だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

答案の書き方2(基礎編・法的三段論法)

※2020年1月26日 読者の恋責任の本質さんのご質問により、「法的三段論法が崩れたテキスト」について追記しました。

法的三段論法とは何か

 さて、問題文の「問題」が発見できるようになったら(下記記事参照)、その解決です。 

 法律問題の解決には、法的三段論法なるものが使われます。なお、後述しますが、「論法」とある通り、これは書き方だけでなく考え方も含む問題です。この法的三段論法が、最初は取っつきづらいようです。慣れてしまうと、あまりにも当然で最初の辛さを忘れてしまうんですよね。

 かくいう筆者も、完全な未修者だったので、最初の半年に10回は「法的三段論法ができていないよ」と言われました。結論から言えば、こんなモノはなんだかんだいっても慣れるので、恐れるに足りません。もっとも、早く慣れてしまわないと本来注力すべきインプット&アウトプットが出来ないことになります。3年間で合格するには、半年~1年くらいで身につけてしまう必要があります。

 さて、法的三段論法って何だ?という話は様々な文献で散々取り上げられているので、省略したいところですが、一応書きます。

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 と、いうやつですね。まあ、これはこれで意味はわかるのですが、意外とスルーしがちなのが、「そもそもなんで法的三段論法なんて守らないといけないのか」です。これが腑に落ちていないと、そりゃあ法的三段論法が身につくのも遅れます。何事も、根拠・理由は一応考えておくべきです。筆者も、当初はかかる「論法」の必要性がよくわからず、学習がなかなかはかどりませんでした。

法的三段論法の必要性

 翻って、なぜ法的三段論法の必要性について、丁寧に説明してくれる書物にあまり出会ったことがありません。当然だろ!ということでしょうか。そのヒントとして、こんな記載があります。

法律実務家が他人を説得する論理は、当事者であれ裁判官であれ、洋の東西を問わず、皆この「法的三段論法」によっているんだ。事例演習刑事訴訟法 第2版 1頁)

  なるほど。法的三段論法は「説得の論理」のツールなんですね。それはそうと、下記記事でも紹介した「事例演習刑事訴訟法」ですが、そのはしがきである「設問を解く前に」は、司法試験受験生に必要なマインド・スキルとは何か、わかりやすく解説したもので、全受験生必読だと思います。はしがきだけでも読んでみて下さい。 

 話題がそれましたが、法的三段論法が「説得の論理のツール」だとして、なんで法的三段論法で説得できる&説得されちゃうのか、という話です。これは、大前提となる法規範が、抽象的・一般的命題で、万人が了解可能なものだからでしょうか。木村草太教授も、法とは普遍的な価値を追求する規範である-と書いてました。出典を忘れてしまいましたが…。

 換言すると、弁護士が「被告Yがかわいそうじゃないか!全事情から、民法177条を被告に適用すべきだ!」とか、裁判官が「本件では、被告Yには全事情から民法177条を適用すべきでない、よって請求認容」とだけやっちゃうと、当事者・裁判官以外の誰も法解釈の妥当性がわからない…という事態に陥ります。本当の意味でのケース・バイ・ケースですね。法適用には、同種の他の紛争解決と比べたときに、「うん、公平だよね」と言えるバランスが重要であり、法が抽象的・一般的で万人に了解可能だということは、この公平さを担保していると言えます。

法的三段論法のポイント

①法規範(大前提)は抽象的に

 さて、このような法的三段論法の必要性、というより意義から、一つの帰結が導かれます。それは、「大前提となる法規範(法解釈による規範定立)は、万人が了解可能なように、抽象的・一般的な論理操作で行わなければならない」ということです。「え。当然じゃん」と思ったアナタ、法学部出身じゃないですか?初学者には、ここが結構なつまづきポイントだったりするんです。

 問題発見の後、「民法177条の趣旨は…」と条文の解釈→規範定立のブロックに入ったにも関わらず、「甲乙やXY」等の問題文の具体的事実が出てきてはいけない、ということですね。

②事実(小前提)のあてはめは具体的に

 反対に、事実のあてはめは具体的・個別的に摘示して行わなければなりません。「これを本件についてみると…」と、あてはめブロックに入ったにも関わらず、「そもそも民法177条の趣旨は…」と抽象的な論理操作が出てきてはいけない、ということですね。

