だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

伝聞の書き方と平成30年司法試験刑訴法

伝聞の書き方がわからない?

 司法試験あるあるですが、伝聞の「書き方がわからない」人のほぼ100%が伝聞法則自体をよくわかっていないように思います。より具体的に言うと、最も基本的、かつ重要な問題である伝聞・非伝聞の区別でつまづく人が多い気がします。

 問題文の諸事実を前提にしたとき、ある証拠が伝聞証拠にあたるかどうかを速やかに判断できれば、あとは

 ・非伝聞→証拠能力あり
 ・伝聞→伝聞例外を検討

 となるだけですから、書き方がわからなくなりようがありません。

 伝聞はその重要度のわりに暗記量も多くなく、司法試験の「安定得点源」とできる分野だと思います。私の受験した平成30年司法試験は、この伝聞・非伝聞の区別をまっすぐに聞いており、かつ難問ではありませんでしたので、これを検討する中で、伝聞の書き方のポイントを探ってみたいと思います。

伝聞・非伝聞の区別方法

伝聞・非伝聞の区別の規範

 さて、まずは伝聞・非伝聞をどのような規範で区別すべきかですが、これはみんな大好き論証パターンですね。

 …供述証拠は知覚・記憶・表現・叙述の過程で誤りが入り込みやすい。そこで、刑訴法320条1項は、反対尋問(憲法37条2項)等で内容の真実性をチェックできない供述証拠の証拠能力を否定し、もって誤判を防止する趣旨と解する。
 かかる趣旨からすれば、伝聞証拠とは、①公判外の供述を内容とする供述証拠であって、②要証事実との関係で、原供述内容の真実性が問題となるものを言うと解する。…

 とまあ、こんな感じでしょうか。私は、「原供述内容の真実性を立証するために用いられるもの」の方がわかりやすいと思います。

伝聞・非伝聞の区別のあてはめ

 ここからが問題です。まず、①は0.5秒で判断できますね。というか、伝聞の問題に公判内供述は出題されません…。伝聞の「書き方がわからない」人の多くは、だいたいこのあてはめ②で死亡します。
 「なんだろー 犯人が供述者に語った文言が問題となってるから、再伝聞かなー。要証事実が何かはよくわかんないなぁ。まあ適当にあてはめよう。」とか、問題となっている証拠だけをみて、結論から考え始める人が多いように思います。これが諸悪の根源です。問題の証拠をどんなに見つめても、要証事実なんてわかりません。

要証事実の見つけ方

 要証事実が見つけられなければ、(理論的に)伝聞・非伝聞が区別できるはずはありません。反対に、要証事実がパッとわかれば、伝聞・非伝聞はすぐに区別できるようになります。そして、要証事実を上手に見つけられるようになるには、検察官の思考フレーム(のようなもの)を再現してみることが有用です。簡単に言うと、こんな感じでしょうか。

⓪被告人の認否
①未だ証明されていない構成要件該当事実・争点は何か(立証趣旨)

②他の証拠や認定済みの事実はどんなものか(証拠構造)
③①②を踏まえ、問題の証拠からどんな事実を証明すべきか(要証事実)

平成30年司法試験・刑訴法を解いてみる

 上記①~③のフレームで、平成30年司法試験刑事系第2問(刑訴法)、設問2(の小問2.のみ)をやってみましょう。問題文は要約しています。原文はこちらでご参照下さい。

※被告人甲は、Vを被害者とするリフォーム詐欺の事実で公判請求されている。甲は第1回公判期日において、「V方に行ったことはありません。」と述べて犯行を否認している。

※小問1.から、Vの供述をメモした「本件メモ」により、「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」が立証できそうである。


 検察官Qは、本件領収書の印影と、甲の出入りしていたA工務店の事務所で発見された甲の名字が刻された認め印の印影が合致する旨の鑑定書(以下、本件鑑定書という)、本件領収書から検出された指紋と甲の指紋が合致する旨の捜査報告書(以下、本件報告書という)、Vから本件領収書の任意提出を受けた旨の任意提出書(以下、本件提出書という)等のほか、本件領収書の取り調べを請求した。Qは、本件領収書の立証趣旨については、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」であると述べた。
 弁護人は、本件鑑定書、本件報告書、及び本件提出書については同意したが、本件領収書については不同意かつ取り調べに意義があるとの証拠意見を述べた。

