だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

答案の書き方5(応用編・メリハリの付け方)

 たすまるです、こんにちは。更新が遅くてスミマセン。

 「答案の書き方」シリーズの第5弾は「答案のメリハリ」について検討したいと思います。ほぼ全ての受験生が、「丁寧に書きすぎ」「省略しすぎ」「答案のメリハリが無い」という指摘を受けたことがあると思います。筆者もそうでした。それほど、「メリハリ」は難しい問題です。

 結論的には、「慣れ」の問題が80%以上で、何度も起案→優答の検討を繰り返すのが最良の習得法だと思います。が、そう言ってしまうと勉強法の紹介にならないので、1.メリハリはどのように決まるか、2.ショートカットするべきところはして、手厚く書くべきところは書く、という「べき」をどう決めるか、3.メリハリをつける具体的な方法、を検討したいと思います。応用レベルとしていますが、初学者の方にも感覚をつかんでいただけるよう、なるべく丁寧に書きます。

 なお、メリハリは「慣れ」ー非常に感覚的な要素が強く、本記事でもフィーリングWORDが多々登場します。

  • 手厚く/丁寧に/こってり/ 書く
  • ショートカットして/省略して/あっさり 書く

 は、いずれも(ほぼ)同義語としてご笑覧戴ければ幸いです。

1.メリハリは相対的に決まる

  まず、メリハリとは(普通)ショートカット・省略して書く部分と、手厚く・丁寧に書く部分とのバランスを言うのだと思います。問題は、ベストの「メリハリ」はどうやって決まるのか、ということです。先日、こんな質問コメントがありました。

司法試験委員の先生(A)から行政法は時間が足りないから当たり前のことはなるべく省略するようにと指導を受けた一方、別の先生(B)からは出題者側がすべてわかっていることを前提とせずに丁寧に説明するようコメントされました。(中略)このあたりのバランスについてご教示いただけますと助かります。

 「おいおい、結局、ショートカットするのか手厚く書くのかどっちだよ」という訳で、この2先生の指摘は矛盾しているように思えます。が、実は全く矛盾していません。どういうことか、翻訳しますと、

  1. 教授A:あなたは、(私の出題趣旨からすると)ショートカットすべきところを手厚く書きすぎです
  2. 教授B:あなたは、(私の出題趣旨からすると)手厚く書くべきところをショートカットしすぎです

 ということです。この先生方のコメントが示唆するのは、メリハリとは、「一定不変の絶対的なバランス」ではなく、「各事例問題によって異なる、相対的なバランス」である、ということです。

 権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様に、(経済的用法に従い)これを利用・処分する意思

 という窃盗罪の「不法領得の意思」は、問題Aではショートカットした方が良いが、問題Bでは手厚く書かなければならない、という訳です。従って、問題文の事実を良く読んで、常に当該事例に適したメリハリを考える必要があります。

2.メリハリの判断方法

メリハリ=出題趣旨

 次に、(事例に応じて)メリハリは相対的に決まるとして、ショートカットするべきところはして、手厚く書くべきところは書く、という「べき」をどう決めるか、という問題です。これにはまず、発想の転換をしておくと良いと思います。

  • メリハリがついているから → 得点が高い のではなく、
  • 得点が高いから→ メリハリがついている のである

 ということです。敷衍しますと、上記の先生方のコメント通り、ショートカットすべきか、手厚く書くべきか、という「べき」は各事例問題の出題者が決めます。誘導から出題趣旨を汲み取ることができれば、「ああここは手厚く書かないとな」「じゃあこっちは簡単で良いか」など配点に沿った記載ができるようになります。そうすると高い得点を得ることができ、これこそがまさに「メリハリのついた答案」である、という訳です。

 要するに、「あるべきメリハリ」=「出題趣旨ー配点に従うこと」です。つまり、メリハリの問題とは結局のところ「誘導に気づけるか」という問題に収斂します。誘導への乗り方については、下記記事もご参照下さい。