③各ブロックは明確に区切る

 で、これらの大前提(法規範)・小前提(具体的事実のあてはめ)・結論は、ブロックごとに明確に区切られていなくてはなりません。これは読みやすさという点もありますが、上記の通り、条文解釈→規範定立に具体的事実が混入することを防止し、反対に、事実のあてはめに抽象的な論理操作が混入することを防止するという意義があるように思います。

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具体的な書き方

 百聞は一見にしかず-というわけで、「問題発見」で使用したケース(下記記事参照)を再利用して、

 法的三段論法が出来ていない答案(筆者の初期の答案)と、だいたい出来ている答案(司法試験受験前の答案)を見比べてみます。

例題

  Xは、マイホームを建てるため、Zから甲土地を買い、代金を支払った。しかし、Xは甲土地の所有権移転登記を経ていない。この話を聞きつけたYは、以前からXが大嫌いだったので、Xのマイホーム取得を邪魔するため、Zから甲土地を買い、その上にプレハブの倉庫(乙建物)を建てた。ある日、甲土地を訪れたXは、乙建物が立っていることにびっくり仰天、Yに大してその収去を求めた。XのYに対する請求は認められるか。

 法的三段論法ができていない答案

1.  XのYに対する請求は、所有権に基づく建物収去土地明渡請求である。

2. これに対してYは、自らは民法177条の「第三者」にあたるから、対抗要件たる登記を経ていないXは自らの所有権をYに対抗できない、と主張することが考えられる。

3.(1) 同条の趣旨は、物権変動の公示により、同一不動産につき自由競争の枠内にある利益を有する第三者を、不測の損害から保護することにある。
  (2) だとすれば、本件のYのように、すでにXが甲土地を購入したことを知りながら、そのマイホーム取得を邪魔するという信義則(1条2項)に反する目的で同一の土地を購入するなどという者は、自由競争の枠内にある利益を有しているとはいえないから、同条の保護を及ぼすべきではない。よって、Yは「第三者」にあたらず、その主張は認められない。

4. 以上より、Xの請求は認められる。

 どうでしょうか。書いてある「内容」は、そうそう、だいたいこんな感じ!というものです。が。「形式」-法的三段論法は出来ていない、という評価になります。法規範-具体的事実-結論のブロック分けが曖昧で、法規範の具体的事実が混入しまくっています。

 非法学部出身の筆者としては、「説得的でそこそこ読みやすいんだから良いんじゃない?」と思いますが、法的三段論法重視の教授・採点委員には減点されること間違いなしです。

法的三段論法が出来ている答案

1.  2. 上記の答案例と同様

3.(1) 同条の趣旨は、物権変動の公示により、同一不動産につき自由競争の枠内にある利益を有する第三者を、不測の損害から保護することにある。

 だとすれば、①先行する物権変動につき悪意であり、かつ、②登記の欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反する者は「第三者」にあたらないと解すべきである。そのような者は、同一不動産につ自由競争の枠内にある利益を有するとは言えないからである。

  (2) 本件でYは、自分より先にXが甲土地を購入したことを知っていた(①充足)。また、Yが甲土地を購入した目的は、Xのマイホーム取得を邪魔するというものであり、かような目的を実現するために登記の欠缺を主張することは信義則に反する(②充足)。
  (3) よって、Yは「第三者」にあたらず、その主張は認められない。

4. 以上より、Xの請求は認められる。

 (1)ブロックは、法規範、条文→趣旨→解釈→規範定立、という流れに、一切具体的事実は出てこない。(2)ブロックは、事実のあてはめのみ。(3)ブロックは、結論。…と、明確にわかれています。

 この答案はベストではありませんが、一応、こういう書き方や思考パターンができること、というのが重視されているわけです。

法的三段論法の身につけ方

 法的三段論法は、「論法」とある通り、答案の書き方だけでなく、法律家の思考枠組みともいうべきものです。従って、これができないと「共通言語がない≒話通じない」状態となってしまい、悪い点数をつけられるにとどまらず、基本書を誤読したりすることにもつながってしまいます。

 頭書にも述べましたが、なるべく早く身につけてしまいましょう!身につける方法ですが、教授でも実務家でも合格者でも何でも良いので、答案を見てもらい、「法的三段論法が出来ていない」と言われたら、「え?どの部分がですか?じゃあ出来ている例(答案例)を見せてくれませんか?」とゴリ押しすることをオススメします。

 こればかりは「使用する言語」の問題-例えるなら、英語の発音の問題に近いか-なので、上記のケース・スタディからも明らかなように、NGな答案とOKな答案をたくさん見比べるのがもっとも手っ取り早いように思います。私もそんな風に学びました。といっても、同期のT君の答案を数回読ませてもらっただけですが。

法的三段論法が崩れたテキスト?

