だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

民法の勉強法1(初歩編・対象の把握&要件効果)

民法学修の重要性

 さて、下記記事のアンケートにより「勉強法」に興味あり、「民法」に興味あり、ということに大勢が決しましたので、早速ですがそのまんまの記事を書きます。や~民法、苦手なんですがー…ブツブツ。 

 「民法は全ての法律の基本」「民法を制する者は司法試験を制す」「民法の学習には他の科目の5倍(だっけ?)の時間をかけろ」などなど、民法学修の重要性については旧来様々に表現されてきています。

 まあ、そりゃそうだよね。というものが並んでいます。民法は情報量が膨大だから、まともにやろうと思ったら、他科目の5倍くらいの時間はかかります。民法がわからないと、商法もわからないし、要件事実を経由して民事訴訟法もわからなくなりますから、民法を制さないと3科目が撃沈する、というのも納得できます。しかし、これらのスローガンは皆「民法は重要だぞ~重要だぞ~」と初学者をビビらせる以上の効果を発揮していないような気がします。

 非法学部出身の筆者が肌身に感じた民法学修最大の意義は、「民法の学修を通じて、全ての法律の学修方法を学ぶ」ということです。これも当たり前なんですが。
 法科大学院にしろ、予備校にしろ、最初の半年の大部分は、民法に費やすことになります。そして、その直後に、「やっぱ向いてないわ」とかなりの人が法律学修を断念します(筆者のローでは約1/3)。民法で法律学修のコツをつかめないと、憲法、刑法、商法と、どんどん知識を詰め込まれても、とてもじゃないが処理できないからです。

 というわけで、初学者にとっては、まさに 「民法は全ての法律の基本」。その民法学修の中で、是非ともつかんで戴きたい法律学修のコツーすなわち、「知識」ではなく「考え方・方法論」ですがーを考察したいと思います。

民法の対象をなんとなく把握する

頭から暗記することは不可能

 法律の学修の第一歩は、当該法律がいったい何について定めているのか(What)把握することから始まります。というか始めるべきです。中学校や高校の歴史の授業(以下、高校歴史と略す)は、「そもそも歴史とはなんぞや?」等という全体の抽象的な把握などせず、直截に縄文時代等から順番に進んでいき、当該分野を逐一暗記するという方式の勉強が主流です。しかし!なにゆえこの勉強法が可能かというと

  1. 情報量が思ったほど多くない
  2. 基本的に、暗記した知識そのものが問われる
  3. 歴史は、過去から未来への時間の流れであって、決して逆行しない

ということが前提となっているからです。かたや、法律は

  1. 情報量が高校歴史より多い
  2. 基本的に、暗記した知識の応用が問われる
  3. 法律は、様々な条文が有機的に関連しており、いったりきたりする

というものです。

 まず、1.について。民法1000条余+借地借家法等の実質的民法+判例六法収録の全判例を暗記してしまえば、択一でも論文でも上位が狙えると思いますが、これは高校の教科書に換算した場合、数百頁に相当する情報量と考えられ、普通の人には暗記は無理です。しかも、2.により、暗記した知識そのものが出てくるとは限りません。

 3.が最も重要なところで、歴史は一方通行の時間の流れが前提となっており、教科書も、貴族政権から武家政権へ~等と時間軸に沿った体系づけをしてくれるので、頭から単純に暗記していっても、個々の知識が自然と関連付けられます。しかし!法律はそうはいきません。とてつもなく良く使う条文と、死文化した条文が並んでいたり、民法555条に基づく請求の抗弁が95条にあったり、と、各条文の重要度・それぞれの関連性ーすなわち体系的知識ーを得るのが容易ではありません。

 と、言うわけで高校時代までの「頭から暗記」勉強法はあまりオススメできません。暗記それ自体は重要ですが。というわけで、高校までの勉強にはなかった方法論ーなんとなくで良いので、当該法律が何について定めているのか把握することー換言すると、おぼろげな体系をイメージすることーが大変重要だと考えています。多少難しいですが、百選を片手に下記記事もご参照下さい。

