だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

「入門書」の役割と、プレップ知的財産法

プレップ知的財産法 (プレップシリーズ)

プレップ知的財産法 (プレップシリーズ)

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★☆☆☆☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★☆☆☆ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★☆

・ひとことで言うと「司法試験特化型入門書」

入門書の役割とは

 入門書ってそもそも何ぞや、という話ですが、読んで字のごとく「門に入る(ための)書」ということなのでしょう。そうすると、入門書には二つの役割があるように思います。

  • 読者は全くの素人ーまさに「門外漢」なのだから、新しくて難しい知識・概念を見せつけてビビらせてはいけない。「あなたの常識ー既存の知識や考え方で十分理解できますよ~」と、門に招き入れる勧誘をしなければならない。=①勧誘的役割
  • 門を入った後は放置!では、いつまでたっても当該学問を修めることができない。「本書を卒業したら、こんな風に知識を身に着けて、使えるようになってね~」と、門を入った後に進むべき道を示すだけの知識を与えなくてはならない。=②地図的役割

 この二つは全然違う役割です。正反対であるような気もします。右手で「誰でもわかるよ~」と手招きし、左手で「この地図持って、あっちへ進め!」と指示するのが入門書の役割です。二重人格だ。とまでは言いませんが、この二つの役割を上手にバランスさせるのは大変難しいように思います。

 そして、(多くの)優れた入門書には、前者ー勧誘的役割を重視したものが多いように思います。そりゃそうだ。相対性理論の入門書で、冒頭「全ての慣性座標系は等価である」なんて書いてあったら、その時点で本を閉じますもんね。筆者の読んだ相対性理論の入門書は「漆黒の宇宙空間であなた(A)から、どんどん離れていく遊泳服の人(B)がいたときに、AとB、果たしてどちらが動いているといえますか?」みたいな記載でした。やっぱこういう記載の方が分かり易いですね。

 知的財産法で言いますと、ストゥディアシリーズ、本書の著者である小泉先生の前著「特許法・著作権法」がまさに①勧誘的役割を重視しており、「そもそも特許制度ってこういう制度でね、もし特許制度が無かったとしたらこんな風になっちゃうよ」というところから解説してくれます。

 ところが、本書は①勧誘的役割をほとんど諦める!という、入門書にあるまじき戦略をとり(笑)、代わりに②地図的役割を最大限重視しています。非常に独特の構成なので、書評がしやすいです。

プレップ知的財産法の内容

極度に薄い

 まず、尋常ではなく薄いです。索引含め128頁。四六判(A5より小さい)ので情報量は数十ページほどしかなく、冗談抜きで2時間以内に読了します。2時間で知的財産法の基本的な考え方がわかる!(後述の通り、わかる人には)。網羅性?そんなもん知らん!基本的な考え方ー知的財産法の「地図」が身に付けばええんや!

段階的説明の放棄

 さて、なんでこんなに薄いのかというと、上述の通り、勧誘的要素ー(想定読者の)既存知識から、順を追って、段階的に説明するーということをほとんど放棄しているからです。本書を開くと、最初のページには「特許権」についての説明がありますが、なんと8行で終わり。その後10行ほど「職務発明」という試験的にも・実務的にも超重要な制度の説明があり、2ページ目に突入。そして…

ほとんど全部ケース・スタディ

 なんと、入門書の2ページ目には突如として「じゃ、職務発明の実例みてみるよ」という訳でケースが登場します。レベルとしては、学部やローの定期試験で出題されてもおかしくないレベルのものがです!

