・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い
・内容が 意識高い ★★★★★ 基本的
・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的
・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き
・司法試験お役立ち度 ★★★★★
・ひとことで言うと「伝聞対策の真打ち登場」
アンケートの御礼
こんにちは、たすまるです。前回記事で触れた「勉強会どうですかアンケート」ですが、想像の何倍ものポジティブなご回答を戴いています。や~本当に素晴らしい読者の皆さんに恵まれて幸せ者です。現状、8月末~9月初旬@東京開催、が現実的ですが、子細決定しましたらブログで告知します。なお、その時はサンプル動画(こんな感じの人が、こんな感じの授業をしますというもの)もアップする予定です。
伝聞の書き方がなぜわからないのか
さてさて、巷(とは言っても、筆者は久しく法学徒に接しておりませんのでネットの書評)で評判が良かったので買ってみた本書ですが、久々に絶対買うべし本に出会った感じです。下記の記事で、伝聞の書き方がわからないーというのは、
- 伝聞法則自体良く分かっていないということ
- なぜ伝聞法則が良くわからないかというと、伝聞・非伝聞の区別ができないからであること
- なぜ伝聞・非伝聞の区別ができないかというと、要証事実を的確に捉えられないからであること
- なぜ要証事実を的確に捉えられないのかというと、証拠構造が把握できていないからであること
…を(偉そうに)指摘しました。本書も、
改めて基本書を見てみても、実際の裁判で具体的にどういう供述が伝聞になり、あるいは非伝聞になるのかといった具体的なことは今ひとつよくわからない(本書はしがきより引用)。
ですよね!ほら!反対に言うと、ここさえスムーズに判断できれば、伝聞はそれほど難しくないーというよりドル箱です。だって、みんながわかんないから(性格悪い)。私の過去記事では、証拠構造から要証事実を把握しようね、そうすれば伝聞なんて楽勝、みたいな提案がメインで、具体的な学習法は刑事実務基礎 (伊藤塾試験対策問題集:予備試験論文 1)とかで実戦的演習で大丈夫だよ、で終わってました。
もっとクリアな学習法を提供するのが本書です。でも問題意識は筆者と同様(と勝手に認定)で少し嬉しかったです。
事例でわかる伝聞法則の内容
ローの実務系講義
さて、筆者は伝聞をドル箱としていたのですが、なんでそんなに得意になったんですかね、と言いますと上記演習書だけでなく、ローの講義の影響が大きかったように思います。早速過去記事の内容を覆してすみません。
どういうことかと言いますと、ロー、特に検察官教員の先生は、講義の節々で「ところで、この書面って伝聞?」と不意打ち的に聞いてきます。「えええ 今、俺は何を立証してたんだっけ!?」と瞬間的に考える経験を繰り返すことで、上記の、証拠構造の把握→要証事実の抽出に慣れていくわけです。これは素晴らしい。
これよりさらに鍛えられるのが、模擬裁判的な授業です。そもそも伝聞とは何か良く分かっているかどうかも怪しい弁護士役の同期が「異議あり!ただいまの供述は伝聞供述です」的なことを連発してきます。筆者は裁判官役だったのですが、「(はぁ!?どこがだよ!?よくわからん)えー、検察官、ご意見は」とかやりますと、検察官役の同期も良く分かっていないので、「異議には理由が無いものと思料します」とかのたまいます。全員、何が何だかわかっていないという悲劇的なコントですが、結局、裁判官は伝聞供述かどうかを判断しなくてはならないので、要証事実を敏感に察知する能力が鍛えられます。
