だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、平成30年司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

エクササイズ刑事訴訟法と、演習書の「潰し方」

エクササイズ刑事訴訟法

エクササイズ刑事訴訟法

 

・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「現状の刑訴演習書No.1」

令和元年司法試験・刑事訴訟法の雑感

理論的な問題か?

 更新がまたまた遅れておりすみません。誰も期待してないか。いや、タイに出張に行ってたんですよ。言い訳ですが。

 さて、今年の司法試験はいい問題が多かったな~と思ってましたが、刑事訴訟法は(個人的には)あまり楽しそうな問題にはみえませんでした。問1については、「学説問題」「理論的な問題」との声が多いように思いますが、そうか?要するに、問1の問題文前半の事実は、本件基準説であてはめやすく、問題文の後半の事実は川出説(又は実体喪失説)であてはめやすいので、どっちもやってみてね。というのが主旨ではないでしょうか。やっぱり刑事訴訟法は「あてはめ勝負」というのは変わってないな。という感想なのですが。※なお、筆者は理論的な問題が大好物だったので、楽しそうな問題にはみえなかったのでした

 なお、「あてはめ勝負」なので理論を勉強しなくて良いといのは誤解で、あてはめ勝負ゆえに「あてはめ易い規範」を探して旅に出るのが本筋です。ということにつき、下記記事を参照してみてください。

やっぱりあてはめ勝負

 そういう意味で、受験生たるもの、「この事実なら、こっちの規範の方が使いやすいや」と、規範の使い分けが出来てしかるべきです。使えそうなモノは何でも使うのです。「実務と異なる考え方だから本件基準説なんて知らない」では困ります。理論がわかっていないから困るのではなく、試験≒試験委員の出題趣旨≒ビジネスで言えばお客さんのニーズを軽視する姿勢が困るのです。

 ちゃんと問題文を読めば、令和元年司法試験・刑事訴訟法も、ふか~い理論的対立を聞いているわけではなく、あくまで自説の根拠を聞いているにすぎません(青字部)。むしろ、やっぱりメインはあてはめなのです(赤字部)。

令和元年司法試験・刑事訴訟法〔設問1〕(中略)

  1. 具体的事実を摘示しつつ、論じなさい(できれば川出説か)
  2. 1とは異なる結論を導く理論構成を想定し、具体的事実を摘示しつつ、論じなさい(できれば本件基準説か)なお、その際、これを採用しない理由について言及すること(まあ、起訴前の身柄拘束期間の制度設計ーその趣旨ーだとすればーというやつですか)

エクササイズ刑事訴訟法の内容

あてはめの見本としてベスト

 というわけで、やっぱり現状では刑事訴訟法は(規範が使い分けられる上での)あてはめ勝負、と思っておいた方が良いと思う訳です。あてはめを学ぶーと言っても色々と方法があり、インプットとしては上記の判例講座が激推しですが、アウトプットとしてはほぼ本書一択です。

 近時の演習書の「基本」通り、本書も問題の後の解説では、具体的なあてはめまで言及しています。もっとも、上記判例講座や、

刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

 

  には、「な、なるほど!これが考慮要素で、そこにこの事実をこう評価してあてはめるのか!」という目から鱗ボロボロのあてはめ術が多数掲載されているわけですが、長すぎて、判決文ならいざ知らず、司法試験ではこんなに書けない、という問題が発生すること多々ありです。その点、後述の通り、本書は160頁という驚天動地の薄さを実現するため、あてはめの解説も体脂肪率3%くらいまで絞り込まれており、まさに試験でのあてはめ例ほぼそのものが記載されています。しかも、日本語(文体)は簡潔明瞭、マジックワード皆無、一文が短いという試験理想文体です。一例を下記に。※印は筆者の感嘆です。

論点:被疑者宿泊ホテル廊下での秘密足跡採取の強制処分該当性

 屋外における写真撮影と同様、外出時において足跡は歩行した箇所に次々と遺留される類のものであり、その意味で足跡のプライバシーは、その容貌と同様(※写真撮影との対比を構文中でスムーズに繰り返す。韻まで踏んでいる。)、常に不特定多数にさらされているといってよい。本件でも、ホテルの建物内に入ってマットを設置しているものの(※反対事情に必要最低限触れる。)、ホテル支配人の許可は得ており、宿泊室外の廊下は多数の人が利用することから、重要な権利利益の侵害制約とまでいえないのではないか。(本書75頁より引用)

