だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

平成30年司法試験・商法(民事系第2問)再現答案

再現答案嫌いです

 基本的に、筆者は再現答案を作ったり、それを誰かに見せたりしません。理由①出題趣旨、採点実感が出る試験であれば、これら+基本書があれば、自分の何がマズかったのかは自分でわかる。理由②自分がいかにくだらないことを答案に書いたか、というのを追体験したくない(メンタル弱すぎ)。

 が、平成30年司法試験・商法については、再現答案をどうしても作らなければならないシチュエーションがあったので、作りました。お役に立つ自信はありませんが、一応アップします。

答案についての備考

 点数は多分、70点くらいかと踏んでいます。なお、20%ほど美化しています。いや~ぶんせき本を読みながら、「こんなん100点じゃん!こんなわけないじゃん!」とブーブー言ってましたが、いざ自分が作るとどうしても美化しちゃいますね。さすがに、内容的には盛っていませんが(書けてない論点を書けた!とは言わない)、日本語の細かい言い回しだとかは、自動的に美化されてしまいます。そこのところはご了承いただければ幸いです。

 答案上、青字で書いてある部分は、当日は涙をのんで割愛した部分です。主な理由は、答案構成の際、設問2小問(2)において、Gに対しては株主代表訴訟ができないものと思い込んでしまい、あれこれ余計な法律構成を考え悩んだことにより、時間が足りなくなってしまったことにあります。やはり条文はよく読まなければなりません…。恥ずかしい限りです。

 赤字で書いてある部分は、「参考答案」です。全く思いつかなかったのですが、出題趣旨を読む限りは、きっとこーやって書くんだろうな~ というやつです。

再現答案

第一 設問1
1.Dの請求原因
 甲社の総株主の議決権1000株のうち、Dは百分の三を上回る200株を保有している。また、Dが閲覧を請求する総勘定元帳及びその補助簿は、会計帳簿にあたる(会社法432条柱書、同条1項 以下、法令名省略)。

2.請求対象の特定、及び理由の具体性
(1)甲社は、Dの閲覧請求(以下、本件閲覧請求という)を阻むため、請求対象となる帳簿類の特定を欠いていること、及び「請求の理由を明らか」(432条柱書)としていないと主張すると考えられる。
(2)会社の作成する財務書類につき、株主は詳細に把握できない。閲覧対象の厳密な特定を要求すれば、株主による経営の監督・是正という会計帳簿閲覧請求権の趣旨にもとる。よって、「直近3期分の総勘定元帳…仕入取引に関する部分」という程度で特定は足りると解する。
(3)同様に、経営を是正すべき理由があるか否かを調査することも会計帳簿閲覧請求権の趣旨に含まれると考えられるから、「Aが…リベートを受け取っている疑いがある」という程度で理由の明示も足りると解する。
(4)以上より、本件閲覧請求の請求原因は成り立つ。

3.実質的競争関係
(1)甲社は、本件閲覧請求の拒絶事由として、Dが甲社の「業務と実質的に競争関係にある事業を営」んでいる(433条2項3号)と主張することが考えられる。
(2)「事業を営んでいる」といえるか
 甲社は関東地方のP県においてハンバーガーショップを営んでいるところ、D自身はハンバーガーショップを営む乙社の経営に関与してはいない。もっとも、Dは、乙社の100%株主であり、かつ、乙社の代表取締役のFはDの子だというのだから、法的にも、事実上も乙社の経営を左右し得る地位にあるというべきである。よって、Dが乙社の事業を営んでいるといえる。
(3)「実質的な競争関係にある」といえるか
 しかしながら、乙社の営業地域は近畿地方のQ県であり、甲社がQ県に出店する予定はないのだから、甲乙両社の事業は実質的な競争関係にあるとはいえない。
(4)よって、本件閲覧請求は3号に該当するとする、甲社の主張は認められない。