という訳で、筆者はローの講義のおかげで伝聞楽勝マンになれました。ローの実務系講義は、受け手(学生)がしっかりと消化できれば、超役に立つのです。教員の先生方、ありがとうございます。本書の最大の特徴は、この「ローの実務系講義」を演習書的に再現したところにあります。
実務演習科目の授業において、「伝聞ノック」と称し、伝聞法則にかかわる短い問題群を多数出題してみた。伝聞ノックは実際の裁判を意識しており、その裁判で何が争点となっているか、検察官はどういう意図でその証拠を提出しようとしているか、弁護人としてはいかなる事実の立証を阻害するために証拠能力を争っているのか、といった状況がわかるように配意した(本書はしがきより引用)。
証拠構造の把握→要証事実の抽出訓練でございます(手前味噌ですが過去記事参照)。これが一番大事です。
伝聞ノックーひとりソクラテスメソッド
さて、かかる伝聞ノックがどのように展開されていくか、「共犯と犯行計画メモ」を例に、簡単にご紹介します。詳細に触れると適法な引用と言えませんし、立ち読みすればわかる(そして買いたくなる)ので、是非読んでください。
- (別の章で簡潔な条文、理論の説明ーインプットあり)
- 事例1
A、B、Cの3人が、ある日Aの家に集まり、共謀してVを殺害する計画を練り、謀議しながらメモを作成した。メモが完成すると、3人は署名・血判した(以下略) - 小問1
Aは〇〇と主張している。検察官Pは△△を立証趣旨として証拠調べ請求した。伝聞か非伝聞か。 - 小問2
Aは✕✕と主張している。検察官Pは▢▢を立証趣旨として証拠調べ請求した。伝聞か非伝聞か。(以上、本書87~88頁より要約引用)
…といった調子です。多い場合は、小問は10以上にもなります。まさに伝聞ノック。ローの講義のソクラテスメソッドを、一対一で紙面で繰り広げている感じ。証拠構造を変化させていくことで、要証事実がどう変化するか、それ故に伝聞 or 非伝聞の区別がどう変化するか、ということを実感させようというのがその狙いです。この小問形式は非常に巧みな構成で、感銘を受けました。
理論もきちんと説明&薄い
さらに、本書は純粋な演習書ではなく、上記の箇条書きで示した通り、伝聞ノックに入る前に、条文・理論の説明が挿入されています。あ、ていうか今読み返してみたら、1ページ目のタイトルはなんと「伝聞法則の趣旨ー証拠による事実証明の構造」ではないですか!やっぱり筆者の問題意識は正し(以下略)。
文章は実務家の先生方の著作によるものですので、文章は簡潔で論証向きのものです。というより、「論述例」として論証パターンまで載せてくれております。量はそんなに無いですが。ありがたや。
さらに、伝聞ノック+簡潔な説明+論証パターンに加え、後述の通り司法試験過去問+答案例まで掲載したにも関わらず、180頁弱という薄さです。にも関わらず、伝聞にかかる論点の網羅性は十分です。問題意識高い系は記載がちょっと簡略化されていますが。
なお、なぜこんなに薄くできるのかと言いますと、薄い本最強選手権の初代チャンピオンたる「エクササイズ刑事訴訟法」と同様、
有力な基本書等のインプット本に、詳細な解説はぶん投げているためです。近時の有力な手法ですね。なお、本書がメインとしている参考文献は、川出・講義案・酒巻・古江・争点です。文献のチョイスも、エクササイズと同じ。まあ、選択の余地は余りありませんが。なお、このように複数の教材を組み合わせるチームワーク学習については、下記記事もご覧ください。
司法試験過去問と答案例
伝聞ノックと並ぶ本書の大きな美点は、平成20年~平成30年の司法試験過去問及びその答案例がついていることです。参考答案と一口で言っても、その良し悪し、使い易さ・使い辛さは千差万別ですが、本書の答案例は(控え目に言っても)とても実践的です。要するに、短く、現実的に十分書ける答案です。平成30年の答案例は、筆者の(脳内に残っている)再現答案の半分以下の分量でした(笑)。これで十分。