(問い)本件領収書の証拠能力について、立証趣旨を踏まえ、立証上の使用方法を複数想定し、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし、本件領収書の作成者が甲であり、本件領収書が甲からVに交付されたものであることは、証拠上認定できるものとする。

(本件領収書の文面)
 題名:領収書 宛名:V様 日付:平成30年1月10日
 ¥1,000,000(税込)
 屋根裏工事代金として
 上記正に領収いたしました
 A工務店の住所、代表甲の氏名(ここまでワープロ作成)
 及び認め印による印影

立証趣旨・証拠構造を踏まえた要証事実の抽出

被告人の認否

 実は、この情報は問題文には必ず出てきます。今回も完全否認。

立証趣旨

 本件で問題となっているのは、詐欺罪(刑法246条)です。その客観的構成要件要素は、「欺」く行為、欺く行為に基づく錯誤、錯誤に基づく処分行為、処分行為に基づく占有移転です。

 小問1.から、「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」=欺く行為&欺く行為に基づく錯誤という構成要件に該当する事実(及び甲の犯人性)は立証できそうです。

 とすると、未証明の構成要件は、錯誤に基づく処分行為、処分行為に基づく占有移転で、これに該当する事実を立証したいところです。従って、立証趣旨は「(犯人である)甲が、平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」となります。本問では、受験者への出血大サービスで、立証趣旨を明示してくれちゃってます。ありがたや。しかし、本来は立証趣旨から考え始める癖をつけておくとよいと思います。

②証拠構造

 その他の証拠としては、本件鑑定書、本件報告書、及び本件提出書があります。また、証拠から、本件領収書は甲が作成し、Vに交付したことが認められるとされています。これも出血大サービスですね。

要証事実

 というわけで、ここからが本番です。図で整理してみましょう。

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 もう一度言いますが、問題の証拠をどれだけ見つめても、要証事実はわかりっこありません。立証趣旨を踏まえて、どんな証拠を、どう使って(証拠構造)、どんな事実(要証事実)を立証すれば良いのか、という思考フレームで問題を捉えることが大切です。

本件メモ(矢印①)

 練習のため、図の右側、これは設問2の小問1.で問われた本件メモについてみてみましょう。
 本件メモは、要旨「A工務店の人が来た。耐震金具に不具合があるから、地震が来たら屋根が潰れる。すぐに工事しないと大変なことになる。工事代金は100万円で、今日工事できると言われた。」という内容です。

 …という、内容の真実性は不明のメモがありました。という事実を立証しても、欺く行為があったことや、その犯人が甲であることとは何の関係もありません(自然的関連性なし)。

 反対に、このメモの内容が真実だとすれば、犯人甲による欺く行為があったことが立証できます。すなわち、本件メモで立証する事実=要証事実は「犯人が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」であり、立証趣旨そのままです。この要証事実との関係では、原供述内容(メモ)の内容の真実性が問題となるため、本件メモは伝聞証拠です。なお、このように用いる場合、本件メモは、犯人性・構成要件該当事実を直接証明するものですから、直接証拠と呼ばれます。

供述証拠としての使用(矢印②)

 矢印①と同様に、仮に本件領収書の記載内容が真実だとすれば、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」を直接証明できます。

 というわけで、本件領収書の記載内容の真実性を立証する場合は、要証事実はそのまま「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」です。この要証事実との関係では、原供述内容(領収書)の内容の真実性が問題となるため、本件領収書は伝聞証拠です。

 あとは、伝聞例外を検討します。筆者は、323条2号を軽く、322条1号をそれなりに重く検討して、伝聞例外該当としました。

非供述証拠としての使用(矢印③)

 次に、③A本件領収書は甲が作成したこと、③B本件領収書は甲がVに交付したこと、③C本件領収書はVが保管していたこと(from 本件提出書)が立証できる本件では、③Dこんな内容の、本件領収書なるモノがこの世に存在します。という、「本件領収書の内容と存在」それ自体を証明すれば、「領収書記載内容=甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」はあったでしょう、と合理的に推認することができそうです。

 この場合は、矢印②と最終ゴール(立証趣旨)は全く同じですが、要証事実は「本件領収書の内容と存在」です。従って、内容の真実性は問題とならないので、非伝聞証拠となります。供述証拠を非供述証拠(≒物証)のように用いる方法です。
 なお、このように用いる場合、本件メモは犯人性・構成要件該当事実を推認させる間接事実を証明するものですから、間接証拠と呼ばれます。

