だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

まとめノート(論証集)の作り方3(必要的事項)

 最近、主観と客観がいかに食い違っているかを痛感した筆者です。

 はい。で、まとめノートの作り方、として、まとめノートの作り方1(総論)で①そもそもまとめノートとは何なのか、②作る必要があるのかを検討し、まとめノートの作り方2(素材選び)で③作成の基本的な考え方として減算法&加算法を紹介し、④まとめノートの素材例をいくつか紹介しました。

 第3弾&第4弾で、筆者の民法、商法、民事訴訟法等のまとめノートを参考に、具体的な作成テクニックをいくつか紹介していきたいと思います。

必ず盛り込むべき内容

 前回記事でも述べた通り、よっぽど時間と気合に恵まれた方でなければ、市販の論証集等を素材とし、加算法によりまとめノートを作っていくことが現実的です(筆者もそう)。加算法でノートを作るにあたって、必ず盛り込んでおいた方が良い(と筆者が思う)ものがあります。それが「1.条文と文言(要件)の書き込み」「2.リンク貼り」「3.判例六法の分冊・合綴」「4.通読・改訂の記録表」です。第3弾では、これらのいわば「必要的事項」について検討したいと思います。

1.論点外しを防ぐ「条文」

論点外しを防ぐ

 若干話題が変わりますが、「論点外し」は「論点漏れ」の数倍感じが悪いです。「論点漏れ」でしたらば、採点者も「うーん、ひょっとして時間が無かったかな」とか、幸運な場合には「ふむ、配点が少ないと踏んで敢えて書かなかったかな」と善解してくれる可能性があります。

 が、「論点外し」は、「は?なんでこんなこと書いた?」と採点者のイライラ感を誘発し、「基礎的な理解ができていませんな」と、(当該減点だけでなく)採点者が全体評価につき有している裁量点の減点も引き起こす可能性があります。

 …と、いう訳で、「論点外し」は怖いぞ~とビビらせまくっておいて恐縮ですが、反対に言えば、論点を外しさえしなければ一定の点数はくるということです。という訳で、論点の提示ー問題の発見はアウトプットのスタート地点として超重要です。

 論証の正確性(≒判例や学説の理解力の現れ)や、法的三段論法(≒論理的表現力)は多くの受験生にとって二の次、三の次であって、まずもって適切に問題発見すること(≒読解力)が何より重要であることは、下記記事でも述べた通りです。

答案は条文から始まる

 問題発見(問題提起)を適切に行えるようにするために、アウトプットとしては前掲記事の「問題発見クイズ」がおススメです。そして、インプットとして猛烈におススメなのが、各論点の論証パターンが、いったい①どの条文の、②どの文言(要件)についての規範なのか、ということをまとめノート(論証集)に書き込んでいく、という作業です。

 前掲記事でも述べている通り、法律答案における問題発見は、A.条文の適示→B.全要件の充足性の検討→C.解釈が必要な要件(論点)の提起の順番に進めることが原則です(慣れるまでは)。このことは、公法でも、民事法でも、刑事法でも全く変わりません。そして、原則として、法律答案は問題発見から書き始めます。
 そうだとすると、結局のところ法律答案とは、条文の適示から始まるということになります。※わざと、A=B and C=A、therefore B=Cという風に書いてみました。細かいところも論理的に書くのも大切です。

条文と文言(要件)を書き込む

 こうして、いくら論点の知識≒論証パターンを理解していても、①どの条文の、②どの文言(要件)についての規範なのかが把握できていなければ、答案の最初からつまづくことになり、最悪の場合「論点外し」に至ることになります。また、論証パターンはザックリ言うと、「暗記で済む部分を早く書き上げ、頭を悩ませるべきポイント(真の論点…)に割く時間を確保する」ためにあります。答案作成のときに、「あれ、この論点、何条の問題だっけ?」等と考えるのは、論理的におかしいですし、受験戦略的にも大損で、論証パターンの威力を半減させます。

 しかるに、市販の論証集他のまとめノート素材では、条文を明記してないものもあいrます。理由としては、少しでも薄く仕上げたい、ということと、条文の適示からスタートさせるなんて、当然のことだし、受験生はみな六法を隣において学習するのだから不要だ、ということ等でしょうか。

 いずれにせよ、各論点が①どの条文の、②どの文言(要件)についての問題なのか、を記載するのにかかる時間は数十秒にすぎません。得られる効果は「答案を条文から書き始めることで→論点外しを防ぐ」という絶大なものです。という訳で、ぜひやりましょう。怪しいキャッチセールスみたいですが。