4.目的外請求
(1)次に、甲社は、Dは「その権利の確保…に関する調査以外の目的で請求を行った」(433条2項1号)と主張することが考えられる。
(2)上記の通り、会計帳簿閲覧請求権は会社経営の監視・是正を目的とした共益権であって、保有株の買い取り等の個別的利益を実現するための権利ではない。
 Dは、Aのリベート授受については興味を失っており、実際は自らの保有株式を甲社に買い取らせるための交渉の道具として会計帳簿閲覧請求権を行使している。だとすれば、Dは「その権利の確保…に関する調査以外の目的で請求を行った」といえ、1号該当性が認められる。

5.以上の検討より、甲社は433条2項1号該当を理由として、本件閲覧請求を拒絶することができる。

第二 設問2 小問(1)
1.訴訟要件
 Cは甲社株式250株を有しているから「株主等」にあたり、本件株主総会決議の日から3ヶ月以内に提訴していることから、本件株主総会決議取消の訴えを適法に提起し得る(831条1項柱書)。

2.本件決議1について
(1)Cは、取消原因として、Aの代理によるDの議決権行使につき、120条1項違反があったと主張することが考えられる。
(2)「株主の権利の行使に関し」といえるか
ア.株式の譲渡それ自体は、地位の移転に過ぎず、原則として「権利の行使」にあたらない。もっとも、会社に特定株主の議決権行使を回避する目的がある場合は、議決権という「権利の行使」にあたると解する。
イ.後述の通り、本件契約により、甲社は、D保有株式の譲渡に関して、Gに対して買取資金の融通につき利益を供与している。もっとも、その目的は、Aの代理によって、Dの議決権行使を回避することにあったのだから、「権利の行使に関し」利益供与がなされたといえる。
(3)「財産上の利益の供与」はあるか
 Gは、D保有株の買取資金800万円を借り入れるため、本件契約により、甲社の連帯保証を受けている。無担保の場合、連帯保証なくしては融資を受けられないのが通常であるから、連帯保証それ自体が財産上の利益といえる。その価額は、保証料相当額60万円である。
(4)よって、甲社のGに対する連帯保証は120条1項に違反する。同項の趣旨は株主総会の公正な運営の確保にあることから、本条違反は、決議方法の法令違反(831条1項1号)の取消原因となる。
 以上より、本件決議1の取消の訴えは、認められる。

3.本件決議2について
(1)議事整理権限の濫用
 Cは、取消原因として、株主総会で議長を務めたAの議事整理権限(315条1項)の濫用を主張することが考えられる。明文に無いものの、会議体の原則から、議長が合理的な理由なく株主提案の理由説明を妨げた場合、株主提案権(303条、304条)の実質的侵害として、315条1項に違反すると考える。
(2)否決の決議の取消の可否
 もっとも、本件決議2は、否決の決議である。
 株主総会決議取消しの訴えの制度趣旨は、多数者間の法律関係の早期安定のため、その攻撃方法・期間に制限を加えることにある。一方、否決の決議には、これを起点として新たな法律関係が積み上がることはないことからすれば、かかる制限を加える必要はない。
 また、株主提案権との関係では、否決の決議が有効に成立していないことについては、再度の株主提案(304条但し書き)の際に、当然に主張できると解せばよい。
 以上より、否決の決議は株主総会決議取消の訴えの対象とならず、かかる訴えは不適法と解する。
(3)従って、本件決議2の取消の訴えは、却下される。

第三 設問2 小問(2)
1.Cの訴え
 甲社は公開会社ではないから、甲社がCの提訴の請求に応じない場合(847条3項)、株主であるCは株主代表訴訟を提起できる(同条1項、2項)。

2.Aの責任
(1)Cは、Aの423条1項に基づく任務懈怠責任を主張することが考えられる。
(2)Aは甲社の代表取締役であるから、「取締役」にあたる(同条同項)。
(3)取締役は法令遵守義務を負う(355条)。上記の通り、Aは120条1項に違反したから、「任務を怠った」といえる。そして、甲社がGから免除した保証料相当額60万円は、「これによって生じた損害」といえる。
(4)取締役は会社に対して善管注意義務を負う(330条、民法644条)。Aの、Gから担保を徴求することもなく、漫然と借入金債務を連帯保証した行為は、注意義務違反にあたり、「任務を怠った」といえる。そして、甲社が丙銀行に対して弁済した800万円は、「これによって生じた損害」といえる。
(5)問題文の事情からは、Aに帰責事由が無いとは言えない(428条1項)。
(6)よって、Aは、甲社に対して、計860万円を支払う責任を負う。