 いや~一切の無駄が無いにもかかわらず、美しい文章です。現状、司法試験受験生が手にいられれる「刑訴法答案のあてはめの見本」としては、本書がベストと筆者は考えています。

驚異の薄さとチームワーク

 そして、前述の通り、猛烈に薄いです。薄いにもかかわらず、網羅性は「ほぼ」完全です。「ほぼ」とつけたのは、令和元年出題の公判前整理手続関係は弱いからです。反対に、それ以外の論点は、全部拾っているといって過言ではありません(攻防対象論とか。面白いし、来年出ないかな)。なーんでこんなに薄く作れるのか、と言うのがサッパリ謎なのですが、察するに①あてはめ例しかり、粟田先生の日本語が短いのにわかりやすいから、ということに加えて、②受験生の(あるべき)勉強方法を完全に把握しており、チームワークを活かしている、ということが挙げられます。

 例えば、令和元年出題の別件逮捕・勾留については、

 学説上は、本件基準説(説明略)、別件基準説(同)、川出説(同)、実体喪失説がある…

 本事例では、いずれの立場においても、以下の各点の検討が必要であろう(以下、あてはめポイントのわかりやすい解説)

 …以上から、本事例における逮捕勾留は実務の通説である別件基準説に立つ限り、適法と思われるが、よって立つ見解により、全く異なる結論もあり得るのであるから、仮に別件基準説に立つ場合であっても、実体要件のみ検討するのでは不十分である。令状主義違反・期間潜脱との本件基準説の問題意識にも配慮しつつ、余罪取調べの問題についても…一応の検討が必要である。余罪取調べの法的限界についても諸説あるが…場合等には許容される(酒巻96頁)。(以下、本書93~94頁より要約引用)

 まず、注目しておきたいのが、単なるあてはめ解説書ではなく、理論的対立にも最低限触れていることです。特に、太字で記した部分は、令和元年の出題趣旨そのものです。なお、粟田先生は検察官出身、2015年まで司法試験考査委員を務められています。

 その上で、本書最大の特徴は(酒巻96頁)という参考文献の指示にあります。優れた答案を書くための訓練という演習書の本旨を達成するためー受験生なら当然知っておくべきインプットは、それ相応の基本書で勉強してね!という訳です。

 「えー親切じゃない」と思った人もいるかもしれません。しかし、様々な教材を組み合わせた「チームワーク」で勉強をする、ということは(合格を目指す)受験生なら当然のことです(下記記事も参照)。

 さらに、粟田先生の素晴らしいところは、指示する参考文献のチョイスがこの上なく的確なところです。だいたい、法律書というのは、「凡例」「参考文献」をみると、数十冊は掲載されており、「そんなに読むかいばかやろー」と思ってしまうことも多々あります。が、本書はわずか7冊です。

  1. 酒巻(刑事訴訟法
  2. 争点(刑事訴訟法の争点 (新・法律学の争点シリーズ 6)
  3. 百選(刑事訴訟法判例百選 第10版〈別冊ジュリスト232号〉
  4. 古江(事例演習刑事訴訟法〔第2版〕
  5. 平成◯年度重判解(平成30年度重要判例解説(後半)
  6. 法教(法学教室のススメ
  7. リーガルクエスト(刑事訴訟法 第2版 (LEGAL QUEST)

 刑訴法のメジャーな書籍ばかりで、上記いずれの書籍も持っていない、持っている友人もいない、という受験生はほぼ皆無ではないでしょうか。というより、このうち2~3冊あれば、司法試験のインプットとしては完了なので、それ以上のことを演習書で勉強する必要はありません。筆者は変態なので全部持ってましたが。そういう意味で、粟田先生は不親切なのではなく、むしろ、「二度も同じインプットする必要ないよね。メジャーな基本書買っておいてね」と指示してくれる、親切極まりない先生といえます。

 本書の有力な対抗馬としては、

事例研究 刑事法? 刑事訴訟法 第2版

事例研究 刑事法? 刑事訴訟法 第2版

 

  があり、同書も良書です。しかし、同書は本書と異なり、理論的な説明も労を惜しまずにしてくださるため、400ページ超の大部となっています。

 何度も同じことを言って恐縮ですが、演習書の本旨は優れた答案を書くための訓練にあり、刑訴法の場合は、まずもってあてはめをマトモにこなせるようになることが急務です。どんな基本書にも掲載されている別件基準説ー本件基準説の対立を端的に描き出せない受験生が多々いる中、それ以上の細かい理論的深掘りは、演習書の役割ではなく、論文集か法教の特集でやってもらえば良い話です(投げやり)。