 そうすると、冒頭に述べた通りで、誘導に乗れるようになるー基本的な戦略は、何度も起案→優答の検討を繰り返すことが近道、となります。

配点の誘導の傾向

 もっとも、配点を示唆する誘導には一般的な傾向もありますから、ここで簡単に整理しておきます。

A:ショートカットすべき部分
  1. 当該条文・要件に関係しそうな事実が最低限しかない
  2. 結論が分かれない
  3. 論点の難易度が低い(典型論点と事実関係が変わらない&どの条文の問題かはすぐわかる)
B:手厚く書くべき部分
  1. 当該条文・要件に関係しそうな事実がたくさんある
  2. 結論が分かれそう
  3. 論点の難易度が高い(典型論点から事実関係がかなり変わっている&どの条文の問題かがすぐわからない)

 作問者は、Aは当然書いてね、というより書かないとB(本丸)にたどり着かないよ、Bで差がつくよ、と考えて問題を作成します。従って、Aはあっさりシンプルに、Bはこってり手厚く書くことになります。

3.メリハリの付け方

 抽象論が続きますが、切りのいいところで「具体例でみてみる」をやりますので、もう少しお付き合いください。さて、メリハリがどう決まるか、どうやって判断するかがわかったとしても、問題は具体的にどうやってショートカットしてor手厚く書くか、という方法論です。ここが最も重要な部分で、テクニック論的なものもあるように思います。

基本的な考え方

 そもそもショートカットしたり、手厚く書いたりする対象ーすなわち法律答案の「内容」とはどんな要素から成り立っているかというと、結局は

  1. 事実:YとXは普段から仲が悪かった。Yは、Xがマイホーム建築用に甲土地をZから購入したのを知って、これを邪魔するためにZから同土地を購入し、登記を経由した。
  2. 事実論(評価論):Xがかわいそうである
  3. 法律:民法177条
  4. 法律論(解釈論):(「得喪及び変更」か、または)「第三者」を制限的に解釈すれば良いのではないか、はたまた…
  5. 結論:解釈した法律要件に1.をあてはめて結論を出す

 という5つしかありません。という気がします。そして、以上の5要素のうち、基本的に、1.事実(あてはめ)&3.法律&5.結論は削除することができません。なぜかと言いますと、1.事実を3.法律にあてはめて、結論を出す、という作業は(後述の通り)法的三段論法の骨格そのものだからです。従って、1.問題文の事実はー誘導のための記載などを除いてー漏れなく、3.法律ー全ての要件ーにあてはめるのが原則です。

 そうしますと、ショートカットしたり、手厚く書いたりする対象は、2.事実論、及び4.法律論、というところであることになり、これが基本的な考え方です(下図参照)。

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ショートカットできるところをする

 筆者が思うところ、メリハリの方法論とは「どうやって手厚く書くか」というものではなく、「どうやってショートカットするか」というものです。もっと卑近な言い方をしますと、「雑な書き方しか知らない人が、丁寧に書く方法を学ぶ」よりも、「丁寧な書き方を知っている人が、雑に書いてよい部分を学ぶ」方が確実な方法論のように思う、ということです。従って、まずショートカットの方法を身につけておくことが重要だと思います。

 

3-1.ショートカットの方法論

事実論のショートカット

 まず、問題文の事実を丸写ししたりせず、どんどん省略する方法があります。上記の例で言えば、「先行する物権変動を知りつつ、信義則に反し物権を取得した者を保護する必要はないのではないか」みたいな感じですかね。もっとも、これは一般的な作文(読書感想文など)でも用いられる要約、抽象化といったテクニックです。本ブログで大上段に構えて論じる(肉体的…)余裕がありませんので、割愛します。

法律論のショートカット

 大事なのはここからですかね。おおざっぱに行ってしまうと、基本書の記載も、予備校の論証パターンも、答案に再現する法律論としては長すぎる!ため、これをどうやってショートカットしていくか、という方法論です。

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①原則

 上記の通り、答案作成上の原則は、ある条文の全ての要件につき、これについての法律論ーそのような規範となる理由を述べて規範を定立し、あてはめて結論を出す、という法的三段論法+理由付け、を遵守することです。これが「最も丁寧な書き方」です。