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  筆者のまとめノート素材である、工藤北斗の合格論証集“民法”は、(原則として)条文が明記してありました。が、条文への意識は強ければ強いほどよく、かかる時間は数十秒にすぎませんから、筆者は赤字で条文番号、どの要件かについて書き込んでいました。

(民法のまとめノート)

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 ①とか②とか書いてあるのは、いくつかある要件のうちの番号ですね。全要件は別のページにまとめておいたり、覚えていれば割愛したり、という具合です。「詐害行為取消権の法的性質」、は要件ではなく効果についての問題なので、「効果」と書いてありますね。なお、多様な考慮要素からの総合判断が必要な要件の場合、あてはめ例(すなわち裁判例)も記載しておくと良いと思います。民法で言えば、権利外観法理の帰責性要件とかですかね。

2.チームワークを活かす「リンク」

チームワーク

 次に、第1弾の記事で述べた通り、まとめノートとは、情報量&網羅性でみると、基本書等>まとめノート>論証集であり、かつ、第2弾の記事で述べた通り、基本書等と組み合わせてーチームの一員として使用するものでした。頻繁に基本書・判例集と往復して、まとめノートの内容をブラッシュアップしていくことが必要であり、また、そのこと自体が「論点を潰す」最良の方法です。

 そうだとすると、基本書等⇔まとめノート間を迅速に移動することで、勉強時間を有効に利用するため、基本書等・まとめノートの相互に、出典(というより、お互いの該当ページ)を記載しておくべきです。要するに一元化の一環です。前掲のノート画像の、「松井 〇〇〇」という黒字の部分が、

債権総論 (民法講義)

債権総論 (民法講義)

 

  の当該論点についての該当ページです。なお、同書も非常に薄く、もともとまとめノートそのもの状態なので、インプットとしてはやや不安が残ります。が、幸い同書は「中田〇〇頁」「潮見〇〇頁」と出典を明記しているため、何か気になる点があれば、すぐに

債権総論 第三版

債権総論 第三版

 

 等に戻れますので、敢えてこれは記載していませんでした。

双方向のリンク

 なお、「相互に」出典を明記する、というところがとても重要です。つまり、基本書の方にも、まとめノート(論証集)の該当頁を記載しておかなければなりません。これにより、基本書を読んでいるときにも「あっ ここ論点だった。論パ、ちゃんと頭に入っているかな!?」と、すぐにまとめノートで確認することができます。そういった意味で、一方向の「出典」ではなく双方向の「リンク」と呼んだ方がしっくりきます。筆者は、基本書でも論証集でも「武器として使用する」と決めたらまず着手する作業が、この「リンク貼り」でした。

 前掲の筆者まとめノートへのリンクを張った、松井宏興「債権総論」の写真もアップしたかったのですが、合格後に友人にあげてしまった(薄すぎるので司法試験受験以外には全く使わないと思ったため)ので、残念ながらアップできません。

 また、メインウエポンとなる基本書が複数冊ある場合(≒よっぽど苦手か、よっぽど得意な場合)は、複数冊&まとめノート間でリンクを貼った方が良いと思います。筆者は、商法のまとめノートには「LQ(リークエ)〇頁、江頭〇頁」と記載したり、刑法のまとめノートには「基本刑法〇頁、橋爪連載〇頁」と記載したりしていました。

3. 一冊化のための「判例六法」

一冊化の必要性

 上記で検討してきたように、論点外しを防ぐため、まとめノートには、「論証パターンそのもの」だけでなく、条文と文言(要件)を書き込み、これらを紐づけて覚えていくことが重要です(1.)。

 加えて、複数の教材間に相互にリンクを貼ることにより、チームワークの効率を向上させることも狙う(2.)のですが、学習の効率上、どうしても「一冊だけで」手軽にインプットを済ませたい場面が出てくるはずです。典型的には、通学・通勤等の移動中など、何冊も本を運べない、というシチュエーションです。

 「一冊だけ」にまとめるー一冊化をある程度しておけば、こういった場合に効率的な学習ができることは言うまでもありません。

条文とテキストを一冊化する

 「一元化」すなわち、全ての情報を取捨選択してまとめることは、まさに受験生の腕の見せ所であり、このネタだけで筆者も第1弾~第4弾もの記事を書けてしまうということからもわかるように、一筋縄ではいきません。しかし!一冊化は簡単です。すなわち、複数の書籍を物理的にまとめてしまう、というだけです。

 でもって、まずは何と何を合体して一冊にすべきか、という問題です。筆者はここで、判例六法が大活躍すると思います。むしろそれ以外の用途はあまり思いつかないのですが。

 市販の論証集に限らず、予備校テキスト、基本書に至るまで、およそ法学のテキストには(敢えて掲載することを意識した書籍を除けば)法律の条文が掲載されていません。例外としては、基本刑法等がありますね。これは、筆者のような非法学部出身の門外漢からは結構な驚きです。「何よりも大切なのは条文」って念仏のように唱えとるやないかー!

