ので、当然に対抗問題が出てくる、のではないことに注意)

物権的請求の相手方

 さて、物権的請求の相手方は、原則として、現在の妨害者=妨害している物の現在の所有権者です。所有権者は処分権があるからね、というわけです。くだんの平成6年最高裁は、

  1. 建物の所有は必然的に土地の占有を伴うことから、土地所有者としては、建物所有権の帰属に重大な利害関係がある=177条の「第三者」に準ずる重大な利害関係あり、という形式的根拠
  2. 土地所有者は、地上建物の所有者を特定する、という探究の困難を強いられ、所有権の円満な状態を回復することが困難となる=権利者の要保護性
  3. 他方で、登記名義人は、建物の所有権を譲渡したのであれば、その登記を行うことは通常は困難ではない=登記名義人の帰責性

という数々の理由付けから、土地所有者の、建物登記名義人に対する土地明渡請求を(例外的に)認めたものです。なお、同判決については、民法177条の適用を認めたもの(司法試験の問題と解説2018  (別冊法学セミナー no.254) 40頁の松尾先生の解説)、177条の趣旨の援用を認めたもの(上記<判旨>から読み解く民法の石田先生の解説、佐久間先生の基本書での解説等)等、複数の理解があります。が、いずれの見解も、典型的な対抗関係(民法177条・道路運送車両法5条)の場面とはしていないことは明らかです。

 上のツリー図で言えば、「物権的請求の相手方」という枝の上ではありますが、民法177条に近いところに位置する論点、というわけです。図で言うと、?の場所ですかね。ポイントは、決して対抗関係の幹と「つながった」わけではない、というところです。

対抗関係における「第三者」

 民法177条(道路運送車両法5条)の「第三者」について、無制限説をとれば、当然、物権的請求権者は、権利喪失を主張する相手方との関係で、第三者にあたります。

 が、現在まで脈々と続く判例・通説によれば、「第三者」については、制限説がとられています。すなわち、登記の欠缺(不存在)を主張する正当な利益-相手方の物権変動の主張が認められると、当該物に関する権利を失い、または負担を免れることができなくなること(相容れない権利関係)が必要とされているわけです。

 本件で言えば、Eは、Dの主張が認められようが、認められまいが、自らの有する、土地所有権に基づく返還請求権を失いません。当たり前ですが。よって、EはDとの関係で「第三者」にあたらない、対抗関係に立つはずがないわけです。

小まとめ

 以上を(なんとなーく)理解していることが、本問における、司法試験に必要な「基礎的な理解」と思われます。司法試験委員会としては、これらのことは「前提」として欲しかったはずです。なお、後述の通り、最判平成6年の理由付けを詳細に覚えていることまでは、求めていなかったと思います。簡単にまとめると、

  • 物権的請求の相手方に関する法理と、不動産物権変動(登録された自動車の物権変動を含む)における対抗関係の法理は、全く別の「幹」に属する法理であること
  • 対抗関係の法理では、第三者につき制限説がとられており、最判平成6年も含めて、物権的請求の権利者が当然に「第三者」にあたるとする見解は体系上、取り得ないこと
  • 物権的請求の相手方に関する法理については、最判平成6年が対抗関係の法理に近い処理をしており、その射程が問題となること

というところでしょうか。

「だいたいの」体系を理解しておく

 尊敬する新進気鋭の民法の教授は、「条文にせよ、基本書にせよ、目次を読みましょう。民法ができる人は、各条文の順番-論理的な繋がりをきちんと理解しています」と何度も繰り返しておっしゃってました。その言わんとすることは、体系的理解の重要性ではないでしょうか。原理-派生原理関係、原則-例外関係など、各知識(論点)の有機的・アナログ的な繋がりを意識しつつインプットすることが重要だと思います。

 そして、この様な「体系」が一朝一夕に身につくはずもありませんから、体系-すなわち幹や枝によるツリー図は、おぼろげなもので良いと思います。少なくとも、上記の1.2.3.が「だいたい」「なんとなく」わかっていれば、「Eは登録の存在を主張するにつき正当な利益を有する第三者にあたるから…」という、見当外れの論証をしなくてすみます。致命傷を避けることができる-最低限の防御力、すなわち基礎的な理解ではないでしょうか。また、「葉っぱの知識」も、実務に出てからの得意分野を育てる「芽」として、数枚で良いから持っておくと楽しいのではないでしょうか。f:id:tasumaru:20190224205546j:plain

 体系の、「だいたい」「なんとなく」の理解が、「基礎的な理解」の一端だと思うのは、こんなところです。

おまけ・平成30年司法試験民法の解答例

基本的な考え方

 以上の基礎的な理解(体系的理解)があれば、「あーこれは、最判平成6年の射程の問題ですね」というところまではすぐに判断できるはずです。で、その問題意識が答案に表れていれば、基礎的な理解あり、ということになり、ほぼ合格答案になっていると思います。

筆者の答案

 筆者は、最判平成6年の理由付け(上記1~3のセット)を詳細に覚えておりませんでした。というより、1が抜けてました。言い訳をしますと、メインウェポンの民法の基礎〈2〉物権 では、2~3の理由付けが「本文」で、1の理由付けは「補論」のコラムだったんですよ!はい、恥ずかしい言い訳終わり。

 その結果、どんな答案になったかというと、

 最判平成6年の射程が及ぶか、根拠となった理由付けが本件で妥当するかを見る… 2.権利者の要保護性-所有者探究の困難性、3.登録名義人の帰責性-登録移転の容易性のいずれも、本件登録自動車についても同じである…以上より、Dの発言は失当で、Eの請求は認められる。

 …やー 薄っぺらいですね。事案の分析が適当です。でも、こんなんでもA答案です。採点実感でいうと、「優秀に属する」は無理でも、「良好に属する」に入ります。やっぱり、「だいたい正しそうな」ことがわかっていることが重要です(どや)。

あるべき答案

 詳細な検討は、様々な解説が出ているのでそちらを見ていただいた方がわかりやすいですが、本問では、以下のポイントで「悩みを見せる」と特A答案だったのかもしれません。

  1. 形式的根拠につき-建物の存立が土地所有権者に与える重大な権利侵害という関係が、自動車所有者(D)と、土地所有者(E)の間には見られない。簡単にいうと、確かに登録済自動車は不動産類似の公示制度がとられているけど、レッカーでとりあえず違う場所に置けるでしょ、という話。
  2. 権利者の要保護性につき-筆者の答案のように、まあ認められるだろう、としても良さそう。
  3. 登録名義人の帰責性につき-ここも重大な相違が出るところ。Dは、単なる自動車の譲渡人ではなく、所有権留保売主。なぜ所有権留保特約をつけたのかと言えば、代金完済の担保のため。だとすれば、代金完済までは、おいそれと「はい、譲受人のAに登録名義移してあげるよ」とはならないでしょう。帰責性があるとまで言えますかねー。

 以上より、2.は妥当するが、1.は微妙で、3.は妥当しない。よって、所有権留保特約がついていなければまだしも、所有権留保特約がついている本問では、最判平成6年の射程は及ばず、Eの請求は棄却(又は却下)。

 3.については、上記の司法試験の問題と解説2018 の松尾先生の解説に依拠しております。素晴らしい解説でした。