 この書き方をして文句を言う先生は一人もいないと思いますが、必ず時間と紙が足りなくなるので、困るのは自分です。というより、出題趣旨を無視して全要件につき丁寧な書き方をしていると、結果的に手厚く書くべき論点が薄くなってしまうー得点がとれないーメリハリがなくなる、ということになります。

 という訳で、この「全要件につき=規範+規範の理由+あてはめ」というフルの構成から、どこまで削っていけるか、というのがメリハリ(の主役となるショートカット)の基本的な方法論です。そういった意味で、ショートカットが重要なのです。

②理由付けの短縮

 まず削除対象となるのは、「理由付け」です。というのも、下記記事で述べた通り、法的三段論法の核心は、一般的抽象的規範(法)・個別的具体的事実(事実)・結論という3要素にあります。

 理由付けは、単に規範の説得力を増す「修飾語」の役割を有するにすぎず、法的三段論法に必須の要素ではありません。そうだとすると、「事実も少ない、誰が適用しても同じ結論になる、簡単な要件だな(上記A)」と判断したら、まず検討するのは「理由付けの短縮」によるショートカットです。

 理由付けの短縮には様々な方法論が考えられ、これだけで長い記事が書けてしまうものだとは思います。誤解を恐れず一般化しますと、複数ある理由付けのうち、当該規範をとるにつき最も影響力のある理由付け≒論理連鎖の最終地点ーその規範に至る直前の理由付け、を「必要最小限の理由ーたった一つの理由」として残すやり方がよくとられているのではないでしょうか。

 つまり、この場合の答案の論証は、「一部の要件=規範+理由は一つだけ+あてはめ」となります。司法試験はとにかく時間が無いので、答案の「基本形」はこの論証となることがほとんどです。理由の削り方につき、詳細は、下記、私が(勝手に)尊敬しているはるのさんのブログを読んでみてください。

「論証パターン」の作り方 - 症拠手記

③理由付けの削除

 上記の通り、理由付けは修飾要素ですから、最悪の場合、削除することもできます。確定した解釈であって、理由付けの必要性が小さい場合などがこれにあたります。この場合の答案の論証は、「一部の要件=規範+あてはめ」となり、かなりショートカットすることができます。処分性テーゼなど、理由を全く書かない人が多いのではないでしょうか。

④規範の削除

 ショートカットの最終兵器は、規範定立自体を削除することです。この場合の答案は、「一部の要件(文言そのもの)=あてはめ」のみとなります。こういった書き方でも、大前提(法)+小前提(事実)=結論、という法的三段論法は崩れていません。なお、上述の通り、全ての要件の充足性を確認する、ということだけは削除できないことに注意して下さい。

小まとめ

 以上のショートカット方法を図にしますと、こんな感じになりますでしょうか。はるのさんが指摘されているように、規範は「暗記」しておけば良いですが、理由付けについては「理解」しておき、①~④まで、問題文の配点に従って自在に長さをコントロールできるようにしておくことが大切です。

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 一応、具体例も見ておきましょう。

 甲は、ケーキ店の店先から、デコレーションケーキ(時価3000円相当)を持ち去り、同店前の路上に同ケーキを投げ捨てようとした。甲の一連の行為は、甲が以前交際しており、その時同店の店番をしていたVの悲しむ顔が見たいという動機からであった。甲の持ち去り行為に、いかなる罪が成立するか。(法学教室428号82頁「刑法各論の悩みどころ」を引用・改題)

 同事例であれば、「ははーん、窃盗罪(刑法235条)の不法領得の意思の存否が出題趣旨=配点=手厚く書く部分だな」と一目瞭然です。一目瞭然でないと困るので、学習開始後2年以内に一目瞭然になりましょう。
 そうだとすると、刑法235条のその他の構成要件ー「他人の」とは「他人の占有する」なのか「他人の所有する」なのか、「窃取」とは「他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己の占有に移転させる行為」である等は可能な限りコンパクトに書くべきです。まさに、上記のA先生が言うところの「当たり前のことはなるべく省略するように」という訳です。

