だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

「わかる基本書」「書ける基本書」ー民法の基礎(佐久間毅)

民法の基礎1 総則 第4版

民法の基礎1 総則 第4版

 
民法の基礎2 物権 第2版

民法の基礎2 物権 第2版

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「基礎ではないけど最高の教科書」

※なお、以下の書評で登場する頁数等はいずれも筆者所有の本書旧版です

民法はなぜ難しいか?

 こんにちは、たすまるです。さて、本ブログで様々なアンケートをとっても、各記事のアクセス数を見ても、読者の皆さんが民法に悩んでいることはよくよくわかります。「民法の基本書等リスト」の記事なんか、1ヶ月3000PV以上あります。1日100回もあんな記事が読まれているのです。マジで改訂しなくては…。で、一体全体、民法の何が難しく、何に悩んでいるのでしょうか。筆者の初学者時代(もう4年前か)を思い出しつつ、考えてみます。

①初学者ー理解する難しさ

 まず、民法は理解するのが難しい法律です。なぜか。多分、民法はあらゆる法律の中で最初に学ぶ法律だからです(笑)。法律を理解すること自体が難しいんですね。筆者も、(事前準備ゼロの純粋未修として)法科大学院に入ってから最初の2ヶ月程度は大変苦労しました。何度基本書を読んでも、どれだけ緻密に考えても、民法の基本書の冒頭で繰り広げられる法律行為論が全く頭に入りません。法律行為論が具体的にどんなモノなのなのか、法律行為論自体にどんな実益があるのかサッパリわからないのです。「これ、具体的にはどんな行為?何のための概念?」

②1年目ー書く難しさ

 次の関門として、知識を表現できるか、すなわち答案を書くことの難しさがやってきます。そもそも基本的事項を理解することが難しいし、基本書の文章はなんだか書きづらい。とりあえず書ければ良いんだろ!という訳で、多くの学生が基本書等で①理解することを諦めて、②論証パターンを覚えることで、(つかのまの…)安心感を得ようとします。

③2年目以降ー考える難しさ

 なんか答案っぽいモノが書ける!と喜んだ半年後には、定期試験等で論パがそのまま妥当しない問題が出題されます。ここで①をやらずに②ばかりやってきた学生が思うのが「そんな論点知らん」です。しかし、多くの学生が触れることのできない知識を出題するのはアンフェアです。よくよく問題を読んでみると、そのような難しい問題は、既存の論点(その多くは基本的事項)をひねることで、応用力を問うものに過ぎないことがほとんどです。
 先日、下記記事でkenmayさんがコメントしてくれた、令和元年・予備試験の商法の問題などは、その典型です。やっぱり、難しくても、①基本的事項をきちんと理解しなくてはならないわけです。 

民法の基礎の内容

 本書は、そのタイトル通り、①基本的事項を正確に理解させると同時に、②非常に書きやすい文体・論証により書く力も身に付き、③発展問題についても考えさせる、という、まさに初学者が司法試験合格レベルに到達するための全てのツールを提供する教科書です。

 筆者は、内田先生の民法I 第4版: 総則・物権総論から法律学習をスタートし、民法総則 第3版 (伊藤真試験対策講座 1)といった予備校本や、山本敬三先生の民法講義1 第3版 総則や、安永先生の講義 物権・担保物権法 第3版にも手を広げましたが、本書に出会ってからは、基本的に総則・物権は本書のみで司法試験に挑みました。多読派の筆者としては珍しいことで、それだけ本書がオールマイティだということだと思います。

①基本的事項の丁寧な説明

 上述の通り、法律は抽象的なので、「法律行為」って言われたって、それが具体的にどんなモノなのか、さっぱり理解できません。また、具体的にイメージしようが無いモノに対して、それが何のためのルールなのかという実益ー制度趣旨を理解させることは困難です。この点については、筆者の佐久間先生自身が、学生時代を振り返ってこう書かれています。

…文字は読めたし、話される言葉も聞き取れた。しかし、意味がわからない。意味はとれたと思ったときも、何のためにそれを論じるのかがわからない。(※筆者注 実益論)「抽象的な命題も具体例に関連づければ理解が容易になるよ」、と助言を受けた。しかし、それは無理な話だ。(中略)普通の人間が、たとえば取引にかかわる具体的な問題事例を自分で思いつけるわけがない。(※筆者注 具体的ケース) 民法の基礎1 初版はしがきより要約引用

 なお、抽象的命題と具体例の往復が法律の学習には必須であることにつき、過去記事も参照して下さい。

ケース・メソッドの徹底

 佐久間先生がこのような問題意識から出発されていることから、本書の第一の特徴として、具体例の提示が非常に豊富なことが挙げられます。内田民法だってケース・メソッドだよ!と思われる方もいるかもしれませんが、本書の具体例提示の徹底度は群を抜いています。前述した「法律行為論」は特に抽象的な分野ではあるものの、一般の教科書ではわざわざ具体例を提示して説明するものは多くありません。しかし本書は、

