だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

令和元年度重要判例解説ランキング(民事系)

令和元年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)

令和元年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)

  • 発売日: 2020/04/09
  • メディア: ムック
 

 「勝手に重判ランキング」、続いては第2弾の民事系です。それにしても更新が遅い。

  • 出題可能性&学習上の有用性(解説含む)を総合判断
  • A=必読。次回百選に掲載される判例。
  • B+=読んでおきたい。主要な基本書で言及されそうな判例。
  • B=可能であれば読んでおくと安心。
  • C=暇があれば読んでおきたい。暇はないと思いますが。

 下記記事でも重判の「学習法」について少し触れていますが、あくまで重判を「学習」するー条文選択、解釈、あてはめの一例をして参考にするーのが重要です。結論を暗記しても何の意味もありません(特に下級審判例)ので、そこのところは注意して下さい。

民法

 

  1. 性同一性障害者特例法における生殖腺除去要件の合憲性 C
    → 憲法2 の事件です。まあ10年後くらいに「社会的状況等」が変化したよね、といって違憲となりそうですが。

  2. 時効中断効発生のためには、債務者が債権差押えを了知し得る状態に置かれることを要するか B
    → タイトル通りの論点(債権執行につき民法155条類推適用の可否)です。論文での出題可能性は低そうですが、「そもそも時効制度の趣旨って何だっけ」と考えるきっかけとなる面白い論点です。

  3. 団地管理組合法人の集会決議の効力 C
    → 論文でも短答でもほぼ100%出題されません。が、マンションの管理組合絡みの紛争はとても多く、現実社会を知る上で役立つ(笑)ため、合格後に必ず読みましょう。

  4. 所有権留保がされた動産に対する集合動産譲渡担保権の成否 A
    → ①Yが所有権を留保してスクラップをAに販売、②Aは資金繰りが悪化し、Xから運転資金を借りて商品であるスクラップに譲渡担保権設定、③Yが商品を引き上げ、④Xがちょっと待った~ …と、現実社会に非常に良くある紛争です。そして、ご存知の通り、所有権留保の法的性質とその帰結は、理論的にも大変面白い問題です。加えて、裁判所は丁寧な事実認定により、妥当な結論を導いています。という、三拍子し揃った良い判例です。
     法理判例ではないー一般的に、所有権留保と集合動産譲渡担保権は対抗関係に立たないよ、と宣明したわけではないーことから、百選には掲載されないでしょう。①商品とその販売代金に対価関係があり、②買主(本件ではA)に商品転売が許されていたとしても、それは販売代金回収のためである、という2つの要件が揃った場合の「場合判例」かな、と思いますが、じゃあ②の要件が欠けていた場合はどうですか?等とという形で出題される可能性は多いにあると思います。
     出題に備える意味だけでなく、勉強を深めるためにも、是非読んでみて下さい。この判例が「ふんふんそうだよね」と読めれば、担保物権はだいたいわかっている、という指標となるかと思います。

  5. 違法な仮差押えの申立てと債務者の逸失利益との相当因果関係 C
  6. 詐害行為取消しによる受益者の財産の回復義務が遅滞に陥る時期 C
    → 短答で出るかどうか微妙、というレベルだと思います。

  7. 高齢者医療確保法による医療給付により代位取得された不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金の起算日 C
    → 理論的にはとても面白いし、実務的にも重要だと思いますが、ちょっと細かすぎるので短答&論文での出題は無いでしょう。

  8. 名義貸与の依頼を承諾した者の運行供用者(自賠法3条)該当性 C
  9. 不貞行為の相手方に対する離婚(自体の)慰謝料請求 B+
    → これはとっても短答に出そうですね。

  10. 相続の開始後認知された者に対する価額支払請求(民法910条)の算定の基礎となる遺産の価額 B
  11. 再転相続人の熟慮期間の起算点 C
    → この二つの判例も、またまた短答に出そうです(笑)。論文の出題は無いでしょう。

商法

  1. 標章の使用と会社法22条1項の類推適用 B+
    → 
    いわゆるゴルフクラブ判決(最判平成20年6月10日)からさらにその適用範囲を広げた判決です。結論は妥当なのでしょう。しかし、いわゆる外観説による理由付けは無理がありまくりです(高橋先生の解説参照)。いくら標章を続用したからといって、本件の債権者Xは銀行ですから、事業主体を誤認する可能性は実質的に0%。詐害事業譲渡(会社法23条の2)を活用すべきではないでしょうか。
     上記の通り、立論に難があるので、出題可能性は微妙だと思います。しかし、そもそも外観説って何だっけ、等々考えてみる良い機会にもなりますので、一読をおススメします。