 従って、答案上は、④で書いてしまっても良いでしょう。時間があれば、③です。

 デコレーションケーキは「他人の財物」(刑法235条)に、甲がこれを持ち去った行為は「窃取」にあたる。もっとも、不法領得の意思が認められるか…

 以上のショートカットにつき、まとめノート(論証集)にどのようにまとめていくかについては、下記記事にも詳述しています。

3-2.「手厚く書く」方法論

❶理由付けとあてはめを手厚く書く

 次に、ショートカットの正反対で、「手厚く書く」ってどういうことか、という方法論です。基本的には、上記3-1.ショートカットの方法論で述べた通り、「出題趣旨=配点」となっている要件の解釈論をフル(上記①)で書き、当該要件に該当する事実も丁寧に評価してあてはめる、ということになります。つまり、「理由付けー法律論」と「あてはめー事実論」を手厚く書く訳です。思考フローとしては、下図のようになります。

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 上記ケーキ屋さん事例で言えば、「不法領得の意思ってなんだっけ」「(特に利用処分意思が)求められる理由って何だっけ」「そうだとすると、利用処分意思の内容はこんな感じかな」「本問の甲に利用処分意思はあるかな」という一連の作業を丁寧にやる、という訳です。なお、ケーキ屋さん事例の解決が気になる方は、是非「刑法各論の悩みどころ」をご一読下さい。

❷問題提起を手厚く書く?

 もっとも、先日こんな質問コメントがありました。

 答案の問題提起として、①本件で〇〇の事情がある(事実と問題意識)、②△△できないか(問題提起)、③▢▢が問題となる(論点)と書くと流れが美しいと思っているのですが、答案を見ていてもこれをしっかりやっている人は少ないように感じます。時間的制約のせいかとは思うのですが、あまりやる必要はないのでしょうか?

 確かに。問題提起の部分を「手厚く」書く、ということは可能ですし、それはそれで美しいー読みやすいはずなのですが、あまりみかけません。さて、なんでだろうか、というと二つの原因があると思います。

出題趣旨・配点の問題

 まず、一つ目は、そもそも手厚く書くべきか(2.メリハリの判断方法)、という問題です。すなわち、問題提起を手厚く書いてほしい、という出題趣旨とは、問題文の事実関係(の特殊性)から、どんな条文・要件の問題とするか、どんな法律構成をとるべきかを分析して欲しい、というものです。が、この手の問題が少ない訳です。理由は色々あるかと思いますが、かなり難しくなってしまい、かつ、解答の幅が広くなるー様々な法律構成が乱立して採点し辛いーのが大きいかと思います。

 以上を要するに、問題提起に高い配点がふられている問題は少ない、よって手厚く書く必要が小さい、という訳です。

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法的三段論法との適合性

 もう一つの原因は、必要性も無いのに問題提起を長々と述べる文章は、(あまり)見栄えがよろしくない、ということがあります。本ブログでも本記事でも耳タコで申し上げている通り、法的三段論法の骨格は大前提(法)+小前提(事実)=結論、です。問題提起は法的三段論法の必須要素ではありません。そして、問題提起に引用されるのは(まずは)具体的事実ですから、問題提起の主要部分は事実論です。

 上記ケーキ屋さん事例で、「そもそも甲の行為って、確かに物の持ち去りなんだけど、領得罪として厳しく罰せられる類のものなんですかねぇ。なんか違うようにも思うんですけど…。」と、こってり問題提起をしてみても減点はされません。しかし、上手に書かないと、法律答案の中に突如「具体的事実に対する個人的感想文」が登場するとの印象を与えかねませんー実際に筆者が添削した答案、特に初学者の答案にはそういった印象を受けるものが多々あります。

 上記ケーキ屋さん事例の問題意識は、理由付け(法律論)&あてはめ(事実論)という法的三段論法の必須要素の中でも、十分展開できるものです。そうであれば、法的三段論法っぽさ、法的思考できてるぞ感を出すために、理由付け&あてはめを手厚くかけば十分ー結局❶で良いじゃん、ということになるという訳です。下記は一例です。