今困っているのは、論証集の論証が法的三段論法が崩れていて適切ではないものがあるのではないかということです(中略)私の読む限り論証集の中には、具体的事実が混入しているように見受けられる論証があり…

 そうですね!というより、基本書などのテキストの記載もそうですが、法的三段論法になっていない論述は山ほどあります。何なら、判例も場合によっては、「かくかくしかじかにより、本件でXの請求は認められない(ドヤ)」と結論命題のみで終えている場合もあります。という訳で、法的三段論法を身に着けよう、慣れようと思っているマジメな学生が混乱するのはもっともです。

工藤北斗先生の論証集の例

 さて、「法的三段論法が崩れている例」として恋責任の本質さんが挙げられているのは、工藤北斗の合格論証集 刑法・刑事訴訟法〔第3版〕(以下、合格論証集)117頁以降の、「二重譲渡と横領」の論点です。論証全文を引用すると、「論証集を売る」という商売あがったり!でさすがに適法引用とは言えないので、要旨のみを引用します。なお、筆者が所有しているのは旧版〔第2版〕です。

事例
 XがAに甲土地を譲渡したが、移転登記が未了だったことを奇貨として、事情に悪意のYに同土地を譲渡し、移転登記を了した。

1. 売主Xの罪責ーAに対する横領罪
・「占有」の有無 規範定立→場合分け
・「他人の物」といえるか 規範定立→場合分け
・「委託信任関係」 規範定立→あてはめて認定
・「横領」 丁寧に論じて、規範定立→あてはめて認定

結論:Xは横領罪の罪責を負う可能性がある

2. 売主Xの罪責ーYに対する詐欺罪
・Yは所有権を取得できるから、原則損害はなく、詐欺罪は不成立
・YがAの存在を知っていたら買わなかっただろうと考えられる特別の事情があるときは、例外的に詐欺罪が成立 ∵個別財産に対する罪

3. 売主Xの罪責ーAに対する(Yを利用した)詐欺罪

4. 買主Yの責任 (以下略)

 …という感じです。ここで、恋責任の本質さんは「2(詐欺罪)」は具体的事実が混入しまくっとるやないか!法的三段論法崩れとるやないか!となぜか関西弁で叫んだわけです。

 まず、結論から言いますと、

  1. 当該2(詐欺罪)の部分は法的三段論法がとられていない
  2. 法的三段論法は重要だが、法的三段論法で書かなくても良い場合もあり得る
  3. 工藤北斗先生の論証は、まさに「書かなくても良い場合」なので、全く問題ない

 というものです。え?これだけ本文の記事で「法的三段論法死守感」を出しておきながら、「書かなくても良い場合」ですって!?聞き捨てならん。となるはずですので、以下、きちんと検討します。

法的三段論法で書かなくても良い場合

 上記の通り、法的三段論法は法律家の思考枠組みそのもので、これができない、というのはお話しになりません。が、あくまで重要なのは

  • 法的三段論法で思考することができ、答案上もそのことが表現できること

 であって、

  • いついかなる場合でも法的三段論法で書かなければならない

 という訳ではありません。具体的な「法的三段論法バリバリの書き方」が評価されるわけではなく、「法的三段論法で思考したことが伝われば」それで良いということです。

 ちょっとわかり辛いですね。例えると、「美しい字で手紙を書く」ことに近いでしょうか。誰が見ても美しい楷書体で手紙を書くには時間がかかります。しかし、美しい楷書体が書ける人は、「時間が無いので、行書体でサラサラっと書いても」文字の美しさは保たれるでしょう。これに対して、そもそも美しい楷書体が書けない人が行書でサラサラっと書いた手紙は、殴り書きにしか見えないでしょう。

 基本ができているー法的三段論法が使いこなせる、というのはこの感覚に近いように思います。

論点の配点と時間

 具体的に、法的三段論法で書かなくても良いー墨守しなくても良い場合としてまず考えられるのが、紙幅や時間が足りないときです。主に後者ですね。
 法的三段論法(で書くこと)の最大のリスクが、規範定立ー抽象論とあてはめー具体論を峻別することにより、時間がかかる、という点です。そして、途中答案は最悪です。「美しい字で手紙を書こうと思ったんだけど、時間が足りなくて、最後まで書けなかった」では、何も伝わりません。