①AがBにあるパソコンを20万円で買うと申し込み、Bがこれを承諾した。
② ①において、Aが代金を支払わなかったので、Bが契約を解除した。

⑤Eの前方不注意を原因とする自動車事故で、Fが重傷を負った。
⑥Gの自宅建物が、地震のために全壊した。(民法の基礎1 36頁より要約引用)

 と、多数の具体例を挙げます。

丁寧に区分された、行間の狭い説明

 その上で、上記の①~⑥の各具体的現象により、A権利が変動するか、B意思表示が要素に含まれているか、Cどのように法的効果が発生するか、等に区分して整理します。この区分自体が非常に論理的で分かり易いのも有難いのですが、各区分の説明も行間の狭い丁寧なものです。あまり多くを引用するのは避けたいので、是非上記の36ページ以降を手に取って読んでみてください。

②論点が書けるようになる文体

 このように、本書は具体例を多用した、行間の狭い丁寧な説明が特徴です。しかしながら、受験生の次の悩み「書く難しさ」がやってきます。往々にして、行間の狭い丁寧な説明は、答案には長すぎ、回りくどすぎます。出題者(採点者)は基本的事項に対する知識は十分備わっているので、ゼロから説明する必要が無いのです。すなわち、

  • 行間の狭い、丁寧な説明 = インプット向きの文章
  • 行間の広い、簡潔な説明 = アウトプット向きの文章
    であって、そうすると
  • 理解しやすい「わかる基本書」 ≠ 「書ける基本書」

となるのが通常です。しかし!ここが本書の第二の特徴ですが、基本的事項を懇切丁寧に説明し、正確に理解させた後は、本書は別人のように歯切れの良い、簡潔な説明に変貌します。例えば、〔96条3項「第三者」ー権利保護資格要件としての登記が必要か〕という論点ですが、

 判例は、96条3項を、第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点(すなわち、契約時)における第三者の信頼を保護する趣旨の規程と解している。登記の具備は、その時点以後に問題となる事柄にすぎないから、第三者の信頼(やその正当性)に影響を及ぼすものではない。したがって、第三者は保護を受けるために登記を要しない。(民法の基礎1 176頁)

 ほとんど論証パターン完成版です。先ほどの法律行為の説明とは全然違うのです。やや短くできるとしても、こんな感じです。

 第三者は保護を受けるために登記を要しない。96条3項の趣旨は、法律上の利害関係を有するに至った時点での第三者の信頼を保護することにあり、登記の有無は事後的な事情に過ぎないからである。

 基本的事項がしっかりと理解できていれば、論点とはその組み合わせに過ぎませんから、簡潔な説明で足りる、というお考えでしょうか。いずれにせよ、論点(論証パターン)の部分は非常に簡潔に書かれているため、受験生にとっては即戦力となる「書ける基本書」となっています。

 このように、通常は大変難しいと考えられる、「わかる基本書」=「書ける基本書」を達成しているところが、本書の美点です。

③適切な問題意識による掘り下げ

「発展学習」コラム

 本書の第三の特徴は、司法試験に出ても文句言えない、という適切なレベルの問題意識で、発展的・応用的な問題も取り扱っていることです。この点が、「全然基礎じゃない」と評される所以でもありますが。

 例えば、〔占有改定/指図による占有移転と即時取得〕という誰でも知っている典型論点についてですが、一般的な教材で、占有改定では

  • 所有権者の支配領域を離れたとは言えない≒形の上で信頼が裏切られていない
  • 所有権者に失権の帰責性が無い、占有取得者の要保護性が低い

 …から、占有改定では即時取得は認められず、指図による占有移転では上記即時取得が認められる、等と説明されます。ふむ。わかったような気もしますが、こんな説明でわかったと思う人は危ないです。特に二つ目の説明は単なる裸の利益衡量ですし、じゃあ帰責性や要保護性有無のラインっていったいどこなのよ、という感じもあり、そもそも説明になっているとも思えません。このような理解では、以下の事例はどのように解決されるでしょうか。

 Aは、Bから甲(絵画)を購入したが、Bにしばらく甲を賃貸することにし、占有改定による引き渡しを受けた。Bは、甲を自己所有と偽ってCに売却し、占有改定により引き渡した。Cは、甲をDに売却し、その旨をBに伝えた(指図による占有移転による引き渡し)。(民法の基礎2 146~149頁より要約引用)

 まず、Cが即時取得により所有権を取得し、これをDが承継取得することはありません。では、Dが即時取得する可能性はどうでしょうか。指図による占有移転なので、即時取得が認められるでしょうか。

