だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕と、下位規範

判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕

判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕

 

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★★★☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「最強のあてはめ教科書」

川出説のススメ

 川出説は、(刑法の橋爪説等と同様に)判例とほぼ同一の結論を得ることができるにも関わらず、理論的に(判例よりずっと!)わかりやすい=論証が短くて済むため、とてもオススメです。毒樹の果実論とか、顕著ですね。

 私は、川出先生が見解を述べられているところは(別件逮捕・勾留、過失犯の訴因、訴因変更、毒樹の果実論など)、論証集もバンバン川出説に書き換えていきました。しかし、そうすると刑訴法全体の理解(体系的理解)がパッチワークみたいになってしまいます。不安で夜も眠れないぜ!川出先生、早く基本書出して下さい!と念じていたところ、書籍化された連載が本書です。

判例講座刑事訴訟法の内容

 連載を読んでいなかった筆者は、きっと「川出説のオンパレードなんだ~楽しみ楽しみ」と期待していましたが、全くそうではありませんでした。警察学論集だもんね。まあ、筆者のようなニーズの人(少数派でしょうが)は、おとなしく川出先生の論文を読みましょう。

 本書は、刑訴法の数多くの判例を論点ごとに整理して、各論点についての判例法理はどんなものなのか、どういった事実に着目してどのような判断を下したか、を簡潔に解説していく本です。近時主流の、内在的分析を加えた判例集、という表現がぴったりでしょうか。学説の紹介も全く無いわけではなく、通常の基本書の半分くらいの分量で簡潔に記載されています。そういった意味で、川出説も紹介されています。分量としては、判例そのもの:2、内在的分析:5、学説の紹介3、といった感じでしょうか。ベストミックスです。

 本書の特に素晴らしい点は、下記2点。

下位規範・考慮要素の整理

刑訴法はあてはめ勝負

 受験生の間には、「刑訴法はあてはめ勝負」という空気が流れていることと思いますが、実際、平成30年もそうでした。初学者の皆さんにわかりやすく言うと、「あてはめ勝負」とは、規範(と、その導出)はカンタンなので、受験生ならみんな書ける but 事実がてんこ盛りなので、それをどう評価して規範にあてはめるかに巧拙が出る、というタイプの問題のことです。

 あてはめを充実させるためには、下位規範・考慮要素、すなわち、どういった事実が認定できれば、規範の要件充足性を認められるのか、を押さえておくべきで、これは受験生の常識です。なお、筆者は「下位規範」と言ってしまうと硬直的なので、考慮要素、と言っておく方が好きです。本書は、判例を丁寧に分析することで考慮要素を抽出しており、その整理が抜群に上手です。

任意取調べの限界

 その一例として、「任意取調べの限界」(刑訴法197条1項本文の解釈問題)をあげます。理論的には、比例原則の表れの一つとして扱われるものです。なお、筆者は比例原則の根拠条文としては憲法13条もあげるべき派です。比例原則をそのまま規範にすると、

(緊急性を含む)必要性、相当性

 という規範となり、あてはめ辛いことこの上ありません。刑訴法の問題文の事実を大量に捨てることになり、KY答案まっしぐらです。

 この論点の指導的判例としては、高輪グリーン・マンション殺人事件判決(最判昭和59年2月29日・百選6)があります。同判決の提示した規範は、

 ①事案の性質、②容疑の程度、③被疑者の態度等、④諸般の事情を勘案して、④社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容される

 というもので、幾分あてはめやすくなっています。ただ、諸般の事情の内容を教えて欲しいところです。本書は昭和59年決定以降の下級審裁判例7件を分析し、結局のところ、考慮要素は

 ①事案の性質、②当該取調べの必要性、③容疑の程度、④被疑者の態度、⑤取調の方法・態様

  である、と整理しています。ここまでは、基本書・予備校本にもよくみられる記載です。本書が素晴らしいのは、ここからさらに一歩踏み込んで、各考慮要素が具体的にどのような意味を持っているのか、どのような事実があれば、どのような判断に傾くのか、下級審裁判例はいかに判断したか、ということを説明してくれるところです。

 例えば、「論証集には書かれているけど、どうやってあてはめるのかわからない…」と、受験生の悩みの種であろう考慮要素、②当該取調べの必要性については、

 「必要性」には2つの内容が含まれている。第1は、身柄拘束をせず任意の取調べという形式をとる必要があったのかという観点から問題とされるものであり、具体的には、逮捕の要件が備わっていたかどうか、それが備わっていた場合には、それにもかかわらず逮捕することなく任意取調べの形式をとる合理的理由があったのかどうかである。第2は、任意取調べの形式をとったこと自体には理由があったとして、当該事案で行われた形態での取調べを行う必要性がどの程度あったのかである。宿泊を伴う場合にはついては、被疑者に適当な宿泊場所がなく、警察が宿泊場所を用意しなければならないような事情があったかどうか、長時間ないし徹夜にわたる取調べについては、被疑者の供述内容が変遷した等の事情があったかどうか、捜査機関の監視の度合いが強い場合は、被疑者に逃走や自殺のおそれがあったかどうか等が問題とされている。(本書56頁より要旨引用)