 本書+上記本書掲載の参考文献のうち2,3冊(個人的には、3,4,7)で司法試験対策としては必要十分です。そういった意味で、事例研究刑事法Ⅱよりも、本書の方が使いやすいと私は考えます。

受験生のベストフレンド

 さらに、本書はそもそもの「演習書のつくり」としても受験生フレンドリーであり、フレンドリーを通り越してベストフレンドとまで言えると思います。

問題が司法試験っぽい

 こればっかりは引用するわけにもいかず、実際に立ち読み(というか購入して欲しい)してもらうしか無いのですが、そもそも演習問題が司法試験に非常によく似ています。捜査法、公訴・公判法、証拠法がごっちゃ混ぜの問題文、具体的事実が多い、等です。まあ、粟田先生が元司法試験考査委員なので、当然ではあります。

論点を明示しない

 これが(私にとっては)最大の美点だったのですが、本書は、問題で、論点は何か、論点数がいくつかを明示しません。私は、受験生の答案作成上の最大の難関は、問題発見(問題提起)だと考えていますので(下記記事も参照)、問題文に論点が明示してある演習書なんてもってのほかで、できれば論点が何かは可能な限り隠しておいて欲しいとさえ思います。

 粟田先生も同様のお考えからかはいざ知らず、本書は問題文からは直ちに論点がわからない構成となっている(例えば、設問が「問題となり得るについて検討しなさい」等となっている)ことは受験生にとっては大変ありがたいことです。

問題と解説が離れている

 これはコロンブスの卵で、やられてみると「なるほど!てか、全ての演習書はこうやって作れば良いのに」と思ってしまう本書の工夫です。要するに、「問題編」と「解説編」が分かれており、第1問の次は第2問が配置されているので、「答えがみたいみたいみたい」と甘い誘惑にかられても、簡単には見られないようになっています(笑)。これは素晴らしい。人間は答えを求める生物ですもんね。

エクササイズ刑事訴訟法の使い方

刑訴法のマストバイ

 と、言うわけで、あてはめの見本としてベストであり、チームワークにより薄いにもかかわらず十分な網羅性と理論的説明を提供し、受験生の勉強を知り尽くした上でとられた数々の工夫が施された本書は、買わない理由が何もありません。いつにも増して押し売ってますが、ここまで推すのは憲法判例の射程くらいです。初学者から上級者まで、この本を買って役に立たないというシチュエーションが容易に想定できません。使い方も王道そのもので、①問題発見から(簡易)答案作成まで、丁寧に起案し、②わからないところは本書の「参考文献」でちゃんと確認する、を5周くらいすれば、誰でも司法試験に合格する実力はつくはずです。まあ②が大事ですが。

筆者の潰し方例

 以上、では寂しいので、筆者の潰し方例が一枚でわかる写真をアップします。独特なものではなく、普通ですが。

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 黄色→オレンジ色→赤色のマーキングは、ランク(過去問分析による出題可能性)ですね。青字が、1時間以上はかけて答案構成くらいはした、という意味で取り組んだ日です。問題を覚えてしまわないように、ある程度時間はあけた方が良い、というところ位がポイントでしょうか。こういう具合で演習書に「実績」を書き込んでいくのも、「見える化」「情報の一元化」といった点からも良いことかと思いますので、ご参考までに。

追記

 と、ここまで書いて、(上掲の写真を撮るため)あらためて本書の「はしがき」を読んだのですが、含蓄に富んだ、素晴らしい文章でした。また、私の書評が的外れてはなかったな~というところが嬉しかったので、要約して引用します。

 …本書は…既に一定程度条文解釈や重要判例を勉強していることを前提に…問題発見能力や適切な法規範を導く能力、事実を抽出しあてはめる能力などを向上させることを目的に執筆したものである。

 …まず、事例問題を検討する際には、いきなり解説を読むのではなく、一定の時間、問題について自らの頭で考え…

 …条文や判例の解釈に関しては、本書に引用した各種基本書等、読者が各自使用する文献にこまめに立ち返ることを念頭に解説している。(本書はしがきより)

 やっぱり、素晴らしい法律書のはしがきには、その本の正しい使い方が書いてあるもんですね。