 目次で森を見る

 という訳で、学修初期は、とにかく当該法律の全体を見渡すことが大切です。森を見て木を見ず、です。細かい論点を覚えないと、確かに試験で点数はとれないのですが、そんなものは直前一夜漬けの暗記でよしです。法律全体の体系を把握しないと、いつまでたっても単なる暗記ゲームから抜け出せず、覚えきれない、法律無理、撤退、となってしまいます。

 法律全体を見渡す方法については、筆者としては、「毎日の学習時に、当該法律の目次を一読する」という方法をおススメします。これも有名な方法ですね。目次をみると、「だいたい」ですが、その法律が何を、どう定めようとしているのか―おぼろげな体系―が、「なんとなく」わかります。これをわかった上で、その日の学習をスタートするべしです。たとえ、今日の学習内容が「民法99条―代理」だったとしても、目次を最後まで読みましょう。あぁ、代理って、売買契約(555条)でも登場するし、親権者(824条)にも代理権があるんだな、という感じで、知識が有機的につながっていきます。

 なお、法律は、編→章→節→款という順番に細かくなっていきますが、少なくとも章、できれば節まで読んでいくとなんとな~く全体が把握できると思います。

 民法の学習時に毎回これをやっていれば、半年で20回は目次を読むでしょう。これだけで、なんとなく民法の体系がアタマに馴染んできます。その後の細かい論点の記憶の定着度も全然変わってくると思います。ちなみに、「目次を読む」は、基本書においても非常に効果的です。基本書の目次を1分で読む、等もぜひ習慣づけてみて下さい。

第1条で森を見る

 全ての法律の第1条は、主旨・目的が明示又は暗示されており、重要です。目次読みの際に、ついでに読んでおきましょう。行政法でも、個別法の第1条(目的、等)は使いまくりですね。

民法の場合ですと、

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。 

なかなか解りやすいように思いますが、どうでしょうか。つまるところ、民法は権利≒私権&義務について定めているんです、ということがこの第1条からはわかります。

初学者レベルの民法の把握

 ちなみに、初学者のうちは民法をこんな具合に把握していれば十分なんじゃないか、という筆者の脳内イメージを図にしました。何となれば、こういう図を印刷して六法の目次ページに貼り付けておくのも良いと思います。筆者も民訴法では図を多用していました。

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請求権どこやねん思考

 とりあえず、民法は権利義務の体系でした(第1条)。権利義務、といっても分かりづらいので、①これをとりあえず「請求権」と呼び替えておきます。「誰かに何かを請求できる権利」というわけですね。不正確な用語法なので、気になる方は債権総論 第三版をきちんと読みましょう。ただ、初学者のうちは全体の把握が急務ですからよしとします。また、民法の試験問題は「XはYに請求できるか?」と聞いてくるものが多数で、「XとYの法律関係は?」と聞いてくるものも、結局のところ、どんな請求権が成立しているかを聞いていることがほとんどなので、常に「請求権はどこやねん」思考を徹底しておくことは非常に実践的です。

請求権の発生は契約から

 じゃあ、どういう時に請求権が発生するの?ということなんですが、請求権の発生原因として最も良く登場するのが、契約です。契約ってのがどうやって成立するか、どんな種類の契約があるのかを定めたのが、②契約法(第三編債権・第二章契約)です。

 次に、契約とは両当事者の意思表示の合致(略して合意 笑)で成立するわけですが、「やー間違えて契約してもうた!」「騙された!」等々の時は、どうすればいいの?取り消せるの?ということについて定めたのが、③法律行為法(第一編総則・第五章法律行為)です。要するに、請求権の発生を阻止したり、障害したりする原因色々を定めています。

