だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

答案の書き方1(初歩編・問題発見)

 最近、かなりアクセス数が増えてきたこともあり、「適当すぎる」過去の記事をリライトしていくことにします。「だいたい」「正しそうな」内容ですので、あまり期待しないで下さい。

答案を書くには

 「理解はできているのに答案は上手に書けない」という相談を良く受けます。実際は、こういう相談をする人のうち7割は理解もできていなかったりもするのですが、確かに3割くらいは書くことだけを非常に苦手にしている人もいる気がします。

 書き方の指導について、よく言われるのが「優秀答案や参考答案から、答案の『型』を学べ」というやつです。が、これは言うは易し行うは難しで、優秀答案を見れば書けるようになるのなら、答案添削などはこの世から消滅するはずです。また、優秀答案の細かい言い回しを参考にする(というよりパクる)、という勉強法は、「一応の答案」が書けるようになった後、すなわち学修3年目くらいの話です。

  私も非法学部出身ですから、当初は答案の書き方なんて全くわかりませんでした。が、適切な努力をしていれば、半年もすれば「一応、法律答案っぽいもの」は書けるようになります。ならなければ、努力の方向性が間違っています。そこで今日は、初学者が、「優秀答案・参考答案を使って、どうやって答案の型を学んでいくか」について書いてみたいと思います。

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答案が書けない原因

 さて、まずはなぜ答案が上手に書けないのか、具体的な原因を発掘しなければなりません。敵を知りて己を知れば百戦危うからず、です。原因は、以下のおよそ3点に集約されると思います。

  1. 論点落とし、または無関係な論パの貼り付け(KY答案)
  2. 法的三段論法の乱れ
  3. 行政法(本案)や、刑法(共犯)、刑訴法(伝聞)等、独特の形式が習得できていない

 この中で、最も先に解決しなければならないもの(初歩)は1です。法律答案は、「問いに答える文章」ですから、問い(出題趣旨)に的確に応答しなければ(1)、その時点でいかに2,3がお上手であろうとも点数は決して入りません。
 そして、論点落としを防ぐには、読解力(=出題趣旨を読み取る力)をつけるしかありません。

読解力を身につけるには

 実は、論点落としをする人の多数は、単にインプット不足(そんな論点は知りませーん)であったりします。実は「書けない」と悩んでいる人の7割=論点落とし=単なるインプット&理解不足のように思います。「じゃあ基本書なり予備校テキストなりもっと読み込めよ。」以上、終わり。ではなく、筆者の例を紹介します。

 私の場合は、優秀答案の載っている演習書・問題集(伊藤塾の「赤本」シリーズでもよし、工藤北斗講師の「実況論文講義」シリーズでもよし)をローの定期試験前に5周くらいやっていました。

①3周以上はする

 その際のポイントの1つ目は、「必ず3周以上はすること」です。試験全般に言えることですが、使えない100個の武器より、使える3個の武器の方が役立ちます。でも、これって結構時間がかかりますよね。

②まずは、問題発見クイズをやる

 そこで、2つ目のポイントは、(最初の3周は)「答案は10行くらいのメモで良く」「優秀答案と対比して、適切に問題提起し、全論点を掬い上げているかのみを確認する」ことです。

 つまるところ、問題発見クイズをやりまくれば、そりゃあ論点落としは減るでしょう、ということです。

 初学者ほど、A:問題提起→B:解釈による規範定立→C:事実の評価とあてはめ→D:結論、という答案の流れの中で、論証集に載っている規範定立(B)ばかり記憶しようとやっきになっている印象があります。が、そもそも答えるべき問題を発見(A)できなければゲームオーバーです。

 なお、上記の赤本や実況論文講義に慣れてしまった(ぱっと見て論点がわかってしまう)ら、より難しい演習書に移行すれば良いです。

問題発見クイズのやり方

 次に、論点発見クイズの具体的なやり方例を紹介します。最もやってはいけないのは、暗記に頼った単なる○×クイズです。実例を使って説明します(ケース・メソッド!)

