最近、かなり読者数が増えたこともあり(毎度ありがとうございます)、昔の記事のリライトを進めています。我ながら、言語明瞭意味不明瞭な部分がたくさんありますので。という訳で、昔読んだけどよくわかりませんでした、な記事が、今はよくわかるようになっている可能性もあります。お時間のある方は過去に読んだ記事も読み返してみて下さるとうれしいです。
法学教室とは
で、本題です。法学教室とは、法教の愛称で親しまれている(であろう)有斐閣の月刊誌ですね。「ひょっとしたら良い情報があるかも…」と思いつつも、学部生ならともかく、予備校やローで短期一発合格を目指すなら、そんな時間を確保することは難しいのが現実です。
しかし!だからこそ、たまーに優雅に法教を読むと、「俺ってば、アカデミック」と、謎の優越感に浸ることができます。…というような使い方をしていると、それこそ間違いなく司法試験に落ちます。そうではなく、法教も上手に使えば受験に役立ちますよーというのが、本記事の眼目です。
筆者は、法学教室が割と好きでして、学習が進んだ3年目から現在も定期購読しています。今日は、法学教室の内容と、近時の連載の書評、及び司法試験への活かし方を紹介したいと思います。
法学教室の内容とレベル
法学教室はその名の通り、ひたすら受験生フレンドリーな雑誌でして、パサッと表紙を開けば、まずはその内容を簡単に説明してくれちゃうページが設けられています。各記事の内容や難易度をぱっと見で把握し、読むべきものを選択できるシステムが整っているのです。素晴らしい。よって、私が逐一これを解説する必要も無いのですが、「法教読んでね!」とおススメする立場から、(有斐閣の回し者ではありません)一応再掲しつつ簡単なレビュー、使い方を説明します。
なお、法学教室は「法学部生を主な対象読者とした、学習雑誌です」とあります。確かに、基礎法学を扱うなど、そのフシも感じられます。しかし、私のみたところ、その内容が理解できる人は法科大学院未修1年生の上位50%で、取捨選択も含めて学習に活用できる人はそのさらに半分の25%程度です。うーむ、法教を学部生(願わくば2年生以上であると信じたい)でバンバン読んでいる人≒予備試験と司法試験はさっさと合格できる人、な気もします。要するに、思ったよりは骨太で難しい、ということです。
特集
文字通り、ある論点や重要判例を一回で、掘り下げる企画です。そのレベルも、司法試験お役立ち度も、千差万別です。役に立たないときは全く役に立たないし、役に立つときはとてつもなく役に立つので、気になる特集があったら、とりあえず本屋さんで立ち読みしてみることをおススメします。近時の特集で言いますと、
「法学の学び方を振り返る」は面白かったです。このブログの趣旨とも被りますが、そもそも法学ってどうやって学ぶんだろう、という特集ですね。とりあえず、執筆陣がとてつもなく豪華ですから、それだけでも読む価値ありです。良い文章を書くためには良い文章を読まなければならん、という訳です。そういえば、同企画では、憲法の南野先生もこう書いていました。筆者も同感です。
最新の判決や、憲法事件・憲法政治上の重要トピックに関心をもつことも重要である…(略)筆者はせめて「特集買い」をすることを進めたい…(略)毎月チェックし、そのうち自分の関心を惹くテーマや執筆陣に出会えれば、その一冊を買ってしまう、というやり方である(法学教室462号 15頁より要約引用)
その他の特集で言いますと、
「裁判例からみる捜査法の課題」も良かったです。
捜査員「じいさん、コーヒーでも飲みなよ」
捜査対象者「ありがとう」
捜査員(しめしめ、これで唾液からDNAが採取できるぜ)
…という捜査の適法性ってどうでしょう、等です。こういった「雑誌」の基本書、判例集等に対する優位性は、その速報性により最新の問題にキャッチアップできることにあります。「裁判例からみる〇〇」といった特集は、つい先月の下級審判例なんかも扱ったりするので、何がホットトピックかーという流行を肌に感じることができる、貴重な情報源だと思います。
講座
法教のメインコンテンツが、「講座」です。巷では「連載」ともいわれますね。なんといってもこれが重要です。著名な大学教授の先生が、自らのレジュメをアップしつつ、連続で講義していく、というイメージです。これまた玉石混交ではなくお役立ち度は千差万別で、司法試験との関係ではオーバースペックだよ~というものもあれば、司法試験の問題意識そのものや!と興奮するものもあります。
近時の有名連載としては
などがあり、筆者が紹介した書籍の中にも、
