だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

憲法の基本書・判例集・演習書リスト

※2019年9月30日 改訂・追加により2019年版としました

 各教科のオススメ教材リストの第3弾、憲法です。憲法は(何故か)得意だと勘違いして、結構たくさんの本を読みました。果ては論点探究 憲法 第2版や プロセス演習 憲法(第4版) という結構マニアックな書籍まで読みましたので、比較的自信をもってオススメできると思います。

初学者レベル(苦手な人向き)

基本書

 以前は、芦部先生の憲法 第七版 が定番でした。私も最初の読んだのは芦部憲法でした。一貫した体系、簡潔明瞭な記載で素晴らしい本ですが、①いかんせん行間が広すぎて難しい、②日本の判例の内在的分析が少ないため、初学者向きではないように思います。最近は良い基本書が多く出ていますが、薄いわりに細かい論点もきちんと拾っているという点や、司法試験考査委員の曽我部先生が著者の一人である点で、日評ベーシックシリーズがオススメです。

判例集

 こちらの記事でも触れたように、憲法判例百選は司法試験対策としてはベストとは言えないように思います。以前は 新・判例ハンドブック憲法 第2版 をおススメしていたのですが、偶然立ち寄った本屋さんで読んだ「憲法判例50!」が素晴らしい出来栄えでした。判例が提示した保護範囲、制約、正当化事由にかかるテーゼを「この判決が示したこと」とひとことでまとめているのですが、抜き出し方が秀逸で、そのまま論証パターンにも使える内容です。収録判例数は少ないですが、初学者はもちろん、学習が進んだ方にもおススメできる判例集です。いずれ書評します。

 

演習書

 憲法は、他の科目と異なり、「知識はあっても書き方がわからない」科目の一つだと思います。基本書等のインプット教材が、あまりアウトプット(答案作成)を意識して書かれていないからです。例えば、ケース・メソッド方式で書かれた基本書が、他の教科に比べて圧倒的に少ないですよね。かといって、基本憲法I 基本的人権 は、また書評もしますが、本当の初学者にはあまりオススメできないです。現状、初学者が最も早く「書けるようになる」には、この本がオススメです。

※2019年2月26日 質問コメントを戴きましたので、追記します。

 基本憲法が「あまりオススメはできない」というのは、あくまで初学者(苦手な人)にとって、という意味です。同書は(はしがきを読めばわかりますが)、判例を内在的に分析しつつ・答案の作法も教え・なおかつ有力な学説に言及する、という大変意欲的なコンセプトで書かれた良書です。特に、序章と、最終章(だったかな?)の書き方指導のところは、とてもわかりやすいです。

 が、その意欲を350頁に盛り込んだため、「○○は、△△と解するべきである(以上)。」という記載が多く、初学者にとっては意外と難しく、勉強が進んだ人にとっては物足りないという部分があるかと思います。あまおさんの言葉をお借りすると、「割り切り型の記載」です。

 例えば、エホバの承認剣道実技許否事件判決についての記載を、憲法学読本 第3版基本憲法I 基本的人権憲法判例の射程と読み比べると、それぞれの本の狙いの違いがわかり、面白いと思います。筆者は基本憲法を発売日に(!)購入したのですが、後輩にあげてしまって、今は手許にありません。が、確か、同判例につき「憲法上の権利制約に対する配慮義務が認められた」のような記載があったかに思います。これはなかなか思い切った記載だと思います。

 さて、数ある教材を筆者の脳内でマッピングすると、

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 というような感じになっています。右方向、青色の書籍は、従来からある基本書です。言うまでもなく、インプットを重視したものです。反対に、赤色の書籍は、書き方、すなわちアウトプットを重視した書籍です。基本憲法、憲法の地図等は、いわば「いいとこ取り」の群です。なお、憲法の教材はこの他にも「ドイツ憲法より-アメリカ憲法より-判例より」というZ軸もあり、マッピングは本当はもっと複雑ですね。

 この図を見てもらえばわかるように、「とにかく憲法の本は嫌い!」という方などが「一冊」で済ませたいのであれば、基本憲法はまさにベストな選択かと思います。が、本ブログの他の書評をみてもらえばわかるように、筆者は複数の書籍を組み合わせて使うタイプでした。その立場からすると、「初学者・苦手な人は、日評ベーシックのほうが純粋なインプットとしてはわかりやすいし、アウトプットのための整理という点では、合格思考の方がわかりやすいかな」と思います。この2冊を350頁にまとめようとしているのが基本憲法なので、分冊の方が分かりやすくなっているのは、ある意味当然です。

 ちなみに、筆者は憲法学読本-原理・理論のインプット+憲法判例の射程-判例法理のインプット→アウトプット用の「憲法の地図」にまとめていく、という勉強が主でした。なお、憲法の地図は、書き方の解説が無いので薄く、論証集(まとめノート)のベースに非常に向いていると思います。