  2. 招集通知の欠缺と、株主総会決議の不存在 B
    → ①書面通知無し、②口頭通知も実質的には無しといえそう、③でも原告含め全株主が出席しました、という事案です。③を重視すると、「決議取消し事由ではあるけど、法的不存在とは言えないなぁ」となりそうです。が、本件では⓪非公開会社における支配権奪取目的の新株発行決議であった、という重要な事実があり、これが結論に影響を与えたように思います。
     不存在事由は「白黒ハッキリ」ではなく、事実認定によるスライディングスケールです。が、本判決はそこのところの事実認定が甘く、どういう理屈なのかが良くわからないので、これがそのまま出題される可能性は高くないように思います。一応、あてはめの勉強のために読んでおくと安心、というレベルでしょうか。

  3. 大規模買付の対応方針廃止の株主提案の適法性 B+
    → ①大規模買付の対応方針を株主総会決議事項に定款変更、②同方針に基づき買収防衛策導入、③株主Cが同対応方針の廃止を株主総会の議題とすること等を株主提案、④会社Yがこれを拒否、という事案です。
     会社のかじ取りにつき、専門性や機動性を重視して取締役会に任せるべきか、株主意思を尊重すべきか、という権限分配の一場面です。常に権限分配を意識することは会社法理解の肝です(下記記事も参照)。また、本判決と同様の問題意識を有するブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)という著名判決もあります。

     本判決は、買収への「対応方針の決定を株主総会決議事項」とし、「対応方針の廃止を取締役会決議事項」とする、ということにつき合理性ありと判断し、原告の請求を棄却しました。どういう価値判断と理屈に基づくか、きちんと説明できる受験生はあまりいないと思います。逆に言うと(その判断の是非はさておき)、この判例の立論をきちんと説明できるようであれば、買収防衛策に関する出題にも余裕をもって対応できる、という指標となるでしょう。

  4. 書面による議決権行使と職務代行者(従業員)の出席 C
    → これも面白い判例なのですが、非社会人が大部分を占める受験生にとっては難しいー感覚が掴みづらいーので、出題可能性は低そうです。

  5. TOB後の特別支配株主による株式売渡請求(179条1項)と売買価格 A
    → 179条1項を使った二段階買収の事案です。新し目の条文ということで、条文操作に重きを置く会社法としては、一定の出題可能性があると思われます。
     本件のようなM&Aにまつわる企業価値の判断方法(いわゆる「公正な価格」の論点)については、第三者委員会の設置といった「一般的に公正と認められる手続(取引)」で行われた場合は基準日の株価、そうでない場合は裁判所が独自に算定する、という理解が有力です(例えば、リーガルクエスト「会社法」410頁~など)。そして、このような理解に基づく著名な百選判例として、テクモ事件(最判平成24年2月29日)とジュピターテレコム事件(最判平成28年7月1日)があります。当然、本判決もこのような「公正な手続論」に従っているのですが、これら3つの判例は非常に面白い関係性にあります。

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     まず、本件では独立当事者間におけるM&Aが問題となっています。従って、本件を最高裁判例に従って書くのであれば、取締役・株主の判断を尊重すべきとした、テクモ事件を登場させる必要があります。
     次に、本件では二段階買収における二段階目の価格が問題となっています。従って、TOB価格と同額とすべき(強圧性の排除)とした、ジュピターテレコム事件も登場させる必要があります。
     つまり、本件で妥当な結論ー有力説と最高裁が一致するであろう結論ーを得ようと思った場合、漏れなく二つの百選判例を引用する必要があります。加えて、本件では二段階買収完了後の被買収会社の株式を再取得できるという条項が設けられていた、という特殊事情がありました。この再取得条項は、当事者間の利益相反を引き起こしかねないもので、そうすると利害関係関係者間におけるM&Aを扱ったジュピターテレコム事件に接近してくる、というしくみです。
     つまるところ、本件は①妥当な結論を得るためには、2つの百選判例に対する精確な理解が求められる、②かつ現実社会でよくみられる特殊事情(再取得条項)があるため、各判例の射程が微妙になってくる、という事案です。どう考えても司法試験委員会が大好きなやつです。少し難し目ではありますが、そっくりそのまま司法試験に出題しても良問となり得る事案だと私は思います。
    ※ご要望があれば、「公正な価格」についての諸論点、みたいな形で(本判決も含め)記事にしようと思うので、コメント下さい

