・説明が わかり辛い ★★★★☆ わかり易い
・内容が 問題意識高い ★★☆☆☆ 基本的
・範囲が 深掘り的 ★★★★☆ 網羅的
・文章が 書きづらい ★★★★☆ 論証向き
・司法試験お役立ち度 ★★★★★
・ひとことで言うと「司法試験レベルに即した論点解説書」
定番中の定番
刑事訴訟法の演習書と言えば、まずはコレ。というくらいメジャーな一冊。とりあえず、みんなが買ってるから買ったという人も多いでしょう。筆者は、基本的には、コレ+百選+エクササイズ刑事訴訟法の3冊で司法試験の刑事訴訟法を乗り切りました。多分70点くらいはとれたと思います。
事例演習刑事訴訟法の内容
演習書とされていますが、後述の通り、どちらかというと「論点解説書≒刑事訴訟法の争点」といった内容です。短めの問題(というより設例という感じ)から、①解釈上の争点を抽出し、②重要判例と伝統説の紹介、③有力反対説の紹介、④これらを踏まえた近時の有力説(だいたい川出説)を紹介して、最後にちょっと設例に触れて終わり。というパッケージが全33問並んでいます。
上記①~④は教員・A君・Bさんの3人の会話形式で進められます。つまり、②の話者と③の話者が異なっており、それぞれの見解の根拠を敷延して主張させることにより、各説の論理構造が非常にわかりやすく、かつ記憶に残りやすいものとなっています。
この「各説の論理構造・理論的根拠の深い理解」を促進させる役割が、本書の最大の長所です。また、全33問には小問もいくつか挿入されており、網羅性も非常に高いものとなっています。
もっとも、「会話形式」で見解が右に左に振れるので、苦手な人もいるかもしれません。また、内容が高度すぎるという評も良く聞きますが、あくまで「司法試験ですごくいい答案を書くために必要な知識」にとどまっており、司法試験レベルオーバーといったものではありません。どうしてもわからなかった場合、
を開けば必ず正しい理解にたどり着けるはずです。
事例演習刑事訴訟法の用途
司法試験の刑事訴訟法といえば、まずは①「なが~い問題文」から、②「できる限り事実をピックアップして、評価し、あてはめる!!」という迅速正確あてはめテストというイメージがないではないです。本書は、上記の通り、設例が短く事実も少ないですから、迅速正確あてはめの訓練にはあまり向かないようにも思います。
しかし、あてはめだけでなく、受験生の解釈の理由付けが大変よろしくないことは、さんざん採点実感で司法試験委員の先生から怒られているポイントです。「特段の理由付けもなく、心理状態に関する供述であるから非伝聞証拠と結論付けていた・・・」(平成28年採点実感)という具合です。コンパクトでシャープ(90年代風の言い回し)な論証で「点数を落とさない≒防御的得点」のために、本書は必須ではないかと思います。
そして、「あてはめで稼ぐ≒攻撃的得点」のために、
と併用することを激しくオススメします。エクササイズで演習し、古江本の解説を読む。これが勝ちパターンだと思います。両書は役割が異なるにも関わらず、問題意識のレベルは同等で・結論も最新説を踏まえつつ穏当であり・ともに文体が簡潔明瞭で論証向きです。
本書は、演習書ながら、「論理構造・理論的根拠の深い理解」のためのインプット教材として、全ての学習者にオススメできる本だと思います。私は、本書の論理操作が大好きで、本書によって刑訴法はおろか法律学全般が好きになったと言っても過言ではありません。