 佐久間先生は、所有権者からみた支配領域性ー物支配の強度とは、(占有取得者をはじめとする)第三者からみた当該占有による公示の信頼性の問題だ、と整理した上で、

  • 占有改定では、譲渡によって不利益を受ける譲渡人の占有を通して譲渡が公示されることから、公示の信頼性が低いー物支配の強度が高い
  • 指図による占有移転では、譲渡当事者以外の第三者の占有を通して譲渡が公示されることから、公示の信頼性が高いー物支配の強度が低い

 ことが、占有改定では即時取得が認められない理由であるとしています。要するに、売買と無関係にモノを預かっている第三者に「あなたの占有してるモノの所有者って誰?」と質問したときの信頼度と、二重に売買した張本人である譲渡人に同じ質問をしたときの信頼度は全然違うでしょ、ということです。

 このような整理からすると、先ほどのケースでは、C→Dに指図による占有移転が行われているものの、占有者Bは無関係な第三者ではなく、譲渡人であるから、その公示は信頼性が高いとは言えないー物支配の強度が低いとは言えません。従って、指図による占有移転ではあるが即時取得は認められない(条文の文言でいうと「占有を始めた」にあたらない)、という結論になります。実際に、そのように判断した大審院判例もある訳です。

 このように、司法試験に出ても全くおかしくない、しかし問題意識を(ある程度)高く持っていないと、スラスラと解けない、という問題も、本書は「発展学習」というコラムで(もちろんケース・メソッドも交えて!)フォローしています。しかも、上記の通り、基礎から演繹的に考えさせる構成となっています。なお、「発展学習」では要件事実論についてもしっかり言及されています。

「補論」コラム

 さらに進んで、司法試験にギリギリ出るか出ないか、知ってたら上位合格!というかなり意識高い系の問題は、「補論」というコラムを設けて、深掘りしています。即時取得の論点で言うと、

 Aが、Bの依頼により甲動産を預かって修理をし、5万円の代金債権を取得した。甲の所有者はCであったが、AはBが所有者であると信じていた。BがDに甲を売却し、その旨をAに通知した(指図による占有移転)。Dは、Bが所有者であると無過失で信じていた。(民法の基礎2 151頁より要約引用)

 Dの占有取得は(典型的な)指図による占有移転であり、即時取得が認められますよね。そうすると、DはAに返還請求をする。あれ?Aは留置権を主張できないの?という問題です。即時取得って原始取得だから留置権は消滅しちゃうのかな?それとも、留置権の対抗の問題かな?とまあ、これ位難しい問題を扱うのが「補論」コラムです。なお、このレベルの問題意識に対応する演習書が下記ですね。

民法の基礎の使い方

 このように、書名の通りの基礎から丁寧に説明し、典型論点の説明(論証)は簡潔明瞭に通り過ぎ、司法試験の限界にまで対応する本書は、まさにオールマイティで、基本書、というより教科書の理想形と言って良いものです。

 そういった意味で、筆者はこの本に出会って以降、本書を「見本」ー説明の丁寧さ、論証の明解さ、問題意識の適切性などーとして、全ての教材(公法、刑事法も含む)を選んでいました。基本的に、全てのステージの受験生におススメできる基本書だと思います。

 唯一の弱点を挙げるとすると、やはり「基礎」とまでは言えないーかなり難しい内容が含まれている、ということが挙げられます。佐久間先生も、

 …民法を全くはじめて勉強される方は、「発展学習」および「補論」を完全に無視して読み進めていただいても構わない。本文を読み通すだけで、民法総則に関する最低限の基礎知識は身につくはずである。(民法基礎1 本書をお読みいただくにあたって より引用)

 とされています。確かに、コラムや工夫されたレイアウトで、基本的事項と発展的事項をしっかりと区別しているのも本書の美点です。しかし、本文にも結構難しい内容が含まれてます!例えば(民法改正に対応した最新版は知りませんが)95条の錯誤について言えば、判例の考え方の丁寧な説明に加えて、動機錯誤不顧慮説、認識可能性説、合意原因説と3説も解説しています。たま~に「佐久間民法の本文で深入りしすぎちゃって森に迷っている人」を見かけます。まあ筆者も迷ってたんですが。

 という訳で、完全独学の初学者は、さらに簡単な基本書をもう一冊買っておくと安心です。もっとも、「あ、最低限押さえる知識はこれね」という確認用であって、あくまでメインウエポンは本書を推します。「わかる」「書ける」「考える」を全て実現することは本当に難しいことで、しかもそれを「最初の法律」である民法で実現するのはなお難しいことです。くどいようですが、これをサラリと実現している本書は、全ての教科書の見本となるべき書籍で、そのような意味でも、是非一読をおススメします。