だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人、妻子あり。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

刑法総論(各論)の悩みどころ

法学教室 2015年 01 月号 [雑誌]

法学教室 2015年 01 月号 [雑誌]

 
法学教室 2016年 11 月号 [雑誌]

法学教室 2016年 11 月号 [雑誌]

 

「刑法総論の悩みどころ」(法学教室403号~426号)、「刑法各論の悩みどころ」(法学教室連載427号~450号)

・説明が わかり辛い ★★★★★ わかり易い

・内容が 意識高い ★★☆☆☆ 基本的 

・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的

・文章が 書きづらい ★★★★★ 論証向き

・司法試験お役立ち度 ★★★★★

・ひとことで言うと「流行?の論点が猛烈にわかる」

刑法の教授おすすめの連載

 法科大学院に入学したものの、非法学部出身だった筆者は、特に刑法を苦手としておりました。最初に手にとった基本書は、井田先生の、講義刑法学・総論 第2版。いわずと知れた名著で、今となっては目的的行為論って面白いなあ、とか感じながら読めるのですが、当時はちんぷんかんぷん。

 完全に行き詰まった私は、某匿名掲示板の司法試験板で「あ~刑法、特に総論が本当にわからないので、誰か良い本を教えて下さい」と投稿したところ、大変親切かつ明らかに頭脳明晰と思われる回答者様が「とりあえず基本刑法を読みましょう」と教えてくれました。 

  次に、新進気鋭の刑法の先生にも「刑法、特に総論が(中略)」と聞いてみました。要するに二股をかけたんですね。その先生は、刑法の争点や、刑法総論の考え方・楽しみ方でも良いが、橋爪先生の連載(以下、恐縮ですが橋爪連載と略す)をおすすめします、とおっしゃいました。

 結果的に、この2つのアドバイスはどちらも大正解でした。基本刑法Iにより、とりあえず答案は(一応)書けるようになりました。橋爪連載により、正直言って、刑法が得意になりました。

刑法総論の悩みどころの内容

 刑法総論(各論)の論点を、一つずつ解説していく論点集の形式です。副読本ですね。

論点・問題意識が適確

 まず、本書は論点のチョイスが適確です。わかっているようでわからない論点、近似重要な判例が相次いでいる論点のみが抽出されています。どちらも司法試験委員会が大好きなやつですね。というより、橋爪信者の私としては、「橋爪先生の問題意識すなわち出題」だと思ってやってました。

 総論ですと、「危険の現実化-と介在行為の評価」「正当防衛状況の判断-と自招侵害」「過剰防衛-と量的・質的過剰の一体性」「早すぎた構成要件実現-と間接正犯」「共謀の意義-射程と正犯性」といった具合です。もっとありますが。

 また、本書は問題意識も適確で、司法試験向きです。上記の論点の-(ハイフン)以後が大切です。ハイフン前半は、典型論点です。が、ハイフン以後の論点にかかる事実をちょっと付加されたり、ひねられただけで、いずれもかなりの難問に化けます。問題意識をもって、掘り下げておくべきなのです。

解説が猛烈にわかりやすい

 これはもう、私の駄文でどう表現すれば良いのかサッパリわからないくらい、空前絶後前人未到のわかり易さです。別にふざけているわけではありません。多分、下記の点がわかり易さに影響しています。

構成が理論に偏らない

 刑法の文献というと、延々と理論の話が続いたかと思えば、非常に特殊な教室設例が登場し、それについてまた延々と理論的説明が加わる…というものを思い浮かべる方も多いかと思います。が、本書の基本的な構成は、従前の学説、一般的理解を簡潔に紹介した後は、指導的な判例の内在的分析、判例(下級審含む)や、現実的なケースで復習、となっており、理論的対立をことさら強調しません。

整理が抜群に上手

 もうこれは才能の世界と思われるのでどーしようもない部分ですが、橋爪先生の学説・判例の整理力は桁外れです。
「共謀の射程」の部分を要約して引用すると、

「共謀」の存否として議論されている問題は、①結果惹起に対する故意の存否、②実行担当者の行為に対する心理的因果性の存否、③正犯性の存否というレベルの問題に区別される。(法学教室412号128頁より)

 や~そうなんですよね。そうか、俺の頭の中のゴチャゴチャは、こんなに簡潔な一文で整理できるのか…

使える武器を提示してくれる

 この点こそが、本書の最大の長所です。法学教室なので、当たり前と言えば当たり前ですが、それにしても学生に対するサービス精神全開です。先程の「共謀の射程」の続きでいうと、