など、法教連載をベースにしたものがあります。
上記の書籍をみればわかるように、法学教室の「講座」はまさに宝庫で、良質の講座を先んじて見つけて(≒単行本化する前)モノにしたときの破壊力は凄まじいです。まさに一歩先を進めるのが実感できます。筆者の通っていた法科大学院では、橋爪連載を読んでいるかどうかで成績が1ランク変わるほどの影響力があったように思います。
現在連載中の講座では、この4月に始まった九州大の村上先生の「スタンダード行政法」は行政法が苦手な方にとってはかなり役立つのではないかと思います。
レベルはまさにスタンダード、最低限の基礎を丁寧に解説していくという内容ですので、上級者には物足りないと思います。が、行政法が苦手な方は基礎理論の理解でこじらせて、なかなか判例分析に進めないところがボトルネックとなっていると思いますので、本連載を副読本にして基礎理解を徹底することは有益かと思います。まあ、あと村上先生の文体が簡潔明瞭で筆者が個人的に好き、というのもあるんですが。
その他、現在連載中の講座の、筆者の独断と偏見に基づく「司法試験お役立ち度」はこんな感じです。
- 横大道先生他「探検する憲法」★☆☆☆☆
→ いや~期待が大きかっただけに… - 吉永先生「ケースで考える債権法改正」★★☆☆☆
→ 改正対策が必要な方にとっては重要 - 得津先生他「会社法判例」★★★☆☆
→ 面白い!でも結構難しい。まずは、会社法判例の読み方 -- 判例分析の第一歩を読むべきでしょうか - 名津井先生他「事例で考える民事訴訟法」★★★☆☆
→ そんなに事例のひねりが効いているという感じではありませんが、解説がわかりやすい - 嶋矢先生他「刑法事例の歩き方」★★★★☆
→ 橋爪連載を読んでいれば、切れ味バツグンの新理論や、目から鱗ボロボロ解説はありませんが、本連載はより書き方・あてはめに対する言及が多く、かなり実践的です。おススメ。
演習
文字通りの演習問題&解説です。これは、あまりハズレがありません。何故かというと、見開き2ページと決まっており、分量が少ないからです。ハズレの法律書の典型は、長文・長大な頁数で、ひたすら苦労して山に登ったにも関わらず、頂上は曇りで視界ゼロでした…というものなので、分量を少なくしておけば、大ハズレは自動的に回避されます(別に嫌味のつもりではありません)。著者も著名な先生が多く、限られた紙幅を活かすため、問題・解説ともにムダをそぎ落として工夫されたものが多いように思います。レベル設定については先生によりますが、基礎的なものが多いです。
やたら細かい問題意識を拾ったり、迷宮に誘いこむような解説も(当然ですが)少ないので、気軽な気持ちで毎月演習だけやっていく、というのは有益だと思います。数多くの演習問題にあたることは、基本的には良いことですので。
近時の名演習としては、かなり古くはなってしまいましたが、川出先生の刑訴法演習(379〜390号)でしょうか。Kindleで読めるんですね。
その他
ニュースなどで話題の論点(先月号で言えばキャッシュレス決済)についての解説である「時の問題」や、小エッセイがいくつかありますが、これらは(日々是戦争也の受験生にとっては)上記の優雅な気分に浸る or 司法試験の当然合格を見据えた未来構想に用いるほかの用途はありません。
読むべし度が高いのは、毎月ついてくる「判例セレクトMonthly」です。内容はタイトル通りで、要するに重要判例解説(重判)に出てくる可能性のある判例をいち早くキャッチすることができます。
今月号(464号)で、来年の司法試験に出そうなもので言えば、
- 民法【所有権留保と集合動産譲渡担保の競合】最判平成30年12月7日
- 商法【意思決定に強い影響力をもつ一人株主兼取締役への招集通知を欠く取締役会】東京高裁平成30年10月17日
- 刑法【素手の相手に対して金属製ハンマーで2回殴打した行為に正当防衛が成立】札幌地裁平成30年12月3日
なんかがあります。B5で1ページなので、秒速で読めます。
まとめ
以上を踏まえると、法学教室の以下の使い方は司法試験に役立つ、と筆者は考え、実践していました。
- 役立ちそうな特集があったら儲けもの、という位の意識でゆる~く探す
- 役立ちそうな講座を可及的速やかに発見して、マジで役立てるというリサーチ
- 演習は、暇があればやってみる
- 判例セレクトMonthlyは流し読みで良いので、チェックする
以上、かなり牧歌的な記事を直前期に投稿してしまいすみませんでした。受験生、頑張れ~!