 本書の「基礎知識・概念の説明」は上述の通り瞬殺で終わりますので、ケースが登場してからの解説が「本番」です。まず、「入門書なのに六法開くのめんどくせぇ」という読者のために、特許法35条(職務発明)など、問題解決に必要な条文は全文ひいてくださっています(涙)。その上で、事例を解決するために、この条文をどう解釈するかっていうとね…と解説するのが本書の基本スタイルです。

 簡単にまとめますと、基礎知識・概念の説明10%:ケース・スタディ90%という、信じられない配分です。

司法試験過去問の登場

 なんという恐ろしい本なんだ…すげぇ…と読み進めていくと、上記「職務発明と特許権の帰属」については実質6頁で終了してしまいます。次は「特許権侵害」なのですが、これについては結構難しい概念なので、本書では破格の見開き2ページを費やして基礎概念を説明します。そしてページをめくるとまたしてもケース登場!そしてそのケースはなんと…

(平成28年司法試験知的財産法改題)

 …えっ?過去問?マジ?超初学者向け入門書で、基礎知識は2ページ(四六判だけどね…)説明しただけで、司法試験過去問登場です。すごすぎる。プレップシリーズってみんなこうなのか!?

 え~なんと、本書に登場するケース約20問のうち、15問が司法試験過去問です。高邁というか壮絶なコンセプトです。「そんな初学者にわかるわけないやろ!」的なツッコミがありそうなのですが、これが何故かわかるんですよ~。問題解決に最低限必要な条文と解釈しか記載していないからなんでしょうか。不思議です。

高い問題意識

 さらには、本書は知的財産法が俯瞰できれば良い!基本的な考え方がわかれば良い!というコンセプトを貫いているため、ハナから「勧誘」や「網羅的説明」は諦めています。むしろ、「容易想到性は誰がどのように認定するか」といったかなりコアな知識・問題意識でもそれが上記コンセプトのために必要とあらば、「講義後の質問タイム」という教授ー学生間の会話形式のコラムでビシッと拾っていきます。知財法選択者であれば、この薄さでそこを拾うのかっ!とかなり驚きます。

実務的章立て

 これは最近(一部で)はやっていますね。どういうことかと言いますと、章立て・項目の立て方が「条文の順番」とか「体系を意識したパンデクテン方式」ではなく、実際の訴訟の進行ー「請求原因ー抗弁」の順番に並んでいる、ということです。これは(法学の基礎が身に付いた人にとっては)非常に分かり易いです。知財法はビジネスローということもあり、特にこのような章立てのテキストが多くみられますね。

プレップ知的財産法の使い方

 という訳で、本書の内容をもう一度要約しておきますと、

  • 段階的説明、網羅的説明を排除しているため極度に薄い
  • 司法試験過去問を条文&解釈で解く!
  • 必要とあらば高い問題意識も触れる
  • 請求原因、抗弁の順番で学習

 ということです。少なくとも、小泉先生の「知的財産法=ビジネスローである。よって、実務的な解決を考えていくのが全体把握の近道である」という想いは伝わってきます。うううーん、この構成が何を意味するのか、どんな使い方を想定しているのか、筆者なりに考えてみましたが、結論はこういう事です。

  • 民法、要件事実、行政法の定期試験で少なくとも平均点くらいの成績がとれる読者
    ∵不法行為法や、取消訴訟の基本等は当然知っている、という前提で基礎知識の説明を大胆に省略しているため
  • 最速(1年以内に)で司法試験に到達するためには
    ∵筆者のように1年半あれば、ストゥディアシリーズからのんびりでも十分間に合うため
  • ベストの入門書と言えるでしょう

 別の想定読者として、司法試験に合格された方であれば、当然の知識が省略されていることや、実務的章立てはむしろ「読みやすい」と感じられるはずです。また、上記の通りマジで2時間で知的財産法の概略がわかるので、

  • ちょっとだけ知的財産法に興味のある実務家、修習生、合格者の皆さん

 にもおススメできます。入門書としては非常に変わった構成(筆者は好きである)なので、

  • 法学の教え方、に興味のある先生方

 も読んでみると面白いと思います。いや~久しぶりに、衝撃的なコンセプトの本に出いました。知財法に関わりの無かった方にも、是非お勧めしたいです。