 Xは、マイホームを建てるため、Zから甲土地を買い、代金を支払った。しかし、Xは甲土地の所有権移転登記を経ていない。この話を聞きつけたYは、以前からXが大嫌いだったので、Xのマイホーム取得を邪魔するため、Zから甲土地を買い、その上にプレハブの倉庫(乙建物)を建てた。ある日、甲土地を訪れたXは、乙建物が立っていることにびっくり仰天、Yに大してその収去を求めた。XのYに対する請求は認められるか。

中高生と同じ学習パターンのA君

先生「本件では何が問題(論点)となりますか?」
A君「Yが背信的悪意者かどうか、です」
先生「どうしてですか?」
A君「え?どうしてって…」

 いやいや、こんな学生いないでしょう。と思われるかもしれませんが、筆者が通っていた法科大学院では、1日に何度もこのようなシーンが目撃できました。A君は「先行する物権変動を知りつつこれを邪魔する嫌なやつ=背信的悪意者として排除」と暗記しており、それはそれでボチボチ正しいのですが、このような暗記に頼った○×クイズは全力でオススメできません。外れたら終わり(全く点数が入らない)ですし、論理的思考ができる、というところをアピールすることができません。

おりこうさん学生Bさん

先生「本件では何が問題(論点)となりますか?」
Bさん「Yが背信的悪意者かどうか、です」
先生「どうしてですか?」
Bさん「XY間には契約がありません。不法行為等を除けば、XはYに大して、甲土地の所有権に基づく返還請求をすることが考えられます」
先生「そうですね。で?」
Bさん「これに対してYは、自分は民法177条の第三者にあたるところ、登記を経ていないXは所有権取得をYに対抗できない、という抗弁を主張することが考えられます」
先生「ふむふむ」
Bさん「これに対してXは、Yは、○○、××という要件にあてはまる背信的悪意者だから、177条の保護を受ける第三者にあたらない、という再抗弁を主張することが考えられます。この再抗弁の肯否により、Xの請求が認められるかが決まりますから、問題となります」

 こういう学生は、ソクラテスメソッド、すなわち授業点ももらえますし、答案も高評価、成績良好で授業料免除も夢ではありません!
 できれば、法科大学院(など、法教育機関)に入学後半年以内に、このような受け答えができるようにしておきたいところです。

問題発見クイズのコツ

 Bさんの受け答えを分解すれば、正しい(?)問題発見クイズのコツがつかめます。

A・まず、条文をあてる

 初めに、問題(戦場)になりそうな条文をあてなければなりません。ここがスタート地点です。本例でいうと、Yの抗弁の根拠条文である、民法177条です。本当は「所有権に基づく請求権」という条文が出発点となるはずなのですが、残念ながら条文がないためBさんは省略したのです。

 条文あてクイズは、センスと経験がモノを言うところです。筆者も最初は全然わかりませんでした。本例で言えば、民法709条(不法行為)も問題となり得るやないか!…と、尊敬していた民法教授に質問に行ったところ「うーん、こればっかりはね、君ならそのうちわかるようになるから、大丈夫」とはぐらかされました。確かに。

 一応の目安としては、「条文の要件にあてはめられる事実が問題文にあるかどうか」、というところです。本例で言えば、「故意・過失」「損害(とその額)」といった事実が全く無いため、不法行為は問題とならないな、とわかるわけです。

B・全要件を順番にあてはめる

 次に、特定した条文の要件に、問題文の事実を順番にあてはめていきます。本例(民法177条)でいうと、

①不動産に関する物権の得喪及び変更は、(中略)②登記をしなければ、③第三者に対抗することができない

 という要件のうち、①はXの請求に表れていますし、②は登記をしている側が主張すれば足ります。そこで、Yは、自分もZから甲土地を買ったから、③第三者にあたるよー、と主張するわけです。

C・論点に到達する

 このように、A(条文)→B(要件)に全ての事実をあてはめていくと、C・要件充足性が問題となる要件≒論点があるよ、という論理の流れが、問題発見の基本です。このような流れの問題発見クイズを繰り返すことで、A君のウィークポイントが克服できます。すなわち、仮に論点を外しても、条文さえ当たっていれば、要件のあてはめに対して一定の得点がつきます。また、全要件の充足性を順番に確認することで、論理的思考をアピールすることができます。

まとめ

 と、いうわけで、本日のまとめです。初学者が答案を書けるようになるためには、

  1. 問題集を3周以上回し、問題発見クイズをする
  2. 問題発見クイズは、条文あて→要件あてはめ→問題(論点)の発見、という流れを遵守してやる

ということをオススメします。規範の暗記は後回し、まずは問題発見クイズで読解力を身につけましょう。

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