 そもそも、利用処分意思とは毀棄罪との区別、すなわち領得罪としての重い処罰を基礎づける違法(責任)要素である。そうだとすれば、「その物自体の効用を直接享受する意思」を必要とすると解する。

 本問の甲は、デコレーションケーキその物自体の効用ではなく、これを破壊することによりVを悲しませる、という反射的な効果、間接的な効用を利用する意思であったのだから、「その物自体の効用を直接享受する意思」は無かったというべきである。

4. 手厚い問題提起の具体例

 最後に、難しめの出題ー❷どのような法律構成をとるか、問題提起を丁寧に書かなければならない場合について、なかなかイメージがわきづらいと思いますので、具体例をみてみましょう。添削を依頼して下さった読者の方の答案例を活用させて戴きます!ありがとうございます。

問題

 問題は、平成25年司法試験・刑法 の事実4~5にかかる乙の罪責です。簡略化すると、こんな感じですか。要するにクロロホルム事件ですね。

 乙は、AをB車のトランクに閉じ込めたままB車を燃やして焼き殺そうと考え、Aの口をガムテープで塞いでトランクに閉じ込めた。乙はその行為によってAが死亡するとは思っていなかった。乙は、その後B車を20km運転したが、Aは車酔いにより嘔吐し、口がガムテープで塞がれていたことから、吐しゃ物により窒息死した。 

読者さんの答案概要

 乙の、Aの口をガムテープで塞いでトランクに閉じ込めた行為につき、(中略)逮捕罪(刑法220条)が成立する。
 さらに、殺人罪(刑法199条)が成立しないか。
 まず、上記行為が殺人罪の実行行為たりえるか。本件においては、上記行為(第1行為)の後に、Aを閉じ込めたままBを燃やすという第2行為が予定されており、乙は第2行為によってAを殺すつもりであった。もっとも、第2行為以前にAが死亡しているところ、第1行為の時点で実行の着手は認められるか。実行の着手の意義及び判断方法が問題となる。

 この読者さんは日本語が上手なので、一見スラスラ読めます。しかし!じっくり読むと、この問題提起では手厚く書いたことになりません。客観的構成要件ー特に実行行為が無ければ犯罪は成立しませんので、「実行行為たりえるか」は良いでしょう。でも、なぜ未遂犯(刑法43条本文)の要件である「実行の着手」を検討しなくてはならないのでしょうか。その理由がよくわからず、唐突に「実行の着手」が登場します。

 本問のモデルとなったクロロホルム事件は、特殊な法律構成をとった判例です。だって、既遂犯の成否を実行の着手(未遂犯)から検討している訳ですから。従って、 (判例に従うのであれば)入念な問題提起が必要です。つまり、問題提起に配点があるのです。手厚く書く例としては、このような感じでしょうか。

筆者の問題提起例

 上記行為が殺人罪の実行行為たりえるか。上記行為によりAは死亡しているものの、乙は上記行為によってAが死亡するとは思っておらず、殺人既遂罪の故意(38条1項本文)が認められない。もっとも、第1行為と第2行為を一連の実行行為として把握し、第1行為の時点で一連の実行行為の着手(43条本文)を認められないか。このような構成によれば、乙はAをトランクに閉じ込めたまま焼き殺そうと考えていたのであるから、一連の実行行為に対する故意を認め得る。

 当たり前ですが、問題提起を手厚く書く、ということは(上記の図の通り)どの条文のどの要件が、なぜ問題となるか、その問題意識が読み手に伝わるように書く、ということです。クロロホルム事件では、行為と故意のズレが問題です。そのことに悩んでいるよ、というのが伝わらなければなりません。

 なお、工藤北斗先生の論証集(特に刑事系)は、問題提起を手厚く書かなければならない場合、書かなくても良い場合、という場合分けの意識がしっかりしており、クロロホルム事件(早すぎた構成要件実現)や承継的共犯については、「手厚い問題提起例」が記載されていることからも、おススメができます。