 そんな訳で、時間が足りない場合は、些末ー配点が少ないー従って抽象論の展開による規範定立や、詳細なあてはめを要しないーと考えられる論点から順番に、法的三段論法を省略していくことがあります。

 もっとも、これは勉強がかなり進んで、法的三段論法が使いこなせるようになってから取り組むべきことです。また、時間との闘いーショートカットの方法論としても、法的三段論法は「最後のギリギリまで守る」方が良いことについては、下記記事も参照して下さい。

事実が明らかでない

 次に、これは近時の司法試験ではあまり現れませんが、問題文に、あてはめるべき事実が詳細に記載されていない場合があります。この場合、「(〇〇につき)Yが悪意の場合、Xの請求は認められ、Yが善意の場合、Xの請求は認められない」など、あてはめが非常に短くなってしまうことが多いです。

 頑張って法的三段論法の構成をとり、規範を定立しても、「事実はよくわからんから、場合分けします。終わり」と終わってしまうのは、労して功無し、損した気分になります。また、事実の記載が少ない論点は、配点が少ない、従って些末な論点であることも多いです。

 という訳で、あてはめるべき事実が詳細に記載されていない場合も、法的三段論法を省略してしまうことがあります。

二重譲渡と横領でいうと

 さて、上掲の二重譲渡と横領の例について、これをみてみます。

 二重譲渡に関する罪責の検討としては、まずもって①第一譲受人(本件ではA)との関係で横領罪が成立するか、特に、「他人の物」と言えるかー刑法上保護に値する所有権の実質として、代金支払などがあったかーが重要です。次いで、②第二譲受人(本件ではY)に共犯が成立するか、という点からも既遂時期ーどのような行為をもって「横領」と認めるかが重要です。
 ③第二譲受人に詐欺罪が成立するかどうかは、優先順位の低い論点です。というのも、結局は欺く行為ー「交付の基礎となる重要な事項を偽った」といえるかどうか、という(一般的に良く知られた)規範とそのあてはめで解決できる問題だからです。時間が足りなければ、まさに法的三段論法を割愛することがあり得ます。

 次に、事実の記載についても、合格論証集によるとYについてはただ単に「事情に悪意」と書いてあるだけです。これが「Yは、Aとの第一取引について何も知らず、老母と同居し介護する家を建てるために、ローンを組んで甲土地を購入した」などと記載されていれば、「おぉぉ詐欺罪成立しそう」という訳で、法的三段論法で展開することがあり得ます。「事情に悪意」程度しか書いていないのであれば、あてはめのやりようもありませんから、まさに同書記載の通り、場合分けでサラッと書いておくのが適切です。

 以上より、合格論証集の記載は、まさに「法的三段論法で書かなくてもよい場合」にあたります。

 蛇足ですが、ここまでの追記部分は法的三段論法っぽく書いてみました(笑)。問題提起→抽象的規範定立→具体的あてはめ、です。問題提起は法的三段論法とは関係ありませんが。自画自賛で恐縮ですが、このように、自然に法的三段論法を展開すると、「ああ法的三段論法理解してるな。安心して読めるな」となる訳です。

論証集との付き合い方

 という訳で、合格論証集の記載ー法的三段論法の省略は、全く問題がありません。というより、そもそも、市販の「論証集」には、全ての論点が法的三段論法で記載されている訳ではありませんし、記載するべきでもありません。

 論証集には、「いついかなる出題にも対応できる、唯一絶対の正解」が書かれている訳ではありません。「大多数の事例であれば対応できる、一般的な正解の例」が書かれているだけです。あらゆる出題に対応しようとすれば、論証例も無限数となります。基本的な考え方ー論理の流れだけを書いておくのが適切なのです。

 それゆえ、論証集には、「一字一句そのまま書けば正解となる文章」が書かれている訳でもありません。基本的な考え方を応用するー論証集の言葉を、時と場合に応じて変換することが重要なのです。論証集は(無批判に)暗記するのではなく、基本的な考え方を理解しよう、と思って付き合わなければなりません。

 上記の通り、論証集はおろか、判例でさえ法的三段論法を省略することはあり得ます。全て文章には、大切なところを手厚く書き、そうでないところを割愛する、というメリハリが必要だからです。大切なのは、いつでもどこでも法的三段論法で話し、書けるようになっておくことー美しい楷書体が書けることです。実際に書くかどうかは、相手(問題)による。これが司法試験の難しく、かつ面白いところです。 

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