  6. 取締役選任合意の法的拘束力 B
    → これまた現実社会ではよくあり、かつホットトピックでもある「株主間契約」です。「株主間契約」については、①当事者の合理的意思の解釈、②会社法の各規定の趣旨との整合性、が主要な問題となりますが、会社法の問題として出題するには、②がふくらむー少なくとも、2・3行は書かせるー必要があります。
     本件での契約内容は取締役選任合意であり、「まぁ期間が長すぎると問題だよね」くらいしか、②に関する論点がありません。という訳で、論文としての出題可能性は低いように思います。

  7. 代表取締役の解職と不利な時期の解職(民法651条2項) B
  8. 利息制限法の社債への適用 C
    → 理論的にはかなり面白いです
  9. 再保険契約におけるFS条項とFFEQ条項 C
  10. 契約担当役員等以外からの情報入手とインサイダー取引該当性 C

民事訴訟法

  1. 前訴で貸金契約の成立を主張した被告が貸金返還請求にかかる後訴で同契約の成立を否認できるか B+
    → 困ったときの信義則、ではなく、要件(というか要素)として4点を掲げてくれており、わかり易いです。越山先生の解説から論証化しておいても良いと思います。

  2. 養親の相続財産全部の包括受遺者による、養子縁組無効の訴えと、訴えの利益 B
    → 原告適格はエイヤーっ的問題ということもあり、結論を一所懸命覚える必要はありません(下記記事も参照)。ただ、原告適格の判断を通じて、裁判所が「(今回の場合であれば養子縁組無効の訴えという)当該訴訟類型の制度趣旨を、どのようなものと考えているか」がよくよくわかるので、勉強のために読んでおくと良いと思います。

  3. 弁護士法23条の照会に対する報告義務の確認を求める訴えの適否 C
  4. 都道府県が所持する捜査関係書類の写しにたいする文書提出命令 C
    → 重要ではあると思うのですが、いかんせん、難しすぎます。。。
  5. 民訴法324条・民訴規則203条に基づく移送決定(最高裁判例との相反)についての取消しの許否 C
  6. 外国欠席判決に係る訴訟手続きと公序(民訴法118条3号) C
  7. 被相続人名義の口座に記載・記録されている振替株式等の共同相続人の共有持ち分に対する差押・譲渡命令の可否 C
    → 実務上非常に重要だと思います。株式の相続共有など実体法(民法・商法)の知識の再確認もできますので、読んでおくと良いと思います。難しいけど。

  8. 漁業権に係る開門請求を認容した確定判決に対する、漁業権消滅を理由とする請求異議 B
    → これまた難しいですが、「判決内容の解釈」という超面白論点にかかるもので、是非読んで欲しいところです。判決は訴訟物の存否に対する判断ですが、ちょっとズレることもあり得る、と知っておくだけで民訴法の捉え方が変わると思います。

  9. 子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てと権利濫用 C
  10. 離婚訴訟で不貞行為の相手方と主張された第三者が、当該不貞行為を理由として提起された損害賠償請求と人訴法8条1項 C

まとめ

 商法は重要判例相次ぐ!という感じでしょうか。民訴法は極度の不作ですね。という訳で、勅使河原先生の挙げて下さった「民事訴訟法判例の動き」(本書110頁)から、「おぉぉこれは重要っぽい」と思ったものをピックアップしておきます。各自、判例タイムズや判例時報でチェックしておくと安心かと思います。

  • 専属的合意管轄とは異なる法定管轄裁判所に対する訴えの提起と、裁量移送(民訴17条)ー大阪高決平成30年7月10日(判タ1458号154頁) B
    → 実務的にもよくありそう&試験的にも面白そうなので、出題可能性があるのではないでしょうか。メイン論点とはなり得ないので、10点分くらい。

  • 債務不存在確認訴訟に対する一部請求の反訴と、訴えの利益ー東京地判平成30年1月19日(判時2399号37頁) B+
    → ①債務不存在確認訴訟に対して、②同債務を請求する反訴がなされた場合に、本訴は確認の利益を欠くとした、最判平成16年3月25日(百選29)の応用版です。②が一部請求だったらどうなるの?という訳で、一部請求の既判力の範囲についても言及しなければなりません。
     百選の応用、かつ基礎理論から演繹しなければならないーという司法試験委員会が大好きなヤツです!これは自分なら大穴としてマークすると思います。