 また、意思表示は代理人を使ってすることもできます。というより、日常生活に登場する契約はほとんど代理又は使者が介在する契約です。コンビニでジュースを買いますが、コンビニの店員さんと売買契約をして、店員さんの私物のジュースを受け取るわけじゃないですよね。代理はどうやってするのか、代理行為の結果はどうなるのか、について定めたのが④代理法で、これも上記の(第一編総則・第五章法律行為)に含まれています。

契約が無い場合

②売買契約により、①建物引渡請求権をゲットして、晴れてマイホームの引き渡しを受けたXさん。しかし!マイホームには全然知らない謎の占拠者Tさんがいたのである!!

…何かTさんに言えないんかい。請求権ないんかい。という場合に登場するのが、物権法と不法行為法です。
 この点は重要なので、再度確認しますが、請求権の発生原因としてベーシックなのは、あくまで契約です。契約は、意思表示の合致で成立します。ということは、本件のような不法占拠者Tさんの登場、つまり意思表示もクソもない全然知らない第三者が登場したときに、⑤物権法(第二編物権の前半)や⑥不法行為法(第三編債権・第五章不法行為…や、その他の法定債権発生原因)が活躍します。

 物権法では、物に対する権利の内容、その変動と第三者への主張の可否などが定められています。物ベースだから、意思表示が無い≒契約関係が無い第三者にも請求できるんですね。不法行為法は、どんな条件が揃えば、不法行為に基づいて請求ができるのかが定められています。

請求権を守るために

 さて、先ほどから請求権、請求権と連呼していますが、「誰かに何かを請求しても」→「そんな約束(契約)知ーらない」と言われて終わり、となると安全な取引はこの世からなくなり、市民生活は崩壊します(笑)。そこで、民事裁判や強制執行ができるよ!という役目を背負うのが民事訴訟法です。

 そこまではしないけど、とりあえず請求権を守るために、何かしたい。又は何かしておきたい。という時に登場するのが、⑨債権総論(第三編債権・第一章総則)です。代表的には、保証や連帯債務(第一章第三節)や、債権譲渡(第一章第四節)があります。

 もうひとつ、「義務を果たしてくれないなら、その物もらっちゃいますよ」という保険をかけるー債権の履行を担保するーのが、⑧担保物権法(第二編物権の後半)です。

 この、「請求権(≒債権)を守るために」という部分は、初学者にとっては「応用的な分野」です。そもそもの請求権の発生原因、これに対する抗弁(請求権を障害・消滅させる原因)が「だいたい」わかった上で、取り組むべきです。内田先生が、ここんところをまとめて「債権回収法」(だったっけ?)のような形で、基本書の後の方(民法 III [第3版] 債権総論・担保物権)に持ってきているのは、合理的だと思います。

 難しいところなので、一応図にそって敷衍します。Xさんが頭金を支払った時点でマイホームを売ったYさん、残金の請求権が残っているのですが(民法555条に基づく請求権)、なかなかXさんが残金を支払ってくれません。

Yさん「そんなことなら、この残金請求権自体を(債権回収会社等に)売ってやる!」→債権譲渡

Yさん「そんなことを防ぐために、売ったマイホームには抵当権をつけておこう。Xが支払わなかったら、マイホームを売り飛ばして回収や」→担保物権

というわけですね。なお、図の①から始まる丸数字は、この順番に把握していくと、(筆者としては)なんとなく分かりやすい、というものに過ぎませんが、ご参考までに。

民法の定め方をなんとなく把握する

 次に、当該法律がいったいどのように定めているのか(How)、その方法論を把握することが大事です。特に民法は、上記の通り、「あらゆる法律の基本法」としての要素を備えていることから、民法が読めないと、私法はもちろんその他の法律も読めない、となる可能性大なので、民法の定め方を習得しておくことは非常に重要です。