 以上、長くなりましたが、そういった意味で「初学者(苦手な人)にとってオススメできない」と記載したというわけでした。

副読本

 上述したように、憲法はインプット教材と答案作成というアウトプットがマッチしていません。初学者の段階から、「今学んでいることが答案でどう使えるのかわからない」という人が続出すると思います。そんなインプットとアウトプットとの間隙を埋めるのが、本書です。タイトル通りの論点集なのですが、答案でどう表現するか、ということに意識が向けられており、とてもオススメできます。薄く、論点も深入りせずに簡潔に説明されているので、初学者でも読み進められると思います。※2020年2月 改訂されましたね!また書評をアップします

基礎レベル(司法試験対応)

基本書

 日評ベーシックでも、十分司法試験には対応できます。また、下記記事で書評を書いた憲法学読本も、とてもオススメです。

判例集

 基礎レベルというにはやや難しいですが、「書けるようになる」ことを意識した判例集が少ないため、判例集もやはりこの記事で紹介した、憲法判例の射程がオススメです。

演習書

 結局のところ、某予備校の論証パターンのように、判例が(文言としても、意味内容としても)全く登場しない答案を書くのであれば、何のために判例を学んだのか、意味がわからないことになってしまいます。近時の演習書は、「判例をどう使うか」を意識して書かれていますが、その元祖かつ最良と言って良いのが本書です。

副読本

 基本的には、「憲法判例の射程」と「判例から考える憲法」を言ったり来たりしつつ、憲法ガールII や 司法試験論文過去問答案ぶんせき本〈平成30年度版〉 で優秀答案を読んでいれば、そのうち書けるようになる…と思うのですが、どうしても書けないよ!という方の「答案お作法本」がこちらです。

論証集

 憲法は、少なくとも私が目にしたものの中では、予備校のもので良い論証集は見当たりません。結局、①条文の基本的な解釈(例えば13条の前段は何を保障しているのか、同条後段の「権利」や「公共の福祉」は何を意味するのか等)と、②関連する判例の判旨、事実、ロジックを簡略化したもの、の2点を合計200頁以内でまとめておくのがベストかと思います。まとめノートの作り方はまた記事にしますが、200頁を超えると「まとめ」の意味が薄れてくると思います(ほとんど「基本書」に近づいてくる)。私は、大島先生の憲法の地図をベースに、書き込み等でまとめノートを作成していました。

 わずかに網羅性や説明の丁寧さに欠けますが、膨大な憲法判例のうち重要なものだけを非常にコンパクトにまとめています。一冊で憲法全体が見渡せる本はなかなかないので、非常にオススメできます。同書については、下記記事もご覧ください。

応用レベル(上位合格を狙う方)

基本書

 何度も申し上げているように、憲法の場合はインプットが足りないのではなく、アウトプット能力が足りない方が多いと思います。やたら細かい憲法の知識を仕入れなくとも、触れるべき判例に触れる答案が書ければ十分上位合格できると思います。従って、厚い or 難しい基本書は不要!と思います。実際、私は日本国憲法論 (法学叢書 7) や、立憲主義と日本国憲法 第4版 も読みましたが、試験の成績には影響しなかったと思います。憲法に時間が費やせる方は、ドイツ憲法学に立脚されていることを念頭に置きつつ、小山先生の本を読むと良いと思います。基本書ではありませんが、答案(憲法的な論証)の作法を解説した本です。どうしても審査基準論から離れたくない方は、駒村先生の本を読みましょう。コンセプトは同様です。

判例集

 百選はあまりアウトプット向きではない(こちらの記事参照)ので、下記記事で紹介した行政法のように、「判例の論証の運び方そのものを学習する」ことが良いと思います。

  そのためには、有斐閣の重要判例集(10年分くらい)から、特に重要なモノをランク付けして→コピーして→ファイリングしておき、オリジナル判例集を作成しておくと良いと思います。重要判例集は、まさに今発生した事件=目新しい事件を扱っているためでしょうか、①総じて百選より判旨・事実の引用が長く、丁寧です。また、憲法の場合、出題の「ネタ」となる事件もそもそも少ないことから、②出題可能性のある憲法判例に目を通しておくことも重要です。そういった意味では、アメリカ・ドイツの憲法判例を読むのも大変おもしろいですが、まず重判を適宜読んでおくことをオススメします。

 

 なお、予備校はやたらめったら答練や模試で重判を出題してきますが、私としては、(一部の超重要判例を除けば)重要判例集を読むのはあくまで「応用」レベル、すなわち上位合格を目指す方の学習だと思います。まずは百選掲載判例の精確な理解です。また、私の独断と偏見に基づく重判のランク表も、ニーズがあれば記事にしたいと思います。→ 平成30年はランクを作ってみました

演習書

 ちょっと高い問題意識に触れるには、憲法演習ノート21問が良いと思います。本書は参考答案が載ってはいますが、上級者向きであることには注意して下さい。アファーマティブ・アクションを「上手に」論証するために必要な情報が載っている、という感じです。事例研究憲法も面白いですが、少し深掘りしすぎかな、と思います。考査委員の松本先生の演習書は①問題が現実的である(≒出題可能性が高そう)点、②判例への言及が豊富な点、及び③範囲が演習ノートより網羅的である点で、非常に素晴らしい本です。が、薄い分解説が簡潔ですので、難しさは憲法演習ノート21問と同等ではないかと思います。