(中略)なお、学修上のポイントにつき付言しておきたい。上記①~③は理論的には異なる次元に属する問題であるが、実際の事案の解決において①~③の判断で考慮されるべき事情が大幅に重なり合っていることも多い。したがって、上記3点の相違を意識することはきわめて重要であるが、常に3段階を分けて具体的な検討を加える必要があるわけではない。

(具体例を挙げた後)このように考えると、共謀に基づく心理的因果性を慎重に検討すべき事例は、①故意・錯誤論としては、発生した結果について故意を否定しがたい事例、②共謀の範囲を超えた結果惹起について結果的加重犯の共同正犯の成否が問題となる事例、③正当防衛など違法性阻却事由に該当する事実について共謀を遂げたが、実行担当者によって違法性阻却の範囲を逸脱した結果が惹起された事例などに事実上、限定されてくることになるだろう。(同129頁)

 …ありがとうございます。肝に命じます。

 刑法に限らず、司法試験の学修は、最終的には「答案」という結果をアウトプットするためのものです。そうすると、①条文や、事実や、判例や、学説や、その背景や…と、さんざんとっ散らかした後に、②使える形で武器庫にしまっておくことが何よりも重要です。

 え。①いらないじゃん。という方は、もったいない!選別する過程が最も勉強になるんですね。与えられた武器と、勝ち取った武器は使いやすさが違うぜ。どや。

 …で、橋爪連載はなんとこの①→②を完璧にやってくださってしまいます。プロの手による①→②です。①も知れる、②で自分の武器にできる、①→②の思考過程もわかる。無敵です。

刑法総論の悩みどころの使い方

 橋爪先生の頭脳、文章と私のそれとの間には格差がありすぎて、この素晴らしさを表現できません(表現しようとすると原文丸写しになってしまうため)。とにかく、図書館等で読んでみて下さい。

※追記 平成30年刑法はやや「理論化」したので、そういう意味では橋爪連載の重要性は高まった、と言えるかもしれません。

初学者もチャレンジの価値あり

 レベルは、やっぱりやや高いです。上記の「問題意識が適確」なところでも触れましたが、一般的なイメージとしては、量的過剰防衛の規範&あてはめが一通りできる人が読み、司法試験対応力を身につける本です。クドいようですが、理論の迷宮には立ち入りません。理論的説明が困難な論点になると、「その点は…わからない、考えてみたい」と議論を打ち切ってくださるのも橋爪先生の魅力です(笑)。こういう先生に教えてもらうと、勉強が好きになりますよねぇ。

 また、とにかく解説が猛烈にわかりやすいので、刑法総論 第3版 (伊藤塾呉明植基礎本シリーズ 1)などを読了したばっかりの初学者レベルであっても、意外とスイスイ読める可能性もあります。実際、私も上記の通り、何がなんだかわからない状態で読みましたが、むしろ刑法が好き&得意になりました。

行為無価値?結果無価値?

 これは別の機会にまた記事にしたいと思いますが、橋爪先生が結果無価値論であることは、そこまで気にしなくて良いと思います。私も、そして私に本書を勧めてくれた上記の刑法の教授も、行為無価値論です。

 また別の機会に記事にしますが、少なくとも司法試験受験生、というレベルの学習者が行為無価値・結果無価値という対立を過度に意識することは、無意味です。刑法を1年以上勉強して、「判例は行為無価値論だから~」とか言ってると、お里が知れます。本書は確かに結果無価値論から出発していますが、危険の現実化にしろ、承継的共犯にしろ、各論の詐欺罪にしろ、ほぼ100%判例と同じ結論を導くことができます。

 これは、本書が判例の内在的分析を徹底し、判例の結論と(ほとんど)矛盾の無い体系を構築しているからです。それが行為無価値だろうが、結果無価値だろうが、判例と同様の帰結を、覚えやすく、強固な理論で導けるわけですから、受験生としては無問題です。

刑法事例演習教材の解説として

 橋爪先生は、受験生のバイブル的演習書、刑法事例演習教材 第2版の著者の一人でもあります。同書もほぼ無敵の演習書ですが、解説が薄いのが唯一かつ最大の弱点です。本書は、刑法事例演習教材の解説としてはベスト、ほぼ一択です。問題意識が共通しているからです。これは異論が無いと思うなぁ…。

 以上、初学者の方、刑法に悩んでいる方、事例演習教材に取り組む方、是非その論点だけでも読んでみて下さい。個人的には、「危険の現実化」「実行の着手」「共謀」「不作為犯」「詐欺罪」「横領と背任の区別」あたりは超オススメです。