 もっとも、「存在自体を証明すれば、~が合理的に推認できる」ところがキモで、それが何故かをきちんと説明しなければなりません。ここに点数も振ってあります。司法試験委員会も採点実感で「そのような形で現金授受の事実を推認できる実質的理由についてまで言及する答案は少数にとどまった」と残念がっていました。理由付けの例を以下に。

 本件では、③A・③B・③Cが認められる。取引通念上、領収書は現金の授受に対して交付されるものである。従って、領収書を作成し、相手方に交付したという事実があれば、これに加えて③Dそのような領収書が存在するという事実を立証すれば、領収書の記載内容に相当する金員授受の事実が合理的に推認できるといえる(事例演習刑事訴訟法 第2版 340頁の古江先生の解説参照。なお、筆者もこう書きました)。

 本件では、③A・③B・③Cが認められる。領収書の交付者と受領者は、金銭の授受を巡って利害が対立する(※注 払った方=受領者は、領収書を交付して欲しいし、払ってもらった方=交付者は、領収書を交付したくない)。にも関わらず、金銭授受という同一内容の事柄について、一方が書面の作成により、相手方がその受領により一致した供述をなすという事実があれば、これに加えて③Dそのような領収書が存在するという事実を立証すれば、領収書の記載内容に相当する金員授受の事実が合理的に推認できるといえる(刑事訴訟法の争点 167頁の堀江先生の解説参照)。

 …このように用いる場合、本件領収書の要証事実は「領収書の存在と内容」それ自体であり…非伝聞証拠である。

 

 以上のように、こんな証拠(や認定された事実)と組み合わせれば(証拠構造)、立証趣旨が合理的に推認できるよ、その場合、要証事実はこんなものでいいよ、そうすると非伝聞だよね、という流れです(ザックリしすぎか)。

精神状態供述としての使用(矢印④)

 もう一点、精神状態供述としての使用が考えられます。ある時点での精神状態の供述は、通説的見解によれば非伝聞とされています。
 この場合の、証拠構造の把握、要証事実の置き方はこんな感じでしょうか。

 ④A本件領収書の押印は甲が唯一の従業員であるA工務店の事務所内から発見された認め印と同一であり(from 本件鑑定書)、かつ、④B本件領収書に付着した指紋は甲のものであった(from 本件報告書)。また、平成30年1月10日の事件発生後、本件領収書はVまたは捜査機関が保管しており、甲が本件領収書に触れる機会は無かった。
 そうだとすれば、本件領収書は、甲の、1月10日時点における「Vから屋根裏工事代金として100万円を受け取ろう」という精神状態の供述とみることができる。かかる精神状態が立証されれば、屋根裏工事の客観的状況、(及び本問では出てこないが、通常はVの預金口座の動き等)と相まって、現金の授受や、その故意が合理的に推認できるといえる(司法試験の問題と解説2018  (別冊法学セミナー no.254)87頁の斉藤先生の解説参照)。

 …このように用いる場合、本件領収書の要証事実は「甲の、Vから屋根裏工事代金として100万円を受け取ろうという意図」であり…非伝聞証拠である。

伝聞の「書き方」のコツは要証事実にあり

 というわけで、結構長く&言葉足らずで難しくなってしまいましたが、要するに(ズルい)

 立証趣旨が何かを、自分の頭でよーく考えて、他の証拠や認定事実を見渡して、証拠構造のピラミッドを組み立てて、手持ち証拠で何を立証すればいいか、その要証事実を考える。

 ということが伝聞の「書き方」のコツ…すなわち、伝聞・非伝聞の区別がスムーズにできるようになる第一歩だと思います。焦らず、地道に、具体的な訴訟をイメージして考えてみて下さい。本件領収書で言えば、弾劾証拠としての使用もできますよ!

 なお、私は次の二冊の本を併用することで、刑事訴訟の立証趣旨、証拠構造、要証事実の関係性を身につけました。どちらも非常に良い本です。

プロシーディングス刑事裁判

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刑事実務基礎 (伊藤塾試験対策問題集:予備試験論文 1)

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  伊藤塾の問題集は、刑法のあてはめの練習にもなり、一石二鳥です。刑事訴訟法を一通り学んだら、早めにチャレンジすることをおすすめします。