だいたい正しそうな司法試験の勉強法

30代社会人。「純粋未修」で法科大学院に入学し、司法試験に一発合格。勉強法・書評のブログです。

行政法の基本書の読み方

行政法の難しさ

 行政法(とその学習)は難しい!とよく聞きます。その理由はどこにあるのでしょうか。私の感覚では、以下の2点かと思います。

 その①:基礎理論だけでなく、個別法が色々出てくる
 その②:書き方(特に本案)が独特

 その①は(主に)インプットの難しさ、その②はアウトプットの難しさですが、今日はインプット篇として「その①」を取り上げたいと思います。

※2019年5月2日追記 その②のアウトプットを意識したインプット、の記事を書きましたので読んでみてください。

個別法のせいで難しい

 個別法が色々出てくると、なぜ学習自体まで難しく感じるのでしょうか。実は当然です。f:id:tasumaru:20181018201255j:plain
 民法や刑法、その他の法律科目では、基礎理論や、場面ごとの考慮要素の「適用対象」となる条文は、民法、刑法など当該科目そのもので、予め決まっています。だからこそ、学習が進んでいくと、民法177条や刑法204条なんかは、自然と暗記できていったりもします。
 ところが、行政法においては、基礎理論(=基本概念)は多種多様な個別法で問題とされるですから、具体的な個別法をコレ!と決めて解説すること、すなわちケース・メソッドを取り入れた基本書は少なくなっています(数少ない例外が中原先生の「基本行政法」で、超良書なので、またレビューします)。せっかく基礎理論を勉強しても、それが何法のどの条文の問題かがすぐにイメージできません(①これがインプットの難しさ)。以前ご紹介した、基本書の「具体的事案の想像&つまり読み」ができないのです。

 さらに悪いことには、民法や刑法などでは、少なくとも条文の適用対象となる事実(犯罪行為とか)は、一応わかる(たまに間違える)わけですが、行政法では、行政庁が色んな行為をしてくださいます。そうすると、どの行為をつかまえて→その個別法の条文を→基礎理論でもって解釈すべきかがよくわかりません。

 こうして、行政立法だ~とか、行政行為だ~とか、基礎理論を勉強しても、それがどう個別法の解釈に活かされるのかがわからない。個別法が解釈できるとしても、どの行為と条文を問題とすべきかがわからない。よって、基礎理論の学習がどのように答案に活かされるのかがサッパリわからない。だからこそ基礎理論も身につかない。という人が続出することになります。

個別法の適用と、時間軸を想像しよう

 初学者にありがち(僕もそうだった)な解決手段として、「えーい、基礎理論なんてわからん!から、演習書の参考答案や判例集で、『個別法における確定した解釈』や『判例の規範』をぜーんぶ暗記してやる!」というものがあります。これだけは絶対にヤメましょう。無理なので。
 むしろ、自称公法得意な私に言わせると、行政法は民法や刑法と異なり、(ほとんど)個々の条文の解釈≒論証などの暗記が不要であり、基礎理論&条文の合理的な解釈だけで乗り切れる、大変おトクな科目です。

 じゃあ何をどうやって覚えればいいの。ということなんですが、覚えるべき対象は、やはり「法規命令と行政規則との区別」など基礎的な理論・概念です。「どうやって」がポイントです。

 ①基礎理論を学ぶ際は、具体的な個別法の適用の場面を想像しながら読むことが重要です。具体的事案と基礎理論の往復により、記憶の定着と、「どんな個別法に適用されるのかな」というイメージ付けが図れます。

 ②個別法の適用を学ぶ際は、行政過程を意識しながら読むことが重要です。上記の通り、行政庁は、行政目的を達成するため、色々な行為をしますが、それは全て時間軸に沿って展開される=すなわち、「過程」です。行政過程を意識して読むことにより、行政目的を達成するためにはどんな行為=個別法の条文=基礎理論(要は論点)が登場するか、を有機的に把握することができます。

 この①+②が、行政法の基本書の読み方です。すなわち、行政計画、行政裁量、行政立法、行政行為、処分性、原告適格、訴えの利益…といった基礎的な理論・概念は「縦割り」で把握・理解すべきではなく、具体的な個別法が適用される行政過程を意識しながら理解しなければなりません。

 例えば、Y県知事のあなたは、Y県Z地区がいつまでも自然豊かな地域であって欲しいというY県民の願いを実現しようとしているとすると…

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 あなたは、行政目的を実現するため、(市街化を抑制する)市街化調整区域の区分(都市計画法7条1項)をしますが、これは講学上の行政計画の策定にあたり、どのような計画を決定する行政裁量があるか、などが問題となります。Z地区に大規模な産廃施設を作ろうとしているXが、そんな区分はヤメてくれ!と取消訴訟を起こせるか(処分性)なんかも問題となります。
 この図は簡略化したものですが、行政目的を実現する過程で、(主に都市計画法という個別法を根拠とする)様々な行政庁の行為が登場し、そこに、行政法総論の基礎理論(赤い四角)や、行政救済法の基礎理論(青い四角)が登場します。

※2019年5月2日追記 行政救済法の基礎理論につき、行政計画・行政指導と処分性についての記事を書きましたので、読んでみてください(応用レベル・結構難しいです)。

まとめ

 個別法を詳細に整理し、隅々まで理解する必要は全くありません。何度も言うように、行政法は個別法の解釈を覚えないで済む分、暗記量の少ない科目なのです。しかし、具体的な個別法が適用される行政過程をなんとなーくイメージしながら読みましょう。それだけで、行政法の基礎理論がずっと理解しやすく、記憶しやすいものとなると思います。

※と、ここまで書いて、全く同じ問題意識の本が書棚にありました

法科大学院の授業で使用されるテキストは、汎用性の高い理論枠組みを中心に構成されている。しかし、それゆえのわかりにくさは、行政法学習者が一度は経験する通過点である。…行政法理論は…あくまで実定法およびその運用にルーツがあり…学習者は理論の「故郷」ともいえる個別法の世界を知ることが…理解を深める近道となる。ところが、「そんなことをしている時間はない」のが実情である…かくして、時間をかけて学習しているにもかかわらず…行政法嫌いになってしまう学生は少なくない。

 亘理格ほか「重要判例とともに読み解く 個別行政法」(有斐閣、2013年)はしがきより