事例でわかる伝聞法則の使い方
以上の通り、伝聞ノックという形式によるローの講義の再現、という唯一無二(っぽい)コンセプト、簡潔な説明、論証例、薄くて網羅性高い、司法試験過去問の参考答案!と、受験生からみたらヨダレがだらだら垂れるのではないかと心配になってしまうくらい魅力的な本書ですので、原則として、みんな買えぇぇ!の世界です。
もっとも、筆者はへそ曲がりですので、敢えて、本書の弱点(もちろん、筆者の先生方が泣きながら割愛した部分、という意味ですが)と、おススメできない使い方を述べてみることにします。
インプットが一通り終わった人向き
本書は、上述の通り「詳細な説明ぶん投げ系」です。網羅性が高いこと、伝聞ノックによる「設問・設例」の分量が多いことの煽りをもろに食っており、説明・理由付けはかなり簡潔です。先ほどちょっと紹介した「共犯の犯行計画メモ」などの部分を読んでみればすぐわかりますが、行間はかなり広く、ほとんど「そのまま答案に書くべき内容」しか残っていません。そういった意味ではとても書きやすい文章なのですが、とても丁寧な説明ではありません。加えて、エクササイズ刑事訴訟法ほど、判例や参考文献の適示が綿密ではありません。
従って、文字通り本書だけで伝聞法則を理解するのは困難です。チームワーク学習は必須。他の基本書、少なくともリークエレベルの基本書を最低一回は通読した人が、手許に当該基本書を置きながら読まないと、そもそも内容が理解できない可能性もあります。反対に、適切な参考文献を手許に置きつつ本書を回せば、伝聞が苦手になることは(ほぼ)あり得ないと思うほどのクオリティです。
ローで伝聞ノックされている人は不要
また、既にローで伝聞ノックを受けており、かつそれが痛きもちいい、という筆者のような変人にとっては、伝聞ノックの効果は限定的です。反対に、予備校メインの人、独習者にとっては本書の価値は非常に高いと思います。
参考答案も初学者向きではない
とにかくありとあらゆる記載が簡潔です。参考答案もしかりで、それ故に「現実的な素晴らしい参考答案」となっているわけです。筆者は簡潔な文章大好きですし、司法試験対策としては全く問題無いのですが、初学者にとっては、理由付けが無い or 簡潔過ぎて、学びづらい答案かもしれません。
上記で「参考答案と一口で言っても、その良し悪し、使い易さ・使い辛さは千差万別です」と述べた通りでして、初学者にとっては、やや冗長なので司法試験で書くのは現実的ではないがーその分論理構成が丁寧な参考答案の方が勉強になります。そういった意味では、参考答案も中級者向きです。まずは、
で、長めの参考答案を(一応、でも)勉強した方が取り組むべきかと思います。
問題意識高い系は割愛
加えて、本書は問題意識高い系もやや割愛されています。例えば、伝聞法則の潜脱ーある証拠が非伝聞として用いることも可能なのだが、実質的に伝聞法則を潜脱することになり兼ねない場合ーといった論点(筆者は来年出題されると踏んでいる)についての言及は、最低限となっています。そういった意味では、上位合格を狙う方には物足りないかもしれません。
筆者も、刑事訴訟法が(自称)得意だったので、現役時代に本書に出会っていれば、伝聞法則の理解のスピードが確実に上がっただろうな!とは思いますが、より深い理解、高い問題意識に触れることができたな!とは思いません。
まとめー刑訴法のベスト教材
以上の通り、ただでさえ良い教材で溢れている刑事訴訟法に超・有力な新教材が登場したので、受験生としては「どれもよさそうだな~」という贅沢な悩みに悩まされそうです。筆者は、複数教材によるチームワーク学習推進派ですので「全部買ってまえー」なのですが、あまり無責任なことも言えないので、ベスト教材ミックスを図示してみました。自分の学習の進度に合わせて、こういう順番に買っていけば良いのでは?という一例です。参考になれば幸いです。