3.Gの責任
(1)Cは、株主代表訴訟により、Gの120条3項に基づく利益返還責任を追及することが考えられる。
(2)第二で検討した通り、甲社からGに対して、120条1項に違反して60万円の利益が供与されている。
(3)よって、Gは、甲社に対して、60万円を支払う責任を負う

第四 設問3
1.174条の趣旨
 本条の趣旨は、株式の譲渡制限では相続他の一般承継による株主の変動を防げないことから、会社の閉鎖性を維持するため、売渡請求権を限定的に認めることにある。

2.権利濫用の抗弁
(1)Bは本件請求が権利濫用(民法1条3項)にあたり無効であると主張することが考えられる。
(2)本条の趣旨はあくまで会社の閉鎖性維持という利益の保護にとどまり、支配権争奪のための道具とされることは想定されていない。また、相続人が既存株主の場合は、会社の閉鎖性は害されたとはいえない。
 だとすれば、①支配権争奪目的が立証された場合、②既存株主に対する売渡請求は権利濫用として無効となる解するべきである。
(3)本件で甲社は、分配可能額との関係ではBの相続した450株全てが売渡請求できたにも関わらず、Cが甲社の議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株のみを請求しており、支配権争奪目的が認定できる(①)。また、BはAの死亡以前より、甲社の株主である(②)。
(4)よって、本件請求は権利濫用にあたり無効である。

3.株主総会決議取消しの訴え
(1)Cは、本件請求にかかる甲社の臨時株主総会の決議には、決議内容の定款違反があり、取り消されるべきであると主張することが考えられる(831条1項2号)。
(2)明文にないものの、定款自治を広く認める会社法の理念、及び定款変更が特別決議にてなし得る(466条、309条2項11号)ことに照らせば、全株主による株主間契約には、定款と同じ効力を認めるべきである。
(3)本件で、AC間の合意はBが提案しており、かつ、甲社の株主はA、B、Cの三者しかいなかったのであるから、AC間の合意はA、B、Cという甲社の全株主による株主間契約と同視しうる(以下、本件契約という)。
 本件契約では、Aが取締役を退任した際は、Cも退任し、Bが代表取締役社長を務めることが合意されていた。
 にも関わらず、本件請求をなせば、Cは退任を免れ、Bが代表取締役社長となる可能性は閉ざされる。だとすれば、本件請求は、実質的に本件契約の趣旨に反するものであるから、本件請求を決議した株主総会には、決議内容の定款違反があるというべきである。
(4)以上より、甲社の臨時株主総会は取り消されるべきものであり、本件請求は無効である。

以上

一応の解説

1.設問2 小問(2)の法律構成
 理論的には、Aの責任追及の法律構成として、①860万円全額につき120条4項の責任追及、②60万円につき120条4項+800万円につき423条1項、③860万円全額につき423条1項、④60万円のみ120条4項の責任追及、という4つが考えられるように思います。④は、弁護士としては格好が悪いように思います。①の可能性については、平成29年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)の商法2を参照してください。②が美しいと思いましたが、分量や書き易さの点、及び法令違反があるため立証責任の点でも不利とは言えないことを考慮して、直感的に③で書きました。

2.設問3の法律構成
 出題趣旨、採点実感によれば、Cが売渡請求の決議において議決権を行使した点につき、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(831条1項3号)の該当性を検討することが考えられます。確かに、上記(第四の3.)の定款内容違反に比べると、認容される可能性が高そうです。問題文の事実を可能な限り拾う、という見地からは、両方とも書くべきでしょうが、残念ながらこの法律構成は思いつきませんでした。