 …が、理由は(当然ですが)至ってシンプルで、みんな、コンパクトな六法は肌身離さず持ち歩いているでしょ、というものです。そう。確かに持ち歩いています。でも、六法のあの分厚さ。持ち歩きの不便さ。せっかくまとめノートに情報を集約しても、結局「何よりも大切な条文」≒六法持ち歩くなら基本書持ち歩いても同じじゃん。

 と、筆者は考えまして、まとめノートと判例六法を一冊化しました。これはオススメできます。論証集+条文+判例集を常に持ち歩くことができます。2冊開かなくても良いし。

判例六法の一冊化の方法

  1. 下記のようなA5バインダーを買います。なお、Amazonでは変えないですが、筆者としては無印良品のA5バインダーが安くて質もよく、オススメです。下の写真のまとめノートも、無印バインダー。枚数は多く入るほどよいです。
  2. 判例六法を買い、アイロンやカッターナイフを駆使して、当該法律(例えば、民法)だけを切り離します。具体的な方法は、「書籍 アイロン 裁断」等々でググればわかります。上手にやれば、「民法」「刑法」といった法律単位で切り離すことができ、かつ、糊が残っているのでバラバラになりません。
  3. 厚紙を入手(どこからか)して、3cm幅くらいに切っておき、ルーズリーフをつくるやつ(下記)でパンチングします。
    カール事務器 ルーズリーフパンチ ゲージパンチ A5/B6対応 20穴 5枚 ブルー GP-20-B

    カール事務器 ルーズリーフパンチ ゲージパンチ A5/B6対応 20穴 5枚 ブルー GP-20-B

     
  4.  上記の2.の1頁目と最終頁に、3.で作った厚紙2枚を糊でいい感じにはりつけ、セロテープ等でちょっと補強すると、「A5バインダーに閉じ込める分冊判例六法」の完成です(総作業時間10分)。こんな具合になります。

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  5. なお、市販の論証集はそのほとんどがA5サイズですから、(やや高いですが)判例六法Professionalを買うと、同じくA5で見た目がよく&一冊化しやすく&読みやすいので、オススメです。
    有斐閣判例六法Professional 平成31年版

    有斐閣判例六法Professional 平成31年版

     

4.学習の見える化のための「記録表」

 次に、下記記事で述べた通り、学習内容の記録&見える化は重要です。

  結果がうまくいこうが失敗しようが、過程を記録していなければ評価ができません。評価ができなければ改善ができません。改善ができなければ永遠に目標が達成できません。いわゆるPDCAです。このように記録をつけていたこともあって、筆者はブログをスムーズに書けている気もします。

 覚えた気になっていても、試験当日になかなか頭から出てこない(特に筆者のようなおじさんは)のが論証パターンです。何度も(間隔をあけて)繰り返し読む、というより脳内で答案を再現することが重要です。従って、まとめノートの通読状況をチェックするため、先頭頁には通読した日付や、改訂の内容を記載するページを設けておくべきだと思います。

(民法のまとめノート)

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 筆者の記録表をみると、まとめノートとして(一応の)加筆・修正が終わったのが、受験の約11か月前。そこから約2か月弱の周期で7回読んでいるんですね。民法の情報量の膨大さを考えると、かなり少ないように思います。民法は苦手だったので、サボりがちだったのだと思います。

まとめ

 またしても、5000文字(自主規制値)に達したので、いったんまとめます。今回は、必要的事項(≒コスト小&パフォーマンス大なので、是非ともやっとこう)として、

  1. 論点外し撲滅のための「条文・文言(要件)の書き込み」
  2. 教材間チームワーク強化のための「リンク貼り」
  3. お手軽一冊化のための「判例六法の分冊・合綴」
  4. 学習の見える化のための「通読・改訂の記録表」

 を紹介しました。正直、2.はかなり時間ーコストがかかるのですが、あらためて基本書を読む良い機会ともなり、論点の知識を深め、論証の質を高める良い機会ですので、取り組んで見ることをオススメします。

 次回は任意的事項(≒コスト大&パフォーマンス?)を紹介したいと思います。

 この記事の続編はこちらです↓