 なお、「定め方」という要素には、当然、パンデクテン方式や目次といった内容も含まれています。が、それは説明の便宜上「対象」の問題に含めてしまって、前項で説明してしまったので、割愛します。ある「対象」となる知識がー一定の「方法」に従って整理されていることーを、「体系」と呼ぶと考えられ、前項では「体系」をも説明していた、という訳ですね。

要件効果思考

 で、パンデクテン方式や、それに従った目次、という概念を除けば、最重要なのが要件ー効果モデルです。これは、「超」の字をあと100回付加したい位重要です。民法は「定め方」として、要件ー効果モデルを採用しています。別の定め方も(非合理的だが)できますが、敢えてこれを採用しているわけです。これが言いたいがために、前項では「要件」「効果」のwordを出さなかったというわけです。

要件・効果とは

 まず、法律要件、略して要件とは何ぞや、ですが、一定の法律効果を生じるための要求、条件を言います。なお、要件にあてはまる(抽象的)事実を、要件事実といいます。次に、法律効果、略して効果とは、ある要件事実がある故に生じる法律的な効果のことを言います。

… 循環してるやないか。そう、循環してるんですが、これでOKです。要件や効果という言葉の定義が重要なのではありません。①法律の条文には要件があり→②要件にあてはまる事実があれば→③法律効果が生じる、という法的三段論法の思考フレーム、いうなれば要件効果思考が出来る、ということが超×100重要だということです。民法の学修時にこの「定め方」に徹底的に慣れる、ということが何よりも大切だということです。論パをちまちま覚えるのに必死で、要件効果思考ができない、なんていうのは本末転倒甚だしいです。

常に要件効果思考で条文を読む

 というわけで、条文を見るときは常に「要件はどこだ~」「(請求権発生等のためには)要件は何個必要なんだ~」「具体的な法律効果はなんだ~」と、寝ても覚めても要件効果思考でいることが、早期合格の近道です。ソクラテスメソッドで質問された際も、定期試験の際も、

  • ①関係のありそうな条文は○○条である
  • ②その要件はA、B、Cである
  • ③要件にあてはまる事実A、Bが認められる
  • ④(以上を全部やった上で)要件Cについて、事実Cがこれにあてはまるかが問題となる。→問題提起
  • ⑤趣旨、形式的&実質的理由付けから、要件Cは要件C'と解釈できる。→規範定立
  • ⑥事実Cは、事実C'と評価することができ、要件C'にあてはまる。→事実の評価とあてはめ
  • ⑦以上、全要件を充足するため、法律効果が発生する(請求権が発生する)

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と、要件効果思考で応答することが肝要です。いや必要です。この図は3分で作ったわりに分かりやすい気がして、気に入ってます。要件効果思考を活かした「書き方」としては、下記記事もご覧ください。 

まとめ

 というわけで、本日は本当の初学者向け(4年前の私向け)に、民法の学修方法、総論について書いてみました。言いたかった事は

  • 民法の学修を通じて、全ての法律の学修方法を学ぶ、という意味で民法の学修は超重要
  • 民法が、全体で何(What)を定めているか、目次読みを繰り返すことで把握していくーわかりやすい理解は、「色々な請求権の発生原因、阻止・障害原因、請求権の移転やその履行の担保などを定めている」というものでしょうか
  • 民法が、請求権のもろもろをどのように(How)定めているのか、要件効果思考を身につけることが重要

というものです。なお、最後の要件効果思考については、要件①○○、要件②▲▲、などと要件をはっきりと明記したタイプの基本書を利用するのも手です。代表的なもので言うと、潮見先生の基本書が有名です。私も使用していました。辰巳の趣旨規範本も、要件が丁寧にくくりだされていますが、こちらの記事で触れたように、「まとめノート」すなわち中級者以上向きであって、初学者向きではありません。

プラクティス民法 債権総論〔第5版〕 (プラクティスシリーズ)

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基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得 (ライブラリ法学基本講義)

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