 と、考慮要素②をさらに分割・分析して、具体的なあてはめ例まで示して下さっています。文章もとてつもなくわかりやすいです。

 一方で、受験生がやたら重視しがちな、③容疑の程度については、

 容疑の程度が高いほど、取調べの必要性が高まることになる。ただ、裁判例においては、すべての事例において、容疑の程度が取調べの必要性を肯定できるほどのものであったことが認定されており、この要素は、実際の判断においては重要な意味を持っていない。

 としています。やーー確かに。容疑の程度が低くて、取調べの必要性ナシ!って問題、出ませんよね。勉強になります。。。としか言えません。このように、本書をモノにするかどうかで、あてはめに差がでることは明白です(もはや押し売りの様な文言)。とはいえ、こういった細かい考慮要素を全部覚えることは、脳が老化してきた筆者には不可能だったので、こんな感じで論証集にまとめていました。工藤北斗先生の論証集がベースですね。

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実務的な論点の紹介

 もうひとつの美点は、普段の学修ではあまり意識しない、実務的な論点の紹介です。いずれも、「重箱の隅」系ではなく、出題可能性が十分あるとみこまれるものです。例えば、逮捕前置主義における被疑事実の同一性、という論点はご存知でしょうか。基本書や、刑事訴訟法の争点 (新・法律学の争点シリーズ 6)などでは、チラッと紹介してあるはずなのですが、大々的に論点として展開されていないので、読み飛ばしてしまいます。

 要するに、逮捕前置主義の趣旨をまっとうするためには、逮捕と勾留の被疑事実は同一でなくてはならない。別の事実で突然勾留しちゃうと、逮捕を前置したことにならない。とはいえ、完全に一致させるのは不可能だし、その必要もない、じゃあどう判断しますか?という話です。

 私は、ローの検察官教員の先生がこの論点を出題してくれて、初めて「!微妙にわからん!」となったのですが、その疑問にクリアに答えてくれたのは、本書だけでした。

…この点について、いわゆる公訴事実の同一性に準じた基準で判断されるという指摘がなされている(脚注・田宮刑訴92頁)。しかし、訴因変更により、後半においてどこまでの事実を一つの訴訟手続の対象として取り込めるかという公訴事実の同一性の問題と、ここで問題としている逮捕・勾留に関わる被疑事実の同一性の問題とは、性質の異なるものである…(中略)捜査の初期段階における身柄拘束の必要性は流動的である。逮捕という短期の身柄拘束を先行させ、弁解聴取等を行った上で、なお必要な場合に長期の身柄拘束である勾留を認めることで、不必要な身柄拘束を防止することができる。このような逮捕前置主義の趣旨に照らせば、逮捕の理由とされた被疑事実と、勾留請求事実の間に、後者についても逮捕中に捜査がなされたと評価できる程度の事実の共通性があるときに、被疑事実の同一性があるとして、勾留を認めてよい(本書72頁より要旨引用)

(良い意味で)完成された論証パターンです。すごすぎる。なお、この後、実際の下級審裁判例の紹介へと続きます。そこでまた、あてはめ解説!

 このように、本書の「あてはめ」と「実務的論点」が充実しているのは、警察学論集(警察官が読者)の連載だったことが大きいと思います。

判例講座刑事訴訟法の使い方

 というわけで、本書は、受験生にとっては、最強のあてはめを学び&実務的論点の出題に備える、という使い方がベストです。それ以外、あまり思いつきません。他に刑訴法のあてはめ教科書としては、

刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

 

 があります。同書は、本書より厚く、より論点を深掘りする形式です。本書の方が網羅性は高いです。

 本書は、判例の内在的分析により、考慮要素を明確にする、というコンセプトで書かれた本ですから、酒巻先生、リークエ等、あらゆる基本書との相性も悪かろうはずはありません。

 内容も、理論的対立に深く立ち入るわけでもなく、古江本ほどは難しくありません。理論的な部分は古江本に任せて、事実・あてはめの部分担当の「副読本」として本棚に常備しておけば、損をすることは全く無いと思います。

 筆者の考える刑訴法・ベストメンバーは

です。なかなかバランスの良いメンバーだと自負しているのですが、どうでしょうか。なお、言うまでもありませんが、本書の続編、判例講座 刑事訴訟法(公訴提起・公判・裁判篇)も超・良書です。

 ちなみに、川出説パッチワーク刑事訴訟法でも、司法試験レベルでは全然問題ありません。むしろ、A答案への近道だと思います。